「おカネの匂いに敏感なホスト(物件の貸主)たちは次々と民泊から撤退しています。新法施行で『もう稼げない』と踏んだのでしょうね」――。ある旅館業界関係者は記者にこう打ち明ける。
「あるオークションサイトでは、中古家具が大量に出品されているようです。これまで民泊仲介サイトを通じて物件を貸し出していたホストたちが、ゲスト用に使っていた家具を売り払っているのです」という。
急増する訪日外国人の宿泊場所の受け皿として、民泊を合法的に整備するために制定された民泊新法(住宅宿泊事業法)が6月15日に施行される。日本は世界で初めて民泊に関するルールを定め、正式に解禁することになる。
日本ではすでに6万件以上の物件が民泊サイトに登録されている。だが、新法に基づいて各自治体に出された届け出件数は、観光庁によると5月11日時点で724件しかない。これでは、2017年に2869万人と過去最高を記録した外国人観光客の主要な受け皿となるには絶対数が足りない。
民泊を、訪日外国人の受け入れ先にしようと見込んだ政府にとっては、当てが外れた形だ。いかに届け出件数を増やしていくのか――。このままでは新法施行後も何らかの形でヤミ民泊が残る恐れもあり、観光庁を中心とした政府の対応が問われている。
民泊新法は現在数万件あるといわれている違法民泊をなくし、合法的な民泊を作るために制定された。ところが、いざ申請となると、消防法、建築基準法などの規制が厳しく、営業日数も最大で180日と制限されたことから、民泊事業者やホスト側の営業意欲を大幅に削ぐ形になった。
届け出件数が少ない点について、観光庁の観光産業課は、「提出書類が多く、準備に時間を要しているのではないか。自治体を通じた周知に努めたい」としている。また、東京都の大田区役所担当者は「建築基準法の告示や消防法の基準が通常の住宅以上に求められるので、手続きが煩雑で申請が遅れているのかもしれない」と話す。
インバウンド(訪日外国人)を30年までに6000万人まで増やす――。政府はこんなビジョンを発表し、観光産業を日本の基幹産業にしようとしている。田村明比古観光庁長官は講演で「民泊は低価格で長期間滞在したい外国人観光客にとって受け皿となる、必要な宿泊施設だ」と述べた。しかし、現状の届け出件数は想定件数にほど遠い。同長官は「政府全体できめ細かく対応していきたい」としたものの、6月15日の施行までには間に合いそうにはない。
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