人工知能(AI)は「美魔女」という言葉を生み出せるのか──そんな疑問から、雑誌編集者と自然言語処理を専門にするAI研究者の異色対談が始まった(前回記事)。世間ではAI記者やAIコピーライター、AIアナウンサーなどが話題を集め、人間の“聖域”とされていたクリエイティブな職種にもAIが浸透してきている。
では、現状の人工知能はどこまでの創造性を発揮できるものなのだろうか。それは、人間のプロフェッショナルに匹敵する実力なのか、またそのアプローチは人間のそれとは異なるのか、と疑問は尽きない。
対談したのは、「STORY」「美STORY」(現美ST)、「DRESS」などの女性誌を創刊して編集長(当時)を務め、「美魔女」という極めて優れた言葉を造り出した編集者の山本由樹さん(参考リンク:アミューズ、山本さんが社長を務める「編」)と、AIコピーライター「AICO」や「人狼知能」、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトなどに携わり、自然言語処理の研究を行う静岡大学情報学部行動情報学科の狩野芳伸准教授(参考:研究内容)。
今回は「人工知能はセミプロクリエイターを駆逐するのか」「人間と人工知能の関係はどうなっていくのか」などをテーマに議論した。
(編集:ITmedia村上)
狩野准教授(以下、敬称略) プロのコピーライター(「AICO」を共同開発した電通社員)と話をしていて、一般消費者と感覚が違うことに気付きました。プロの人が言う「良い」の内容は抽象度が高くて、意味が分かるような分からないような……。
でも、最後に言葉を受け取るのは一般消費者ですよね。最近は消費者とプロのどちらが良いと思うものを選べばいいのか分からなくなってきました。例えば、2017年の静岡県知事選挙でAIが作ったキャッチコピーに「青春が終わる。18歳が始まる。」(外部リンク:中日新聞)がありまして。
――(聞き手、松本) おー、なるほど深いですね。
狩野 一方で、電通と共同で開発するAIコピーライターが作った「新聞広告のセクシーが待っている。」は、プロっぽい内容に。こちらは、恐らく日本初のAIによる広告出稿です。人工知能がキャッチコピーを出力する場合、プロっぽい内容のままがいいのか、一般消費者に寄せた方がいいのか迷いますね。
山本さん(以下、敬称略) それは伝えるものによって変わると思います。例えばお茶はいろいろな企業が作っていて、どれもみな同じだと思っている人は多い。
(目の前にあるペットボトルのお茶を見ながら)ここにあるのは会議室で出された普通のお茶だけど、例えば高級料亭でペットボトルのお茶が出されると、特別なお茶なのかなと思うじゃないですか。直接的に分かりやすく製品を訴えるより、そうじゃない方が際立つ場合もあります。
「新聞広告のセクシーが待っている。」は良いと思う。意味がないだけに、誰にでも作れるものではないから。新聞広告とセクシーの両方を合わせると、新聞広告の価値が変わって伝わりそうな感じがしますよね。
狩野 最初これが出たとき、「これでいいのかな?」と迷いました。そこは(コピーの良しあしを評価する)プロの感覚を磨かなきゃダメなのでしょう。
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