視力の大切さを知ろう。

我々がこよなく愛する(主に格闘系の)フィクション世界において、もはやテンプレートとも言えるのが、盲人系強キャラ。

以下はほんの一例
宇水さん
泣き虫サクラ
市川
東仙要
座頭市
伊良子清玄
この月光生来目が見えん

宇水さんを筆頭に、彼らは実に魅力的なキャラクターであり、そのほとんどは作中最強クラスの実力者でもあります。

異常聴力や心眼などを駆使し、常人よりもよっぽどよく「見えている」のです(という設定)。

こうした風潮の背景には、当然ながら盲目というのは物凄いハンデキャップであるという世間の共通認識があります。

実際大きなハンデキャップなのですが、それをひっくり返すことで意外性を演出しているのですね。

ある研究によると、我々の知覚や行動は、そのおよそ80〜85%を視覚に頼っているとか。

眼で見てモノを認識し、眼で見て行動する。つまり、活動の大半を「眼」に頼っているわけです。

実際、眼をつぶってしまうと、まっすぐ歩くことすら困難。我々が眼に頼っている度合いが80%以上というのは、体感的にも納得できるものです。

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眼の仕組み

そんな重要な器官である「眼」ですが、実は生物がこれをどのように獲得したのかというのは結構難しい問題です。

角膜に入った光の量を虹彩で調節し、水晶体で屈折させ、網膜にピント合わせる。

目の仕組み

こんな複雑で精密な器官が「自然に」発生するはずがないということで、いわゆる創造論を唱える人々も少なくありません。

実際、進化論を提唱したダーウィン自身も、その著書『種の起源』の中で、

極度に完成度が高く複雑な器官(=眼)が自然淘汰によって形成されたという想定は、率直に言ってしまうと、この上なく非常識なことに思える。

と書いています。

よく創造論者が引用する部分ですね。

しかし実際には、ダーウィンはこれに続けて

しかし、仮に完璧で複雑な眼から極めて不完全で単純な眼まで数えきれないほどの細かい段階が存在し(中略)それほど非現実なこととは思えない。

と書いています。

つまり、ダーウィンは「眼」の存在も進化論で十分説明できると考えていたわけです。

一言で「眼」と言っても、その機能は生物の種類と同じだけ様々。そしてそこには進化の痕跡が残っています。

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シャコの場合

「眼」といえばシャコ。

シャコ

「テラフォーマーズ」のおかげで広く知れ渡っていますが、シャコは甲殻類のくせにめっちゃ眼が良いです。

モンハナシャコ

人間の4倍もの色覚を持ち、普通の光だけではなく紫外線や赤外線、果ては電波まで見えているとかなんとか。

また、生物の中で唯一、円偏光が見えるなんて話もあります。

円偏光というのは、こういう感じ↓の光。

円偏光

なぜにシャコだけがこれを区別できるのか。ここまで視力が発達したのか。

一説には、感覚器官が高性能だと、その分脳で処理する情報が少なくて済むらしいです。感覚器官だけで情報の処理が完結するみたいなイメージでしょうか。

そのおかげで、シャコはマッハパンチだけを武器に数億年を生き抜いてこれたということです。

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クラゲの場合

クラゲは透明に見えて、実は立派な眼を持っています。24個も。

中華クラゲ

単なる食感だけの食材だと思ってナメていませんか?

クラゲをよーく見てみると、内部に4つの黒い点があります。

クラゲ

これはロパリウムと呼ばれる器官で、それぞれに6個の眼がついています。

そのうちの4個は単純な光センサーにすぎませんが、残りの二つは角膜、レンズ、ガラス体、網膜を持つちゃんとした眼なのです。

クラゲの目

流石に色彩が分かるほどではありませんが、色の明暗くらいなら余裕で感知可能。

この器官によって、クラゲは障害物を察知したり、餌がたくさんありそうな場所を見つけたりできるのです。

クラゲには脳が無いので、視覚情報に対して直接反射しているようなイメージでしょうか。

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イカの場合

この世で最大の眼を持つのがイカです。

イカ刺し

イカにも色々な種類がありますが、ダイオウイカと呼ばれる種は全長20mにも及ぶと言われています。

 クラーケン

その巨大さと謎に包まれた生体から、伝説の海獣クラーケンのモデルになりました。

で、このダイオウイカは、生物界最大の目玉を持つことでも知られています。

ダイオウイカ

目が怖すぎる。

記録によると、体長8m程度の個体でおおよそ直径30cm弱の目玉を持っているとのこと。

ゾウやクジラの目玉がせいぜい10cm足らずなことを考えると、ダイオウイカのそれは異常な大きさだということが分かります。

ダイオウイカの目玉

当初は、暗い深海で僅かな光を感じ取るために目玉が大きく発達したとも考えられていましたが、他の深海に生息する生物で同じように目玉がデカい例はありません。

さらに研究を続けた結果分かったのは、目玉がデカいと遠視になるということ。

ダイオウイカは、近くがあまり見えない代わりに、遠くはよーく見える。これは、天敵であるマッコウクジラをなるべく早く発見するための進化だったのです。

末端と先端

なお、イカやタコの目玉は、哺乳類の目玉とは別個に進化しつつも同じような形状に落ち着いた(これを「収斂進化」という)事例としても知られています。

しかも、イカの目の方が哺乳類より優れているという事実。

上の図から分かるように、哺乳類は、眼球に入った光を眼球の一番外側にある錐体細胞で光を受け取り、それを神経に乗せて眼球の内側に向かって伝達し、それを再び眼球の外側にある脳へ運んでいきます。

神経が眼球の外へ脳へと出す所には錐体細胞が無いので、いわゆる盲点が出来てしまうというわけ。

もうね、設計段階から間違えています。

一方のイカやタコの目は、素直に眼球の内側で光を受け、その情報を外側にある神経で受けて、外側へ伝達していきます。この構造なら、盲点は出来ません。

哺乳類の眼は自分自身の錐体細胞が邪魔で光がぼやけてしまいますが、イカやタコの場合は眼球に入った光をそのまま内側で受け取るので光がピュア=高性能なのです。

これは、それぞれの進化の道筋が異なることから起こった違いです。

哺乳類の眼が脳の末端の変化であるのに対して、イカやタコの眼は皮膚が陥没して変化したものなのです。

哺乳類の眼は、言ってみれば逆向きについているようなものだと言えます。

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ホタテの場合

どうでしょう、この美味しそうなホタテ!

刺身かバター醤油ソテーが定番ですが、呑気に食べている場合ではありません。

驚くべき事に、ホタテは眼を持っています。それも80個以上

帆立

青いのが眼。完全に悪役である。

帆立の眼

アップでどうぞ。

かなりのキモさですが、このヒトデの眼はいわゆる一般的な眼とはちょっと仕組みが異なります。

人間の眼と帆立の眼

人間の眼がレンズによって光を屈折させて眼球の奥にある網膜に集めているの対し、ホタテの眼は一旦光を眼の奥の鏡に反射させ、それを眼球の中心にある網膜(的な部分)に集めています。

ホタテの眼の鏡

しかも、2種類の網膜を持ち、一つは弱い光専用、もう一つは強い光専用と、使い分けています。

帆立はこの眼でもって、薄暗い海の底でヒトデの襲来を察知したり、捕食するための口の開閉を判断しているのだと考えられています。

眼と進化

という具合に、地球上の多種多様な「眼」のごく一端を観てみました。

が、実は「眼」は地球の生物が多様な進化を遂げるためのキーでした。

カンブリア紀に置ける種の大爆発。そのトリガーこそが「眼」の獲得だった可能性があるのです。

つづく。

参考文献・サイト様
Wikipedia 「眼の進化」
Inside the Eye: Nature’s Most Exquisite Creation
帆立貝は200の反射望遠鏡型の目で周りを見ている
巨大イカ、目玉は極度の遠視
種の起原〈上〉 (岩波文庫)
るろうに剣心―明治剣客浪漫譚 (11) (ジャンプ・コミックス)
テラフォーマーズ 6 (ヤングジャンプコミックス)

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