コネがないまま就活をするのはリスクでしかない─Quest Hub・大熊将八
「就活もビジネスもコネがすべて」と語るのは、東京大学4年生の時に『進め!! 東大ブラック企業探偵団』という書籍を著した大熊将八さん。クラウドファンディングを使って約100万円を集め、アメリカのメディアの最先端をレポートして話題を集めるなど、持ち前の行動力を活かして精力的に活動。2018年4月には東京を拠点に国内外の投資家向けのリサーチ事業を手がけるベンチャー企業を立ち上げました 。
コネというと縁故関係によるものというイメージがありますが、大熊さんが語るコネとは、自分自身で築き上げるもの。かつては何のバックボーンもない学生だった大熊さんが、今のキャリアにつながるコネをどのように獲得してきたのか、伺いました。
ビジョンと具体的なプランをともなう行動が、信頼を生む
—大熊さんは、就活でもビジネスでも、「コネがすべて」という考えをおもちだそうですが、それはなぜでしょうか?
まず、コネがある状態とは、「信頼してくれる人が、自分が困った時に助けてくれる状態」、または「相手が困っている時に、自分が助けてあげたいと思える状態」と定義しています。単に名刺交換をしただけ、Facebookでつながっているだけの人との関係は、コネとは言いません。
そういった深い信頼関係のあるコネが、何をするにも重要だと思います。たとえば、私が始めた投資家向けに情報を提供する事業でも、いかに優秀なリサーチャーや顧客とつながって巻き込めるかどうかが成功を左右します。そういう意味で、「コネがすべて」だと言えます。
—コネになるような深い関係を築くまでには、まずは相手の方に「自分の価値」を信じてもらわないといけませんよね。大熊さんは学生時代、協力者の方から信頼を得るためにどんなことを意識したのですか?
確かに学生の時はまだ信用がなかったり、能力がなかったりします。では、学生が信頼を得るためにはどうしたらいいのかというと、大事なポイントは2つあると思います。
学生が信頼を得るために必要なこと
- ビジョンがあること
- 具体的なプランがあること
つまり、「いまは何もできなくても、将来的に成し遂げたいビジョンを具体的に語れる」ということが大事だと思います。僕が学生の時はその第一歩として、「まずは、ブログを通じて自分の考えを発信しよう」と考えました。
学生の時はメディアに興味があり、ジャーナリストを目指していました。しかしメディア業界の収益性を高めるようなイノベーションがないと業界が先細って行くという問題意識を持つようになったので、その懸念を提起し、メディアは稼げるようになるべきだというビジョンをブログで記事にしたところ反響があり、ジャーナリストの津田大介さんなど著名な方にお会いする機会を得ました。
その後、アメリカの最先端のメディアを取材したいと考えて具体的なプランを立て、クラウドファンディングで約100万円を集めて、実行しました。帰国後に書いたレポートが様々なメディア企業や広告会社、ベンチャーキャピタルなどの目に留まり、当初思いもよらなかった方々との人脈もできました。
普通の学生ではなかなか知り合えないような著名な方々に貴重な時間を使って会ってもらえたのは、私が掲げたビジョンや具体的なプランの可能性を信じてもらえたからだと思っています。
—コネを得る前には必ず、行動を起こしているんですね。今でも学生時代に築いたコネは活きていますか?
起業すると伝えたら、以前お世話になっていた編集者の方がさまざまな知り合いを紹介してくれました。こうした紹介はタダですが、実はタダほど怖いものはありません。僕を信頼してくれていて、自分の知り合いに会わせることでメリットがあると思ってもらったらから、つないでいただいたわけです。その期待を裏切らないようにしなければいけないと思っています。
相手のニーズを満たせるメリットを考えて、つなげる
—学生が就活を意識してOBや企業の方とコネをつくる時に、意識すべきことはありますか?
就活は「企業に対して自分自身を営業する行為」だと思います。実際に、高い目標を掲げている人と、どこかに受かればいいなという意識の人とでは行動内容に大きな差が出ます。就職情報サイトには出ていないOBのリアルな声や、表には出ないような情報を事前に取りに行かず、戦略もなく選考に臨むのはかなりのリスクがあると思います。
—具体的に、どのように行動したらいいのでしょうか?
コネをつくるためには、まず、自分が必要な情報を得るためには誰と知り合うべきかを考えまず。そのうえで、
・紹介してくれる方にどう言えば自分と会ってくれるのか
・相手に対して自分が何かできることはないか
・ツテのある友人はいないか
ということを考えます。
実際に僕の周りでも、これらができている人たちは選考に通っていました。
逆に自分からコネをつくろうとしない人にとって、就活とは宝くじを買うようなもの。不確実性が高く、十分な営業活動ができないと思います。
—OBや企業の方に会ってもらうにも、コツが要りますよね。どういう点が大切ですか?
人間関係は基本的に「メリットとメリットの交換だと思っています。ですから、会ってくれる相手にとってのメリットを考えることが重要です。こちらの都合で「会ってください」だけだと通用しませんし、コネをつくることだけを目的にしてしまっても価値はなく、失敗してしまいます。
また、相手にとってのメリットは必ずしもお金とは限りません。何が相手側のニーズなのか仮説を立て、それを満たせる可能性のある自分側のメリットを、結びつけて考えてみる。
たとえば、学生だと「自分には会ってもらえるメリットが何もない」と考えてしまうかもしれませんが、社会人の中には「最近の若い人の考えが知りたい」というニーズをもっている方もいます。それを提供できれば相手側のメリットになりますから、学生でも会ってもらえるチャンスがあるはずです。
周囲に本気度合いを伝えることで得られる、コネの力
—コネに対する考え方は、ビジネスをされている現在も同じでしょうか?
そうですね。ビジネスプランを実現するにはコネの連続に助けられることがたくさんありますから、信頼できるコネを築いていくことはとても重要だと思います。
僕はある時、「経済ジャーナリリストのスキルとファンドのアナリストのスキルは非常に似通っているのに、なぜ収入に大きな差があるのか」という疑問を持ち、投資ファンドで働きたいと考えるようになりました。当時も、「今はできないけど自分がやりたい」というビジョンだけを頼りに、紹介の連鎖というコネを活用しました。
どのようにコネを築いたかというと、まず、「ファンド会社で働く」と周囲に言いまくるようにしました。そして、その思いを行動に移しました。一度、知り合いもいないアメリカの投資ファンドに「日本法人をつくって自分を雇うべきだ!」と説得しにアメリカまで行ったんですが「熱意は買うがさすがに今雇うことはできない」と言われました(笑)
でも、それから「こいつは本気だ」と周囲から認識されて助けられるようになり、求人の募集をかけていなかったシンガポールの投資ファンドに就職ができたんです。本気で説明して行動すればおもしろいと思ってもらえますから、本気度合いを伝えることも信頼を得るうえではとても重要だと思います。
—「本気で伝えよう」と意識することが、大事なんですね。起業された際も、コネは役立ちましたか?
4月にQuest Hubという会社を立ち上げました。長期運用を行う投資家向けに意思決定をするための判断材料となりうる情報の裏取りをするリサーチ会社で、東京とシンガポールに拠点があります。拠点を築く際はこれまで築いたコネを伝って現地のパートナーを巻き込んでいき、今ではアジアの国の大臣ともつながっています。
よく、「親のコネがあるからできるんだろう」と言われることもありますが、自分は普通の一般家庭育ちですし、家族のコネでここまで来られたわけでもありません。また、「コネに頼るのは嫌だ」という人も中にはいますが、自分のビジョンを達成するためには、もっているものは全部使えばいいと思います。
スゴイ人たちに会うことで、自分の目線を上げる
—大熊さんのように「自分のやりたいこと」を見つけるためには、どうしたらいいと思いますか?
おそらく、自分の原体験を掘り下げていくことで、自ずと分かるのではないでしょうか。人はむしろブレることができないと最近は思います。たとえば「プロ野球選手と結婚したい」「医者と結婚したい」という人は一見ブレているようで、実は「お金持ちと結婚したい」と共通しているというように。「自分にはビジョンがない」と思ったら、いままでずっとこだわってきたことや原体験に立ち戻ると見えてくるのではないでしょうか。
—就活でよく聞かれることに「自分の強みや弱み」がありますよね。それを探すために、何か意識していたことはありますか?
強みや弱みというのは、どこまでいっても相対評価だと思います。そこでオススメなのが、自分が目指す分野での「強いチームに入ること」です。それによってたくさんの強みを持った人に会えるので、相対的に自分の強みや弱みが見えてくると思います。
—最後に、就活中の学生に向けて「学生時代にやっておくべきこと」について、アドバイスをお願いします。
いろいろな人に会うことが大事だと思います。まずは価値観や視野を広げないと、自分の目線が上がらない。やりたいことがまだない人は、何かにチャレンジしている人がたまたま周りにいないだけの可能性もあります。そうであれば、スゴイ人に会って世の中の広さや多様なスゴさを知れば目線を上げることができます。すると、いろいろな勝ち方があることや、手段は1つではないことなども知ることができると思います。
How to “ROCKET START”
大熊さんが考える「学生のうちにやっておくべきこと」
- 行動し、人に会いに行く
簡単に会えない人に会える方法を考えて、会いに行く。そうすると、自分の目線が上がるはず。 - 何でも相談できる大事な親友をつくる
仕事ではどうしても、利害関係のある人が現れます。それらとは無縁の友達を、学生のうちにつくっておくのが大事。 - 決めたらやりきる
小さくてもいいから、目標の達成を積み重ねること。ビジョンとプランがあっても行動しなければ信用されないので、必ず行動をともない、できないことがあっても目標を立てて達成し、やりきる。
写真/島村緑 文/山岸裕一