【ウィスラー(カナダ西部)=河浪武史】1日に実質討議を始めた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は、鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を拡大した米国に批判が集中した。日本などは「世界貿易機関(WTO)ルール違反だ」などと指弾し、米国と6カ国は「1対6」で反目し合った。市場は南欧リスクなどを不安視するが、対処を求められるG7は結束力を失いつつある。
カナダの山岳リゾート地、ウィスラーで開いたG7財務相会議は、初日の世界経済を巡る討議の大半を貿易問題に費やした。議長国カナダのモルノー財務相は前日のムニューシン米財務長官との個別会談で「米国の考え方はバカげている」と激しく詰め寄り、G7会議の冒頭で「まずは貿易を議論しよう」とスケジュールを変更していきなり対米包囲網を敷いた。
米国はG7会議が始まった1日、参加国のカナダと欧州連合(EU)を挑発するかのように鉄鋼・アルミの追加関税を発動した。日本製品は既に3月に追加関税を課されており、G7に参加する日欧カナダ6カ国は、すべてトランプ米政権が仕掛ける「貿易戦争」の相手国となった。
とりわけ議長国カナダは、自国で生産する鉄鋼の4割強が対米輸出品だ。日本やEUに比べて景気への影響は甚大で、輸出が減退すれば雇用を直撃してトルドー政権の基盤が揺らぐ。自動車への関税発動を強く警戒する日本も「一方的な保護主義的措置はどの国の利益にもならない」(麻生太郎財務相)と対米批判のトーンを強め、G7会議は冒頭から紛糾した。
もっとも、ムニューシン米財務長官は「これ以上、巨額の貿易赤字を許容できない」と主張し続けており、G7会議では「トランプ大統領に直接言ってくれ」と真正面から取り合わなかった。そのトランプ氏は1日、ワシントンでカナダやEUを批判しながら「自由貿易は好きだが、公正な貿易を欲しているんだ」と一歩も引く気配がない。
国際ルールを重視する欧州勢も対米批判のトーンを強める。フランスのルメール経済・財務相は記者団に「(米国の輸入制限は)容認できず世界経済に危険な結果をもたらす」と指摘。ドイツのショルツ財務相も「国際法違反だ」と批判し、麻生氏は「貿易問題は盛り上がった。あいつにとっては盛り下がったということだが」と、孤立したムニューシン氏を皮肉ってみせた。
G7各国は「世界経済が順調に伸びている」(日銀の黒田東彦総裁)との見方を共有するが、政局不安でイタリア国債の利回りが急騰するなど、懸念材料が浮かんできた。米連邦準備理事会(FRB)の利上げによって、アルゼンチンなど一部新興国では深刻な通貨安にも見舞われる。G7には投資家の不安を鎮める協調行動が求められるが、初日の討議では市場リスクを完全に素通りした。
EUとカナダは米国の鉄鋼・アルミ輸入制限に対抗するため、報復関税の発動を表明した。日本も対抗措置の検討に入っている。G7各国はトランプ米大統領が求める「ディール(取引)」を選ばず、真っ向から対決する道を選びつつある。2日の最終日の討議も不調に終われば、G7は市場に決定的な亀裂をさらすことになる。