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カルチャー

死んだ息子の「花嫁」を求めて遺体を奪い合う人々…|死者たちがあの世で結ばれる「冥婚」の衝撃

Text by COURRiER JAPON

西安市では2005年、冥婚用に売ろうと成人女性6人分の遺骨を盗んだ男が逮捕された
PHOTO: VCG / VCG / GETTY IMAGES

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若くして亡くなった子供のために、あの世で添い遂げる「伴侶」を用意する──。中国の一部地域では、未婚で亡くなった若者の魂を弔うために亡くなった男女が挙式をあげる「冥婚」の儀式がいまもおこなわれている。

だが、圧倒的に男性の数が多い農村は深刻な「嫁不足」だ。若い女性の遺体が高値で売買されることから、遺体の闇市場が急激に拡大し、冥婚目的の盗掘や殺人事件が頻発している。

「花嫁の訃報」を心待ちにする人々


「私にとっての最大の浪費は、女性の遺体を火葬することです」

──山西省洪洞県の病院で働く王勇(ワン・ヨン)はそう、中国誌「中国新聞週刊」で語った。

彼によれば、病院の霊安室に若い女性の遺体が安置されていることはまずないという。若い女性が危篤だという噂が流れると、すぐに息子を亡くした家族が駆け付けて、遺体を奪い合うからだ。

女性にまだ息があるうちから、彼らは病院に押し寄せて熾烈な“セリ”を始める。そして女性の家族が、遺体の値段に納得し、娘が息を引き取ったらすぐに遺体を引き渡すことに同意すると、「花婿」の家族は満足げに家に帰り、「花嫁」の訃報を心待ちにするのだ。

山西省や広東省、江蘇省などの農村では、未婚のまま死んだ若者に嫁をとらせて合葬する「冥婚」という風習がある。冥婚は死者の魂を慰めることを目的としており、これを怠ると残された家族に不幸が起きると信じられている。

そのため、未婚の男性が亡くなると、両親は息子のために未婚の女性の遺体を探して買い取る。2つの遺体を一緒に埋葬する冥婚の儀式の後には、両家の関係は売り手と買い手から「親戚」へと変わる。

2017年の清明節(死者を弔う中国のお盆のような期間)直前、胡青花(フー・チンホア)は3年前に亡くなった息子の冥婚を挙げることができた。花嫁の遺体は18万元(約294万円)もしたが、胡は非常に満足しているという。

「写真を見たら美人で、うちの息子と同い年でね。とってもお似合いだったわ」

盛大な披露宴のために、胡一家はまず息子の遺体を墓から掘り起した。そして媒酌人が2つの遺体の骨の間に米と小麦を詰め、布地に顔を描いて貼り付けて、華やかな婚礼衣装を着させた。遺体には身がしっかり詰まっていないと、縁起が悪いという。

冥婚の儀式。遺体の隙間には米や小麦などを詰め、婚礼衣装を着させる


2人を「合葬」して儀式は終了だ。式の後には両家の距離も縮まり、「本当に親戚になったような気がする」と胡はしみじみと語った。

15万元では骨一本さえ買えない


胡が息子のために冥婚を挙げたことはすぐに周囲に広まり、非常にうらやましがられた。冥婚市場でこれほど「高条件」な花嫁に出会うことは困難で、18万元払ってもめったに手に入らない掘り出し物だという。

遺体の値段は、年齢、容貌、家庭環境などで決まる。また、「鮮度」や保存状態も重要な要素だ。死因が病気のときは、往々にして事故死よりも高値で売れる。ゆえに、若くて美人で良家の出身で、病死したばかりの女性の遺体は最高ランクと評価され、数十万元の値がつくことも珍しくない。

山西省では、若い男性が事故の多い違法炭鉱で働いていることが多いため、女性よりも死亡率が高い。それに加え、中国では2015年まで一人っ子政策がおこなわれていた。その時代には男児を望む傾向が特に強かったため、いまでも農村では男性が圧倒的に多い。

したがって、たとえ大金を積んでも冥婚の花嫁を見つけることは、実際の結婚よりも難しい。病院で条件のそろった女性の遺体が出たという情報が流れれば、人が押し寄せるのも無理はない。

長い間「花嫁」が現れるのを待ち続けた家族は、早くしなければ災いが降ってくると追い詰められているのだ。情報源を流した病院スタッフにも、取引が成立すると2000~3000元の「手数料」が支払われるという。

冥婚には、女性側の親族にもメリットがある。農村では、未婚女性は先祖の怒りを買うという理由で家の墓に入ることができない。そのため、未婚の娘が亡くなると、田畑のそばに埋葬にされることになる。

だが、冥婚を挙げれば、彼女たちは「夫」の墓に入ることができる。また、冥婚市場で高騰した娘の遺体が高値で売れれば、親はそれを生きている息子の結納金にあてることができる。

冥婚の起源は、中国最古の王朝・殷にまでさかのぼる。この時代に、祖先に妻をめとらせた風習が、現在の冥婚の起源となったようだ。

その後、漢の時代に冥婚の風習はいったん途絶えるが、漢末に動乱が起こると復活し、隋唐にも引き継がれた。宋の時代には、専門の媒酌人が職業として成立するようになった。

媒酌人たちは毎年村々をめぐり、未婚で亡くなった男女の情報を集め、「縁談」がまとまると両家から金銭を受け取って生計を立てていた。当時から、最も冥婚が盛んだった山西省ではいまでもその風習が脈々と受け継がれている。

この業界で30年働いている媒酌人によれば、冥婚市場は近年ますます活況を呈しているという。1990年代の遺体の相場は一体5000元だったが、2010年には10万元出せば何とか相手が見つかるようになり、2016年には15万元出しても骨一本すら買えない状況だ。

そう考えると、前出の胡青花が18万元で「花嫁」を手に入れることができたのは、確かにお買い得だ。だが、もちろん誰もがこんな幸運に恵まれるわけではない。胡は都市部で働いているので、農民に比べて裕福だ。それで、女性側の家族も親戚になりたがり、「特別優待価格」を提示したのだ。

裕福であればあるほど花嫁を安く買うことができ、貧しいほど高い金を払わなければならない──そんな矛盾した現象が冥婚市場では起きている。

中国国家統計局によれば、山西省の一人当たりのGDPは約9000元だという。この収入では、可愛い子供のために冥婚を挙げることは非常に困難だ。息子が生きていれば結納金を用意せねばならず、死んでいれば冥婚を挙げねばならない。多くの農村家庭が結婚のための借金で生活苦に陥っている。

死んだ息子の冥婚を挙げるという悲願がかなった胡だが、いまは別の心配が頭から離れない。「嫁」が盗まれないか気が気ではなく、毎日息子の墓を見張っているのだ。

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