北川(悦吏子)先生に“あてがき”(役者の個性を念頭においた脚本執筆)されると聞いて楽しみにしていたところ、こんなにも強烈なキャラクターが生まれて驚きました(笑)。朝ドラは『純情きらり』以来2作目、北川先生の作品は3作目ですが、菱本若菜はどの役とも全く違うもの。私に任せていただけて、とても光栄です。
菱本は、真面目で頭の回転も速い、理路整然とまくしたてる「やり手の秘書」。でも、どこか行き過ぎていて、秋風に負けず劣らず変わっています。自分では正論を言っているつもりでも、思い込みの激しいところがあったり、抜けていたりするんですよね。人間くさくて、いいなぁと思っています。
秋風(豊川悦司)に負けず劣らず変わっています
菱本若菜は、どんな人物ですか?
衣装も花柄やフリルが付いていて強烈ですが、これはバブル当時の最先端ファッション。少女趣味なのではなく、キャリアウーマンの菱本らしい、ぜいたくなおしゃれだと捉えています。ソバージュやパーマにリボンが付いたりするヘアスタイルも、年齢不詳で菱本らしいです(笑)。
北川先生らしいコメディーのニュアンスを大事にしたいです
菱本を演じる上で大切にしているポイントはなんですか?
リアルから少し浮いた小芝居を、おもしろく見せられたらと思っています。そのあたり、秋風役の豊川(悦司)さんは絶妙な演技をされるんですよ。たとえば、弟子のプライベートでの不幸を知るや、とってもうれしそうに食いついたりして。リアルからコメディーへ一気に舵(かじ)を切る瞬間が本当におもしろいです。菱本は当然、そんな先生をピシャリとたしなめるんですが……自分も首を突っ込みたい気持ちが見え隠れする(笑)。私としても、そんなところを押し出すようにしています。やはり、北川先生らしいコメディーのニュアンスを大切にしたいですね。
早口でまくしたてるシーンは、理路整然としているようで、話の主旨から少しずつ逸(そ)れたりするのがおもしろいところ。演技としても、感情を乗せることば、乗せないことばを、普通の人とは少しズレて見えるようにしています。新しい台本をいただいて最初にすることは、菱本に長ゼリフがあるかどうかの確認です(笑)。
秋風との関係は謎めいたままに
菱本にとって、秋風先生はどんな存在だと感じていますか? 男女の関係があるのかどうかも気になります。
菱本は秋風作品のいちばんのファンであり、秋風羽織という人物のいちばんの理解者。漫画家としての才能と情熱に加えて、人間的な魅力を感じていると思います。秋風に救われた過去があるので、「私が支えてあげなくちゃ」という思いも強いはずです。
秋風と菱本に男女の関係があるのかは、あえて明確に描かれておらず、芝居としても謎を残す意識ですね。豊川さんと一緒に「私たちって、何でしょうね?」と話しながら、関係性を匂わせる芝居をしています(笑)。
中でも、秋風の体調悪化に感づいて「私より、5分でいいから長く生きてくださいね」と言うシーンは、菱本の見せどころの一つ。女性として男性に気持ちを吐露するのとは少し違う、不器用な人が気持ちをあふれさせるようなイメージで臨みました。
分かりやすく手を差し伸べない「第二のお母ちゃん」
アシスタントである鈴愛に対しては、どんな意識で向き合っていますか?
最初こそ“岐阜の猿”扱いでしたが、鈴愛さんの枠にはまらない言動が秋風に影響を与えるのを見て、ただ者ではないと感じ、菱本はいつの間にか認めていったんだと思います。
(鈴愛役の永野)芽郁ちゃんが菱本を「第二のお母ちゃん」と言ってくれているのは、うれしいですね。菱本は分かりやすく手を差し伸べたりしませんが、お互いに顔を見れば気持ちが分かるようになったり、「ちゃんと食べてる?」と聞いたりと、アットホームな感じは出てくると思います。
ただ、アシスタントたちはお互いにライバルであり、秋風とは師弟。あくまでオフィス・ティンカーベルらしい緊張感を保ちながら、温かい部分を織り交ぜていきたいですね。青春を漫画にささげたアシスタントたちの行く末を、そんな立ち位置で見守りたいと思います。