米国、鉄鋼・アルミニウム追加関税発動 主要同盟国に
米政府は5月31日、カナダ、メキシコ、欧州連合(EU)に対し鉄鋼・アルミニウムの輸入品に対する追加関税を導入すると発表した。
米政府によると、税率は鉄鋼が25%、アルミニウムが10%。導入開始は米国時間の6月1日午前0時(日本時間同日午後1時)から。
パリでEU幹部と関税交渉に臨んでいたウィルバー・ロス商務長官は、EUとの協議の成果が不十分なため、3月からEUとカナダ、メキシコに認めていた除外措置を、これ以上延長する理由が認められないと述べ、関税発動を発表した。
商務長官は、トランプ大統領はいつでも関税を解除したり変更したりする権限があると強調する一方で、「全ての当事国と今後も協議していきたい」と意向を示した。
メキシコ、カナダ、EUはこの追加関税が「単純で純粋な保護主義だ」と批判。すぐに報復関税の導入を発表した。
英国は、これまで数週間にわたり交渉してきたにも関わらず、米国の関税導入が決定したことに「深く失望している」と述べた。
今回発表された輸入関税は、鋼板、板用鋼片、コイル、アルミニウム圧延品や鉄管、鉄鋼アルミニウム原料など、米国の製造業、建築業、石油産業で広く使われている製品に影響を与える。
欧州委員会のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は「世界貿易にとって悪い日」になったと述べた。また、同委員会のジャン・クロード・ユンケル委員長は米国の措置について「全く受け入れられない」とした。
ユンケル委員長はEUに「選択肢はない」としたものの、世界貿易機関(WTO)に紛争処理手続きを申し入れると共に、米国の輸入品に対し対抗関税を課すとも付け加えた。
カナダのジャスティン・トルドー首相は米国の関税について、カナダと米国の間で長年続いてきた関係、特にアフガニスタンで「米国の戦友と共に戦い死亡した数千人のカナダ軍人」に対する「侮辱」だと述べた。
トルドー氏によると、カナダは7月1日から米国製品に対する約130億ドル規模の関税を導入する意向。同国はまた、WTOにも異議申し立てを計画しているという。
トルドー氏は、「どこかの時点で常識が取り戻されると信じなければならないが、(米政府が)今日発表した措置にそのような方向へと向かう兆候はない」と述べた。
「カナダとの貿易を、米国の国家安全保障の脅威とみなすなど、まったく馬鹿げている」とトルドー首相は強調した。
英政府は、「引き続きEUならびに米政府と緊密に協議し、恒久的な(追加関税の)適用除外を実現し、英国の労働者が保護されるよう取り組んでいく」と述べた。
報復関税で考えられる米国産品への影響
カナダは特定の種類の米国産鉄鋼に対し25%、ヨーグルト、ウイスキー、焙煎済みのコーヒー豆など他製品にも10%の関税を課す予定。
メキシコ経済省は、鉄鋼、豚足や豚肩肉、リンゴ、ブドウ、ブルーベリー、チーズに新関税を導入する意向だと述べた。
EUはすでに報復関税の対象製品リストを発表済み。リストには米国産バーボン、クランベリー、ジーンズが含まれている。
フランス商務省幹部は、EUの報復措置は6月半ばまでに準備が整うと述べた。
130億ドル相当の米国産品を対象にしたカナダの報復措置は、7月1日に発動する見通し。
中国はすでに報復措置として、ワインやナッツ類など輸入総額30億ドル相当の米国産品に追加関税を導入している。
関税導入の経緯
ドナルド・トランプ米大統領は3月、国家安全保障を根拠として、外国産鉄鋼とアルミニウムに対する関税の導入計画を発表した。
トランプ氏は、中国が主導する鉄鋼とアルミニウムの世界的な過剰供給が、米国にとって極めて重要な米鉄鋼・アルミニウム製造企業を脅かしていると主張している。
米国の関税計画発表以来、韓国、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジルの各国は、関税への対応として米国に輸出する金属製品の量に制限をかけることに合意した。
市場への影響
カナダ、メキシコ、EUの昨年の対米鉄鋼・アルミ輸出は合計230億ドルで、米国の鉄鋼・アルミ総輸入高480億ドルの半分近くに上る。
トランプ大統領は3月初め、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加関税を課す大統領令に署名した。これ以来、金属類を購入する米国内企業はすでに、鉄鋼価格が高騰していると報告し、米国の製造業者だけでは米国内の需要に応え切れないと不満をあらわにしていた。
米企業やエコノミストたちは、金属価格の高騰は供給チェーンの混乱につながり、いずれ米国の一般家庭がその影響を受けることになると警告していた。関税導入からめぐりめぐって、鉄鋼やアルミの輸入品に依存する米国企業でリストラにつながることになると、多くの関係者は懸念している。
米投資銀行ゴールドマン・サックスは3月、関税導入はインフレ率を0.5ポイント近く押し上げると予測を発表していた。
ロス商務長官は、関税導入によるコスト高の影響は些少なものにとどまるとして、懸念を一蹴した。
31日の株式市場では、米鉄鋼製造業者の株価が上がる一方、鉄鋼製品を必要とするキャタピラ社やボーイング社などの株価は下がった。
英国や欧州本土の製造業者は、関税によって米国の需要が減るのに加え、米国に行かなくなった鉄鋼・アルミ製品の流入が急増するのではないかと懸念している。
こうした市場の混乱は、英鉄鋼業界に大きな打撃となるだろうと、英鉄鋼業界団体「UKスティール」のギャレス・ステイス代表は心配している。
同団体によると、英鉄鋼業界では約3万1000人が働き、輸出品の約7%が米市場向けだった。
米国内の反応
米国でも経済界や議員の多くが、トランプ政権の関税政策を厳しく批判している。他の案件ではトランプ大統領を支持する共和党議員の中でも、批判の声が上がっている。
昨年の包括減税法案成立に貢献した共和党のケビン・ブレイディ下院歳入委員会委員長は、EU、カナダ、メキシコに対する除外措置を復活させるよう、トランプ政権に呼びかけた。
「政権は連邦議会を訪れ、この関税が地元ビジネスにどれほど無作為に打撃を与えるか、我々の質問に答える必要がある」と、ブレイディ委員長は述べた。
米主要メーカーの業界団体、米アルミニウム協会も、関税は取引国との関係を悪化させるほか、供給超過問題の解決につながらないと、政府決定を批判した。
<解説>シオ・レゲット BBCビジネス担当編集委員
トランプ政権は世界各地の貿易相手から譲歩をもぎとるつもりで、それには好戦的な手法も辞さない構えだ。
大統領は安価な輸入品は米国の産業を傷つけ、米国の労働者の仕事を奪っていると信じている。選挙中には、米国の労働者にもっと公平な取り決めを外国からとりつけると公約していた。そして大統領となった今、欲しいものを手に入れるためには貿易戦争も喜んで受け入れるつもりのようだ。そもそもかつてトランプ氏は、貿易戦争は「いいものだし、勝ちやすい」と発言していた。
事態はそこまで発展するのだろうか? 確かにEUとメキシコは報復するつもりのようだし、カナダもその用意がある姿勢を示している。なので、状況は楽観視できない。
しかし、トランプ政権が貿易問題で最大の標的としている中国について、米政府の対応を見ていると、事態はそこまで明々白々ではない。
米中はこれまで何度か互いを強い調子で非難しては、立場を軟化させてきた。今のところ、全面的な米中貿易戦争は回避されている。中国もいくらか譲歩してきた。
つまりもしかすると、これがトランプ時代の交渉の仕方なのかもしれない。やかましく。そして、公の場で、激しく目立つ形で。
(英語記事 US tariffs: Steel and aluminium levies slapped on key allies)