スピリタス社長を務める仲摩恵佑氏

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3畳のリビングに3畳のロフトで大ヒット

 デイリー新潮は4月11日「都心で新築・3畳ワンルーム…超コンパクト物件が大人気のワケ」の記事を掲載した。こうした物件を現在、「都心で最も建てて、最も売っている」会社が、不動産業のスピリタス(東京都港区虎ノ門)だ。

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 例えば同社がJR山手線・新大久保駅の近くに建設したアパートを見てみよう。駅徒歩6分という近さだ。1部屋の総面積は9平米、約5.81畳。ここからキッチンとトイレ、シャワールームのスペースを確保すると、残ったリビングは約3畳となる。

 3畳のロフトがあるため、寝るスペースは別に確保できる。スマホを活用すれば、リビングにテレビやステレオを置く必要はない。食事も外食やコンビニ弁当なら、調理器具や食器も不要だ。

スピリタス社長を務める仲摩恵佑氏

 それでもキッチンは最低限、自炊できるスペースを確保している。またキッチンは料理以外でも洗顔や歯磨きに活躍するため、シャワールームに洗面台は存在しなくても大丈夫というわけだ。

 家賃は管理費込みで6万円台。敷金、礼金、更新料はゼロだ。2017年11月に21部屋で入居者を募集したが、すぐに満室となった。他にも「恵比寿駅徒歩10分」や「目黒駅徒歩7分」、「戸越駅徒歩6分」といった物件が家賃7万円台で提供されている。この3畳ワンルームのブランド名は「QUQURI(ククリ)」、ギリシャ語で「繭」の意味だという。

店子は低家賃、大家はコストカット

 スピリタスは12年1月に創業。こうした「極小ワンルーム」市場を開拓し、翌13年には数億円の売上を叩きだした。14年は約10億円、15年は15億円を超え、昨年は30億円を突破。まさに鉱脈を発見したと言える。

 同社の創業者で社長を務める仲摩恵佑氏は31歳の若さだ。「土地を押さえれば、ありがたいことに購入してくださるオーナーは何人もいらっしゃいますし、アパートが完成すると即満室になるという好循環が実現できています」と笑顔を浮かべる。

 同社のビジネスモデルを簡単に説明すると、スピリタスは土地を購入し、極小ワンルームのアパートを企画、建設する。それを個人オーナーに売却し、物件への融資付け、設計、施工、賃貸管理などオーナーのアパート経営をサポートしていく。

 一般的なワンルームは約20平米。対してスピリタスの極小ワンルームは約9平米と半分以下だ。面積が狭いため、普通より家賃は2~3万円ほど下げなければならない。本来なら、オーナーにとって嬉しい話ではないだろう。

 だが面積が半分ということは、単純計算すれば部屋数は倍になる。家賃が安いから人気が高い。退去者が出ても、再び満室となる“空き時間”が短い。

「東京都におけるワンルームの平均空室期間(退去者が出て次の入居者が入るまで)は29.7日という調査があります。しかし、弊社の物件は、ありがたいことに14日程度と半分です。さらに面積が狭いため、退去後のクリーニング代、壁紙などの張り替え代などのコストも圧縮できます。こうして1部屋あたりの家賃は安くとも、家賃収入の総額を増やすことが可能になりました」(仲摩社長)

大学を中退し「ブラブラしていた」社長

 社会状況も追い風となっている。例えば総務省は今年(18年)1月、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)は転入者が転出者を上回る「転入超過」が約12万人に達し、東京圏の転入超過は22年連続と発表した。

 時事通信によると、総務省の担当者は「転入者の大半を15歳から29歳の若年層が占める」と指摘したという(「東京圏、22年連続転入超過=11.9万人、続く若者集中-17年人口移動・総務省」1月29日電子版)。つまり若者が出身地を離れて上京する傾向は依然として活発なのだ。

 そして若者は「職住近接」の指向が強いとされる。さらに「断捨離」や「ミニマリスト」というモノを持たないライフスタイルを支持する層も多い。こうしたことを背景に、スピリタスは「倍々ゲーム」と形容しても大げさではない急成長を遂げているわけだ。

 先に社長の仲摩氏が31歳だと聞いて、驚いた方も多いだろう。仲摩氏は大分県生まれ。高校を卒業し、福岡市の私立大学に入学するも、すぐに退学してしまった。

「2年ぐらいは福岡でブラブラしていました。それでも世の中の動きみたいなものを見ているうちに、不動産市場が盛り上がっていることに気づいたんです。就職するなら不動産業者だと考え、福岡市に本社があった会社の説明会に参加すると『ゆくゆくは全国展開し、地方の支店は分社化します。皆さんには分社の社長を目指してほしい』と呼びかけられて、『これは面白い』と入社を決めました」(仲摩社長)

入社2週間目でマンション1棟を販売

 01年に小泉純一郎氏(76)が首相に就任し、02年から「いざなみ景気」が始まる。03年に六本木ヒルズが完成。04年には堀江貴文氏(42)の率いた旧ライブドア社が大阪近鉄バファローズの買収に名乗りを上げ、大きな注目を集めた。

 好景気になると不動産業界は活況を呈する。新入社員は午前9時出社と定められていたが、1か月後には午前6時に出社しなければならないほど忙しかった。

 しかし厳しい業界だ。単価が極めて高く、1件でも物件を売れば、それなりの営業成績を達成できる。とはいえ売れることが少ない。中堅でも辞めていく社員は多い。まして新人は苦労して当然なのだが、仲摩氏は入社2週間目でマンション1棟を売る。

「なぜか、その後も着実に物件を販売できていました。ところが07年末から始まったサブプライム住宅ローン危機、08年にリーマンショックが起き、物件がほとんど動かなくなりました。私は働き続けたかったので、社の上層部に『会社が持ち直したら、再び雇ってください』と依頼しました。すると『フルコミッション(完全歩合制)でよければ今でも契約する』と打診され、承諾しました」(仲摩社長)

 夢中になって働くうち、会社の経営も回復していく。仲摩氏は08年に名古屋支店、09年には東京支店の立ち上げに参加した。

新宿のワンルームからヒントを得る

「東京に来て、不動産市場の盛り上がり驚きました。東京支店のホームページを作っただけで、月に100件以上も問い合わせが来たんです。福岡本社や名古屋支店で新規開拓に苦労したのが嘘のようでした。当然ながら富裕層も桁違いに多く、皆さん資金運用の必要性に迫られていました。良心的な仕事が可能な環境が整っていたんです」(仲摩社長)

 毎日走り回っていたが、ある時、会社と意見が割れた。さるオーナーのローン借り換えに注力したいとする仲摩氏に対し、会社側は「新規案件の開拓を急げ」と厳命。意見の相違を超え、経営哲学の違いが浮き彫りになっていく。

「どうしても意見を曲げたくなかったので、退職しました。『元不動産業者』としてオーナーのローン借り換えをまとめると、そのオーナーさんに『資金を出すから、自分で不動産会社を経営してみなさい』と声をかけてもらったんです」

 さっそく新宿にオフィスを借り、会社設立の準備に入る。当時の仲摩氏は八王子に住んでいたが、想像以上の忙しさだった。始発で帰宅し、シャワーを浴び、すぐに新宿に帰るという日々だった。

「弟と一緒に会社を立ち上げようとしていたのですが、彼は帰宅さえできず、事務所に寝袋で寝ていました。これでは身体を壊すと、ワンルームを探したんです。ところが新宿は『家賃5万円、築30年以上で風呂なし』という物件か、『風呂トイレつき、20平米で家賃10万円以上』という物件かという両極端な状況です。風呂トイレつきで、最も安くて狭い部屋を借りました。しかし私も弟も、プロの視線で見て、『もっと狭くして、もっと家賃を下げても、さらに快適な部屋を作ることは可能だ』というヒントを得ました」(仲摩社長)

都心の一等地にこだわる理由

 そして時代はアベノミクスに突入していく。地価だけでなく、建設コストも上昇していく。不動産業者にとっては逆風だが、これを仲摩氏は「極小ワンルーム」のチャンスが到来したと読む。

「単純化しますと、1億円で計画した新築アパートの建設費が、コストの上昇で2億円に膨れあがりました。上昇分をオーナーさまに負担していただくのは簡単ですが、会社の方針として、それはしませんでした。苦しかったですが、オーナー様との約束、当初の利回りを守るために、追加費用をいただかず、物件を完成させました。その後も地価や建設コストが共に上昇し続ける事は分かっていました。その状況下でも、『収益性が高い物件を提供できる方法』を模索し続け、『部屋の面積を小さくして、部屋数を2倍すれば解決できる』という結論を得ました。これがQUQURIの原点です」(仲摩社長)

 部屋は狭くとも、例えば天井は可能な限り高くした。ロフトの快適性が増し、日当たりが良くなった。このような工夫は随所にあるという。廊下の幅や、玄関周りなど、ミリ単位の精密さで計算している。

 好景気になるほど、不動産業界の不祥事も増える。前回のバブル景気が代表例だ。個人情報を入手した不動産業者からの電話に悩まされている読者も多いだろう。「かぼちゃの馬車」でオーナーを破綻に追い込んでいるスマートデイズ社(旧・スマートライフ社)の問題も現在、大きく報じられている。

 だがスピリタスが極小ワンルームのアパートを建設するのは、都心の一等地だけだ。そうすることで、ビジネスの“質”を保証しているという。

ホテル経営にも進出を計画

「一等地なら、銀行が安心します。担保価値が崩れにくく、オーナーも喜びます。資産を持った真っ当な方々と協力してビジネスを展開できます。出口戦略も安定します。アパートは40年が経つと、建て直すか更地にするしかありません。新宿や中目黒という人気エリアなら、さらに少子化が進行しても、さらに不動産価値が下落しても、地価の値崩れリスクを最小限に抑えられます。リスクの高いビジネススタイルで、ひと山当てようという同業他社が存在することは事実です。しかし我々のアプローチなら、自動的に綺麗なビジネスが実現できます」(仲摩社長)

 仲摩氏は結婚しており、1女の父親だ。もちろん3畳ワンルームには暮らしていない。今、スピリタスのワンルームに住んでいる若者も、いつかは結婚し、アパートを出て行く。将来、極小ワンルームの需要が減少するリスクは存在しないのだろうか?

「だからこそ立地にこだわってきました。東京都の周縁部で若者が減少する時代が到来しても、新宿や中目黒は人気が落ちないと考えています。さらに、個人事業主がオフィスとして使ったり、セカンドハウスとしての需要は今でも旺盛です。もともとの家賃が安いので、値崩れのリスクも最大限、回避できると予測しています」(仲摩社長)

 スピリタスはホテル経営も視野に入れている。部屋のスタイルは同じだ。「カプセルホテルより快適で、ビジネスホテルより安い」ホテルを開発中という。

「弊社のアパートで民泊を経営しているオーナーさんがいらっしゃいます。そのデータをいただきまして、どれくらいの稼働率か感触を得ました。今後、民泊に対する規制は厳しくなりますが、逆にホテルや旅館の経営条件は緩和されます。東京五輪が終われば訪日観光客も減少するという指摘もありますが、私は逆だと思っています。東京五輪により、『東京』の認知が広まれば、今まで以上に、訪日観光客は増えると思っています。コストパフォーマンスを重視する層に訴えることができればと考えています」(仲摩社長)

 最後に趣味を聞くと「やっぱり仕事ですね」と苦笑を浮かべた。今後も3畳ワンルームで業界を席巻するのか、さらに関心が集まるのは間違いなさそうだ。

週刊新潮WEB取材班

2018年6月1日 掲載