空前の売り手市場で、人事は「若手の採用の難しさ」に直面している。優秀な人材はますます採りにくくなり、コストをかけて採用した人材も「ミスマッチ」を理由に辞めていく……。
「ミスマッチ」時代に、何が起こっているのか。その“逆風”の中、人事は何ができるのだろうか。
空前の売り手市場が“逆風”になり、人事の仕事は日々難しくなっている。「採用した若手がミスマッチを原因に辞めていく」「採用できる人材の質が高くならない」――そううめきながら、日々仕事をしている人事も少なくないだろう。
「人事の最前線」を教えてくれたのは、東京・銀座のバーの店主「やっさん」こと鈴木康弘さんだ。元リクルートグループで採用支援を行い、ベンチャーを経て、東京・池袋にバーをオープン。就職に関する悩み相談ができるバーだと話題になり、悩める若手や人事担当者が集まるように。鈴木さんは現在銀座の2号店で、毎夜人事の“悲喜こもごも”を聞いている。
売り手市場やメディアの影響により、求職者の意識は変化している(関連記事)。では、人事の意識や質は変化しているのだろうか? そう聞くと鈴木さんは、「人事のレベルにも問題がある」と答えた。
かつて、鈴木さんのもとに相談にやってきた地方国立大学の男子学生Xさん。1年目の就活は60社を受け、全て“お祈り”が返ってきた。就職留年を決めたXさんは、鈴木さんの「だまされたと思って、新聞社の飛び込み営業バイトを3カ月やってみては」というアドバイスに従った。
それから1年。1年留年することになったXさんは、スペックとしてはストレートの学生よりも一般的には不利になる。しかしXさんは順調に選考を進め、最終的に上場企業6社から内定を得ることに。その中には、1年前には第2面接で落とされてしまった企業もあったという。
「その話を聞いた時、人事はバカだと思いましたね。3カ月の体験で表層的な部分は変わっても、人間の基礎的な部分はそうそう変わりません。ただ『3カ月飛び込み営業をしました』という部分だけに飛びついている。ポテンシャルを見抜いて採用したというなら、そもそも1年前に採用できているはず。日本企業の見る目のなさに怒りを感じました」(鈴木さん)
もちろん、人材のポテンシャルを見抜ける人事も存在している。鈴木さんは「そういう人事がいる企業は、競合他社とバッティングしないのでいい人材が取れます。ただし決して多くはない。売り手市場で『誰でもいいから入ってほしい』と考えるようになった業界や企業では、人事のレベルは下がってきています」と話す。
鈴木さんの取材を横でじっと聞いていたバーの常連の人事担当者Yさんも、「人事は人を見る目がない」と自虐する。
「『自分は採用ができる』と思っている人こそ、間違えますよね。自分が選考される立場として考えれば、1時間程度で自分の人となりを見抜けるわけがないと思うでしょう(笑)。だから本当は今の選考フローそのものが間違っている。採用の仕組みと構造が間違っているから、初めから一定の人が辞めていくことを前提に採用を行うというリカバリー対策を取らざるを得ない状態です」(Yさん)
さらにYさんは、「人事はどんどん忙しくなっている」とぼやく。
「昭和の時代では終身雇用が一般的で、入った会社が大きくなれば給料も上がるといったように、会社の幸せが個人の幸せと一致していました。でも今は個人の幸せにバリエーションが生まれ、会社の幸せとはズレています。人事はそのズレを調整したり、ズレの少ない人を採用したりするのが仕事。人事が忙しくなっている最大の理由は、このズレが看過できないほど大きくなり、無理やり解消しなければいけないところにあるのではないでしょうか」(Yさん)
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