5月24日、「紀州のドンファン」こと野崎幸助氏が自宅で倒れ、その後死亡した。享年77。「美女4000人を抱いた男」としてメディアの注目を集め、今年2月には55歳年下のモデルと結婚した彼が、一体なぜ突然――。
『紀州のドンファン 美女4000人に30億円を貢いだ男』『紀州のドンファン 野望篇』の執筆構成を担当し、ドンファンに最も近いライターの吉田隆氏が、奇怪な死を遂げる直前にドンファン本人からかかってきた電話の内容を明かす。
5月25日、深夜2時半。前日の徹夜仕事がたたり、疲れて寝ていたボクはフト目を覚ました。
携帯の電源を切り忘れていたことを、夢うつつの中で思い出したのだ。
最近、毎朝4時ごろになると、「紀州のドンファン」こと野崎さんから電話がかかってくる。せっかく熟睡したいのに、今日も電話がかかってきて起こされたら大変だ。携帯電話の電源を切らなければ……。
ドンファンとの付き合いはかれこれ2年に及ぶ。最初は、彼の家に強盗が入ったのを取材したのがきっかけだった。被害者であるドンファンと話をするうちに、あっという間に意気投合。その後、彼が自身の生涯をまとめた本を出版したいと言ったので、その執筆のお手伝いをした。
和歌山から東京に出て来るたびにボクに連絡をくれるのだが、最近は東京にいるいないにかかわらず、いろんな相談のために電話をしてくることが多かった。それも、なぜか早朝に……。
電源を切ろうと携帯を手に取る。と、そこには着信がずらりと並んでいた。熟睡して気づかなかったのだが、夜の23時から2時に至るまで、何度も電話がかかって来ていたのだ。それも、ドンファンではなく、彼の会社(彼は和歌山・田辺市で不動産業などを営んでいた)の番頭のマコやんや、ドンファンの自宅の掃除や炊事をしているお手伝いのKさん(60代)からだった。
こんな時間に電話があるなんておかしい。いやな予感がしたボクはKさんに電話をした。
すると――。
「社長、死んだ……。亡くなった」
Kさんの沈んだ声が飛び込んできた。
信じられない。必死で声を絞り出した。
「いつ?」
「夜の10時に……。救急車を呼んだけどダメだった。遺体は警察に連れられて解剖されるって」
「さっちゃんはいる?」
さっちゃんとは、ドンファンが今年2月に結婚した、55歳年下の妻のことだ。ボクも何度も彼女に会っている。電話をさっちゃんに替わってもらった。
「気をしっかりとするんだよ。ボクも直ぐに行くから」
「分かりました。よろしくお願いします」
ああ、ドンファンがポックリ逝ってしまったのか……。仕事柄、数え切れない人の死に接してきたが、ドンファンは取材の関係を越えて、近年最も濃密な付き合いをしてきた一人だ。
つい10日前に会ったばかりだし、その時はぴんぴんしていた。いったいなぜ……そんな気持ちが強かった。