カンボジアは肥沃な土地に恵まれ、アンコールワットなどの遺跡でも名高い国。1970年代、政権を握ったポル・ポト率いるクメール・ルージュは粛清や飢餓、病気などで政策的に自国民の3割を死に追いやった

▼都市の全住民を農村やジャングルに強制移住させ、知識人や技術者を抹殺。歌や踊り、立ち話を禁止し、家族を解体して別々に住まわせた

▼何がしたかったのか。文化、経済、社会を破壊し尽くした後遺症は40年近くたった今も続いている

▼当初は「現代文明の否定」と思想性を見いだす分析もあった。だが政権崩壊後の証言集を見ると、大それた理由などなく「命令に従っただけ」「自分も殺されそうだった」との弁明が多い

▼作家の池澤夏樹さんは25年前の著書「楽しい終末」の中で、理解し難いポル・ポト派の政策に対し「国が自殺するということがあるだろうか」と問い掛けた。思考停止が社会を覆うとき、どんな蛮行でも起きうる。そこに恐怖を感じる

▼2018年の日本では公文書改ざんや国会の虚偽答弁など、国家や官僚機構の信頼を揺るがす愚行が頻発し、自己正当化の言い訳や無責任な強弁ばかりが目立つ。一昔前には許されなかった問題発言や憎悪表現もまかり通る。これも「国家の自殺」かと感じつつ、一つ一つに抵抗する大切さを強く思う。引き返せなくなる前に。(田嶋正雄)