仏でホメオパシー論争再燃
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・仏でホメオパシーに対する議論が再燃している。
・多くの国で保険適用範囲から外されつつあるが、仏では最大30%まで保険適用される。
・有害な一面もあるホメオパシー。議論を通し正常な情報が広がることが重要。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40278でお読み下さい。】
現在フランスでは、アグネス・ブジン社会問題・保健相が問題を提起したことにより、ホメオパシーに対する議論が再燃しています。
▲写真)アグネス・ブジン氏 出典)AgnesBuzynTwitter
「プラセボ(偽薬)効果以上の効果はなく、科学的に効果が実証されていないホメオパシーに、国による保険適用を続けていいのだろうか?」
ホメオパシーとは、18世紀末から19世紀初期にかけて、ドイツの医師ハーネマンが唱えた民間療法です。「健康な人間に与えたら似た症状をひき起こすであろう物質を、その症状を持つ患者に極く僅か与えることにより、体の抵抗力を引き出し症状を軽減する」という理論からきており、さまざまな物質を一定の方法によって水で希釈を繰り返したものを砂糖玉に染みこませた「レメディ」と呼ばれる球形の錠剤を飲むことで治療が行われます。
▲絵)ザムエル・ハーネマン氏 出典)Wikipedia Comm
ホメオパシーの理論では“物質のパターンが水に記憶されるため、治療効果がある”とされています。しかしながら、物質の希釈度は最終的に10の60乗ということで、元の物質が残っていないホメオパシーの「レメディ」は要するに単なる砂糖玉であり、正統派医師の多くの研究ではホメオパシーは偽薬によるプラセボ効果であると結果が出されているのも事実。プラセボ効果とは、薬だと信じ込む事によって何らかの改善がみられることであり、原病やその症状自体の改善というよりは、「効くと信じている薬を飲んでいる」ことから精神的な安心感を得られると言うもの。
18世紀から19世紀前半には、確かにホメオパシーは他の薬よりも効くと思われていました。それもそのはず。なんと言っても塩化水銀が常備薬として家庭に備えられており子供などに頻繁に与えられ、水銀中毒を起こして亡くなっている方もいる時代。確実に効果がある薬も現在のようには発達しておらず、薬として害あるものを摂取してさらに具合が悪くなることも多くあったのに対し、なんの害も及ぼさず時には病気が改善されるホメオパシーの方が効果を感じ取れたとしてもおかしくありません。
例え効果がなくとも飲んでも害を及ぼすことがないため医療関係者からも容認されていたことは、ナイチンゲールが「素人が下手に薬を与えるよりも、害をなさない砂糖玉をあげるホメオパシーはとてもよい」と評したことからも理解できます。
このような状況の中、ホメオパシーはヨーロッパ中に広がり、現在でも、フランスでは、すべてのジェネラリストや専門家がホメオパシーを処方でき、最大30%まで保険適用されています。
しかしながら、効果ある薬がでてきた近年では、ホメオパシーは多くの国で保険の適用範囲から外されつつあります。例えば、ホメオパシー発祥の地であるドイツですら2004年よりいくつかの例外を除き公的な健康保険では保障されなくなりました。イギリスでも2010年には、公的な保険適用はなくなっています。
唯一例外的な国はスイス。2005年に公的保険適用から外されたのにもかかわらず、2009年の国民投票で補完代替医療の保険適用案が支持されたのを受け、2016年3月に再びホメオパシーが健康保険対象に戻されました。認められた補完代替医療の中には日本でも保険適用されている鍼治療や漢方も含まれるてれいますが、同様にホメオパシーも「従来の治療法を有益な形で補うもの」として認められたのです。スイスは科学よりも患者の意向が尊重された結果となりました。
確かに、プラセボ効果とは偽薬を飲むことで「安心感」がもたらせられます。この「安心感」と言うのは、実際に痛みや不眠などの精神的なものには効果があることは事実ですし、偽薬であっても一定の効果があるなら国民の健康を維持するのに役にたっており、それなら公的な健康保険に適用されてもいいのではないかと言う意見も出ています。第一、現在払い戻されている費用も全体から見れば微々たるもの。2016年に、フランスの健康保険から払い戻された金額は1億2850万ユーロ。全体の1%程度にしか過ぎないのです。
Ipsosの調査によると73%のフランス人はホメオパシーを信用していると言う調査結果もでています。例えプラセボであっても、その程度や内容は人さまざまでしょうが、実際に効果を実感している人は多いと言えます。
だいたい、科学は真実をあばきだし、時には人の心を大きく傷つけます。強い作用の薬は、体までむしばみます。そんな突き付けられた真実を直視し、痛みに耐えるよりも、自然を重視したここちよい物語を信じてそれを実践した方が幸せでいられる。人は幸せを感じている方が、心身共に快適でいることができ、そちらの方が健康に貢献している言う意見も出されています。
しかしながら、問題にされる点は、その効果を過信しすぎて必要な治療ができなくなる点でもあります。
2017年9月には、欧州科学アカデミー(Easac)がホメオパシーについて非常に深刻な意見を発表しました。
「時にはプラセボ効果があるとしても、ホメオパシー製品の有効性についての確かな証拠はない。さらに悪いことに、ホメオパシーは、患者が適切な治療を受けるのを断ることによって、有害になる可能性があります。」
ホメオパシーに固執し、適切な治療を行われなかった例は日本にもあります。2009年に起こった「山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故」。与えるべきビタミンKシロップを与えず、いわゆる「レメディー」を用いて新生児を死に至らしめたとして助産師が訴訟を起こされました。この出来事を受け、日本学術会議が2010年8月24日、ホメオパシーの効果について全面否定し、医療従事者が治療法に用いないよう求める会長談話を発表するに至っています。
2013年フランスでも、乳がんの化学療法を受けていた52歳の女性が、医療関係者の助言に従いホメオパシーのみの治療に切り替え、その後は適切な治療を受けることなく亡くなり、助言した医療関係者が遺族によって訴えられました。
また、つい最近でも、2017年イタリアで中耳炎に対して抗生物質を与えられることなくホメオパシーのみで治療されたため7歳の子供が死亡し、この出来事に対して論争が起こりました。
そこで、このような問題点をはらんでいるホメオパシーを、はたして科学的に効果を証明されていないのにもかかわらず、国が保険適用することで肯定し続けていいのか?と言う意見が出ているのです。
効果を信じ必要とする人も多い一方、有害な一面もあるホメオパシー。フランスのホメオパシーの立ち位置を明確に知るためにも、議論の結果が待たれるところですが、今後、議論の結果がどうなるにしろ、人々が議論を通してホメオパシーについての正確な情報が広がることが、一番重要なのことであるのかもしれません。
*トップ写真)レメディ 出典)ホメオパシーセンター
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、ライターとして活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。