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【社説】

中西経団連 まず憲法観を問いたい

 中西経団連がスタートした。安倍政権との一体化が指摘される経団連。重要な課題で経済界が政権に引きずられれば、国は行方を誤りかねない。政治と是々非々で向き合う姿勢が何よりも必要だ。

 中西宏明新会長は終戦の翌年、一九四六年三月生まれの七十二歳。東京五輪の六四年に都立小山台高校を卒業し、東京大学で電気工学を学び、大阪万博が開かれた七〇年に日立製作所に入社した。

 文字通りに戦後を過ごしてきた新会長に、あえてまず憲法観を問いたい。

 国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という憲法の三大原則は戦後の経済成長、企業の発展、豊かさの土台になった。安倍晋三首相は、その「平和主義」に影響しかねない憲法九条の改正を目指している。

 経団連は二〇〇五年の提言で九条について「自衛隊の役割を明確にすべきだ」とした。昨年五月、首相が憲法改正に踏み込んだのを受け榊原定征前会長は「経済界としてもしっかりとした見解を持ちたい」と歩調を合わせるように提言をまとめる考えを表明した。

 しかし、森友・加計学園問題で国民に疑念が広がる中、この三月には「政治に対する信頼感、支持が揺らいでいる限り、憲法の話は時期的にそぐわない」と慎重姿勢に転じている。

 戦争を経験した世代は経済界でも多くが鬼籍に入ったが、例えば平岩外四会長は九一年の経団連総会で「わが国の憲法の精神は単に大戦直後の歴史的所産という以上に、平和を願う人類の希望を見事に表現したもの」と護憲の姿勢を明確にしている。

 憲法改正は経済はもちろん国のあり方そのものに深く影響する。安倍一強政治と明確に距離を置いた議論と判断を求めたい。

 四年前に再開した政治献金もビジョンに欠ける。中止していた政治献金を〇四年に復活した奥田碩会長は「金も出すが口も出す」と明言。献金で二大政党制の実現を後押しするビジョンを示し、当時の小泉純一郎首相の靖国神社参拝を批判した。

 榊原前会長の再開には、残念ながら「安倍政権への擦り寄り」以外の構想が見えない。見直すべきだろう。

 社会保障、消費税と財政再建、原発、デジタル社会、経済格差、保護貿易など課題は山積している。政権におもねらず直言する経団連の姿勢とビジョンが課題を一歩前に進める力にもなるはずだ。

 

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