世界が称賛 『万引き家族』の心を揺さぶる4つのポイント
第71回カンヌ国際映画祭で、日本映画では21年ぶりとなる最高賞・パルムドールを是枝裕和監督の『万引き家族』が受賞した。世界最高峰の映画祭で、今作はどう評価されたのか。映画評論家の立田敦子さんと、カンヌに同行した配給会社の佐々木建二さん(ギャガ宣伝部)が明かしてくれた。
スーパーで、阿吽の呼吸で次々と万引きする父と息子。そんなシーンから始まる『万引き家族』は、家族の死を隠し、年金を不正受給していた実際の詐欺事件をもとに、是枝監督が描いたオリジナル作品だ。
“犯罪”を絆にして暮らす家族たちは、カンヌ国際映画祭で9分間もの喝采を浴び、最高賞を獲得した。
「社会性の強い、鋭い作品が多かった今年、『万引き家族』は、温かな家庭をも描いた。とくに安藤サクラさん演じる信代の掛け値なしの母性を見て、“子供を持つとはどういうことか”をあらためて考えた女性も多かったのではないでしょうか」(立田さん)
許されぬ絆で繋がっているが、家族みんなで素うどんをすすったり、縁側で花火を見上げたり、思わずほっこりしてしまう瞬間が劇中には何度もある。
「是枝監督は、作品には一切妥協はしませんが、現場で声を荒げたりすることはまずしない、おだやかな空気を持ったかたです。監督の温かさが、作品にそのまま表れているのです」(佐々木さん)
そんな名匠が“社会への憤り”を込めたという今作。作品を通じて、“家族”というもののあり方を、世界中が見つめ直し始めている。
◆女性の心に響く、温かな“本当の”家庭
今年のカンヌは審査員9人中5人が女性という、女性が過半数を超えた初の年。「女性審査員が多かったことがパルムドールに繋がったとは一概にはいえませんが、社会派な作品が多い中、『万引き家族』の家庭の温かさの描き方が女性には受け入れやすい作品であったことは間違いないでしょう」(立田さん)。
◆世界的女優も惚れた! 安藤サクラの演技力
「パルムドール受賞後、審査員長で女優のケイト・ブランシェット(49才)が、髪をかき上げて泣く安藤さんの演技を絶賛。13日の公式上映後は、安藤さんが“女優賞を獲るのではないか”と各所で声が上がったほど高評価でした」(佐々木さん)。
私生活では安藤の義理の父にあたる柄本明(69才)も、人情味あふれる駄菓子屋の店主役で出演している。
◆世界最高水準の演出法で子供たちが輝く
子役には台本を渡さず、口頭で説明するのが是枝流。「“素人”に芝居をつける技術が、ドキュメンタリー出身の是枝監督は世界最高水準。映画『フロリダ・プロジェクト』のショーン・ベイカー監督なども参考にしています」(立田さん)。
『誰も知らない』(2004年)で同映画祭最優秀主演男優賞を受賞した柳楽優弥(28才)を彷彿とさせるのが、柴田祥太役の城桧吏(11才)。是枝監督も「(柳楽と)似ているとしたら、彼らのような顔が好きだからです(笑い)」とコメントしている。「子役の2人は強い目力が印象的。イケメンと話題の桧吏くんは、役柄よりもさらに好青年です」(立田さん)。
◆“見えない人々”をリアルに可視化
今年のカンヌは『万引き家族』のような“インビジブル・ピープル=社会から見えない、取り残された人々”をテーマにした作品が多かった。一家が暮らす、周囲から取り残されたような木造家屋は、都内に実在する民家が撮影に使われた。
是枝作品初参加のキャストを支えるのは、常連組のリリー・フランキー(54才)と樹木希林(75才)。樹木は「この方が不気味」と考え、髪を伸ばし、入れ歯をはずして役作りした。
※女性セブン2018年6月14日号