恐怖や不安に影響を受け、被害妄想や誇大妄想を抱くものはパラノイア(偏執症)と呼ばれている。
「誰かに顔を盗まれた」だの「自分の行動が全員にばれている」など、異常な妄想を抱いてはいるものの、人格や職業能力面において常人と変わらない点が特徴だ。
妄想はあくまでも妄想であり根拠のないものだ。だがその恐怖は簡単に払拭できるものではない。
本人にとっては紛うことなき現実なのである。彼らに動かぬ証拠を突き付けたところで徒労に終わるだろう。妄想を抱いているものの多くは、妄想がいかに不合理なことかわかっているのだ。でもそれを否定することができずにいる。
ここでは非常に珍しい10の妄想性障害を見ていこう。
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10. エロトマニア(恋愛妄想):愛されてるという妄想
エロトマニア(恋愛妄想、被愛妄想)は男性よりも女性に多い症状で、自分が相手に愛されているものだと妄想的確信を抱いている状態を示す。
その相手は大抵の場合、自分よりも社会的地位の高い人で、会ったことすらない人物だ。妄想者は、テレビやテレパシーを通じて相手が自分に愛のサインを送ってくるという。相手に愛されているというその妄想は決して揺るがないのだ。
ある若い女性は、秘密の崇拝者の子供を出産したが、精神科医によって連れ去られたと信じていた。また彼女とその崇拝者との絆は強く、米大統領をはじめとする世界中の人が知っていると思い込んでいた。
一般に、エロトマニアの患者は相手が自分を想ってくれているからという理由で、相手を想っている。しかし、熱烈に迫ることもあり、1995年に起きた有名な事例では、ロバート・ホスキンズという男がマドンナと結婚する運命にあると信じ込み、ストーカー行為や脅迫を行なった。
9. カプグラ症候群:周りの人が別人に入れ替わっているという妄想
この症状のはっきりとした原因は分からないが、脳の疾患か、あるいはメタンフェタミンの濫用、統合失調症、アルツハイマーなどの神経変性病と関連があるとされる。
カプグラ症候群の患者は、周囲の人間(通常はごく親しい近親者。ペットということもある)がそっくりな何者かによって入れ替わってしまっていると信じ込んでいる。この症状は案外珍しくなく、認知症患者の多くが影響を受けているという。
頭部の外傷が関係していることもある。ある人物は、ひどい交通事故で昏睡状態に陥ったが、目覚めてから両親が偽物だと非難し始めた。面白いことに、彼はそれ以外ではいたって健全な精神の持ち主で、その女性の料理の腕前は母親にしては上手過ぎるや、男性の運転は父親にしては上手過ぎるといったことを述べている。
この症状を持つ人の中には誰も彼もが入れ替わっていると感じる者もいる。ある39歳の患者は、家族全員はもちろんのこと、大統領、ファーストレディ、議員らも偽物だと訴えていた。後に、その患者は父親を射殺し、甥や赤の他人まで銃で怪我させた。また自分の妄想をテレビで放送するよう、銃でニュスキャスターを脅迫した患者もいた。
8. フレゴリの錯覚:他人の体に知人が入り込んでいるという妄想
カプグラ症候群とは真逆の症状で、赤の他人を自分の知り合いとみなしてしまう症状だ。しばしば、会ったばかりの人物に対して揺るぎない親近感を覚えるといった症状を呈する。
これは1日も続かないなど一過性であることもあるが、誇大妄想や陰謀論などに取り憑かれ、生活が極めて不快なものとなる傾向がある。
ベティという女性は、元恋人とその彼女が近所の人の体の中に入り、その男との関係を口外しないように企んでいると考えていた。また別の統合失調症の患者は、担当医の正体がある晩医療ミスを犯した看護師であると思い込み、医師に対して暴行を行なった。
脳損傷、特に右前頭側および左側頭周囲領域の損傷、またはパーキンソン病に対するレボドパ(L-DOPA)治療によって引き起こされると考えられている。
7. 相互変身症候群:身近な人が相互に変身してしまうという妄想
カプグラ症候群とフレゴリの錯覚にも似た妄想だが、そこに赤の他人が登場しないという点が違う。患者はよく知っている人物を別のよく知っている人物と間違える。一般には、この患者は他の精神疾患や神経変性疾患にもかかっている。
うつと偏執症を患っていたある女性は、夫が隣人に変身してしまったと思い込んだ。女性によれば、夫は隣人の顔に変わっただけでなく、電気技師だというのに停電の修理もできなくなっていた。類似パターンとして、自分自身が別の人間に変身してしまったという妄想もある。
6. 自己分身症候群:自分とそっくり同じの分身がそばにいる
どこかに自分そっくりな人間がいたらと一度くらい想像したことがあるだろう。そうした想像は大抵の場合、遠い世界のどこかに自分のそっくりさんがいると仮定するものだが、自己分身症候群の患者はすぐ隣にいると考える。
この症状を発見したギリシャの精神科医は、隣人が自分のアイデンティティを盗んでいると信じ込んだある若い女性を紹介している。
彼女によれば、隣人は服装も、建物も、顔すらもそっくりだという。こうしたドッペルゲンガーに個性を完全に奪われてしまった場合は離人症となる。
患者は分身に出会った感覚について、曖昧な親近感とそれに続く恐怖と表現する。中には分裂してしまったことがトラウマになり、どうにか一人に戻るために自殺を図るほどの衝撃を受ける者もいる。
他の症状と同様、自己分身症候群もてんかんなどの他の精神疾患を有している傾向がある。しかし、一部では、非常に危険な山岳地帯の高所に登る登山者によっても報告されている。
5. 重複記憶錯誤:慣れ親しんだ場所を別の場所の模造と信じ込む
場所のドッペルゲンガーのような症状もある。この患者は自分の家のような慣れ親しんだ場所が、別の場所の模造であると感じる。
例えば、自分が通院している精神病院がなぜだか自宅の複製だったり、反対に自宅が病院に偽装されていると思い込む。
ある女性などは、退院後に”彼ら”は家具を返してくれなかったとすら主張していた。だが、問題となってもせいぜいこの事例の程度である。ある負傷兵が野戦病院が地元の病院であるかのように感じていた事例のように、この症状が慰めとなることもある。
4. トゥルーマン・ショー妄想:常に監視されていると妄想
一部の人間は、常にカメラによって監視されてると感じている。映画『トゥルーマン・ショー』にちなんだ症例だ。
患者は、自分が隠しカメラで撮影されており、自分の運命は撮影スタッフによってコントロールされていると感じている。
作家のケビン・ホールは実際に自分がトゥルーマン・ショーに出演していると思い込んでいた。その中のある劇的な”エピソード”で、彼はトラックに鍵がついていたために、それを盗んで東京を運転した。ホールは鍵が置かれてるのを見て、ディレクターがそう仕向けるためのサインだと解釈したのだった。
別の印象的な特徴としては、あらゆる人間が関与しているという妄想が挙げられる。つまり番組の製作者やそれを家庭で視聴している無数の人々だけでなく、友人や家族、見知らぬ他人までもが参加者として演技をしていると感じられるのだ。
奇妙な話としては、実際のテレビ番組の制作現場で働いていた人物が、次第に自身が放送されているという妄想を抱くようになった事例がある。多くの患者と同じく、彼も双極性障害と診断され、特に躁病エピソードが顕著だった。
3. コタール症候群:自分はすでに死んでいると妄想
この患者の症状が重くなると、自分が死んでいると確信するようになる。そうした患者の中には自分が腐る臭いすら感じる者がいる。
最初の症例はフランスのジュール・コタールが1880年に確認した「マドモアゼルX」である。彼のノートによれば、43歳の女性が、重要な内臓がなく、自分の遺体を焼いてほしいと求めてきたという。
彼女は何も食べなくなっていたが、どうでも良さそうであった。というのも、彼女によれば、その状態で永遠に生きることが運命付けられているからだった。
コタード症候群は頭部の怪我などで生じることが多い。しかし中には、生まれた時から脳がなく、死んだまま状態で生まれたのだと患者が主張していた事例もある。また死んでいるだけでなく、自分は犬であると思いむ症状も報告されている。
・自分はもう死んでいる。自分がゾンビと思い込んでしまう奇妙な病「コタール症候群」 : カラパイア
2. むずむず症候群:体中に虫が這いまわっているという妄想
むずむず症候群は虫に感染したという妄想だ。患者には皮膚の表面や下を虫が動き回ったり、噛みついたりしているように感じられる。
ある患者は、どうにも耐えられず、マットレスや寝間着を変えたりということを行なっていた。その妄想が悪化すると、体内にも虫がおり、便や唾液の中にも虫がいるように感じられるようになる。虫を取り出すために、肉が見えるほどかきむしったり、皮を剥いだりする患者もいる。
珍しい症状ではあるが、アメリカでの発症率は1500人に1人未満で、10万人以上の患者がいるとされる。また症状は長期に渡ることがあり、治癒することなく死亡する者もいる。しばしば家の中に1、2匹の本物の虫がいるだけで発症し、妄想が悪化することがある。
困ったことに、この妄想は感染する。しばらくすると、家族まで同じ症状を感じるようになるのだ。
1. 思考吹入:自分の考えが他人によって操作されているという妄想
思考吹入は、他人の考えや声が頭の中に浮かぶのは統合失調症に関連する症状だが、標的にされた個人(Targeted Individual/TI)に関する懸念は増加している。
自分が政府に監視されていて、知らぬ間にマイクロチップが移植されており、思考が送信されてくると思い込んでいる人もいるらしい。そうした思考は攻撃的な傾向があり、例えば家族や自分自身を殺せと促してくる。
この妄想に取り付かれた人が最も煩わしいと感じるのは、そうした考えが、継続的に侵入してくる時だ。ひどくなるとマイクロチップを取り出すために、あらゆる手段を講じるようになる。
ある女性は、違法に移植されたらしいナノマシンを切除するために、指をえぐるよう医師に依頼した。彼女はやがて、スズ箔の帽子や鉛製の目だし帽を被り、電磁波から脳を守ろうとさえするようになった。
この妄想は治療が非常に難しい(あくまで妄想だとすればの話だ)。治療法は特に定まっておらず、原因があるならそれを取り除くことぐらいしかない。
患者自身が対処法を考案することもある。例えば、統合失調症患者の中には、自分の思考を取り戻すために、他人のものと思われる思考を言葉で表現することがある。もちろん、その思考が生じる頻度や性質を考えると、この方法が必ずしも理想的な解決策であるとは言い難い。
References:10 Rare Psychological Delusions - Toptenz.net/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
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2. 匿名処理班
エロトマニアで何化を期待して記事を開いたら
思っていたのと違っていたという紳士淑女は正直に挙手起立するように
3. 匿名処理班
私はむずむず足症候群だけど、妊娠を契機に発症した。
虫が這い回る感覚だけじゃなく、睡眠中に手足が勝手にバーンと跳ね上がり(不随意運動)、それで目がさめる。両足の筋肉がずっと緊張状態で落ち着かず、ひたすら寝室を歩き回って夜明けを待ってた。
葉酸と鉄分の薬を病院でもらってから落ち着いたよ。妊産婦は鉄と葉酸が欠乏しやすいらしいから、気をつけないとね。
4. 匿名処理班
>エロトマニア(恋愛妄想、被愛妄想)は男性よりも女性に多い
身近な異性相手に「あいつ俺に気があるに違いない」レベルならむしろ男性に多い気がしないでもないがどうなんだろ?それくらいなら病的とまで言わないのかな
5. 匿名処理班
下の方はわりと覚えがあるわ
6. 匿名処理班
そんなに珍しく無い件
7. ナパチャット
世の美少女はワイを好きになってる妄想群
8. 匿名処理班
お前はもう死んでいる
9. 匿名処理班
>この妄想は治療が非常に難しい(あくまで妄想だとすればの話だ)。
怖いって。
10. 匿名処理班
※4
会ったことすらない、ってのがポイントでしょ
11. 匿名処理班
ちょっと前ならノイローゼの一言で済ませていた事を、
今は内容で細かく分類する様になったって事ですかね。
12. 匿名処理班
エロトマニアってクレランボーとは違うものなのかな。
昔いたストーカー(近所のコンビニ店員)につきまとわれたんだけど、どんなにキッパリ突き放しても本人は付き合ってる前提で話をするから、たぶん願望(主観)と客観(人の都合ではアレンジ不可能な現実)の区別がまるで無いようだったよ。
13. 匿名処理班
※4
細かいところはうろ覚えだけれど結構有名な症状として、今の皇太子殿下か天皇陛下が未婚だったころ、皇居に「私が妃です、門を開けなさい」みたいなことを言ってくる女性がそれなりの数来たそうだ
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