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竹中平蔵氏は「パソナ会長」と報道すべきだ

働き方改革法案に賛成するパソナ会長

 昨日、NHKのクローズアップ現代で働き方改革法案が取り上げられました。賛成派として出演したのが、人材派遣会社パソナグループの会長である竹中平蔵氏です。ところが、番組では竹中氏の肩書は東洋大学教授と紹介されていました。視聴者が出演者の主張をきちんと判断できるようにするためにも、NHKは竹中氏がパソナの会長であることを紹介すべきだったと思います。

 ここでは弊誌2014年7月号に掲載した、評論家の佐高信氏のインタビューを紹介します。

なぜメディアは竹中平蔵をパソナ会長と報道しないのか

―― 小泉政権以降、郵政民営化・TPP・アベノミクスなど、歴代内閣は一貫して新自由主義政策を推進してきました。大手メディアもこれに賛成しています。

佐高 新聞をはじめとする大手メディアは国民の圧倒的支持率を誇る小泉政権に迎合し、郵政民営化の旗振り役になって以降、おしなべて新自由主義的になっています。これは朝日新聞から産経新聞に到るまで共通しています。そしてメディアは新自由主義に迎合した結果、ジャーナリズムや言論を失っています。現在のメディアは毒を持たない毒蛇、牙を抜かれた狼、歌を忘れたカナリアに等しい。

 もともとメディアは二面的な存在でした。一方ではメディアは政府の政策を支持し、大資本の広告を載せることで多数者・権力者の声を代弁する。他方では政府や大資本に異義を唱え、少数者・反対者の声も代弁する。

 また情報を売って金儲けをする営利組織であると同時に、損失を出してでもジャーナリズムによって「言論の自由」や「国民の知る権利」を守る非営利組織でもある。新聞社が上場せず、株式を公開しなくてもいいという特別な地位を認められているのも、そういうメディアの公共性を鑑みてのことでしょう。

 この二面性は矛盾でありジレンマです。営利と非営利、多数者と少数者、権力と反権力、金儲けとジャーナリズム、提灯記事と批判記事、この狭間で我々はどうあるべきなのか――一昔前のメディア関係者は、こういう葛藤を抱えていました。

 ところが小泉・竹中以降、大手メディアは新自由主義に舵を切ることで、この矛盾を割り切り、一面的な存在になってしまった。その結果、大手メディアは権力一辺倒・金儲け一辺倒になり、言論の力を失ったのです。

―― 権力一辺倒とはどういうことでしょうか。

佐高 権力と同じ立場に立っているということです。新自由主義は貧富の格差を広げ、国民を勝者と敗者に二分し、日本社会を二極化します。大手メディアがその新自由主義に乗っかったというのは、「我々は権力者・勝者・上層階級の側に立つ」と宣言したということです。大手メディアの社長や幹部が安倍晋三と会食を重ねて嬉しそうな顔をしている通りです。

 もともと大手メディアの社員は大銀行や総合商社、キャリア官僚を天秤にかけてきた高学歴・高収入の人間でしょう。いわゆる勝ち組だから、自由競争や弱肉強食を原理とする新自由主義と相性がいい。

 また竹中平蔵は人材派遣会社パソナグループの会長として一億円もの年収をもらいながら、政府の一員として労働規制緩和を推進しているにもかかわらず、大手メディアは竹中を「パソナ会長」ではなく「慶応大学教授」とだけ報道し、利益相反の可能性を追及することがない。

 普通は収入が多い方を本業と見なすのだから、竹中は「パソナ会長」と報道されて然るべきです。ただ大手メディアが「慶応大学教授」という肩書を紹介するのは、利益相反の可能性に意図的に触れないようにしているというよりは、慶大教授の方がパソナ会長よりも上等だという、メディア側の価値判断の結果でしょう。

 大手メディアは弱者や少数者、反対者への眼差しを失ってエリート面している。ジャーナリズムや言論の力を失ったのは当然です。……