コラム

ceroの傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』を、5人のライターが語る

ceroの傑作『POLY LIFE MULTI SOUL』を、5人のライターが語る

編集:矢島由佳子

語り継がれるであろう作品の誕生を祝して

2018年5月16日、ceroが、4thアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』をリリースした。前作『Obscure Ride』から約3年ぶりとなる本作は、5月15日付けのオリコンデイリーチャートにて1位を獲得。「日本の音楽シーンのなか」だけでなく、世界的に見ても、かなり前衛的でエクスペリメンタルな創作をやり遂げた本作が、多くのリスナーの耳と心を喜ばせている。

CINRA.NETでは、月ごとにプッシュしたいカルチャー作品・人物を「今月の顔」として取り上げているが、今月はceroをピックアップする。単純な言葉や常套句などでは決して語り尽くせない本作を、5人の音楽ライターに、それぞれの視点から綴ってもらった。「連なる生、散らばる魂」を意味する『POLY LIFE MULTI SOUL』に寄せて、言葉を連ねる。

cero『POLY LIFE MULTI SOUL』
cero『POLY LIFE MULTI SOUL』(Amazonで見る

「海外の重要な動きともリンクしている」テキスト:宇野維正

ミュージシャンの口から「海外の音楽シーンとか最近あまり追ってなくて」みたいな言い回しを耳にすると、ちょっとがっかりする。「追ってないこと」についてではなく、「追うもの」という意識を持っていることに対してだ。今このタイミングで世に出ている音楽は、誰かが数か月前にマスタリングを終えた音楽で(最近のラップでは配信解禁の数日前みたいなことも多いけれど)、それを追って、咀嚼して、血肉化して、録音して、マスタリングする間に世界はもう何周も回っている。

前作『Obscure Ride』と今作『POLY LIFE MULTI SOUL』の最も大きな違いは、その「追うもの」という意識から完全に脱却しているところ。特に耳を捕らえるのは、複数の打楽器、複数の鍵盤楽器、男女混声コーラスからなる、ポリリズムとポリフォニーが高度に融合したアフロ的なテイストだ。“魚の骨 鳥の羽根”“レテの子”“Waters”“Poly Life Multi Soul”あたりは、ドレイクがブラック・コーヒーを援用し、ケンドリック・ラマーがベイブス・ウドゥモを招集し、チャイルディッシュ・ガンビーノがルドウィグ・ゴランソンと今まさに模索している、最新型のアフロ解釈とも呼応しながら、むしろ音楽的な実験性や洗練度においてはリードさえしている。もちろん、アフリカンミュージックはポップミュージック史において繰り返し浮上してきたキーワードだし、本作の制作過程においても膨大な過去の参照元はあったのだろうが、同じ時代の空気を呼吸し、吐き出したものが、自然に海外の重要な動きともリンクしていることに興奮を覚えずにはいられない。

「『生』を見つめ直す機会を与えてくれる」テキスト:小田部仁

充実した状態のバンドが、マスターピースとなるような作品を残すとは限らない。朽ちてゆく肉体と創造性が見事に合致する、その瞬間を「芸術」として捉えるのは音楽に限らず至難の技で。だからこそ、本作のような作品がポピュラーミュージックの歴史に残る傑作として語り継がれるべき理由があるのだと思う。ceroは、最高の状態で最高の作品を創ることを成し遂げた。

『POLY LIFE MULTI SOUL』はタイトルに冠するように、宇宙に瞬く無数の星のごとく煌めく「命」そのものを記録した作品だ。「水」「川」「光」というような古来から生と死を司るモチーフを巧みに用いながら、ceroは我々がここに存在する(あるいはしない)不思議を検分する。

本作でも引用されているレイモンド・カーヴァーの作品をかつて村上春樹は「あるひとつの状況にひっそりとして目立たない変化が起こる。しかし本質的なレベルでは何も変化しない。ストーリーはそこでカット・オフされて終わる」と、評した(『夜になると鮭は…』中央公論社 / レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳にて)。『POLY LIFE MULTI SOUL』に置き換えていえば、生と死は不可逆であるという真理を知りながらも、「命」というものの多層性、多様性にふとした瞬間に気づいてしまったとき、世界はあまりにも違って見えるーーしかし、ぼくらの「生」は「死」に向かって歩みを止めることはない。カーヴァーの作品にも共通するように、問題はその「気づき」の後をどう生きるかなのだ。

改めて、この作品の誕生を讃えたい。素晴らしいバンドが充実した状態で最高の作品=命の証を残したということ、そして、この作品が聴く人の「生」を見つめ直す機会を与えてくれることを。『POLY LIFE MULTI SOUL』は、間違いなくceroの最高傑作であり、ぼくらの人生に訪れたひとつの福音だ。

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リリース情報

cero『POLY LIFE MULTI SOUL』初回限定盤A
cero
『POLY LIFE MULTI SOUL』初回限定盤A(CD+DVD)

2018年5月16日(水)発売
価格:3,400円(税込)
DDCK-9008

[CD]
1. Modern Steps
2. 魚の骨 鳥の羽根
3. ベッテン・フォールズ
4. 薄闇の花
5. 溯行
6. 夜になると鮭は
7. Buzzle Bee Ride
8. Double Exposure
9. レテの子
10. Waters
11. TWNKL
12. Poly Life Multi Soul
[DVD]
『LIVE DVD「CROSSING」』
1.(I found it)Back Beard:Live at STUDIO COAST
2. Yellow Magus(Obscure): Live at STUDIO COAST
3. Roji:Live at STUDIO COAST
4. ロープウェー:Live at STUDIO COAST
5. わたしのすがた:Live at STUDIO COAST
6. FALLIN':Live at STUDIO COAST
7. Orphans:Live at 日比谷野外大音楽堂
8. Summer Soul:Live at 日比谷野外大音楽堂
9. Wayang Park Banquet:Live at 日比谷野外大音楽堂
10. Elephant Ghost:Live at 日比谷野外大音楽堂
11. 我が名はスカラベ:Live at 日比谷野外大音楽堂
12. Narcolepsy Driver:Live at 日比谷野外大音楽堂
13. 街の報せ:Live at 日比谷野外大音楽堂
『Extra Session』
1. Waters
2. 魚の骨 鳥の羽根

cero『POLY LIFE MULTI SOUL』初回限定盤B
cero
『POLY LIFE MULTI SOUL』初回限定盤B(2CD)

2018年5月16日(水)発売
価格:3,400円(税込)
DDCK-9009

[CD]
1. Modern Steps
2. 魚の骨 鳥の羽根
3. ベッテン・フォールズ
4. 薄闇の花
5. 溯行
6. 夜になると鮭は
7. Buzzle Bee Ride
8. Double Exposure
9. レテの子
10. Waters
11. TWNKL
12. Poly Life Multi Soul
[CD2]
『POLY LIFE MULTI SOUL(Instrumental)』
1. Modern Steps(Instrumental)
2. 魚の骨 鳥の羽根(Instrumental)
3. ベッテン・フォールズ(Instrumental)
4. 薄闇の花(Instrumental)
5. 溯行(Instrumental)
6. 夜になると鮭は(Instrumental)
7. Buzzle Bee Ride(Instrumental)
8. Double Exposure(Instrumental)
9. レテの子(Instrumental)
10. Waters(Instrumental)
11. TWNKL(Instrumental)
12. Poly Life Multi Soul(Instrumental)

cero『POLY LIFE MULTI SOUL』通常盤
cero
『POLY LIFE MULTI SOUL』通常盤(CD)

2018年5月16日(水)発売
価格:2,900円(税込)
DDCK-1055

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イベント情報

『POLY LIFE MULTI SOUL』

2018年5月25日(金)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO

2018年5月27日(日)
会場:福岡県 BEAT STATION

2018年5月28日(月)
会場:長崎県 DRUM Be-7

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プロフィール

cero"
cero(せろ)

2004年結成。メンバーは高城晶平、荒内佑、橋本翼の3人。様々な感情、情景を広く「エキゾチカ」と捉え、ポップミュージックへと昇華させる。これまで3枚のアルバムと3枚のシングル、DVDを2枚リリース。前作である『Obscure Ride』はオリコンウィークリーで8位を記録。2015年を代表する1枚として大絶賛を受けた。2016年、2017年と日比谷野音にて2年連続でワンマンを開催。野外フェスにも出演を重ねている。さらには解散間際のSMAPと共演も含め、まさにジャンルレスに活動の幅を広げ、クレイジーケンバンドや岡村靖幸氏など多くのアーティストからも賞賛を得ている。小沢健二氏はCS系番組『love music』の中で「自分がポップスを再びやり始めたのはceroがいたから」とコメントしている。2016年末に開催した『Modern step tour』より従来のサポートメンバーである光永渉、厚海義朗に加えて古川麦、小田朋美、角銅真実の3人が参加。今作は彼ら彼女らと共に溢れ出る才能と高い演奏技術をとことん爆発させた作品を作り上げており、期待を大きく超えるアルバムとなっている。常にその動向に注目が集まる音楽的快楽とストーリーテリングの巧みさを併せ持った、東京のバンドである。

関連チケット情報

2018年5月31日(木)〜6月14日(木)
cero
会場:磔磔(京都府)
2018年6月4日(月)〜6月5日(火)
cero
会場:仙台Rensa(宮城県)
2018年6月7日(木)〜6月8日(金)
cero
会場:ペニーレーン24(北海道)
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