ブラック企業の新卒採用支援でカネ儲けを続ける小林大三リクルートキャリア代表取締役社長(同社サイトより)
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政府が昨年3月より、労基法違反を繰り返した“ブラック企業”の求人掲載をハローワークで拒否する規制をかけた結果、締め出されたブラック企業たちは民間を頼らざるをえず、なかでもシェアトップの『リクナビ』が労せず儲かる構図となっている。企業が支払うリクナビ掲載料は最低でも90万円~で、就活イベントへの参加やSPI試験代行、面接官・リクルーターのトレーニング、パンフ制作に研修提供なども含めると、「不人気企業では、新卒の学生1人を採用するため300万円支払うケースもある」(リクナビ営業)。だが「黒でなければやる」企業体質を持つ同社は
厚労省が書類送検した悪質334社をはじめブラック企業の採用広告掲載を続行。バブル期並みの人手不足のなか、カネの力で綺麗にラッピングしてくる「ブラック企業&リクナビマイナビ複合体」に騙されないよう、学生は最大限の注意が必要だ。
【Digest】
◇リクナビを利用した結果、無職に
◇ハローワークは「是正勧告2回で不受理」を義務化
◇「ブラック企業とは取引しない」というルールがない
◇ファクトなしの“虚偽答弁”ばかり
◇リクナビを利用した結果、無職に
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就活生が受けた「甚だしいセクハラ」について鹿児島大が発した注意喚起情報 |
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「スタンダード社には、一括エントリーという機能を利用して『リクナビ』から応募したのが、最初の入口でした。もっと『2ちゃんねる』など他のネット情報をチェックしておくべきでした。知っていたらもちろん、応募していません」――。
内定を得たものの、11月の内定者面談で人事権を持つ専務から「殺すぞ」「ふざけんな貴様」など数々の暴言を吐かれ、無職になってしまった九州大学卒のA君は、無警戒にリクナビを信用してこの会社に応募したことを後悔している。
同社をめぐっては、内定が決まったあとになって、前年の就活においても、鹿児島大の学生がセクハラ被害にあって2名の内定辞退者が出ていたことを知った。
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スタンダード社の求人広告で儲けるリクルートキャリア。吉田知明社長の写真付きでPR。これらはすべて、企業がリクナビに広告費を支払って作成されたものであることを忘れてはならない |
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これ以上、就活をめぐって同じ被害に遭う人を減らしたいとの思いから、リクナビに報告しようと考えたが、専用の窓口は見当たらなかった。やむなくリクルートキャリア本社の代表電話にかけたら、リクナビなのに、なぜか「リクナビネクストホットライン」が窓口だと教えられ、自分が遭った被害について、証拠の音源つきで報告した。
すると、ほどなくして一時的に掲載が停止されることになったものの(取材に対し同社は「総合的に勘案して掲載していない」と2017年5月10日時点では答えている)、停止したのは約3か月間だけで、現在は掲載が再開されている(右記参照)。
これは『マイナビ』の対応も同様で、自身の体験を報告した後、いったんは掲載を止めたものの、数週間後には掲載が再開された。ナビサイトにとっては、ユーザーである学生を被害に遭わせようが、お客さんは採用広告を出してくれる企業のほうであり、カネ儲けできればよいのである。そして今年も来年もまた、被害は続く、という構図だ。
これを学生側の自己責任とするのは酷だろう。正社員として働いた経験がない大学生が、巨大資本の力で、全力でラッピングしてホワイトに見せてくる企業を見抜くのは容易ではない。
◇ハローワークは「是正勧告2回で不受理」を義務化
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既にブラック企業の求人は、ハローワークからは締め出されている |
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ブラック企業が社会問題化したため、厚労省は対策として、“前科”のある会社について、ハローワークでの新卒求人を受け付けなくなった。これは2016年3月1日から実施済みだ(左記画像参照)。
労基署から是正勧告を2回受けた企業については、是正が完了してからさらに6か月の期間は、募集を受け付けない。送検され公表された悪質企業については、送検から1年間、受け付けない。もちろん電通を含む悪質334社(数字は5月公表分、随時更新)については不受理だ。
ブラック企業は離職率が高い点に特徴があるため、大量採用、大量離職となる。したがって、常にハローワークやリクナビ・マイナビに求人を出し続けなければ経営を維持できない。昨年3月にハローワークから締め出されたことで、リクナビ・マイナビに大金を払って学生をかき集めざるをえないのが実態だ。リクナビ・マイナビにとって、ブラック企業は超優良顧客である。
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リクナビの掲載料金(東京、神奈川、千葉、埼玉) |
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厚労省(若年者雇用対策室・オオツボ氏、および需給調整課)によると、こうした民間業者(つまりリクナビやマイナビ)にもハローワークに準じた扱いをするよう要請はしているものの、これはお願いベースに過ぎず、法的な強制力がないため、掲載拒否は実現していない。そこで今年3月の職業安定法改正案で、3年以内に民間業者でも不受理にさせる方向の改正を行ったが、法令の具体的な内容は、これから詰める段階だという。
つまり、このブラック企業の求人で稼ぐビジネスは、現状、法律が追い付いていないだけで、本質的には完全にブラックな領域、ということだ。リクルートグループが、こういったグレーなビジネスを行う点については、リクルート事件の反省のなさがはっきりと表れている。法の趣旨としては完全にアウトな領域だが、とにかく儲かるから、被害者が2年連続で出ている企業であろうが、やめられないのである。
リクナビの営業現場としては、上層部から担当企業と売上の目標数値を課されるため、ブラック企業の疑いがあろうが、広告営業をやり切るしかない構図だ。やらなければボーナスを減らされてしまう。本社が社内ルールを作らない限り解決しようがない。
◇「ブラック企業とは取引しない」というルールがない
この点、リクルート側に取材すると、およそ良心のかけらもない答えに驚いた。同社のコンプライアンス意識が、一般の感覚からかけ離れていることがよくわかる。
スタンダードの恫喝事件を踏まえて、いわゆるブラック企業については、基本情報のみにするか、非掲載にするなどの自主的なルールがないのかを尋ねたが、結論としては、リクナビの営業担当者の証言(「存在しない」)が裏付けられた格好だ。
――前年に鹿児島大で就職課が2名のセクハラ被害者を発表しているのに、どうして掲載を続け、今度は九州大卒の被害者を出してしまったのか。掲載拒否するルールはないのか。
「どのメディアさんにもあると思いますが、業界団体で決めた広告掲載ルールに基づいて、掲載しています」(社外広報グループ・福田亮子氏、以下同)
――それはわかっている。暴力団フロント企業やマルチ商法など、従来から明確に決められているものではなくて、労基法違反などのブラック企業対策として、上乗せの自主規制はしていないのか、ということです。リクナビ営業の人は、ブラックだとわかっても社内ルールがないので、現場ではどうすることもできない、と。ブラック企業とは取引しない、という社内ルールはないのか?
「社内で、自主規制のルールはあります」
――現場のリクナビ営業は「ない」と明言している。運用されてないものはないのと同じなので、あるというのが事実なら、年間、何社くらい止めているのか教えて。
「それは、公表できません」
――具体的な事例を1つでもよいので説明してください。企業名は匿名でもいいです。
「それも、公表していません」
――公表できない理由を説明してください。リクナビの営業担当者は明確に、存在しない、知らない、聞いたことがない、と言っています。
「理由は…、ありません」
――では、どういう名前のルールなのか、その自主ルールのタイトルを教えてください。存在していれば言えるはずです。文書名でも、社内で呼ばれている通称でもいいです。
「そのようなものは、わかりません。公表していません」
――存在していれば何らかの説明ができるはずだし、開示できない理由も見当たりません。ないものをあると言い張っているようにしか聞こえないのですが。少なくとも現場で運用されてないのは間違いないんです。リクナビがブラック企業の入口になっているのは今回の事例(※スタンダード)からも事実なんだから、上場企業として社会的責任を考えたらどうですか。
(延々と同じ答えで進展せず)
◇ファクトなしの“虚偽答弁”ばかり
なぜか「ある」とだけ虚勢を張るのだが、1つも現場の証言を覆すファクトを示せないため、聞けば聞くほど、現場営業担当の「いっさいない、いわゆるブラックを理由に非掲載になった例など聞いたこともない」という証言のほうが正しく、広報が嘘をついていることが伝わってきてしまうのだ。
こういうとき、企業は本来、どういう対応をすべきなのか。
民間が国の法律で規制されていないなかで、ウチだけがやめてもマイナビは続けますし、民間は競争もあるのでやむをえない面があり、ご理解いただきたい、これは業界全体で検討すべき課題だ、社会問題として認識はしているが、対応が追いついていない面もある、被害者も出ているので、労働局とも連絡をとって協議し、若年者雇用の一翼を担う企業として適切な対策をとれるよう調整していきたい――。
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これが一般的な、シェアトップのリーダーらしい上場企業の対応だろう。そうすれば、記事の内容も全く変わってくる。延々とファクトゼロの“虚偽答弁”で逃げ続ける姿勢は、リクルート事件を起こしたカルチャーそのものにしか見えない。上場したところで、企業体質というのは変わらないものである。
厚労省は従前、内定を取り消した問題企業名の情報開示を拒み、労基署が過労死認定をした企業名の開示を拒み、過労死発生の36協定届も企業名をスミ塗りし、1000万円以上の残業代が不払いだった悪質企業名すらもスミ塗りするなど、徹底的にブラック企業をかくまう姿勢を明確にしてきた。
ところが昨年、電通の過労死事件が再発したことが明らかとなり、社会問題化がいっそう深刻となって、やっと今年5月、悪質な334社について企業名を開示し、情報を毎月更新する姿勢に転じた。これまでウォッチしてきた我々としては、「あの、企業の味方である厚労省までが開示したほどに悪質な真っ黒な会社」という印象で、その下には、送検にまでは至らず企業名の開示がない「普通のブラック企業」がたくさんいるわけだ。
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マイナビが掲載を続ける個別指導塾スタンダードの新卒募集広告。こうしたナビサイトはまるごと広告に過ぎないのだが、「広告」表記がないため一見、中立な情報と勘違いしてしまう。 |
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その真っ黒な334社についても、普通にリクナビへの掲載は続行され、現在もなお、被害を生み出す最大の入口となっている。具体的な掲載企業名(A~D社)をあげてリクナビの営業担当に聞くと、「スタンダード社やA社、B社、C社、D社などは、すべて代理店が取引している企業のようです」とのことだった。
リクナビは、すべてを直営でリクルートキャリア社員が営業しているわけではなく、代理店にも営業を代行させている。代理店になると.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
