労組のない会社にまともな会社なし。
ソフトバンクを辞めた後、職場を転々としていた頃、
テンプスタッフに登録した。
そこで熱烈に勧誘を受けた案件が、「リクルート社」の仕事だった。
仕事内容は、SUUMOという住宅情報誌の部門の
住宅斡旋のための接客業(紹介予定派遣、3ヶ月派遣後、契約社員)だった。
風通しは良い感じがした。若い社員ばかりで明るい雰囲気ではあった。
しかし、自己啓発的な文句で、とにかくパーティー、飲み会、
「キラキラ女子」のように振舞うことが良しとされている会社で面食らう部分も多くあった。
契約社員のスタートは19万5千円ぐらいだったと思う。
東京で一人暮らしをするには覚束ない金額だ。
正社員の人達は、若手の女性であれば容姿端麗、有名私大を出た人が中心。
中堅の女性であればハードマネジメントをくぐり抜けて、結婚もせず仕事というようなキャリアウーマン風の人が多かった。
その下でほぼ全員女性の契約社員が数字を積み上げていく。
ソフトバンクのように男社会ではなく、
リベラル、女所帯で「友達」関係みたいな職場だった。
しかし、反面未熟な組織で、洒落にならない人間関係トラブルも頻発していた。
私も仕事上困ることが多かった。
お客様から法的な部分でのサポートを依頼されても答えられないし、
顧客はブラック不動産業。数字しか見ていない。
数字しか見ていないからお客様を専門的にバックアップ出来る体制にない。提携先もない。
契約社員がバイト感覚で関わって住宅情報を斡旋していることを苦しく思った。
上司は何もしてくれない。専門知識を持った人間が会社にいないというのは
本当に頼りないことなのだと思った。
ルッキズムや年齢差別も凄く、所詮労働組合のない会社、一生勤める会社じゃないからと
仕事の「専門学校」みたいなところだと思えば良いのかもしれないが、
どんな退職理由をも「卒業」だと演出し
マイナスの退職理由にも、臭い物には蓋をしろという具合に向き合おうとしない社風に、ぞっとした。
48歳の女性の先輩が、男の若い上司に扱い辛いと排除され、
辞めるように持って行かれていたことに私は泣いた。
その男上司が、気の合う女の部下と一緒になって誰かの悪口を言っている。
ソフトバンクと同じで、自分と「同化」したものだけ褒めるという構図になっていた。
ソフトバンクの先輩と内勤が、誰かを排除することによって団結していたのと同じような
ものを感じて我慢がならなくなった。
事務所で、上司に対して力いっぱい抗議したことがある。ほぼ怒鳴っていたと思う。周りはその時何も言ってくれなかった。
でも、後からみんなに「言ってくれてありがとう」「いつも嫌な思いをしていたから」と裏で言われて、
日本人はそんなもんだと絶望した。
その上司は自分が採用した女性だけを露骨に贔屓しだした。
私もその一件以降排除され出した。
上司は「出来ない子の方が可愛い」と言っていた。
ソフトバンクのような軍隊組織も嫌だが、けじめのない職場も嫌だった。
社員をちゃん付けで呼んだり、私も変なあだ名をつけられたり、
朝の朝礼から、くだけた話しが飛び交うのはどうなのかと思ったりもした。
そんな社風に慣れようとしている後輩にイライラして、
不機嫌になって、「ちょっと今忙しいから後にして!」ときつく言ってしまったことがある。
それをその女性は上司に泣いて訴えた。それに関しては本当に今でも申し訳なく思っている。
私はその時、上司と排除を巡る攻防戦を続けているようなものだった。
私ははっきりと彼を憎んでいた。
確かに職人肌で気難しいところはあったけれど、専門知識を持った職務経験豊富な女性を
扱い辛いというだけで辞めさせた。もう一人の30代後半の女性も辞めさせた。
私は彼にカウンター攻撃をしていた。彼は、泣きつかれた女性の言葉を使って
「お前も人にきついだろ」という具合に、自分の悪政を認めようとはしなかった。
リクルートもソフトバンクと同じで、何か不満を言うと、他責と見做し、懲罰に走る会社だった。
私は生産性が下がるから、その上司と離して欲しかったのに、
私とその上司だけが一緒に残され、あとが全部異動して行った。
意味が分からない。
会社は年齢が思い切り若いか、いい歳をしていても
キャバ嬢のように、自分を持ち上げてくれる部下を露骨に可愛がった。
会社がそういう会社だった。
未熟な若い女性が「あのおばさん怖い」みたいに年上の女性を嫌って排除しようとしていた、
それを良しとする会社だった。
ソフトバンクの時のパワハラ的なベテラン女性とも違う、
ただ職人肌で仕事に一生懸命、ちょっと融通が利かないというだけで
パワハラなんて全くしないような人を年齢が上だというだけで、そうやって排除する。
ソフトバンクの内勤さんには、上司に嫌われないために年齢関係なくキャバ嬢と化して
上司を持ち上げている人がいたが、リクルートの上司もそういう部下を好んでいた。
社内を見渡せば、不倫がどうのこうのなど、良い話など聞かなかった。
私は遠くの部署の人と仲良くなるのが得意な運勢なのかもしれない。
よく一緒に飲み歩いて部屋に泊めてもらっていた女性は、本当に面白い人だった。
外国人の男性とデートをした時に、ホテルの部屋で「日本人の女がどうのこうの」という話になり、口論となったそうだ。
身の危険を感じて、命からがらホテルから逃げ出したというエピソードを面白おかしく話してくれて、
私も笑って聞いていたが、今思うととんでもない話である。
ブラックフェイス云々も問題になっているが、
私もダウンタウンに昔は笑っていた。今は笑えない。
もう一人仲が良かったという女性が未婚のまま出産したということがあった。
好きな男性の子供を妊娠したら、相手には別の相手がいて、結婚も認知も拒んできた。
その話し合いに同行して、喫茶店の外から見守っていたこともある。
彼女は長年非正規で勤めてきて、上司の引き上げがあって正社員になれたばかりだった。
実家も都心で経済的に不安はなかった。
女性の生き方についてこれほど考えさせられた経験はない。
正社員の下ではべらされて、チャラチャラと働いていくことに抵抗して辞めていく人はいっぱいいた。
正社員は良い、なんだかんだ同じ時間働いても2倍以上の給与を貰っているのだから、
起業するための蓄財だって出来る。
でも非正規はそれは出来ない。
子供も一人じゃ産めない。仕事が楽しければ楽しいほど空しかった。
ソフトバンクのパワハラから抜け出しても、年齢の壁、ルッキズム。
今となっては他人の人権意識のなさにうんざりしているけど、昔の自分だって人権意識が高かったとは言い切れない。
はあちゅう氏がセクハラを告発したことにより、逆にはあちゅう氏の過去の発言がバッシングにあっていたけれど、
そういうことは往々にしてあるだろうなと思った。私には分かる。人間とはそんなものだからだ。
とりわけ学生時代に新自由主義やらベンチャーやらに
影響を受けて、電通やリクルートみたいな会社の人脈で生きていたら。
だからといって告発が嘘だと言われたり、無かったことにされてしまう世の中は絶対に嫌だ。
どんなに酷い人間だとしても、不当な目に遭ったらちゃんと聞いてもらえる世の中が良い。
はあちゅう氏は、ネットで仕事をしているだけあって、
流れを読むのが上手だなと思った。でも、それは狙ったわけではないだろうと思う。
最近友人にも言われたが、ある意味風は、同時多発的に起きるものだと思う、
時代の空気とはそういうものだと。
私がソフトバンクと本気で向き合おうとしている今、ソフトバンクモバイル部門の上場のニュースが流れ込んできたりする。
ソフトバンクやリクルートという不安定な組織で働いて、コンプライアンス意識を身に着けることなど出来ていなかったと思う。
私は最終的に、肌感覚でこれはダメだと逃げただけに過ぎない。その当時は、論理的、法的にはっきりとカウンターを出来ていたわけじゃない。
30過ぎてから自分で大分勉強し直してきた。
自分自身、これじゃいけないと強く思ったからだし、もうああいった若さ任せ、力に任せただけの
働き方は二度としたくないと思ったからだ。
何が評価基準なのか曖昧な会社は、プライベートの切り売り、いかに素敵な配偶者を獲得するか、などを会社の人間に自慢するぐらいしかスポットライトを浴びるきっかけがないから、上司の結婚自慢、子供自慢は本当にきつかった。薄給でもお金を出し合いプレゼント。
人の出入りが激しい大企業、その度に餞別にお金がかかる。私は辞める時、一切を辞退した。もうキリがないからだ。
労組があるからと言って良い会社とは限らないが、その逆は絶対に存在しないと言いたい。
その会社の「良さ」とは何なのか。人それぞれ感じることは違うと思うが、
少なくとも人材使い捨て企業は成熟することはない。熟練はない。
その社員の若さでもって力任せに働くことで保っている企業だということ。
ずっと居たくても居られる会社ではない。
そういう会社が間違ってるとは言い切れないが、もう私には必要ない。
目立たなくても技能を大切にして熟練で人を助けられる人間になりたいから、もうソフトバンクやリクルートのような
会社では働きたくないし、サービスも受けたいとは思わない。
組織や制度で歯止めをかけられない企業というのは、
己の、社員一人一人の自制心の集まりによって歯止めをかけていかなくてはならないので、
自己責任論が横行し、一人一人に強烈な負荷がかかるものだ。
リクルートは面白おかしく自己啓発、ソフトバンクはカリスマ社長を崇めて上に絶対服従、
そうして秩序を保っているだけに過ぎないということ。
確かに特殊な世界だけれど、日本経済に与えているインパクトは
プラスも多いが、マイナスとなった時に怖いものだ。
今は、リクルートOBOGやその仲間達が、人間をマッチングビジネスの商材として扱うようにならなければ良いなと思っている。
人材派遣もとっくに人身売買的色を帯びているが、
ベビーシッターサービスがお金に換算できるギリギリ許容出来る範囲だろう。
それ以上をビジネス化したら人間は終わると思います。