老後の三大不安といわれる「健康」「お金」「孤独」のうち、最も深刻なのが「孤独」です。健康とお金は現役時代でもイメージしやすく、ある程度備えることができます。ところが、孤独は定年退職しないと実感できませんので、これに備える人は少ないのです。
最近は雑誌の記事やテレビの特集で「切れやすい老人」とか「暴走老人」などのタイトルが目に付きます。高齢者の傍若無人な振る舞いが問題となっているわけです。人身事故などによる列車の遅延で、駅のホームで駅員さんに食ってかかっているのは若い人よりも年配者が多いように思えます。
■ほぼ一貫して増え続ける高齢者の犯罪
実際、2017年版「犯罪白書」を見ると、犯罪全体の件数は減少傾向にあるものの、65歳以上の高齢者の犯罪はほぼ一貫して増え続けています。高齢者の犯罪検挙者数は約4万7000人で1997年に比べると約3.7倍です。中でも大きく増えているのは「傷害・暴行犯」で、こちらは97年に比べ約17.4倍に増えているのです。高齢者自体が増えているのは確かですが、それにしてもこれだけの増加はちょっと異常です。
理由は一つではないでしょうが、私が考える一番の理由はやはり孤独な老人が増えてきていることです。周囲とうまくコミュニケーションが取れず、やけになって暴走してしまうパターンです。つまり、孤独は暴走老人の予備軍というわけです。
昔は多くの人が大家族で暮らしていました。おばあちゃんがご飯を作ったり、おじいちゃんが孫の面倒を見たりといったように家族の中でお年寄りの役割がちゃんとあったのです。人間は極めて社会的な動物ですから、家族という小さな社会であっても、自分以外の人間とともに暮らすことで、我慢すべきところは多かれ少なかれ出てきます。何より孫などとのコミュニケーションは生きがいを感じさせたでしょう。
■現役時代から社外に友人や知人を持つ
核家族化の進んでしまった今、もう元の大家族に戻るということは不可能ですが、それでも孤独に陥らないようにする方法はあります。特に会社員は定年後は孤独になりがちです。そうならないよう、現役時代から社内の人間とだけ付き合うのではなく、できるだけ会社の外に多くの知人や友人を持つことを心がけましょう。
脳は毎日同じパターンの行動を繰り返していると劣化していくといわれています。会社でルーティンの仕事をし、同じ人たちと付き合うだけでなく、できるだけ新しい人と知り合い、異なる活動に取り組んでいくことが大切です。これによって、会社を辞めても新たな自分の居場所を持つことができると同時に常に人とのコミュニケーションを保つことができます。結果として脳の活性化を維持することができるはずです。
もともと人間は加齢とともに感情をコントロールしにくくなるようです。老年精神医学を専門とする精神科医の和田秀樹氏によれば、年を取ると脳の中でもまず先に前頭葉の機能が低下することが多いといいます。前頭葉が委縮していくと、感情抑制機能の低下や性格の先鋭化といった傾向が強く出るそうです。
■意識的に努力して精神面の健康を保つ
性格の先鋭化というのは、それまで理性で抑えることができていたその人の性格の特徴が大きく表に出てくるということです。こうした前頭葉の機能低下は生物学的に起きる現象ですから、昔からあったはずですが、大家族という環境が前頭葉の萎縮やそれに伴う感情の変化をある程度防いでいたのではないでしょうか。現代においては意識的に努力することによって精神面の健康を保たなければなりません。
私は会社を定年で辞めて6年経ちますが、今では会社時代の知人はごく数人しかいません。定年後に付き合うようになった人たちの方が圧倒的に多くなってきています。定年は人生の一つの区切りに過ぎません。
以前も述べましたが、表面的に多くの人と付き合っていても心の中では充実感がなかったり、信頼できる相手がいなかったりすればそれは孤独といえます。逆に独りで過ごす時間が多くても、心を許せる友人や家族がいれば孤独に陥っているわけではないでしょう。新しい友人を増やしていく上では「数」ではなく、「質」が大切です。それこそが老後の孤独を防ぐ有効な手立てといえるでしょう。
大江英樹 野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年男子 定年女子 45歳から始める『金持ち老後』入門!」(共著、日経BP)など。http://www.officelibertas.co.jp/ 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。