ビジネスパーソンである以上、仕事のために本を読まなければならないというケースは少なくないはず。その一方、プライベートで読書習慣をつけたいと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
ところが残念なことに、読んだはしから忘れてしまうというのはよくあること。その結果、モチベーションが下がり、読書がだんだんつらいものになっていくということも考えられるわけです。それどころか、「覚えられない悩み」を誰にも相談できす、ひとりで抱え込んでしまうということも十分にありえるでしょう。
そこで手前味噌ながら、きょうは僕の新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(印南敦史著、星海社新書)をご紹介させていただきたいと思います。
僕はこの「ライフハッカー [日本版]」をはじめ、複数の媒体で書評を書き続けています。つまり、日常的に本を読んでいるわけですが、そのような立場であっても、すべてを記憶できるわけではありません。あたり前の話ですが、やはり忘れるものは忘れてしまうのです。
たしかに、矛盾していると思われるかもしれません。しかし、実際のところ読書家であろうとも、その大半は「速く読めない」「覚えられない」「忘れてしまう」などの悩みと日々格闘しているものなのです。 ちなみに(僕を含め)そういう人の多くは、「自分だけが劣っている」と思いがちです。読んでも読んでも忘れてしまうものだから、つい自分を卑下してしまうわけです。 でも、そんなことはありません。それが普通なのです。 (「はじめに」より)
大切なのは、「読んでも忘れる」ことを受け入れること。「忘れるからダメだ」と自分を追い詰めるのではなく、「忘れるから、忘れないようになるためにはどうしたらいいのだろう?」と前向きに捉えるべきだということです。このことのついては、かねてから僕が強調している考え方があります。
「読んでも忘れる」ということは、「読んでも忘れないようになる可能性がある」ということ。
禅問答のようだと思われるかもしれませんが、しかし、これはとても重要です。「読んでも忘れる! だから自分はだめなんだ……」と考えていたのでは出口が見つかるはずもありませんが、このように考えることができれば、読書を前向きに捉えることが可能になり、「では、どうすべきか」が少しずつ見えてくるものだからです。
もちろん、そう思えたからといって、明日からすべてが好転するなどというようなことはありえません。しかし、「忘れないようになる可能性がある」ということを念頭に置き、毎日一歩一歩読書を重ねて行けば、いつの間にか少しずつ、覚えられるようになっていくということ。
1%のかけらを残す
そして、もうひとつ大切なことがあります。
人は本を読むとき「完璧に記憶しなければならない」というような義務感を持ってしまいがちです。だから、「完璧に記憶できない」自分に苛立ちを感じてしまうわけです。しかし、そもそも完璧に記憶することなど不可能なことです。それに、仮に記憶できたとしても、記憶することが目的化してしまったのだとすれば、それはあまり意味がありません。
大切なのは、その本を読んだことによって「自分の内部になにか残ったか」ということ。(中略)「読んだ内容のすべてを記憶しよう」ではなく、「少しでもいいから、自分にとって有意義なことだけを吸収できればいいや」と考えるべきなのです。 そして、そんな読み方について語るとき、僕がよく強調するのが「1%のかけら」を見つけることの重要性です。(94ページより)
数学の公式を暗記するように、機械的に100%を記憶できたとしても、そこから感銘や共感を得ることは難しいはず。「記憶すること」が目的化しているので、記憶すること以外の意義はなかったことになるわけです。
無理して100%を記憶するよりも大切なのは、「1%のかけら」を残すこと。つまりそのかけらとは、“心に残ったなにか”のことです。たとえば情景だったり、比喩表現だったり、主人公や脇役のちょっとしたセリフだったり、自分にとってのキーワードとなりうる単語だったり。
それは、その本のなかの数ページ、あるいはほんの数行、何文字かかもしれません。しかしそんな小さなかけらが、強烈な記憶として残ることが大いにありうるのです。そして、機械的に100%を記憶するよりも、圧倒的な存在感を持つ1%をつかみ取ることのほうがずっと重要なのです。
だからこそ、自分にとって有効なそうしたかけらを見つけ出せたなら、それだけでその読書は成功したということになるはずです。なぜなら、もしもそのかけらが自分にとって大切なものであるなら、その1%は100%と変わらない価値を持つことになるから。
そして、1%のかけらを見つけ出すこと、そのことも含めて「覚えられる読書」を実践するために大切なものとして、僕は「アクション」の重要性を説いています。日常の自分自身の動きを読書と連動させられれば、それは無理なく覚えられることにつながっていくということ。そこで、次にそのことをご説明しましょう。
シチュエーション記憶法
もし「1%のかけら」を見つけ出したり、あるいは「忘れない読書」を習慣化したいのであれば、とても大切で、そして効果的な手段が「シチュエーションを使いこなす」ことです。簡単にいえば、「いろんなところで読書してみよう」という、とてもシンプルな考え方。バカバカしいと思われるかもしれませんが、本の内容を覚えたいなら、それは意外なほど有効な手段となるのです。
たとえば自室だけでなく、電車のなか、休憩時間のオフィスなど、読書できる場所は意外に多いもの。また、仕事前、仕事の帰り、休みの日の午後など、時間によっても読書状況は大きく変わってきます。
そして、ここが重要なのですが、読書に適しているようには思えない(そもそも、そこで読書をしようとは思わない)ような場所で読んでみた場合、予想以上の効果が得られることがあるものです。「常識」の類に縛られることなく、「ひょっとすると、ここでも読めるかも」というようなシチュエーションを考え、探し当て、実際にそこで読書してみると、意外なほど「記憶」につながっていくものだということ。(123ページより)
なぜ、そんなことに効果があるのかといえば、人間は、たとえ読書に集中していたとしても、少なからず周囲にも意識を向けているものだから。たとえば電車で本を読んでいて、印象的な部分を見つけたとき、たまたま目の前に座っている人が大きなクシャミをしたと考えてみてください。
その場合、あとからその本を読み返したとき、その本の印象的な部分とクシャミの記憶が連動する可能性があるわけです。
「この本のこの部分には、すごく感動したんだよな。で、そこを読んでいるとき、目の前の人がクシャミをしたからビックリしたんだった」というように。
些細なことのように思えるかもしれませんが、「忘れない」「記憶する」ことが目的である場合、それら些細なことが大きなインパクトとして記憶に残りうるということ。特にその本のなかに「強く共感できる部分」「興奮できた部分」などを見つけた場合は、そのとき視野に収まっていた情景が本の内容と結びつき、記憶として蓄積されることになるというわけです。
だからこそ僕は、自分にとって重要なパートを回想する際、「そのときのシチュエーション」をセットで考える習慣をつけておくようにしています。そうすれば、楽に記憶をたぐり寄せるようになる可能性が高いから。すなわち、それが「シチュエーション読書法」です。
<シチュエーション読書法>
・室内でも屋外でも、集中しやすい場所で読書に集中する
・(可能な範囲で)周囲の状況にも関心を持つ習慣をつけておく
・印象的な場面、出来事、人などを、意識の裏側に貼りつけておく
・本の印象的な部分、感動的な部分、記憶したい部分などに出合った場合は、特に「周囲で起こったなにか」「いた場所」「通過した駅」「情景」などを覚えておく
(125ページより)
「本に集中しながら、周囲のことを気にかけることなんかできない」と思われるかもしれませんが、集中していたとしても、周囲の情景くらいは視野に収まっているもの。そして、記憶にとどめておけるものでもあります。
そこで本書では、僕が実際に行なっているいくつかの事例をご紹介しているのですが、そのなかからひとつをピックアップしてみたいと思います。(122ページより)
駅のベンチで読書する
公共交通機関には読書に適した場所が少なくないのですが、たとえばそのひとつが、駅のベンチ。もちろん混雑時は避けるべきですが、座り続けている人は自分以外にほとんどいないという状況になることが多いため、読書に集中できる場合が多いのです。
しかも適度に騒がしいので、「シチュエーション記憶法」を活用するにも最適。目の前を通り過ぎていくさまざまな瞬間を切り取りながら、それらを本の印象的な部分と紐づけていけるわけです。
東京都内だとしたら、あまり混雑しない駅のベンチのほうがいいかもしれませんが、一方、意外な穴場が地下鉄のベンチです。というのも地下鉄の場合、(あくまで経験則ですし、駅によっても違いはあるのですが)屋外の駅よりもベンチに座っている人は少ないからです。
また路線によっても違いがあり、東京であれば半蔵門線や千代田線は、ベンチに座っている人があまりいないように感じています。そこで僕も半蔵門線の九段下駅や、千代田線の国会議事堂前駅のホームをしばしば利用するのですが、人の少ない昼間は特に読書に最適です。(126ページより)
他にも本書では、「シチュエーション記憶法」を活用しやすい場所や手段をご紹介しています。また、読書についての基本的な考え方や心構えなどもまとめています。「読書ストレス」から脱却し、「覚えられる読書」にまでたどり着きたいという方には、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
Photo: 印南敦史
印南敦史