こんにちは、福島県郡山市の総合南東北病院外科の中山祐次郎です。前々回から、この連載は特別編「医者の本音」シリーズとして全8回で毎週お送りしております。
私は大腸がんの専門なので、患者さんにがんの告知をすることは日常的にあります。
そんな時、患者さんのほとんどは頭が真っ白になり、思考が止まってしまいます。私が詳しいご病状を説明しても、ほとんど頭に入らないことがよくあります。私はそれを非常に気にかけているので、紙に書いて説明するようにし、場合によっては翌週にもう1度、同じ話をすることさえあります。
がんの告知という、恐らく人生最大級のショックを受けた時。訳が分からなくなってしまうのは、とてもよく分かります。しかし、医者は検査や治療のスケジュールを決めていかねばなりません。そこで、がんと告知された時に皆さんが、どんなに頭が真っ白になっても、医者に対してしておくべき質問をまとめました。最低限、次の3つだけは聞いておきましょう。
- がんの治療は慣れているか(1年で何人くらい担当しているか)
- どんな予定で検査や治療を進めるつもりか
- 私・家族にできることは何か
一つずつ、解説していきます。
その医者、がんの治療に慣れている?
1. がんの治療は慣れているか(1年で何人くらい担当しているか)
この質問は、あなたの担当主治医が、該当のがんにどれだけ詳しいかを尋ねています。「え、医者なら何でも詳しいんじゃないの?」という質問をかなりの回数されたことがありますが、実はそんなことはないのです。ここではそのお話をしましょう。
医者の多くは「専門」を持っています。例えば私は、消化器外科を専門としていますが、中でも大腸という臓器が専門になります。そして、その中でも大腸がんの治療を専門にしているのです。さらに私が得意としているのは、小さい傷を開けることで行う手術「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」と、がんが進行してしまって他の臓器も取らなければならない「拡大手術」と呼ばれる手術です。この辺りでは、そうそう普通の外科医には手出しできないレベルまで執刀します。例えば膀胱や尿管を取って再建するという泌尿器科医の領域や、子宮や卵巣の切除という産婦人科医の領域でも全て自分で執刀可能です。
逆に、消化器外科の他の領域である、肝臓や膵臓の手術は不得手といえます。手術ができないわけではないのですが、最高レベルではないため、得意分野の外科医と一緒に手術を行います。そして、肺がんや乳がんの手術はここ8年ほど執刀していませんので、あまり自信がありません。食道がんの手術はやったことがありませんので、執刀できません。他に、⿏径ヘルニアなどの小手術は得意にしています。
「医者であれば、どんなことでも最高レベルでやれる自分でありたい」。これは医者の矜持(きょうじ)ですから、不得手なことを明かす医者は少ないかもしれません。しかし、ここ数十年で医療はとてつもない細分化を進めてきました。ですから、医者一人の知識や技術の中にはかならずムラがあるのです。
多くは次の2パターンに分かれます。
aの医者は、まんべんなく広い領域の知識と技術があるが、突出したものはない。一方でbの医者は、ある領域にだけ特化した深い知識と技術があるが、他のことは全然分からない。
外科医において、日本の多くの医者はaのタイプでしょう。「今日は大腸がん手術。明日は乳がん手術と肺がん手術のお手伝い。あさっては肝臓を切った後に痔の手術」という働き方をしています。
bタイプの医者は、「今週は大腸がん手術が5件で、来週は7件」といったスタイルです。このスタイルが許されるのは、一部の「がんセンター」や「地域がん診療連携拠点病院」と呼ばれるような大きな病院で、外科医がたくさんいる場合に限られます。
ガンの告知までは同じだとしても、今はネットで病気についても病院についても情報が得られる時代、その人の情報力によって展開は違うと思います。
全く病気の内容は違いますが、私の息子が心臓のWPW症候群と診断された際には、身内の医師を通じてあらゆる情報を取得し、実績のある医師を見定めてカテーテル手術を受けました。
群馬大学病院の例を見ても難しい手術ともなれば病院の名声よりも執刀医が誰かとその力量が最も重視されるべきであり、情報格差が命を左右する時代だと思います。(2018/05/31 11:49)