★商標権の侵害
(定義)商標権の侵害とは、正当理由又は権原なく、他人の登録・類似商標を、その指定・類似商品に使用する行為またはこれらの一定の予備的行為を言う(25条、37条各号、67条各号)。
商標権の侵害の種類(5種類)
1)正当理由又は権原なく、他人の登録商標をその指定商品に使用する行為は侵害を構成する(25条)
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する(25条)。
いわゆる専用権範囲は商標権者が独占排他的に登録商標を使用できる本来的な効力範囲であり、行政処分の公権力により、他人の権利に対して自己の登録商標を使用できる抗弁権的効力をも有する。
(侵害の成立要件)
)商標権が有効に存続すること
)権限なき第三者の実施であること
使用権限を有していないこと、商標権の効力の範囲が及ばない使用でないこと
)登録商標を指定商品に使用すること
登録商標の範囲、指定商品の範囲は願書に記載した商標に基づいて定められる(27条)。
指定商品とは、6条1項により指定した商品をいう。商品とは、独立取引され、流通され、量産できる有体動産をいう。
商標の使用とは、2条3項に規定する使用行為であって、商品との関係において商標機能を発揮させるような態様での使用を言う。
登録商標とは、登録を受けている商標をいう。商標とは、業として、商品の生産、譲渡、証明する者が、その商品に使用する標章をいう(2条1項)
2)正当理由又は権原なく、他人の登録商標またはこれに類似する商標を指定商品に類似する商品等に使用すること、類似商標を指定商品に使用する行為は侵害を構成する(37条1号)。
法は、登録主義のもと、登録商標の類似範囲を、「出所混同を生じる範囲」と擬制して、係る範囲の商標使用を排除するため侵害とみなしている。
3)侵害に至る蓋然性が高い一定の予備的行為は侵害とみなされる(37条2号~8号)。
登録商標の機能を確保するため、その機能を害するおそれのある侵害の予備的行為についても商標権侵害とみなし、出所混同を未然に防止して商標権の保護の万全を図るためである。
(予備的行為)
・登録商標・類似商標を付した指定商品・類似商品を譲渡等するために所持(2号) → 譲渡等すれば直接侵害
・役務の提供に当たり、提供を受ける者の利用に供する物に登録商標 類似商標を付したものを用いて、役務を提供するため、それらを所持輸入(3号) →役務を提供するれば直接侵害
・役務の提供に当たり、提供を受ける者の利用に供する物に登録商標 類似商標を付したものを用いて、役務を提供させるため、譲渡等、譲渡等のために所持輸入(4号)
・指定商品・類似商品に登録商標・類似商標を使用するため、登録商標・類似商標を表示する物を
所持(5号)、製造、輸入(6号)
「商標を表示する物」とは、包装紙、ラベル、包装用箱、缶のようなもので、まだ商品を包装し、商品に付されていないものが対象となる。商品を包装し、商品に付されたものは、37条2号の対象
・指定商品・類似商品に登録商標・類似商標を使用させるため、登録商標・類似商標を表示する物を
譲渡等、譲渡等のために所持(6号)製造、輸入(6号)
・登録商標・類似商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を、業として、製造、譲渡、引き渡し、輸入(8号)
Ex 予備的行為の予備的行為。商標印刷用の紙型の製造
4)正当理由又は権原なく、登録防護標章をその指定商品等に使用する行為は侵害となる(67条1号)。
著名な登録商標の禁止権範囲を出所混同が生じえる非類似商品まで拡大して、出所混同の防止の万全を図るためである。
5)商標機能を毀損する行為
法は登録主義のもと、社会通念上の商標とは遊離した形で商標とその使用を定義している(2条3項)。
正当理由又は権原なく、指定商品に登録商標を使用すれば、商標権侵害が成立するように規定されている。
「社会通念上の商標の使用」とは、特定の営業主体の商品を表彰し、その出所の同一性を識別する機能(出所表示機能)及び同一商標の附された商品の品質の同等性を保証する機能(品質保証機能)を発揮する形での使用である。
商標法が商標権者に排他的独占権を与えているのは、それら商標機能を害する行為を防止し、その機能を発揮させることを保証するためであると解される(25条)。
(そして、商標法は、それら商標機能を保護することを通じて、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(1条)。)
従って、形式的に登録商標を使用しても、商標の出所表示機能又は品質保証機能を害することがない場合には、商標保護の本質に照らして(1条)、実質的違法性を欠き、侵害を構成しないというべきである。一方、商標権侵害には、商標機能を毀損する行為も含まれ、形式的に侵害でなくても実質的に違法であり、侵害を構成すると解される場合がある。
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