自発的に行動する子を育てるには?(写真:筆者提供)

全米の女の子があこがれる賞があります。それが「全米最優秀女子高生」。米国の女子高校生が知性や才能、リーダーシップを競う奨学金コンクールで、60年の歴史を持つ名誉ある賞のひとつです。
2017年7月、日本人を母親に持つスカイ・ボークさんが、そのコンクールで優勝しました。なぜそれが可能だったのか?
自身の子育てについて『世界最高の子育てツール SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法』にまとめた、母であるボーク重子さんが語る、娘の自主性を大きく育んだ、魔法のツールとは?

子どもの成功は「親のタイプ」で決まる!

子どもの成長と成功は何によって決まるのでしょうか? 遺伝? 持って生まれたその子の才能? 教育方法? それとも……? 

ワシントンDCで世界最高の子育て法を模索していた私は、次のような研究結果に出会います。

「子どもの成長を決めるのは遺伝が49%、育て方などの環境が51%」

「子どもの性格にかかわらず、子どもの成功と幸せのために最適とされている親のタイプがある」

子どもの能力を最大に引き出し、幸福度と満足度の高い、自分からやる子を育てたい――これは私が子育てについて考える2つの柱ですが、「親そのもの」ではなく、「親のタイプ」で子育ては決まる――。私は驚くと同時に、ベストな親のタイプにならなければ!と思ったのです。

子育て研究の第一人者、バウムリンド博士が提唱し、さらに別の研究者によってひとつ加えられた「親のタイプ」は、大きく4つに分けられるといいます。

これら4つのタイプは「親の子に対するコントロールと期待水準の度合い」と「子どもの気持ちやニーズに寄り添う温かさの度合い」という2つの尺度によって、民主型、服従型、寛容型、無関心型に分類されます。


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いったい、どのタイプがベストなのか? そもそも、あなたがどんなタイプの親なのかは、普段子どもに向けて発しているちょっとした言葉から類推することができます。

あなたの子どもへの声かけでわかる、親のタイプ

さて、あなたが子どもに対して頻繁に使う言葉は次のうちどれでしょう?

「どうしてできないの?」

「パパが言ったようにやればいい」

「○○ができたらご褒美をあげる」

「あなたはどうして○○をやりたいの?」

「やってくれたらママはうれしいなあ」

もしもあなたが「どうしてできない?」「パパが言ったようにやればいい」「やってくれたらママはうれしいなあ」といった言葉を子どもによく投げかけているとしたら、 あなたは子どもをマインドコントロールし、自分の思いどおりにしようとする「服従型」の親といえるでしょう。「言うことを聞く子=良い子」の構図です。

「○○ができたらご褒美をあげる」などと、心をもので釣るようなことをしていたら、「寛容型」の親。

そして「あなたはどうして○○をやりたいの?」と問いを投げかけ、子どもの意思を引き出していたら、「民主型」の親といえます。

ちなみに先ほどあげた声かけの中に、「無関心型」の親に該当する言葉はありません。無関心型の親は、子どもに関心がないため、そうした声かけすらしないというわけです。

では、この4タイプの中で、どれがベストなタイプなのでしょう?

ベストな親に必要なのは、自らやる子を育てるようなマネジメント型の見守りと、子どもの能力を最大に引き出す子どもへの高い期待。つまり、「民主型」の親が、ベストだということになるのです。

とはいえ、民主型の親がベストなタイプだと頭で理解できても、自らがベストな親になるのは簡単なことではありません。私も民主型の親を目指していたのに、ついつい「やりなさい」「どうしてできないの」と娘に言っていました。

そう。忙しいと、ベストの親のタイプとはほど遠い、子育ての態度になってしまう……。民主型の親になりたいと思っているのに、つい服従型に流れてしまう。服従型は多くの親がいとも簡単に陥る親のタイプでもあるのです。私もそうでした。そうして子どもの能力を最大に引き出すどころか、子どもが不本意な人生を歩く基礎を作ってしまいかねないのです。

ビジネスツールの「SMARTゴール」を子育てに応用

そんなジレンマを抱えていたとき、私はあるツールに出会い、それを子育てに応用することを思いつきました。ビジネスパーソンの間でよく使われている「SMARTゴール」です。

ビジネスの最適最大の目標を設定し、それをどうやったら達成することができるかを明確化し、計画を立て、実践し、達成するために使います。

ビジネスは、成功することを考えて計画するもの。失敗しようと計画する人はいません。成功のためには、達成できるかぎりの大きな目標を掲げます。それを人にも応用する。自分にとって達成できうるかぎりの高い目標を見つけ、設定し、どうやったら達成できるかを具体的に計画します。

実践の過程では、できないときもあるだろうし、思うような成果が出ないこともある。そんなときは修正しつつ、自分を厳しく律し定めた目標に向かって着実に進んでいく。これって多くの方が仕事で実践していることですよね。

私は、これを子育てにも使おうと思いついたのです。

●SMART 5つのチェックポイント

「SMARTゴール」というのは、

� Specific 具体的
� Measurable 計測可能
� Actionable 自力で到達可能
� Realistic 現実的
� Time Limited 時間制限付き

これら5つの条件を満たしているものです。

たとえば「いつかお天気の良い日に世界でもいちばん難しい山に登る」という夢は、いずれの条件も満たしていません。でも「5年後、日本アルプスに単独登頂できるよう、これから毎日1時間体力作りをし、週末はさらに30分ザイルなどのテクニックを習得する」という計画は、SMARTの5つの条件をすべて満たしているというわけです。

では、ビジネスツールである「SMARTゴール」をどうやって子育てに実行していったのでしょうか?

小学生の宿題から、SMARTゴールは使えます

娘が小学校の頃は、夏休みの宿題や蝶の飼育係、バレエの振り付けを覚えることにも、「SMARTゴール」を使いました。たとえば夏休みの宿題なら、夏休みの残りの日数、その間にやりたいこと・やらないといけないこと、それらをやるにはどんなことをすればいいか、毎日何をどのくらいすればいいか、できそうかどうか、を私が質問しながら娘に書きだしてもらい、娘自身に毎日チェックしてもらいました。

思いを字で書くほどの語彙量がない頃は絵を使っていました。SMARTゴールを「やらないといけない」仕事にするのではなく、親といっしょにやる「楽しい」という遊びにしたのです。そうしてチェックすることで達成する喜びを教えました。

具体的には、こんなワークシートを使っていました。


©shigekobork

「SMARTゴール」を小学校から子育てに応用したおかげで、私は娘に、一度も「勉強しなさい」と言ったことがありません。

娘は、「何のためにそれをやるのか」「やるとどうなるのか」という自分にとって最適最大のゴールがつねに見えていたので、なぜその勉強や練習が必要なのかがわかっていました。だからこそゴールに向かって自発的に行動し、そこに到達するために自らを律することができたのです。そして自力で達成しているから満足度と幸福度が高いのです。

子どもは「やりなさい」と言われたからやるのではありません。自分にとって最適最大の目標を見つけ、達成するというやる理由と必要性が見えているからやるのです。そして達成感という幸福を知っているから1つの目標を達成した後にまた目標を見つめるのです。

幼い頃から「SMARTゴール」を使い、そのスキルを身につけたことで、娘は自分の能力を最大限に引き出す大学を自ら選んで進学し、親元から巣立った今も、将来政治家になることを夢見て大学生活を送っています。娘はこれからも、自分の夢や目標を叶えていくことでしょう。

自分に対してベストな人こそが、ベストな親になれる

「子は親の背中を見て育つ」といわれるように、親である私がやっているから娘もやる。そこで、私は自分もSMARTゴールを実践することにしました。

結果は驚くほど。自信も勇気もなかった私が念願だったギャラリーオーナーになり、VIPを顧客に抱えるトップのギャラリーに成長させます。さらに現在はライフコーチとしてもワークショップや執筆などの仕事をしています。

それというのも私は自分に期待し、やり抜くために自分を厳しく律し、ダメなときは責めるのではなく受け止め柔軟に修正することで自分に対して自信をつけ、自分を理解し、自分の能力を最適最大に発揮するすべを身につけたからです。1997年にアメリカに移住した当時にはまったく想像もつかなかったことです。

「幸福度と満足度が高く自分からやる子」

「能力を最大に引き出す親」

それを可能にする「SMARTゴール」については拙著でも詳しく説明しています。ぜひご家庭で試していただければこれほどうれしいことはありません。

最大最適の目標は、ベストな親のタイプの尺度の1つ「親の子に対するコントロールと期待水準の度合い」の高い期待水準に当てはまります。目標達成のために何があっても実践することは自分を律する高いコントロールに当てはまります。

思うような結果が出ないときや修正が必要なときの柔軟な対応は、高い「子どもの気持ちやニーズに寄り添う温かさの度合い」です。


SMARTゴールを子どもと一緒に作り、それを実践していく子どもを見守ります。その過程で子どもは自分が決めた最適最大の目標達成を見つめることで自分に期待し、自ら到達するように自分を律するようになります。

何しろ自分で決めた目標と実行計画ですから、やる気の度合いが違います。そしてそばには同じように自分に期待し理解を示して応援してくれる親がいます。これなら自分からやる子が育ちます。そして親は子どもの能力を最大に引き出す最適の環境を整えることができます。こんな環境なら子どもは自分を知り、自信を持って進んでいくことができるでしょう。

そうしてSMARTゴールの元々の目的である「目標達成」に自力でたどり着くことができるのです。

そう、「SMARTゴール」は、まさに“一生もののスキル”なのです。