「ペトロナス・ツインタワー(マレーシアを象徴する都心の超高層ビル)だって、プトラジャヤ(首都近郊にある新都心)だって、全部マハティールが作った。彼がいたからマレーシアは成長できた。今回もきっとなんとかしてくれるはずだ」
5月10日、マレーシアで総選挙が実施された翌日のこと、首都クアラルンプール郊外にあるテント張りの喫茶店で、42歳のタクシー運転手、ジャック・カシングさんは興奮を抑え切れない様子でこうまくし立てた。
この選挙に、かつて22年に渡り首相の座にあったマハティール氏が野党連合の代表として出馬。大方の予想を裏切り、与党連合のナジブ・ラザク前首相を破って92歳にして首相に返り咲いた。1957年の独立後初めて実現した政権交代だった。
マハティール氏は1981年~2003年の前在任期間中、日本を手本に国の開発を進める「ルック・イースト政策」を採用し、自国を「東南アジアの優等生」と呼ばれるまでに成長させた実績がある。
特に1990年代のGDP(国内総生産)成長率は9%台と著しく、1996年には10%の大台にも載せている。この時期、1998年に上述の超高層ビル、ペトロナス・ツインタワーも完成を見ている。5%前後の成長が続いている足元からすれば、飛ぶ鳥を落とす勢いを示していた90年代を象徴する政治家、マハティール氏に国民が期待を寄せるのも頷ける。
ただ1990年代と現在とでは、マレーシアを取り巻く環境は大きく変わっている。同じ手法で再びマレーシアを急成長の軌道に乗せるのは難しいだろう。「彼なら何とかしてくれる」というジャックさんのマハティール氏に対する強い信頼の背景にあるものが、過去の実績に対する郷愁だけだとすれば、その思いは報われないかもしれない。個人的にはそんな一抹の不安も感じた。
確かに、経済成長により国民の所得は増えた。しかも格差が大きいタイなどに比べ、年間可処分所得が1万5000ドル超の「アッパーミドル」や、3万5000ドル超の富裕層と呼ばれる人々の割合は人口の過半を超えており、マレーシアは相対的に見て広く国民が豊かな国と言える。
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