マハティール新首相の目前に広がる前途多難

マレーシアは、新たな成長戦略を打ち出せるのか

2018年5月31日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 「ペトロナス・ツインタワー(マレーシアを象徴する都心の超高層ビル)だって、プトラジャヤ(首都近郊にある新都心)だって、全部マハティールが作った。彼がいたからマレーシアは成長できた。今回もきっとなんとかしてくれるはずだ」

 5月10日、マレーシアで総選挙が実施された翌日のこと、首都クアラルンプール郊外にあるテント張りの喫茶店で、42歳のタクシー運転手、ジャック・カシングさんは興奮を抑え切れない様子でこうまくし立てた。

マレーシア首相に返り咲いたマハティール氏。5月28日には国をまたいだ高速鉄道計画の中止を発表した。(写真=AP/アフロ)

 この選挙に、かつて22年に渡り首相の座にあったマハティール氏が野党連合の代表として出馬。大方の予想を裏切り、与党連合のナジブ・ラザク前首相を破って92歳にして首相に返り咲いた。1957年の独立後初めて実現した政権交代だった。

 マハティール氏は1981年~2003年の前在任期間中、日本を手本に国の開発を進める「ルック・イースト政策」を採用し、自国を「東南アジアの優等生」と呼ばれるまでに成長させた実績がある。

 特に1990年代のGDP(国内総生産)成長率は9%台と著しく、1996年には10%の大台にも載せている。この時期、1998年に上述の超高層ビル、ペトロナス・ツインタワーも完成を見ている。5%前後の成長が続いている足元からすれば、飛ぶ鳥を落とす勢いを示していた90年代を象徴する政治家、マハティール氏に国民が期待を寄せるのも頷ける。

 ただ1990年代と現在とでは、マレーシアを取り巻く環境は大きく変わっている。同じ手法で再びマレーシアを急成長の軌道に乗せるのは難しいだろう。「彼なら何とかしてくれる」というジャックさんのマハティール氏に対する強い信頼の背景にあるものが、過去の実績に対する郷愁だけだとすれば、その思いは報われないかもしれない。個人的にはそんな一抹の不安も感じた。

 確かに、経済成長により国民の所得は増えた。しかも格差が大きいタイなどに比べ、年間可処分所得が1万5000ドル超の「アッパーミドル」や、3万5000ドル超の富裕層と呼ばれる人々の割合は人口の過半を超えており、マレーシアは相対的に見て広く国民が豊かな国と言える。

併せて読みたい

オススメ情報

「記者の眼」のバックナンバー

一覧

「マハティール新首相の目前に広がる前途多難」の著者

飯山 辰之介

飯山 辰之介(いいやま・しんのすけ)

日経ビジネス記者

2008年に日経BP社に入社。日経ビジネス編集部で製造業や流通業などを担当。2013年、日本経済新聞社に出向。証券部でネット、ノンバンク関連企業を担当。2015年4月に日経ビジネスに復帰。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

ものを考える時に大事なのは他の人とは視点を変えること。

泉谷 直木 アサヒグループホールディングス会長