コラム

若者の憂鬱と「死にたい」を表現するドラマや音楽。米社会の闇を探る

若者の憂鬱と「死にたい」を表現するドラマや音楽。米社会の闇を探る

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辰巳JUNK
編集:後藤美波

メイン画像:『13の理由』シーズン2より 写真提供:Beth Dubber/Netflix

アメリカのポップカルチャーで「若者の自殺」が流行している。2017年、そんな信じがたいトレンドをメディアやアメリカ精神医学協会が報告した

代表作は、Netflix製作のヒットドラマ『13の理由』。歌詞サイト「Genius」で「最も回覧された歌詞」の一つとなったLil Uzi Vertの“XO Tour Llif3”。そして自殺防止を訴えたLogicのヒット曲“1-800-273-8255”が挙げられる。本稿では『13の理由』やヒップホップに着目し「若者の自殺」カルチャームーブメントの背景にあるアメリカ社会の問題を探る。

Lil Uzi Vert“XO Tour Llif3”

<彼女は言った「ベイビー、私は死ぬのが怖くない」 隅に追いやられる
俺の友達は全員死んだよ Lil Uzi Vert “XO Tour Llif3”>

ユースカルチャーの流行は「ディストピア」からヒーロー不在の「若者の自殺」へ

2000年代から10年代前半まで、アメリカのユースカルチャーの流行は「ディストピア」だった。

代表作は『ハンガー・ゲーム』『ダイバージェント』。ポストアポカリプス世界で活躍するヒーローの物語が多い。Voxは、このディストピアの流行の背景に「ブッシュ政権下の不安」があるとしている。9.11、気候変動、世界金融危機によって国家への信頼が揺らいだ影響がユースカルチャーに表れたのである。この「ディストピア」流行は10年代中盤にはおさまり、代わりに「若者の自殺」がトレンドとなった。

2012年公開の『ハンガー・ゲーム』は独裁国家を舞台にしたサバイバルアクション

YA(ヤングアダルト)文化における「若者の自殺」作品の特色はこのように説明される。重い責任が個人に負わされる、自己嫌悪が強い破滅と絶望の物語。「ディストピア」ものと異なり、ヒーローは不在だ。

代表作は『13の理由』。2017年には、社会不安に苦しむ高校生が同級生の自殺によって変化するブロードウェイミュージカル『Dear Evan Hansen』 が『トニー賞』6部門を受賞している。映画化が見込まれるYA小説『Things I'm Seeing Without You 』 は恋人を自殺で亡くした少女の物語だ。では、これら「若者の自殺」フィクション流行の背景には何があるのだろう?

Netflixドラマ『13の理由』シーズン1より 写真提供:Beth Dubber/Netflix
Netflixドラマ『13の理由』シーズン1より 写真提供:Beth Dubber/Netflix

『13の理由』:若者の自殺率とスマートフォン 「孤独はみんな感じてる」

<「これはよくある“大勢の中ひとりぼっち”って話じゃない。それはみんな感じてる」 Netflix『13の理由』>

10年代のアメリカでは、若者の自殺率が急増している。特に15~19歳女子は深刻とされ、2015年には40年ぶりの高い自殺率を記録した。07~15年の間で同年代の女子の自殺率は2倍増、男子は30%増加している。同時にティーンエイジャーの精神状態の悪化も観測される。

メンタルヘルス調査において「よく孤独を感じる」と回答したティーンは2010年を境に急増。『13の理由』において自殺した少女ハンナは「孤独はみんな感じてる」と語ったが、実際、調査では3割以上の10代がそう答えているのである。10代の状況がそこまで深刻ならば「若者の自殺」を描いたフィクションの流行も納得がいく。深刻な社会問題なのだ。

『13の理由』の劇中で校内に設けられたハンナの追悼コーナー

スマホのある学園生活の苦悩。逃げ場を奪う24時間体制のSNS

では、何故そんなにも若者の精神状態は悪化しているのだろうか?経済格差や社会の閉塞感など、推定要因は様々だ。そして、近年はあるデバイスの存在の影響も研究されている。その機械で本稿を読んでいる人も多いだろう。スマートフォンだ。

サンディエゴ州立大学のジーン・トゥエイン教授は「スマートフォンの普及による10代への影響」を調査した。結果、スマートフォンの普及を契機に10代の孤独感、うつ症状、自殺率が上昇した可能性が明かされたのである。

若者のメンタルヘルスとスマートフォンの関連性はドラマ業界でも注目されている。テレビ研究家ティム・ブルックスは、ポップカルチャーの「若者の自殺」ブームに対するSNSの影響を示唆している。「自殺はテレビにおいて新しいトピックではありません。しかし、ソーシャルメディアの拡大が問題をより身近にした」。

Netflixオリジナルドラマ『13の理由』シーズン2は5月18日から全世界で配信されている 写真提供:Beth Dubber/Netflix
Netflixオリジナルドラマ『13の理由』シーズン2は5月18日から全世界で配信されている 写真提供:Beth Dubber/Netflix

『13の理由』脚本家のブライアン・ヨーキーも、製作にあたってスマートフォンの影響を重要視したことを明かしている。シーズン2の配信に先立って来日した際に行なわれたインタビューでは、ネット社会ではいじめが学校の外でも途切れることがなく、SNSを通して24時間いじめられることで逃げ場がない状況に追い込まれてしまう、と語ったほか、書き込みなどがインターネット上に残り続ける不安についても指摘していた。

ポップカルチャーにおける「若者の自殺」トレンドの背景には、アメリカ社会で深刻化する若者の自殺増加がある。スマートフォンの影響も研究されており、10代から支持を得たドラマ『13の理由』は「スマホのある学園生活の苦悩」をフォーカスしている。

また、前述した『トニー賞』受賞ミュージカル『Dear Evan Hansen』も高校生の自殺とSNSの情報拡散を描いている。現実の状況は厳しい。若者の憂鬱や希死念慮を描くYAブームはまだ続いていくかもしれない。

ミュージカル『Dear Evan Hansen』の映像

ちなみに、アメリカの自殺問題で注目される人種は白人層である。実際、人種別に見ても白人の自殺率が高い。では、マイノリティの環境はどうだろう?

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