障害者が家庭に近い環境で共同生活を送るグループホーム(GH)に障害の重い人が入れない「待機」の状態が生じている。国や自治体は障害者の生活の場を従来の大型施設からGHなどの地域へと移行を進めており、親の高齢化などでニーズも高まっているが、受け入れ態勢が追いついていない。国は待機の実態を把握しておらず、福岡市のNPO法人が調査に乗り出した。【青木絵美】
「いち、にの、よいしょ」。4月下旬、福岡市早良区に住む服部美江子さん(64)が、体重約40キロの長男剛典(たけのり)さん(39)を抱き上げソファに移動させる。テレビを楽しむ剛典さんに目を細めるも「家族で介護できなくなっても、息子は地域で暮らしていけるのか」と美江子さんは漏らす。
身体と知的に重度の重複障害がある剛典さんは移動や食事、排せつなど全面介助が必要で、障害支援区分は最も重い「区分6」だ。美江子さんは夫保夫さん(68)と自宅介護を続けてきた。
しかし約4年前、美江子さんが不整脈の発作で救急搬送された。保夫さんも高血圧と腰痛で通院しており、いつまで2人で介護できるのかと不安が募る。美江子さんは昨春、市内のGH約110カ所のうち、身体障害に対応する5カ所に入居の相談をしたが「空きはない」と言われた。
福岡市中央区の区障がい者基幹相談支援センターは、昨年度に区分5以上の重度障害者のGH入居相談を74人から受けたが、入居できたのは4人だった。相談支援専門員の稲岡由梨さん(36)は「重複障害や医療的ケアが必要な重い障害の人を在宅で見てきた親が高齢化し、限界を訴える声を聞く。しかし、重度の人を受け入れるGHは人手も必要なため数が限られ、待機になっている」と話す。だが、同様の待機人数を国は把握していない。
美江子さんは、代表を務める認定NPO法人障がい者より良い暮らしネット(福岡市中央区)でアンケートに乗り出した。GHへの入居希望の有無や、生活状況などを尋ねる内容で「家族以外の支えで子どもが暮らせる場所を見届けられなければ、親は安心して死ねない。親の不安の声を集めたい」と話す。
アンケートは5月末まで「暮らしネット」のホームページから回答できる。結果は行政への提言などに生かす。
最重度「6」 増加率5割
障害者が暮らす場の地域移行を受けて、グループホーム(GH)の利用者は年々増加している。今年1月時点で11万3604人と、10年前の2・7倍(GH一元化前のケアホームを含む)になった。
2016年12月時点のGH利用者を障害区分別にみると、中度の「3」の利用者は2万4041人と多いが、過去2年間の増加率は約1割。一方、最重度の「6」は8260人だが、増加率は5割ほどで伸びている。
重度障害者のニーズを受け、厚生労働省は4月以降、従来より手厚い職員配置を可能とし、重度者を受け入れた場合の事業者報酬を引き上げた。定員を最大20人まで拡大できるGHの運営形態も新たに認めたが、これには懸念の声が上がる。
神奈川県立保健福祉大の在原理恵准教授(障害福祉)は「定員を20人まで認めては、少人数で個別支援を充実させてきたGHの流れに逆行してしまう恐れがある」と指摘。「相談支援の充実を核として、障害者一人一人が望む地域での暮らしを実現できる仕組みづくりを進めるべきだ」と話している。