「イタリア式狂騒曲」しかしEU離脱はない

BREXITが反面教師に

2018年5月29日(火)

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5月27日、組閣断念を余儀なくされ厳しい表情を浮かべるイタリア首相候補のコンテ氏(写真=AFP/アフロ)

 ユーロ圏第3位の経済規模であるイタリアで政治混迷が収まらない。いったんポピュリスト(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」と極右「同盟」による連立で合意した。しかし首相に指名されたジュゼッペ・コンテ氏の閣僚名簿のなかでユーロ離脱派の財務相候補に、マッタレッラ大統領が拒否権を発動した。

 このためコンテ氏は組閣を断念、イタリアは実務者内閣への組み換えか再選挙に追い込まれることになった。イタリア政治の混迷は英国のEU離脱(BREXIT)や旧東欧圏のEU批判など難題を抱えるEUにとって、新たな火種である。しかし、2019年3月の離脱期限を前に、BREXITをめぐる混乱はEU諸国の反面教師になっている。どんなイタリア政権であれ、EU離脱は選択できないだろう。

政治混迷の戦後史

 戦後のイタリア政治といえば、混迷と短期政権が付き物だった。長期の安定政権は到底、期待できず、アングラ経済がはびこる要因とされてきた。今回の政治混乱もそんな「イタリア式狂騒曲」の一形態といえるだろう。

 もともと、ポピュリストの五つ星と極右の同盟は水と油で、連立はありえないとみられてきた。五つ星はコメディアンのグリッロ氏が立ち上げた草の根の政治運動で、初の女性ローマ市長を誕生させて注目された。環境保護を掲げるとともに、EU統合に懐疑的だ。

 一方で、同盟は北部同盟として出発した。フランスの「国民戦線」と組む極右政党である。ユーロ圏からの離脱や反移民、難民を掲げてきた。互いに批判し合ってきたが、中道の既成政党がいっせいに没落するなかで、極右・ポピュリスト連立が浮上した。

 極右ポピュリズムといえば、その元祖はイタリアが生んだ独裁者、ムッソリーニがあげられる。ヒトラーがその政治手法をお手本にした。戦後のイタリア政治は、独裁者・ムッソリーニの轍を踏まないよう、元老院や地方政府に権力を分散する政治制度を採用した。それが政治の「イタリア式狂騒曲」を生む結果になったのは歴史の皮肉である。

 そうしたイタリア政治の混迷を打開しようと、若きレンツィ首相は2016年12月、憲法改正の国民投票に打って出た。しかしそれは裏目に出る。国民投票は否決され、改革派のレンツィ首相は退陣に追い込まれる。それがいまのイタリア政治の混迷につながっている。「イタリア式狂騒曲」はなお続くと考えておかなければならないだろう。

「学者首相」の組閣断念

 極右・ポピュリスト連立政権構想で首相に指名されたのは、五つ星のディ・マイオ党首でも同盟のサルビーニ党首でもなかった。政治経験のまったくない民法学者のコンテ氏だった。もちろん混迷のイタリア政治では、学者が首相になるのは珍しくない。最近では2011年、財政危機打開のため、経済学者のマリオ・モンティ氏が首相に担ぎ出されている。モンティ氏はブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルの所長をつとめるなど、熱心な欧州統合論者として知られていた。イタリア再生とEU再生にとって期待の星だったのである。

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「「イタリア式狂騒曲」しかしEU離脱はない」の著者

岡部 直明

岡部 直明(おかべ・なおあき)

ジャーナリスト/武蔵野大学 国際総合研究所 フェロー

1969年 日本経済新聞社入社。ブリュッセル特派員、ニューヨーク支局長、論説委員などを経て、取締役論説主幹、専務執行役員主幹。早稲田大学大学院客員教授、明治大学 国際総合研究所 フェローなどを歴任。2018年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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