ランス・アームストロング:えーっと、本当は今日ポッドキャストを収録する予定じゃなかった。
ーーボーナス・トラックみたいなものだね。
ランス:スペシャルエディションだ。緊急事態が起こったからな。
まず最初にはっきりさせておきたいのが、今日観たレースはここ10年で最も歴史に残るレースだった。あまり大げさにしたくないのだが、この10年間で一番偉大な走りだった。
ーー2018年のジロ・デ・イタリア第19ステージ。みんながクリス・フルームを総合優勝候補から除外していたもんね。*第12ステージの中継で解説の土井雪広選手でさえも「フルームは終わった。フルームファンには是非とも違う楽しみを見つけてほしい」とコメントしている。
ランス:フルームのレースは終わった思っていたし、フルーム自身も半分はそう思っていたはずだ。
すごい。凄すぎる走りだった。言い表す言葉が見つからない。そして本当に凄いのは、フルームたちがこれが可能だと思い、実行したことだ。
独自の情報源から得たことだが、これはサイモン・イェーツが落ちたから咄嗟に実行した作戦ではない。すべては計画していたんだ。未舗装路の登りがあるフィネストレ峠まで、とてつもなく速いテンポで走り、サイモン・イェーツをふるい落とす。そういう作戦だった。
ーーそして落ちたね。1分差が2分になり、それが10分になっていった。
ランス:ホント驚いた。思わず君に電話したからな「おい!観てるか!?」ってな。
また、俺が何に感動したかというと、スカイのスポーツディレクターのニコラス・ポルタルだ。彼はインタビューで第3週目の展望を聞かれた際、「第3週目は第1~2週目とは異なる」とだけ答え、サイモン・イェーツの名前を出さなかった。それまでのレースを完璧に支配し、ピンクジャージを着てる選手の名前をだぞ?
つまり彼は「イェーツに第3週目は来ない」とわかっていたんだ。
ーーなるほどね。でも僕たちにはフルームがゾンコランを勝ったとき、「最低限ステージ勝利をあげられてよかったね。総合優勝は無理にしても」…って思っていたよね?
ランス:ああ。だが、ニコラス・ポルタルとフルームは違う画を見ていたのだろうな。それに3分のタイム差があったんだ。彼らに失うものはなかったとも言える。これも今日の走りに繋がった要因の一つだろう。
今日はサイモン・イェーツの他にもたくさんの敗者が生まれたわけだが、デュムランもその一人だろう。だけど、デュムランに対して批判的になりたくない。
世界で一番強い選手が、残り80km地点で仕掛けた。ついていくか・いかないか。だが、80kmを単独で逃げ切れると思うほうがクレイジーだろう。集団で追いつけると考えるのが普通だろう?そんなスピード維持できるわけがないと思ったはずだ。
だが、現実は違った。デュムランはフルームに追いつけなかった。
人は「あの時ついて行っていれば、こんな事態にはならなかったのに」と言うだろう。でも違う。そんな選択肢自体あの時のデュムランにはなかった。スカイがあんな破壊的なスピードで引き、フルームが発射する。ついていくのが必死なデュムランにそんなこと無理だったんだ。
そしてここから第二章が始まった。取り残されたデュムランと一緒だったのは、新人賞ジャージを争う二人の選手。彼らは二人間の戦いをするだけで、協力しない。
ーーだからこそ最後に抜かれたんだろうね。後ろで脚を溜めていたから。
ランス:そうだな。
ーー君はエースの力だけでなく、チーム力の重要性についてもよく話しているよね。
ランス:そうだ。明日は守るスカイに対し、サンウェブが仕掛けなければならない。
ーーそんな力、サンウェブにあるのかな?
ランス:それが問題だ。サンウェブはスカイを分裂させなければならない。果たして彼らにそれができるだろうか?わからないな。
またフルームとデュムランのクレイジーなレースだったが、サイモン・イェーツについても話しておきたい。
ーー君は「グランツールのリーダーになるには、ある程度の成熟が必要だ」と言っていた。結果的にその言葉を25歳のイェーツで目の当たりにした。まだ彼は3週間走り準備ができていなかったということだね?
ランス:第2週目を総括した回で、俺は「イェーツは力を使いすぎている」と指摘した。良すぎたんだ。力を使う必要性がないところで使いすぎてしまった。
ランス:俺はサイモン・イェーツじゃないし、会ったこともないからなんとも言えないが、彼がジロを勝つ可能性はあったと思う。25歳であっても勝つことはできる。だがタイムボーナスのためにスプリントしたり、ステージ勝利の為に力を使ったりと、ジロ優勝には無駄だと指摘できるところが3、4箇所あった。ただ、彼の走りは素晴らしかったし、レースで目立っていたし、テレビにもよく映っていた。俺はイェーツに我慢すべきだったとは言えない。
だが、(グランツールで勝つ為には)肉体的に可能なことでも、頭で制御しなければならない。「このステージで勝てるが、今日は4位でいい」と抑えることも必要だ。別にイェーツを批判しているわけじゃない。彼の気持ちはよく分かる。ピンクジャージを着ているんだ。初めてグランツールのリーダーになったんだ。いい気分だ。なんだってできる気にもなる。
だが、ハンマーを持った男は突然やってきて、選手の頭に振り下ろすんだ。
ーー前回の配信で”リーダージャージが選手の能力を高める”言っていたけど、それは同時に代償を伴うということだね?
ランス:確かにリーダージャージで向上するものは多い。だが、そのピンクや黄色、赤のジャージによるネガティブもある。
例えばリーダージャージを着用した瞬間から、レースは1時間延長される。フィニッシュしてもドーピング検査があり、プレス対応があり、ポディウムがある。一方、ライバルたちはホテルに直行し、マッサージを受ける。7時半~8時の夕食が、リーダーだけは8時半~9時に、それも一人で取ることになるんだ。そういう違いは確実に積み重なっていく。
ランス:クリス・フルームはゾンコランで勝利したが、それ以外のレースではフィニッシュ後まっすぐホテルに帰っている。これがもたらす身体への影響は小さくない。フルームだって今日の代償を払わなければならないだろう。確かにスカイは明日、(お得意の)ディフェンスモードに移行するが、たった40秒差だ。ちょっとの出来事でひっくり返る。
ーーデュムランの話をしよう。
ランス:まだ勝てる。デュムランにはまだ勝つ可能性が残っている。ただ、そのためには世界一の選手から40秒を奪わなければならないけどな。今日フルームはスーパーな走りをしたが、それを追うデュムランも相当な力を使った。一緒にいた選手たちはあまり助けてくれなかったからな。実質、二人でタイムトライアル対決をしていたようなものだ。
だが、クリス・フルームにも今日のダメージは残っているはずだ。
ーーでも明日、フルームがサイモン・イェーツのように落ちることだってありえるだろう?
ランス:ああ。その可能性は十分にある。
明日は214kmで…いまコースレイアウトを見ているのだが、こりゃ酷いな。130kmのド平坦で、ドンキーコングのような山岳3つが85kmも続く。なんでも起こりうるコースだ。どんなことでもだ。二人にはな。これはもうフルームとデュムランの二人のレースだ。
引用:RCS Sport
ランス:デュムランがフルームに勝てる唯一の要因は、フルームのバッドデイだけだろう。
ーーなるほどね。
ランス:もういいかな。行かなきゃならないんだ。何があるかって?実は俺の息子が今日高校が卒業するんだ。そして大学に行くんだ!
なんてことないと思っていたが、いざ当日を迎えてみると…何も言えない。感動で何の言葉も出てこなんだ。
おめでとう!ルーク!愛してるぜ!
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一部抜粋し、順序を入れ替え、多少の意訳をしています。