【動画】子ギツネの獲物を奪ったハクトウワシ、しかしキツネは獲物を離さず…
ハクトウワシの鳴き声を聞いた時点で、野生動物写真家ケビン・エビ氏には、これから何が起きようとしているのか、はっきりとわかった。
エビ氏は何年もかけて、米国の太平洋岸北西部で野生動物を撮影してきた。写真集「ワシの一年」を作った際には、ハクトウワシについての豊富な知識と経験を身につけた。だが、米ワシントン州サンフアン島国立歴史公園を訪れた5月19日、同氏が撮りたかったのはキツネだった。サンフアンではこの時期、子ギツネが頻繁に見られる。(参考記事:「素顔のハクトウワシ」)
その日の夕方近く、1匹の子ギツネが、捕まえたばかりのウサギを口からぶら下げ、野原を駆けていた。
そこへ、若いハクトウワシが突然急降下し、ウサギをつかんでキツネごと空中へさらった。
「ハクトウワシはキツネを脅かして、獲物を離させようとしていると思いました」とエビ氏。キツネは数秒間、ウサギをしっかりとくわえて離さなかったが、その後、地面に落ちた。
これは、エビ氏のようなプロの野生動物写真家にとっても、めったに撮影できない劇的なシーンだ。エビ氏は、頭上でハクトウワシが鋭い鳴き声を上げるのを聞いた瞬間から、カメラのレンズをキツネに向け、シャッターを切った。
「あれほど劇的なシーンを、この先また見られるかはわかりません」と同氏。
「盗み寄生」で悪名高いハクトウワシ
エビ氏がとらえた瞬間は、劇的なシーンであるだけでなく、「盗み寄生(労働寄生)」の一例でもある。(参考記事:「食虫植物が近くの植物から虫を盗むと判明、九大」)
「盗み寄生」は、宿主が労働によって得た獲物を盗んで餌とするような寄生のことで、ハクトウワシに特有の行動ではなく、哺乳類から軟体動物まで多くの動物で確認されている。しかし、その中でもハクトウワシは特に悪名高い。米国建国の父の一人として知られるベンジャミン・フランクリンは、娘に宛てた手紙で、他の動物から食べ物を盗むハクトウワシを米国の国鳥に選んだことに不満を述べている(「シチメンチョウの方がはるかに立派な鳥だ」とも書いた)。(参考記事:「ヒョウアザラシ目線で見る狩り、衝撃の映像と生態」)
また、急降下しての襲撃は、ハクトウワシが行う典型的な狩りの方法で、小さなキツネや他の大型の鳥に効果的だ。ハクトウワシが、サケを運ぶミサゴを急襲して獲物を盗むところも目撃されている。他のワシから獲物を盗むこともある。(参考記事:「【動画】ワシがワシを襲撃! 迫力の瞬間をスローで」)
「ハクトウワシは、最小限の労力で食べ物を得ることを考えているのです」とエビ氏は指摘する。
この出来事のすぐ後、エビ氏はキツネを探しに行き、けがをしていないか確認した。驚いたことに、外傷もなく平気な顔をしていた。まるで何事もなかったかのようだった、と同氏は振り返る。そして、襲撃をとらえた短い映像だけが残った。
エビ氏は言う。「物語は、ほんの一瞬で生まれるんです」