憲法9条2項がなければ、日本はアフガン・イラク・湾岸・ベトナム・朝鮮戦争に本格的に参戦していた。

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 いま、日本国憲法9条2項が邪魔だとして、2項を「改正」して国防軍と規定するとか(自民党憲法改正草案)、自衛隊の存在を明記するとか(安倍政権、新9条論)、削除する(井上達夫東大教授)というような議論が盛んです。


 どの人も9条1項は邪魔にならないというわけですが、2項があるからこそ日本の憲法は世界でも特に平和憲法と呼ばれ、日本国憲法の三大原理は国民主権、基本的人権の尊重、平和主義といわれているわけです。


 9条2項がなくなったり、変えられてしまっては、それはもうごく普通のどこにでもある憲法だし、もはや日本国憲法が特に平和主義だと言われることもなくなります。


第二章 戦争の放棄


 第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。


2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

















 去年、2015年9月に集団的自衛権の行使を容認してアメリカ軍の戦争に参戦したり、「後方支援」したりする安保法案を成立させるのに、安倍政権が最も苦労したのが、9条2項の存在でした。

 

 9条2項の条文上、自衛隊は戦力であり保持が禁止されると考えるのがふつうであるところ、戦争直後に警察予備隊を作りそれが自衛隊に発展する中で、専守防衛のための必要最小限度の実力部隊は「戦力」にはあたらないと苦しい解釈をしてきました。

 

 それを今度は専守防衛の枠を外して、日本が攻められていなくてもアメリカの戦争に参戦すると言い出したのですから、憲法学会から厳しく批判され、国民の中でも大きな反対運動が起き、今も安保法制廃棄の意見が根強いのは当然です。

 

 憲法が権力の手を縛って窮屈にさせ、もって国民の人権を侵害させないという立憲主義が最もよく機能したのが、この安保法案をめぐる9条2項の働きでした。



 

 

 

 

 

 

 ところで、アメリカは第二次大戦後、切れ目なく戦争・紛争を起こし、クーデターで他国の政権を倒すなどの武力行使を続けています(第二次大戦後、アメリカの関わった主な「戦争・紛争」)。

 

 その中で、表題の5つの戦争は、アメリカが地上軍を送るまでした大規模な戦争ですが、すべてアジアで起こされています。

 

 古いもの順に並べると朝鮮戦争(1950〜53)、ベトナム戦争(1960〜1975)、湾岸戦争(1991)、アフガン戦争(2001〜現在に至る)、イラク戦争(2003〜2011)となりますが、朝鮮戦争は法的にはまだ休戦中で、終了とは言えませんし、湾岸戦争・イラク戦争で蹂躙されたイラクはそのまま内戦が続いていますし、アフガン戦争はまさに戦争が続行中です。

 

 このようにアメリカがのべつ幕なしに戦争をするのは、戦争がないと経済が回らない「戦争中毒」の状態にあるからなのですが、日本も朝鮮特需、ベトナム戦争特需と言って、戦後の経済復興をアメリカの戦争のための注文で達成させてもらいました。

 

 日本は憲法9条、特に2項の交戦権の否認があったがため、戦争に参加することなく、経済的に需要を賄うだけですむという、軽武装経済成長主義と言われる「美味しいとこどり」の外交・平和政策で来ることができました。

 


 

 

 

 警察予備隊が作られたのも、朝鮮戦争や冷戦がきっかけでしたから、もし9条2項で手を縛られていなければ、日本はアメリカからすぐさま大っぴらに再軍備を進めるよう求められ、目の前で起こっている朝鮮戦争に参戦したでしょう。

 

 また、ベトナム戦争には韓国軍が参戦しているのですから、当然日本も参戦したでしょう。

 

 湾岸戦争以降はアメリカからの戦争への参加要請が厳しくなりましたから、9条2項がなければもちろん参戦したでしょう。

 

 日本はイラク派兵差し止め訴訟でその「人道復興支援」が実質的には参戦だとして違憲判決が出たように、建前と実態が違っている面はありますが、それでもアメリカの戦争への参加は抑制的にせざるを得ませんでした。

 

 これらはすべて憲法9条効果なのです。

 



 

 



日本会議のフロント組織「美しい日本の憲法をつくる国民の会」共同代表の桜井よしこ氏(左から2番目)が理事長、日本会議会長の田久保忠衛氏(右から2番目)が副理事長を務める国家基本問題研究所のHPから、同研究所代表団が2009年4月に訪米したときの写真。


真ん中のアメリカ人がご存知、イラク戦争を開始したブッシュ政権時代の国務副長官リチャード・リー・アーミテージ氏。




 

 

 

 もし、憲法9条2項を改変してしまえば、もうアメリカからの要請を断る歯止めがなくなります。特にイラク戦争のようにフランスやドイツが戦争に反対するような、国際的に支持を受けにくい戦争ほど、日本の参加が強く求められることでしょう。

 

 というわけで、憲法9条、特に2項のおかげで、日本はアメリカの戦争に巻き込まれずに、一人の外国人も戦争で殺さず、また戦闘で殺されないで来たのです。

 

 9条は戦争に行こうとする日本を平和に引き戻す歯止め。

 

 日本国憲法9条にだけは手を出させてはなりません。

 

 

 

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「岸信介氏は50年代、米大使館の我々によって傘下に納まった。信頼に足る忠実な協力者となった。」





 




9条があれば日本が守れるというものではないが、9条がなかったらどんどん戦争に参加しているところだったという話なんですが、この理屈がわかってもらえるだろうか。


さあ、また保守派の方の物議をかもしそうですが、彼らは憲法9条がなくても戦争には巻き込まれなかったと強弁するのでしょうか。


それとも、戦争に巻き込まれてもむしろ良かったと開き直るのでしょうか。


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