• 地域:

    東京

    よくご覧になる地域を選択してください。
    選択した地域の「番組表」が自動的に表示されます。

    現在設定中の地域 :東京(首都圏放送センター)

    一括設定

    閉じる

BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

2018年5月14日(月)

“新たな反ユダヤ主義”に揺れるドイツ

塩﨑
「特集・ワールドEYES。
けさは、ドイツで問題となっている“新たな反ユダヤ主義”についてです。
第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺『ホロコースト』。
犠牲になったユダヤ人は600万人を超えます。
戦後、ドイツではホロコーストという悲劇を許した反省に立ち、外国人の排斥や民族主義を主張するネオナチなど、極右勢力による“反ユダヤ主義”を厳しく取り締まり、差別のない社会づくりを進めてきました。
しかし、そのドイツで“反ユダヤ主義”が違った形で表面化し、波紋を広げています。
先月起きたある事件について、藤田さんからです。」

藤田
「こちらは、先月(4月)17日、ベルリンで撮影された映像です。
イスラエル人の男性が襲われている映像なのですが、暴行しているのは、ドイツに滞在するシリアからの難民です。
この男性が襲われるきっかけとなったのが、こちら。

ユダヤ教徒であることを示す、伝統の帽子「キッパ」です。
実は、襲われた男性自身はユダヤ教徒ではなかったのですが、この「キッパ」をかぶっていたため、信者だと思われて暴行を受けました。
ユダヤ教徒を狙った暴行が街中で公然と行われた事実はドイツ社会に衝撃を与えました。
ドイツでは最近、一部のイスラム教徒の移民や難民の間で“反ユダヤ感情”が高まっており、ユダヤ料理店に対する嫌がらせや脅迫、さらに、小学校でのイスラム教徒の子供によるいじめなど、差別的な行為が相次ぎ、問題となっています。
このため、ユダヤ人の団体は『キッパ』をかぶらないようにという異例の呼びかけまで行っています。」

塩﨑
「先日、この番組のニュースでもお伝えしましたが、ベルリンの事件を受け、“反ユダヤ主義”に抗議する集会が、先月25日にドイツ各地で行われました。
その様子を伝えるドイツZDFのリポートをご覧ください。」

“新たな反ユダヤ主義” ドイツ各地でデモ

ベルリンで、およそ2,000人が抗議デモを行いました。
多くがキッパをかぶり、反ユダヤ主義への反対の態度を示しました。

ユダヤ人中央評議会 会長
「ドイツで暮らすユダヤ人は、常に不安と脅威を感じています。
こうした認識が広まることを期待したいです。」

多くの市民と共に政治家や教会関係者、イスラム団体の代表がベルリンにやってきました。

デモ参加者
「宗教差別の根絶を示したいのです。」

デモ参加者
「反ユダヤ的な発言や話題が増えています。
これを明確に反対するのはいいことです。」

抗議のきっかけは、このビデオです。
ベルリンでキッパをかぶっていたイスラエル人をシリアの難民が暴行し、侮辱したことです。
こうした反ユダヤ的な行動への抗議デモは、ケルンやマグデブルグ、ポツダムなどでも行われました。

デモ参加者
「キリスト教とユダヤ教は関係深いです。
反ユダヤ的な干渉は許されません。」

デモ参加者
「ドイツでは、宗教の自由があります。」

ベルリンでは、学生たちが道でキッパを配りました。

「人々が連帯する姿を示したかったのです。
また、誰もが安全な場所であることも。」

この日、多くの市民が平和の象徴として「キッパ」をかぶりました。


ドイツ市民が持つ ユダヤ人への連帯

塩﨑
「スタジオには、ホロコースト研究やドイツ現代史に詳しい、学習院女子大学教授の武井彩佳さんをお迎えしました。
リポートでは、ユダヤ教徒ではないドイツ人が『キッパ』をかぶって、ユダヤ人への連帯を示すシーンがありました。
ドイツ市民にとって、今回の事件はインパクトが強かったのでしょうか。」

学習院女子大学教授 武井彩佳さん
「ドイツはホロコーストという過去がありますので、ユダヤ人の保護に関して極めて神経質な国です。
今回のように、ユダヤ人を直接狙った攻撃というのは許容されるものではありませんので、社会のリアクションも大きくなっていると思われます。」

イスラム教徒の反ユダヤ感情

藤田
「ドイツで“反ユダヤ主義”というと、ネオナチというイメージがありますが、なぜ、イスラム教徒の難民や移民がユダヤ人に反感を持つのでしょうか?」

学習院女子大学教授 武井彩佳さん
「反ユダヤ主義と言いましても、ネオナチや右派によるものと、イスラム教徒の移民や難民によるものでは違いがあります。
まず、ネオナチなどの右派によるものなんですが、これは、ナチズムの過去に関する言動が多いわけです。

例えば、ナチ思想を掲げたりですとか、『アウシュヴィッツにガス室はなかった』といった歴史修正主義的な発言ですとか、『ホロコーストをユダヤ人は利用している』というような主張に体現されています。
これに対して、イスラム教徒の反ユダヤというのは、主にパレスチナ問題に起因する“反イスラエル”です。
最近、ドイツに大量の移民・難民が流入しましたが、彼らの出身国はイスラエルと、長年、対立してますシリアなどを中心としてますので、彼らはイスラエルのユダヤ人でなくてもユダヤ人を敵視する傾向があります。
例えば2014年にイスラエルはガザ攻撃を行いました。
この際に、ドイツでもイスラム教徒を中心にした“反イスラエル”デモが起こっているんですけど、この時にも『ユダヤ人はガス室へ!』といった、極めて過激なスローガンがみられています。
先ほどのニュースでもありましたが、エルサレムの首都承認ということもありますので、現在、極めて、反イスラエル=反ユダヤの感情が強まっているということが言えます。」

ドイツ社会におけるユダヤ人とイスラム教徒

塩﨑
「戦後、“反ユダヤ主義”を押さえ込んできたドイツ社会で、イスラム教徒の移民や難民やユダヤ人を攻撃する構図が、なぜ、生まれてしまったのでしょうか?」

学習院女子大学教授 武井彩佳さん
「イスラム教徒もユダヤ人も、ドイツではマイノリティなんですが、この2つの集団が置かれてきた状況というのはかなり違います。
まずドイツですが、ホロコーストへの『償い』として、ユダヤ人を手厚く保護してきました。
具体的には、迫害を逃れて来るユダヤ難民とか、移民を積極的に受け入れると。
また、反ユダヤ主義をなくすための教育を徹底してきました。
これと同時に、ユダヤ人に対するヘイトスピーチを処罰してきたわけです。
ですので、戦後、ドイツはユダヤ人と共に“ホロコーストという過去”を共有し、これと向き合うことで社会的な規範であるとか、民主主義を育んできたわけです。
一方、イスラム教徒の労働移民に対しては、ドイツは積極的な社会統合は行ってきませんでした。
現在、ドイツのイスラム教徒は約500万と言われていますけど、このうち230万人はトルコからの労働移民の背景を持つ人たちです。
こうした移民は、短期的な滞在しか想定されていませんでしたので、ドイツ社会の中では、“将来的な国民”というよりは、“他者”として扱われてきたと言えます。
実際にユダヤ人と比較しますと、彼らの入国管理や国籍付与の点ではかなり壁が高かったというのも事実です。」

塩﨑
「違いがあるわけですね。」

学習院女子大学教授 武井彩佳さん
「制度的にも、ユダヤ教団というのはドイツで公認されているんですが、イスラム教団は、1つの例外を除き公認されておりません。
つまり、構造的にも、彼らがドイツ社会に溶け込みにくい状況があると。
ですので、イスラム教徒にとって“ナチズム”とか“ホロコースト”と言われても、自分たちの歴史ではないといった感覚があります。
このため、ドイツ社会が普通に持っているユダヤ人への配慮というものを欠く場合があると。
結果として、例えばパレスチナ問題が緊迫化しますと、ユダヤ人に対する直接的な攻撃であるといった形で、彼らの“反ユダヤ”というのが現出することがあります。」

藤田
「このように、イスラム教徒の移民や難民の反ユダヤ的な行為が相次ぐ中、ドイツのメルケル首相は、先月の事件を受け、次のように述べています。」

ドイツ メルケル首相
「ドイツ市民やアラブ人社会にも、残念ながら反ユダヤ人の感情があります。
過激な反ユダヤ主義は決して許しません。
連邦政府は、あらゆる措置をとります。」


“新たな反ユダヤ主義” ドイツで高まる警戒感

藤田
「政府としても、この問題に対して、何とかしなければという危機感も感じるんですけど、具体的な措置や対応は進んでいるのでしょうか?」

学習院女子大学教授 武井彩佳さん
「この5月1日より、内務省に『反ユダヤ主義問題担当官』というポストが新設されていまして、政府も対策を進める姿勢を示しています。
ただ、実は、イスラム教徒によるものと見られる反ユダヤ主義的犯罪というのは、実際には、そこまで多くありません。

去年(2017年)1年で1,453件の反ユダヤ主義的な犯罪があったわけなんですけど、これは1日で約4件発生している計算になりますが、実は、その9割以上は、ネオナチなどの右派によるものなんです。
それにも関わらず、では、なぜイスラム教徒による“反ユダヤ主義”がドイツでクローズアップされているのかと、我々は問う必要があります。
これは、1つには、ドイツの右傾化があると思います。
例えば『反移民』とか『反難民』の風潮ですね。
この中で、イスラム教徒は歴史であるとか、価値観を共有してない異質な存在として位置づけられています。
このために、イスラム教徒による“反ユダヤ主義”が余計に目につくという状況があると思われます。」

ユダヤ人が標的に フランス・イギリスでも

塩﨑
「移民や難民の流入への対応はヨーロッパ全体の問題ですけど、ほかの国では、このようなイスラム教徒による“反ユダヤ主義”というのは見られるのでしょうか?」

学習院女子大学教授 武井彩佳さん
「実は、お隣のフランスの方がより暴力的な形で出てきておりまして、例えば2015年のフランスの無差別テロの際には、ユダヤ人の所有するスーパーが狙われていますし、最近でも、パリで“反ユダヤ主義”を理由とする殺人事件が1件起きています。
ドイツでは、殺人に至る犯罪というのは発生していませんので、そういう意味では、ドイツ政府のユダヤ人の保護が機能しているともいえます。」

“新たな反ユダヤ主義” 乗り越えるには

塩﨑
「けさ、番組のトップでお伝えしたように、アメリカ大使館が14日にエルサレムへ移転すると、イスラム教徒の“反ユダヤ”感情はますます強くなると思われます。
戦後、常に“反ユダヤ主義”と戦ってきたドイツが、こうした状況をどう克服していくのか注目されますよね。」

学習院女子大学教授 武井彩佳さん
「ドイツ政府としては、国内のイスラム団体であるとか、宗教指導者と協力して、難民や移民の社会統合を進めていくしかないと思います。
ただ同時に、暴力やヘイトスピーチを迅速に処罰することも大事です。
最終的には、ドイツがさまざまな民族、宗教、そして異なる歴史を背負った人たちが暮らす社会であるということを、再度、確認する必要があるのではないでしょうか。」

ページの先頭へ