目覚めた時……ハルヒと同じ毛布の中にいた。

 疲れて横になったまま眠ってしまった。

 それだけしか記憶にはない。

 そして目の前にいるすやすやと寝息を立てているハルヒは……無垢な子供のようだった。

「ん? んあ……おはよ」

 オレの身動きに気づいたのか……程なくして目を覚まして小さく欠伸をした。

 寝起きのハルヒの顔を見るのは何回目だろうかという意味もない疑問に自答する。

 病室、文化祭の当日の朝、泊まりがけで創った映画……つまり3回目か?

 まあ、いいさ。そんなコトは。

「んんんっ! お腹すいたわ。でもその前にシャワーでも浴びてすっきりしましょ」

 ハルヒは大きく背伸びをし、ついでにオレを押しのけて起き上がり、昨夜から明け方までにオレとシテいたコトなど全く記憶にないような無邪気な笑顔で提案した。

 

 2人でシャワーを浴び、お互いの身体を洗いあった。

 エロいシチュエーションではあるが全くエロくはなく、まるで子猫がじゃれ合っていたようだと言い訳しておく。

 誰に対する言い訳なのかは保留する。

 

 そして服を着てホテルを後にした。

 ……のだが、オレの脳裏には疑問が浮かぶ。

 果たしてコレで良かったのだろうか? という素朴なる疑問が。

 ずんずんと先を歩くハルヒはナニか憑き物が落ちたかのようなサバサバとしていたが、オレはといえばその分だけナニかが憑いてしまっていくかのような気分になっていく。

 さて? この感覚は何だろう?

 などと得体の知れない何かに逡巡するオレの気分を全く気にすることなくハルヒは晴れ晴れとした顔で提案した。

「お腹すいたわ。ハンバーガーでも食べましょ」

 

 斯くしてオレはハルヒと早朝のハンバーガー屋に立ち入ることとなった。

 駅前のハンバーガー屋は2階建てになっており、1階はカウンター。幾つかの客席。そして2階が客が多い時用の客席になっている。

 ハルヒは「あたしはエビのやつ。セットでね。じゃ2階にいるから」と自分の注文だけ決めるとさっさとカウンター横の階段を上って行きやがった。

 ふう。どうやら。さっきのはオレの思い過ごしのようだ。

 自分勝手と厚かましさは何一つ変っちゃいねえ。

 

 オレは自分用のチーズハンバーガーとハルヒご注文の品をトレイに載せて2階へ行くとハルヒは椅子には座っておらず、ウィンドウ前のバーの上にいた。

 1階にも殆ど客がいないのにワザワザ2階に行き、さらには椅子にも座っていない。

 とことん自由奔放なヤツである。

 

「あ、ありがとね」

 どういたしまして。

 トレイをウインドウ前の狭いカウンターに置き、ハルヒの横に座る。

「あ、失敗したわ」

 なにをだ?

「あんな部屋に泊まれたんだもの。朝食もついていたわよね。きっと」

 分不相応だろ? オレ達にはこんな朝食がお似合いさ。

「だね。それじゃ食べましょ」

 しかしだ。なんでこんな所に座っているんだ? 椅子なら余っているだろう?

 閑散としている背後を指差してやる。

 しかしハルヒはちょっとむくれたような視線でオレの疑問を射貫いた。

「あのね? アンタが昨夜、しこたま叩いてくれた御陰でお尻が痛くて座れないのよっ!」

 ああ。なるほどね。それで太股辺りに体重をかけられるコッチに座っているのか。

「そうよ。悪いと思っているなら少しはあたしの身体を支えなさいよっ!」

 はいはい。解りました。

 と、何気にハルヒの腰に右手を回そうとした瞬間っ!

 ハルヒがオレの手首をロックし自分の腰に巻き付けたっ!

 と、勢い余って手はハルヒのスカートの中へ突入し、さらにはっ!

 ショーツの中にまで突入してしまったっ!

 

 え? 何でそうなる?

 という疑問は愚かであろう。相手はハルヒである。

 勢いが余ってドミノ倒しの先に核爆弾搭載の大陸間弾道ミサイルの発射ボタンがあったとしてもおかしくはないのである。

 ……実際、昨日、世界を崩壊しかけたのは間違いないことでもあるし。

 しかし、今回の出来事はハルヒにとっても予想外であったらしく、暫し硬直していた。

 オレはといえば、手を抜くべきか、しかし、それにはハルヒの万力のような馬鹿力をどう解放させるべきか、そしてそれにはどの様な話をすればよいのかを考え倦ねていたその時っ!

 ハルヒはオレの右手を太股を閉じてロックし、さらにはオレの左腕を両手で掴んで自分の身体に引き寄せた。

 引き寄せた時の多少無理な体勢と、絶妙なタイミングによりハルヒのブラウスの胸のボタンが外れてしまい、オレの左手はその隙間に突入。

 剰えブラのカップ内にまで突入を果たし……結果としてハルヒの体格に似合わない無駄にデカい胸を直接触るという結果となってしまったのであるっ!

 

 何故、その様なコトをハルヒはしたのであろうか?

 そんな疑問を投げかけたとしてもハルヒは「さあ? 引き寄せたかっただけよ」と答えるであろうし、ハルヒ以外の人間には返答不能である。従ってこの行為には意味など全くないと断言できる。

 

 断言できるのだが……

 結果としてオレの右手はハルヒの秘裂を直接触り、そして左手はハルヒの胸(右の方)を直接触っている状態と相成ったのである。

 朝っぱらからツレのアソコと胸を直接、触っている馬鹿な男。それが今のオレの姿であろう。

「あのさ。あんたさ、昨日の……」

 なんだ? というかこんな体勢で何一つ顔色変えずにハンバーガーの包みを開けられるな。オマエは。

 というか、それはオレが頼んだチーズハンバーガーだぞ。

 なんでオマエが包みを開ける?

「アンタの両手が塞がっているからでしょ。はい。あーん」

 ハルヒはオレがそうしたかったので仕方なくさせて上げている女を演じて紙の包みを半分だけ解いたハンバーガーをオレの眼前に持ってきた。

 両手が塞がっているのは事実だ。仕方ない。

 ハルヒの勧めに従い、ハンバーガーに齧り付く。

 実際、腹が減っていたのでかなり美味く感じる。

「でしょ? 空腹に勝る調味料はないわよね」

 ハルヒはオレが囓ったハンバーガーにそのまま囓りついた。

 おい。それはオレのだぞ。

「いいじゃない。あたしのも半分上げるから」

 ハルヒが咀嚼するごとに身体を揺らしている。

 ワザとか? いや。昨夜のことで身体の平衡感覚に若干の支障を来していたのだろうと思うことにする。

 いや思いたい。

 何故にそう思いたいかというとだ。

 反射的にハルヒの身体を両手に力を入れて支えるようになり、結果としてっ!

 ハルヒの胸と秘裂を揉むという結果になっているからであるっ!

「あのね。昨夜あんなに自分でシテいたのに、今揉むというのを躊躇うのは何故なの?」

 そりゃ、人の目があるからだ。

 と声に出してから確認すれば……2階には殆ど客はいない。

 オレ達がいるバーカウンターのハルヒ側は壁である。そして目の前のウインドウは足元までガラスだが、眼下の通りを歩く方々は、まさか自分達の頭上で朝っぱらから痴情なる行為が行われるとは露程にも思っていないようで見上げるようなコトはしない。さらに通りの向こうは駅でありコッチを見る人影も見あたらない。

 見られたとしてもハルヒが堂々とハンバーガーを食べている以上は、隣で抱き着いているように見える男(オレのことだ)の指が何処を触っているかなど気にもしないだろう。

「そういうコト。ということで黙って食べなさい」

 ハルヒはチーズハンバーガーの殆どを平らげて自分のエビのハンバーガーの包みを開けた。

 はあ。勝手にしてくれ。

 そういや、さっき何を言いかけた?

「さっき? ああ、アンタに訊きたかったんだけど」

 なんだ?

「昨日、五妃ちゃんを連れ去ろうとしていたヤツらに向かって何と言ったの? ソバメっとかって言ってなかった? 何それ?」

 あ。そうか。コイツには傍女制度は何一つ説明していない。

 それはだな。オレの両腕に五妃言うところの「座敷童女」が宿り、その結果としてオレと関係した方々は傍女としてオレに仕えることになるらしい。結論から言えば朝比奈さん、鶴屋さん、御厨雛さんに森園生さんと黄緑江美里さんが傍女となっている。そうそう。長門や古泉、それに佐々木ももちろん傍女だ

 ……なんて言える訳がねえっ!

「なによ? 言えないことなの?」

 じとっと湿度100%の視線で睨む。

 えーとだな。というか、取り敢えず睨むな。頼むから。

「睨まれたくなかったらちゃんと揉みなさいよ。感じさせるように」

 はい。では、ちゃんと……

 

 えーと。

 

 ……こんなコトで良いのだろうか?

 悩んでいても事態が変ることがないと思われる。仕方なしに本人が求めるままに……それなりに意識して揉むことにした。

 くちゃくちゃという音がハルヒの口の中での咀嚼の音なのか、それともオレの指がハルヒの秘裂で立てている音なのか解らなくなっていた時、ハルヒはもう一度問い直した。

「ん……ん。ん。で? どういう意味なの?」

 ソバメか? それはだな。えーとだ。

 そればだな「オレの傍にいる知人というか友人というか、とにかく勝手に何処かへ連れ去ろうとしてんじゃねぇ。こんちきしょうめっ!」と言おうとしてのが勝手に口がかなり短縮してしまい、出た音が「ソバメ」という単語だ。

「……ん。ふーん。そんなコトだったの? ……ん」

 吐息混じりながらも呆れたように納得するハルヒであった。

 なんかどっかの陳腐なAVを再現しているような状況だが、ハルヒはエビバーガーをオレと半々で食べきり、ポテトを自分の口とオレの口へと運びながら別な質問をした。

「……んん。んで? ……あん。あんた、コレからどうするの? ああん」

 喘ぐか質問するかどっちかにしろ。

「んんん。そんなコト……どっちでも良いじゃない。んあ……んっ!」

 ハルヒは一度身体を痙攣させると……オレの右手を両手で押さえて……ふっと脱力してオレに身体を預けてきた。

 暫くしてからハルヒはオレの右手を解放……するかと思ったら、再び両手で掴まえて自分の口へと持っていき、右手の指を一本一本舐めた。

 そういうと仕草はいじらしいな。

「なによ。あたしは自分でしたことは自分で責任を取りたいだけよ」

 そうか? オマエがしでかした後始末でオレや長門や古泉や朝比奈さんまでいろいろ走り回って……とも当然言えない。

「でさ、これからどうする?」

 指を舐め終り、コーラをしゅごごっと飲み乾してハルヒは問い直した。

「あたしとしては……このままココにいても良いけど?」

 あのな。そういう訳にはいかないだろ?

 いい加減にしろという意味を込めて左手を服から抜いてデコピンしてやった。

「痛いわね。んー。じゃどうする?」

 オレとしてはバカップルの真似を止められるんなら何でも良い。

 オレの冷静なる指摘はハルによるデコピンの報復を招くコトとなった。

 

 

 別にどうする予定もなく、ハルヒとオレは鶴屋邸へと向かう事にした。

 ハルヒは皆の無事を確認したかったらしい。オレもそれは確認したいし、何より閉鎖空間やら神人狩りの首尾も訊きたかったしな。

 脳内通信で訊けば良かったのかも知れないが、やはりハルヒが横にいると何となく使いづらい。

 

 さて。

 電車に乗り、最寄りの駅から豪勢にもタクシーで鶴屋邸へと辿り着く。

 さらに珍しいことにタクシー代はハルヒが支払ったのだが……その支払っている間に鶴屋邸の大きな門がぎーっという歴史を感じさせる音と共に開き、出迎えてくれたのは……誰あろう。鶴屋さんその人である。

「きゃはははっ! ごくろうさん。ハルにゃん、キョンくんっ! 見事なるシンガリ。お見事っ! ささっ。こっちへどうぞっ! ずずずいっと入っちゃってっ!」

 晴れやかなる鶴屋さんの笑顔に迎えられたのだが……何故か浴衣姿である。

 

 

 何故に鶴屋さんが浴衣姿だったのかというとだ。

 皆で朝風呂に入っていたらしい。

 しかし、タイミングがいい人だ。感心してしまう。ひょっとしてタクシーの運転手から何らかの連絡が入っていたのかも知れないが、そんなコトはどうでも良いし、そうだったとしてもオレには何の御利益がある訳でもないから気にしないことにする。

 

 しかし何故に朝から風呂に?

 いや。そんな疑問こそどうでも良い。

 さっさと一風呂浴びることにしたい。

 シャワーを浴びた後だが、身体の節々に疲れが残っている。

 こういう時こそ風呂にゆっくりと浸かるべきだろう。

 

 そして朝風呂と言っても露天の温泉である。

 ますます以て有り難い。

「さささっ! 遠慮無くどうぞっ! あ、みんな湯浴着を着ているからっ! キョンくんも遠慮無く入りなっ! ただし、男はソッチの着替え室でね」

 入り口が男女別であったが中は同じ場所に辿り着くという構造で、オレが湯浴着に着替え終って向かうとハルヒは既にお湯の中で朝比奈さんと談笑していた。

 なるほどと思う。

 昨夜の写メールの場所はここであったか。

 やれやれと湯に浸かろうとした瞬間っ! 得体の知れない何かがオレを捕らえて包んで離さないっ!

 な、なんだ? と狼狽しながら見渡すと……ハルヒを除く全員のオレの中のナニかを射貫くような視線にぶち当たった。

 えーと。オレは何をしたと?

 と、視線を泳がせた先、湯煙の中に見つけたのは……黄緑さん?

「はい。昨夜からコチラに御邪魔させて頂いてます」

 なんで? と問うのはオレの役目ではない。

 オレの記憶に従うならば朝倉と入れ替わりに閉鎖空間に赴き、神人狩りをしたのは黄緑さんのハズである。ならばここにいてもおかしくは無いのだが、おかしいと思う人間がこの場には独りだけいる。

「アレ? 黄緑さん? 何でいるの?」

 ハルヒにしてみればSOS団には無関係の人間。

 えーと。言い訳するのはオレの役目か?

 と、いつもの流れに沿った役目に思考能力を費やそうとしていたのだが、黄緑さんがあっさりと返答していた。

「鶴屋さんと生徒会の運営やらクラス委員としての連絡事項やら色々ありまして……昨日は鶴屋さんが学校に来られていなかったモノですから。コチラにお邪魔しましたところ皆さんがお泊まりとのことでしたので、厚かましいとは存じましたが私も甘えてお泊まりさせて頂きました」

 流石は黄緑さんである。流暢なる言葉遣い。

 オレとしては聞き慣れないレベルの言葉というか言語なので正しいのかどうかは知らん。

「なんだ。そうだったの」

 あっさりとハルヒは納得し、朝比奈さんとの談笑へと戻った。

 ……のだが。

 何となくオレは居心地が悪い。

 その原因は何だろうと……改めて見渡すと御厨雛SE以下全員(ハルヒと朝比奈さんを除く)の絶対零度近くに冷え切っていながらも超新星爆発寸前の星の断末魔の叫びのような視線にぶつかった。

 あのー。なんでしょう? 閉鎖空間はどうなりました?

『閉鎖空間は消滅しました。ボクの感覚が間違いないのでしたら』

 それは良かった。

 ……感覚って何だ? 古泉。能力の間違いではないのか?

『いえ。感覚です。能力ではなくですね。あ、ご心配なく。実際に閉鎖空間が消滅したことは組織の他にも朝倉さんや黄緑さん、御厨雛SEさんも確認されています。そして詳細に申し述べさせて頂くとすれば閉鎖空間が消滅したのはアナタが涼宮さんのアソコを激しく揉んで気絶させた辺りか、さもなくば最後の普通に触れあっていた辺りですけどね。時間的には』

 えーと。何が言いたい?

『別に改めて言うほどのことではありません。が……』

 奥歯にナニかを挟んだような言い方は止めろ。

『では、率直に。アナタが傍女ではない誰かと関係した時、ボク達、傍女はその感覚を共有することとなります。ただし、アナタ視点でね』

 それで?

『そしてアナタが傍女の誰かと関係していた時、他の傍女はアナタに関係している傍女と感覚を共有することとなります。これは既に申し上げていたはずですが?』

 そんなコトは……確かに言われたような気がする。

 で?

『最初は……涼宮さんは傍女ではありませんでした』

 確かにそうだろう。

『つまりボク達は涼宮さんと関係している感覚に襲われていたのです』

 なるほどな。

『女性であるボク達が同じ女性である涼宮さんと関係する。なかなかシュールだと思いませんか?』

 えーと。それに関しては「仕方あるまい」という言葉しか浮かばんが?

『まあ、それは置いておきましょう』

 言いたいことがあるならさっさと言え。

『では、単刀直入に。涼宮さんがアナタに従順した時、つまりは隷属となることを受け入れた時、それは傍女となったことを意味します。つまり……ボク達はアナタに調教されている感覚に襲われていたのです。昨夜から明け方まで。絶え間なく……ね』

 なんだと?

『御陰様で……鶴屋家の皆さんに用意して頂いたシーツの全てと布団を何組かを……』

『汚してしまったのさ。私達の歓喜の涙でね。もっとも泣いていたのは瞳だけではなく……アソコもだが』

 割り込んできたのは御厨雛SEか? 単刀直入にソッチに話を……と突っ込もうとした時、脳裏にとある映像がフラッシュバックした。

 あの陳腐なAVのワンカット。調教されてしまったうら若き娘達が調教から解放された夜に更なる刺激と調教を求めて互いの身体を刺激し合うシーン。

 それが……目の前の方々達の映像へとモーフィングされて……身悶える姿へと。

 そんなコトが?

『そうだ。私達は……できることならあの場に駆けつけて一緒に……君にシテ欲しかった。それが偽らざる素直な気持ちだ』

 ……本当か? 御厨雛SE。

『そうよ。アソコが感じて感じきれなくて……仕方ないから温泉に浸かっているのよ』

 どういう意味だ? 朝倉。

『つまりだ。僕達は温泉に浸かっていないと……濡らしてしまって仕方ないんだ。下着とか。とにかく服をね』

 そういう意味か。解りやすかった。ありがとう。佐々木。

 って! おいっ!

『驚く必要はない。私達は私達ができるだけ平穏でいたいと考え実行しただけ』

 そうか。長門。

『つまり私達は待ちきれないのです』

 えーと。その声は黄緑さん? 何が待ちきれないのでしょ?

『貴方様に……調教される夜をです』

 そうでしたか。森園生さん。って!

『つまりだ。キョンくん。あたしたちは君がここに来るのを待ちわびていたってことっさっ!』

 鶴屋さんが明るく突っ込んでくれた。鶴屋さんにしては珍しいことに脳内通信で。

 あまりの明るさにそれまでの淫靡な会話を……忘れたかったが愚直なるオレの脳味噌はしっかりと記憶していた。

 えーとだ。つまり?

『朝のうちはまだ我慢できたんですけどね』

 なんだ? 古泉?

『君があんな所で……』

 あんな所とは? ハンバーガー屋ですか? 御厨雛SE?

『あんな風に刺激するなんて……』

 それは不可抗力だぞ。朝倉。アレはハルヒが……

『不可抗力だったとしても感覚は僕達にしっかりと伝わっている』

 やっぱり、そういうコトだよな。佐々木。

 

 あれ? つまり?

 ……げ。

『お解り頂けたようですね?』

 ……はい。解りました。森さん。

『つまり私達がこの温泉に浸かっているのも……不可抗力なのです』

 そういうコトですよね。黄緑さん。

 

 脳内に映像がシミュレートされてしまった。

 朝起きて一息ついた皆様方が、オレがハルヒの胸と秘裂を触った瞬間に身悶える姿が。

 そして鶴屋さんが「温泉に浸かろうっ!」と身悶えながら導く様を。そして身を震わせながら温泉へと急ぐ皆様方。

 

 ……えーと。すみません。

『気にすることはない。後で……それぞれに可愛がって貰えればソレで良い』

 皆を代表した感じで御厨雛SEが淫靡な視線でオレを射貫く。

 はあ……解りました。

 ははは。やっと、ハルヒと関係して終わりかと思ったらボーナスステージがあったとは。

 お釈迦さんでも気がつくまい。

『あら。後でするのがそんなに嫌なら……ここでシテ貰っても構わないわよ?』

 どういう意味だ? 朝倉。

 ハルヒがいる目の前で乱交パーティでも繰り広げようというのか?

 男がオレ1人だけでも乱交というのかどうかは知らんが。

『そんなコトはどうでも良いわよ』

 そうだな。

『でさ……キョンくんの指、指のオーラであたし達を慰めてくれない?』

 指のオーラ?

 えーと。アレか? オレのを直接入れずに指でも同じ感覚を得るというオーラ。

 確かにそんなコトがあったな。だがアレはツインズ達のサポートがあってだな……

『ツインズちゃんなら隣にいるわよ』

 ん? と横を見るとハルヒに不自然に思われない程度に離れた場所にツインズがいた。

 そういえば傍女用脳内通信はコイツらの能力だったな。

『んじゃ、宜しくね』

 朝倉が意味ありげにウインクして、ツインズ達が「どうしますか?」と曰くありげな視線をオレに向けて、仕方なしにオレは首肯した。

 仕方あるまい。

 最後まで付き合うさ。

 

 オレの指の感覚が湯の中をかき分けて進み……目的地へと到達した。

 長門有希、古泉五妃、朝倉涼子、佐々木、御厨雛SE、森園生、黄緑江美里さんに鶴屋さん。

 事情を知らないハルヒと、ハルヒとの会話に勤しんでいる朝比奈さんは除外した。

 ……つもりだったのだが。

『すみませんが宿主様』

『全ての傍女には須く平等であるのが基本ですので』

 やはり朝比奈さんにも到達してしまったようで、不意に目を閉じて……小さく歓喜の呟きを上げて仕舞われているっ!

 ハルヒは?

 恐る恐るというか注視していると……ナニかに感じ入っているようで恍惚としている。そしてきょろきょろと辺りを見渡してからオレの視線に気づき、軽く睨むと朝比奈さんとの会話を再開した。

『涼宮ハルヒは「やだ。変なこと思い出しちゃった」と申しております』

『そして「変なコトってなんですか?」という朝比奈様の問いに対して「んん。なんでもないちょっと寝不足なのよね」と返答しています』

『察するに……今起きていることは脳内での再現と考えているようです』

『ある意味というか、やはり涼宮ハルヒは天邪鬼の権化というべき存在です』

 なるほどな。自分の身体の感触に恍惚として、オレは何処だと探し、……手とかが届くには有り得ん距離だと判断し、オレを軽く睨んだと。

 そんなところだろう。

 しかし……妙なところで常識に縛られた発想しかしないヤツだな。

 改めて感心してやろう。

 

 ……などと冷静でいたのはオレとツインズだけのようで、見れば他全員は目を閉じて感じ入っている。

 鶴屋家の庭先の露天の温泉で妙齢の女性達が桃色の吐息を漏らしている。

 いや、吐息を漏らさないように感じ入っている。

 なかなかシュールである。

 

『ちなみに』

 なんだ? ツインズ?

『私達の能力により宿主様の指のオーラは先端が複数に分れて傍女様達の秘裂の全てに』

 えーと? つまり?

『馬鹿ね。あたしたちの全てをキョンくんのアレで掻き回されているような感じなのよっ! あ、ああんっ! っく。もっと……』

 悶えながら報告しなくても良い。朝倉。

『つまり……こんな感じ』と長門の冷静なる声が脳裏に響いたと思った時、オレのが何かに包まれる感触。さして次の瞬間っ!

 凄まじき衝撃と言っても決して過言ではない感覚がっ!

 こ、これはっ!?

『長門様により全員の感触を宿主様にフィードバックされています』

『以前に体験されているはずですが?』

 え? えーとだ。思い出した。確かに長門との間でその様なコトがあったっ!

 しかしっ! 長門。こんな時にっ!

『私だけではない』

『そうだ。私達も……』

『キョンくんに返して上げてるのよっ!』

 御厨雛SEと朝倉の声をメインに全員の声が脳裏に響いた。

 

 こんな事がこんな所でっ!

 まるで温泉が傍女達の秘裂の中でソコに全身で浸かっているような感覚っ!

 

『あ、ああんっ! あたし達だって……キョンくんので中を……それだけじゃなくて……キョンくんので全身をなで回されている……そんな感じ……あ、あ、ひあんっ!』

 だから悶えながら報告しなくても良いっ! 朝倉っ!

『ちなみに』

『過日、宿主様は水の妖女とも契られましたので、宿主様と同じ水に浸かっておられる方々全てが宿主様の意のままに……』

 そんな効能をこんな時に冷静に報告しなくて良いっ! ツインズっ!

 

 ハルヒに気づかれなければいいのだが……と、確認するとハルヒもまた何かを耐えているような感じようとしているような感じまいとしているような……

 疑問に思っていると突然ハルヒが「み、みくるちゃんっ! 相変わらずデカい胸ねっ!」と朝比奈さんにセクハラを始めやがったっ!

 朝比奈さんは「え? ええっ! あ、あ……ダメ。ダメですぅ。ああんんんっ!」とオレのオーラの感触とハルヒのセクハラ攻撃により息も絶え絶えでおられるっ!

 えーと。指のオーラを止めるべきなのか、水の妖女の効能を止めるべきなのか、それともハルヒを止めさせるべきなのかを逡巡していると……

「ひ、ひあ、ひあぁんっ!」

 朝比奈さんの悩ましげな声と共に朝比奈さんを抱きしめているハルヒも共に果て……さらに全員が悩ましげな桃色の吐息と共に果て……その全身の衝撃がオレへと返り、オレもまた果ててしまった。

 

 暫く誰も声を出さない。

 ふう。なんでこんなコトになっているんだろうなあ。

 

『そんなコトよりもう一度しましょ』

 あのな朝倉。そんなに立て続けにするようなモノじゃないっ!

『そうか? 私としては君が放出した体液の中に浸かっている程まで続けたいのだが?』

 御厨雛SEが湯の中から意味ありげに手を上げ、顔の前に翳してから指を舐め上げた。

 悩ましげに。

 

 あのですね。人間の体力というのはそんなに続きません。というか、オレのがそんなに出続ける訳がないでしょうにっ!

 

 などと無意味すぎる脳内会話を断ち切るかのように……突然、長門が立ち上がった。

 実際、長門に救われたと言うべきだろう。

 このタイミングで止めなければエンドレスの快感の輪廻により全員がユデダコになっていたかも知れない。

 後光が差して見えるぜ長門。いや、実際、濡れて半透明となった湯浴み着が悩ましい。

 いや、そんな感想なんかはどうでもいい。

 

「アナタに報告すべき事がある」

 湯の中を歩き進み、普通に音声で告げた相手は……ハルヒだった。

 

 

 

 そして……

 今、オレ達は墓地の中を歩いている。

 長門がハルヒに報告したこととは……つまり長門のこの世界での過去であり、そして皆で墓参りをしたいという要望だった。

 皆と言っても黄緑さんはSOS団とは現在のところ(ハルヒ視点では)無関係なので早々に帰宅された。

 そしてSOS団とは無関係ながらも古泉の付き添いと言うことで森さんは同行しているし、鶴屋さんは名誉顧問という肩書きに従って一緒に行動している。

 つまるところ、黄緑さん以外の全員が墓地の中をぞろぞろと歩いている。

 先頭を進む長門がひたと立ち止まり、左向け左をしてからぽつりと言った。

「ここ」

 そこにあった墓石には……長門家代々の墓と彫られている。

 墓石の後ろにある石版には長門の両親らしき名と姉と妹らしき名があり、その間の長門の名前だけが朱で彫られていた。

「家族の墓」

 それだけでハルヒにも充分だったのだろう。

 一度目を開き、視線を墓石に向けてから黙って手を合わせている。

 森さんがそつのない仕草で手桶の水で墓を清め、線香に火をつけて数本ずつオレ達に手渡した。

 ハルヒ以下、全員が墓に線香を供えて黙って手を合わせた。

 墓の下に何もないのはハルヒ以外の全員は知っていたが、ハルヒだけは遺骨があると信じていただろう。

 ハルヒは祈りを終えると長門の手を握り真剣な眼差しで静かに言った。

「いい? 有希。コレからみんなで毎年、彼岸と盂蘭盆会には必ずお参りするから。絶対っ、長門が寂しくないって団長である私が報告するからね」

 そして長門を抱きしめた。

 長門は黙ってハルヒに抱き着かれていたが意味ありげな視線をオレに投げた。

 

 いいから。黙ってハルヒの気が済むまでそうしていろ。

 これでオマエの『ピン』が抜けたんだからさ。

 

 朝比奈さんのは御厨雛SEと合わせて解決済み。古泉のも昨日のイベントで解決済みだろう。オレとハルヒのは昨晩から今朝までので解決済み。朝倉は復活しただけで解決済みだろうし、佐々木はSOS団に入っているだけで解決しているも同然だろう。

 森さんはこの場にいるという事実だけで充分なはずだ。

 鶴屋さんに関しては……古泉の予想では既に何もないはずだ。オレと関係するだけで充分だとかいってたよな。

 まあ、これで世界が分離しなければ、もう一度原因探しをすればいいさ。

 取り敢えず、できることは全てやった。

 そのはずだったが……ある一言によりオレの感慨は吹き飛ぶこととなった。

 

 その一言を発したのは……誰あろう。長門有希である。

 長門はオレに投げていた視線をゆっくりと全員に向けてそれからぽつりと言った。

「実は……家族の命日は明日」

 

 えーとだ。

 それは違うのではないか?

 長門から聞いた話では長門の姉は北高に合格しており、その北高にあのマンションから通うと言って制服を部屋に置いた帰りに事故にあったはずである。

 ということは少なくとも入学式前のハズであり、今現在の日付は入学式からかなり経っている。

 年としては2年前なのか2年後なのかはともかくとしてもだ。日付は間違ってはいないはずだが?

 などとというオレの脳内の逡巡は長門の抑揚のない脳内通信によって止められた。

『このまま世界が分離した場合……納得しない存在がいる』

 誰だ?

 というオレの問いに帰ってきたのは全員の声だった。

『だってぇ。このままだったらあたしは納得できないな』

『朝倉涼子の言うとおりだ。先程のだけでは身体が納得はしない。何よりこのままではアソコが疼いて仕方がない』

『御厨雛SEのいうとおりだ。僕としても理解はできても承伏はしかねる』

『佐々木さんの言うとおりだねっ! もう一晩は付き合って欲しいにょろ?』

『鶴屋さんの言うとおりですね。ボクとしましてもこのままでは理解は致しかねますから』

『失礼ながら古泉が申し上げたとおりです。私と致しましても納得致しかねます』

『私と致しましても森さんと同意見です』

『あのぅ……あたしとしても黄緑さんが言うとおりに納得は……できません』

『朝比奈みくるがいうとおり。全員の意見は無視できないし私としても納得はできない』

 長門から始まった脳内の吐息混じりの声が一巡し長門で締めくくられた。

 

 つまり?

 今夜一晩、ここ数日連夜の如く全員を巡る旅に出ろと?

 全員が僅かに頷く。

 横を見るとツインズもコクリと頷いている。

 

 はあ……溜息しか出ない。

 つまりはだ。明日まではこのまま重なり合った世界のままでいた方が良いということだな?

 だがな。諸元の根源であるハルヒが納得したらそれまでだぜ。

 というオレのささやかな期待はハルヒの一声により無為となった。

 

「そうなの? だったらみんなで法事を催さないといけないわねっ! 大丈夫、あたしに任せてっ! 有希が寂しくないってコトを知らせるために思いっきり賑やかなのをしないとねっ!」

 

 法事は賑やかなのは仏法に触れないか?

 ……などというオレの呟きはハルヒの耳に届くことはなかった。

 

「いい? キョン、みんな。明日、部室に集合ねっ!」

 

 あ−。誰か答えて欲しい。コレがラストボーナスステージで良いんだよな?

『それは涼宮ハルヒ次第』

 長門の声をメインに全員の声が脳内に響いた。

 

 

 そんなこんなで散会となりそれぞれに家路につくことと相成った。

 はあ……オレは呟くコトしかできない。

 

 

 家に辿り着き、自分の部屋へと向かう。

 外泊したことに関しては鶴屋さんと御厨雛SEが上手く言い含めてくれていたらしく「鶴屋さんとこの法事だったんでしょ? 夜通しの法事なんて鶴屋家の法事って盛大なのね。それにしても……あなたも身体が幾つあっても足りなくなってきたのね」と意味不明な言葉と共に納得していたから良しとする。

 

 だが……

 自分の部屋のドアを開け、数歩進んだところでオレは母親の言葉の意味を知ることとなった。

 オレのベッドに誰かが寝ている。

 いや。誰かではない。それは見慣れた顔であった。

 誰か?

 ええい。疑問形で韜晦するのは止めよう。

 オレのベッドで寝ていたのは……パジャマ姿の吉村美代子。ミヨキチであったっ!

 

 ミヨキチは……オレの慌てた気配で目が醒めたらしく、寝惚け眼をパチクリとさせ、視界にオレを捕らえてから……恥ずかしげに微笑んだ。そして……

「おはようございます。あなた……」

 あなた? まあ呼び掛ける人称としては間違いではないが、今までにミヨキチから「あなた」と呼び掛けられたことがあっただろうかと逡巡していると……背後で声がした。

「おはよう。キョンくん。あ、ミヨキチがいる……あ、そうだ。昨日お泊まりしたんだったぁ。ふあ……」

 パジャマ姿で寝惚け眼の妹が未だ半分以上は睡眠中らしき思考回路を辛うじて動かしながら欠伸している。

「あ、おはようございま……」

 ミヨキチは起き上がり妹に向かって挨拶をしかけたところで……動きを止めた。

 見る見るうちに顔を真っ赤にし、そして恥ずかしさを爆発させたような表情となり……「きゃあぁぁぁっ!」と奇声をあげて妹を引っ張って共に部屋から飛び出て……妹の部屋へと消えた。

 

 えーと?

 なんだったんだ? 今のは?

 

 一応ご報告しておこう。

 昨夜、勉強会兼お泊まり会を妹とミヨキチは計画していたのだが、案に違えてオレは公式発表「鶴屋家の夜通し法事」、実情……は置いといて、とにかく帰ってはこなかった。

 仕方ないので妹と勉強会を開催し、そのままお泊まりした。

 ……のだが、妹の提案で二人してオレの部屋のベッドで寝ていたのだが、妹は夜中にトイレに起きたついでに、ミヨキチのことをすっかり忘れて自分の部屋に戻りそのまま朝までと言うか昼近くまで寝ていた。

 ……ということである。

 

 ともあれ……

 オレとしては眠い。物凄く眠い。

 夜通しでハルヒとイタして、その後もハルヒに振り回されてバカップルとなり、さらには温泉で……まあ、いい。

 そして今夜は全員のところに跳ばされることがほぼ確定事項である。

 そうそうに身体を休めることとしよう。

 

 既に朝のシャワーをハルヒと浴び、温泉にも浸かっている。

 寝間着替わりのスエットに着替えてベッドに横たわると……

 甘酸っぱい少女の薫りが嗅覚をくすぐる。

 ミヨキチの残り香が……要らぬ感情をもよおし……いや、そんなコトではない。

 今は身体を休めることだ。

 

 

 と、不意に意識が桃色の闇に……

 おいおい。まだ昼だぜ?

 という一般常識は既に無意味である。

 何処に行ったんだろうなあ。一般常識よ。オレの人生の何処かで休憩中なのか、それとも単に行方不明なのか。

 まさかデリートされたとは思いたくもない。

 再び常識まみれの生活に戻りたい。

 

「それは如何なモノだろう? 僕としてはこういう生活も悪くはないと思うのだが?」

 おいおい。そういうツッコミは遠慮してくれ。

 目を開けると佐々木の部屋。既に天蓋付のベッドへと変わっている。

 横にいる佐々木はベールのような帯のようなモノに身体を包んで微笑んでいる。

 その姿は静寂なる天女と呼ばれるに相応しい姿。

「ふふふ。遠慮しても良いが……僕としてはこれからのコトは遠慮したくはないね」

 あー。そういうコトだよな。

「それにしてもだ」

 なんだ?

「一番最初が僕の所だとは。光栄だね」

 それについてはノーコメントだ。オレが制御している訳では無さそうだからな。

「ふふふ。そういうコトで良いよ。なんにしても僕が自分の部屋に辿り着いて、君が来た時のことを考えて準備していると……君が来た。僕としては光栄の極みだ。だから……」

 だから?

「存分に愛でてはくれないか? 天獄界主サマ?」

 その称号は遠慮したいところだが……まあ、いいさ。遠慮しようがしまいがスル事は一緒だ。

「そういうコトだ。では……」

 佐々木の口づけは……疲れた心を呼び起すには充分だった。

 

 それからは佐々木が望む形で抱き合った。

 たいしたコトではない。佐々木の身体を包むベールのような帯で身体を縛っただけ。しかも胸の上下とか腕とか足を。そうだな。プレゼントの箱をリボンでデコレートしたような。そんな軽い感じだ。

「ふふふ。僕の身体は僕から君へのプレゼントだからね」

 ありがとよ。できればクリスマス・イブにもそうしてくれ。

「年に一度よりは毎日プレゼントさせて頂こうか?」

 はいはい。解ったよ。

 それから随分と長い間抱き合っていた。

 夕闇が佐々木の部屋を朱く染めるまで……

 

 

 軽くうたた寝をした感じで目を開けると……オレは桃色の闇を跳んでいた。

 あー。随分と最初の1人で時間を使ってしまった。

 今日中に全員のところに行くのは無理だろうな。

 

「そうですか? 私の見解としましては不可能ではないと思いますが如何でしょう?」

 その声は……黄緑さん?

 目を開けると眩しい光の中で、暖かく微笑んでおられる。

 正に春霞の天女と呼ばれるに相応しい。

 ふと、見渡せば部屋の全てがベールのようなモノで覆われている。天上から垂れ下がるベールが光を反射して広いのか狭いのかすら解らない。

 ふと、オレの両頬を黄緑さんのしなやかなる指が押さえられ……黄緑さんの方へと顔を向けられた。

「天獄界主サマといえどもあまり傍女の隠したいところまで御覧にならないようにして下さいませ?」

 あー。済みません。あれ? 全てを預けるのが傍女ではなかったでしたっけ?

「では御覧になります? 私の全てを?」

 あー。遠慮しておきます。何となく全部見ない方が良いような気がしてきました。

「御配慮ありがとうございます。これは感謝のしるし」

 微笑みのまま口づけされてしまった。なんとなく……なんとなくだが、身体の奥底の披露を蕩かしてくれるように口づけである。

「うふ。元気になりましたね」

 気づくと……オレのがいきり立っている。というか黄緑さんのしなやかな指がオレのを擦り上げている。

「私の中でコレを感じても宜しいでしょうか?」

 えーと。どういう意味……あー。解りました。遠慮無くどうぞ。好きにして下さい。

「ありがとうございます。では……」

 まるで重さを感じないが質感だけはしっかりと感じる黄緑さんの身体がオレの上へと。そしてオレのが黄緑さんの中に包まれていく。

「このまま……ずっと……このまま感じていたい」

 黄緑さんの言葉は……部屋が夕闇に朱く染まるまで実現された。

 

 ん? 夕闇? 2度目だぞ? 

 という疑問に我に返った時は……オレの身体は桃色の闇を跳んでいた。

 あれ? いつの間に?

 えーと。つまりだ。黄緑さんの所というか黄緑さんの中は桃源郷のように時を忘れるほどの程よい心地よさなんだろうな。

 

「その様なコトを他の傍女の前で仰らないで下さいませ?」

 ええ。そうします。森さん。

 ……森さん?

「はい。貴方様の前にいるのは森園生で御座います」

 ええっ!? と飛び起きるとその場所は……ハルヒと泊ったあのペントハウスのメインベッドルームであった。

 日の光が燦々と照っている。

 あれ? なんでここに?

「私は昨夜のハルヒ様との後片付けを。念のために数日の宿泊を予約しておりましたので」

 森さんの姿は完全無欠のメイド服であり、手にはシーツがある。ふと自分の居場所を確認すればあのでかすぎるベッドの上であり、真新しいシーツが。

 つまり、交換した直後という感じである。

「宿泊期間中は全て組織の手で管理することとなっていましたのでシーツを交換したところです」

 ああ。そうでしたか。

 って、違う。オレが訊きたかったのはそういうコトではなくて……

「では? なんでしょう? 他の傍女様のことでしたら私が答える必要はないかと存じますが?」

 森さんの視線は戦陣の天女とツインズが命名したのに相応しい鋭さ。

 年齢不詳のファニーフェイスには不釣り合いなほどに似合っている。

「失礼ながら何を仰りたいのですか?」

 あ、はい。そうですよね。

 と、オレが戸惑っていると……森さんはふっと表情を弛め、ついでに背中のファスナーを下げられた。

 え? ええっ!?

「失礼ながら……私も傍女の1人。昨夜から身体の奥が疼いております」

 あ、はい。そうですよね。確かそんなコトになっていたと記憶しております。はい。

「では……お情けを頂戴させて下さいませ。御主人サマ?」

 それからのコトは……ご想像にお任せする。

 

 少しだけヒントを記述するのであれば……

 森さんはオレとハルヒが何をここでしたいたのかは傍女として御存知であり、そらに後片付けをしていたが為にそれらが生々しく記憶が甦っていたところであり、さらには道具の全てがソコには揃っていたということである。

 

 夕闇が部屋を朱く染める頃……

 森さんはベッドの上でオレの胸に顔を埋めていた。

「……ふう。恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

 いえいえ。可愛かったですよ。森さん。

「あの……申し訳ありませんが」

 なんでしょう?

「これからは私のことは……園生とお呼び下さい」

 解りました。園生。可愛かったよ。

 敬語も略すと森さんは満足げにオレの腕の中で眠りに落ちていった。

 

 と不意に再び桃色の闇が……

 

 しかしだ。なんで桃色の闇を抜けると昼で、それから夕闇まで付き合っている?

 つまり何日もかけているのか? ひょっとして。

 まあ、いい。いざとなったら朝倉に時間跳躍させて貰えれば……

 ん? いや。もし、日曜日で世界が分離してしまうのであれば時間跳躍以前にオレはどうにかなってしまっているのではないのか?

 

「どうにもなってないわよ」

 目を開ければ朝倉涼子の意味深な笑顔がオレの眼前にある。墓参りの後で別れた時と同じ制服姿だ。

 そうだよな。朝倉。って、ここは?

「あたしの部屋よ?」

 今はいつだ?

「長門さんのフェイクの墓参りの……そうね1時間後かしら?」

 あれ? つまり?

「キョンくんは真っ先にあたしのところに跳んできたということっ! 傍女冥利に尽きるわっ!」

 そんな冥利は認めない。

 軽く否定してベッドから起きて見渡す。

 確かに朝倉の部屋だ。窓から射し込む日射しは確かに昼頃だ。

 時間的には? 俺が自分の部屋に戻ってミヨキチの残り香のベッドに横たわったあたりか?

「こらっ! あたしが傍にいるのに別の娘のコト考えてたでしょ?」

 いや、ミヨキチは妹の親友であってだな。……いや、そんなコトはどうでも良い。

 って、抱き着くな。胸を背中に押し当てるな。いやいや。そんなコトより考えるべきは……

「考える前にスルことがあるでしょ?」

 朝倉がオレの首をロックしてくるりと空を一回転。身体が落ちた先は……ベッド。

 そしてオレの上には充分な質感のある朝倉の身体が乗っかっている。

 見渡せば部屋の全てが既にベッドと化しており、さらには天上から枷つきのチェーンが数多くぶら下がっている。

 ディルド付きのチェーンまでぶら下がっているのは見なかったことにしよう。

 あのな。朝倉こんなに在っても無意味だろ?

「無意味かどうかは……」

 朝倉は制服を脱ぎながらニヤリと笑った。

「キョンくんがどれだけあたしを苛めるかに因ると思わない?」

 あー。そうだった。オマエはそういう属性だったな。

「そうよ。最初から解っているでしょ? だから……」

 朝倉がオレの手を自分の胸へと導くと……制服はボンデージビスチェというかドレスへと変貌する。

「苛めてね? 涼宮ハルヒよりももっと。あんな程度じゃあたしは満足できないからね?」

 部屋の壁から三角木馬やら十字架やらが浮き出て実体化する。

 あのな。ソッチ方面に能力を全開させるな。

「いいでしょ? 昨夜からあたしは我慢できなかったのに……さっきまで大人しく我慢していたんだから御褒美を頂戴っ!」

 いつの間にか後ろ手に拘束された朝倉がオレの上へと……

 

 それからのコトは、再びながらご想像にお任せする。

 敢えて補足すれば……朝倉はオレの前ではドMであり、ハルヒにしたことの数倍のことをオレに求め、そして仕方なしにオレは全ての求めに対して叶えてやった。

 それだけである。

 

 しかしだ……

 まさかオレのアレのオーラが朝倉の喉というか口から出てしまうまで朝倉の身体の中の全てを掻き回す……

 いや、詳細に述べるとグロい感じもする。

 やはりご想像にお任せする。

 

 夕闇が部屋を朱く染める頃……

 朝倉はやっと満足したようで荒い息のままボンデージビスチェ姿でオレに身体を預けている。

「御主人様……ありがとう。ん……」

 オレの顔を両手で包み、キスをしてきた。舌を絡め、呼吸困難になるほどの長いキス。

「……ん。朝倉は、涼子はいつまでも御主人様の傍女なんだからね。どんなコトになっても、どんな世界になっても憑いていくから……ね」

 えーと。表現としては間違いだろうが、心情的には最適だな。

「音韻はいっしょでしょ?」

 まったくだ。オマエは可愛い傍女だよ。

「ありがと。いつでも……誰でも御主人様に仇為す敵は消して上げるからね」

 あのな。そういうコトを言うから殺戮の天女と……

 

 

 と、意識が桃色の闇に包まれた。

 次は誰だ?

 というか、それ以前に考えべきコトが……

 

 

「ない」

 あのですね。そういう風に断言しなくても良いじゃないですか。御厨雛SEっ!

 って、あれ?

 見れば既に準備万端な様でボンデージビスチェ姿である。そして手には何処かで見たような透明のディルドが3つと先に重たそうな鈴がついたしなやかに撓る金属棒。ディルド達をぺろりと真っ赤な舌で舐めて色香に塗れた視線をオレに絡めてくる。

「ふふふ。いつ来てもいいように部屋の模様替えを終えた途端に跳んでくるとは。君も私のことを苛めたくて、蔑みたくて仕方ないようだな」

 あのな。そんなコトはない。オレはそんな異常な性格を……ん?

「どうした? こんな姿の私よりも興味を引くモノがココにあるのか? それは私を蔑んでいるのだな?」

 えーと。そんなコトよりココは何処だ? そうだ。御厨雛SEの部屋だ。SMグッズが満載で解らなかったが窓とかドアの位置はそのままだ。そして溢れんばかりの日が射し込んでいる。つまり昼だ。

 昼のいつだ?

「墓参りを済ませてから1時間ほどだが? そんなに私よりも時間という君達、有機生命体には存在を掴めないモノに興味を持つのか?」

 いや、それはだな……って、何処を掴んでいるんですかっ!

「君のアレだが?」

 いや、それは解っているんですがっ!

「掴んでいる理由はコレが欲しくてたまらなくなっているからだ」

 そうでしょうけどね。

「昨夜から朝方まで君と涼宮ハルヒとの睦言の影響で私は身悶えていた。身悶え続けていた。さらに朝方のアレとか温泉の中でのコトとか……全ては今この時の前戯だと思うとさらに燃え上がってしまう」

 そうですか。そんなにハルヒとのことが……って、そんなコトは解っていますっ!

「だったら、さっさと……」

 オレの身体が宙に浮き、落ちた先はふかふかのベッドの上だった。

「……楽しませてはくれないか?」

 あー。解りました。さっさと楽しんで下さい。

「そんなにぞんざいに扱わないでくれ。ますます欲しくなってくる」

 はあ。この人の属性は疲れる設定だな。扱いに困る。

 

 

 それからは御厨雛SEが望むようなことを時を忘れてシタ。

 し尽くした。

 

 ちなみに……御厨雛SEがもっとも楽しんでいたのは3つのディルドを秘裂とかに挿し込み、ディルドの先の鈴を蠢く腰で鳴らし、豊かすぎる胸でオレのを挟み、艶やかなる唇と舌で舐め回すというモノであった。

「ん……んん。たまらない。この屈辱感、君の従属物と成り下がったこの敗北感。君のその侮辱と蔑みに満ちた視線。全てが私を狂わせる。私を……私の全てを燃え上がらせる。ん。……んん」

 オレとしては若干疲れ、呆れていたのだが……まあ、いいさ。この人や朝倉は自分の感情というか欲望に素直なだけなんだろうからな。

 

 夕闇が部屋を怪しく朱く染める頃……

 流石の御厨雛SEも疲れ果て、オレの胸に顔を埋めて眠っていた。

 オレとのこの半日のコトで疲れたというよりも昨夜から朝方まで身悶えていた影響だろう。

 

「もっと……もっと蔑んでくれ」

 はいはい。寝言でもそんなコトを望むとはね。

 しかしだ。 眠る? 長門はいつ眠っているのか解らない程なのに。

 この御厨雛SEってのはどこか不器用なのかもな。

 実際、この身体になって……数日程度しか経ってないから自分でも持て余しているのかもしれない。

 朝倉とは違うタイプだがここまでドMだと、感心するというか、愛おしんでしまうというか。

 人間なんてモノは自分に愛情を注いでくれる存在に対して特別な感情を抱くようにできているんだろうな。

 

 などと感慨に耽っていた時、不意に桃色の闇に包まれた。

 

 次は……誰だ。

 いや、そんなコトより考えるべきコトが……

 

 

「無いと思うにょろ?」

 いや、それがあるんですよ。鶴屋さん。

 ん? 鶴屋さん?

「そだよ。どした?」

 いや。なんか時間感覚というか空間感覚が……

 日向の薫りがする布団から起き上がり見渡せば……いつもの庵である。

 障子を照らす日の光は明確に昼頃だと告げている。

 あれ? 今はいつですか?

「有希っこの墓参りから帰ってきてすぐだにょろ?」

 えーと。つまり?

「君はいの一番にアタシっんとこに跳んできたってことっさっ!」

 いや、そんなコトは……

「そんなコトより、ツインズちゃんは出てこないのかい? やっぱ、アタシのこの身体の奥から揺るがす情念の炎を消すには……ツインズちゃんごとお相手願いたいねっ!」

 流石は鶴屋さんである。

 同じコトを言うにも誰かと違って品がある。

 誰かが誰かというコトは考えない。

「そんなコトより、さっさと出てきなっ! ツインズちゃん達っ!」

 鶴屋さんはオレの両腕を掴むと……バチっ! という音と共に九尾姿のツインズが現れた。

 現れたついでに吃驚している。

「ふっふっふふふふん。さあて、コレからみんなで……」

 何故か満面の笑みで指をポキパキと鳴らしておられる鶴尾さんはすでに九尾姿に妖変していたっ!

「楽しむにょろっ!」

 それからのコトは……ご想像にお任せする。

 

 というか記憶していない。

 辛うじて記憶しているのは……夕闇で茜色に染まる障子がオレの上の鶴屋さんの満足そうな満面の笑みを朱に照らしていたことと、それを見ているオレの両脇でツインズがぐったりと目を回している姿である。

 なんというか……

 ツインズ諸共何度行かされてしまったか解らない。

 男でも放出せずにイッてしまうとは……凄すぎる。

「ふふん。ツインズちゃんによるとあたしは賢良の天女ってコトらしいにょろ? だったらこのぐらい朝飯前の歯磨き粉ぐらいだねっ!」

 例えがイマイチ解りませんが、感服致します。はい。

「ふっふっふ。君も責めるだけじゃ飽きるにょろ? あたしが尽くした分、次の誰かに尽くして上げるにょろよん」

 はい。そうさせて頂きますです。

 

 と、意識が桃色の闇に包まれた。

 えーと。なんか変なんだよな。

 

 

「何が変なの? キョンくん」

 いや、それが朝比奈さん。何と言うべきか時間感覚がですね……

 ん? 朝比奈さん?

「そだよ」

 起き上がってファンシーな装飾に彩られたベッドから起き上がる。

 部屋は確かに朝比奈さんの部屋だ。

 御厨雛SEの部屋と同じ間取り。違うのは……向こうは味気ない状態か、SMグッズが満載状態かの2択であり、今居るのはいかにも朝比奈さんっぽいファンシーなグッズ満載の部屋である。

 そして……レースのカーテンの向こうの窓から日が射し込み、今は昼だということを告げている。

 あれ? また昼だぞ?

「そだよ。長門さんの墓参りから帰ってきて1時間ちょっとだよ」

 そうですか。つまり隣は……ん? この声は?

「……御厨さんの声。ちょっと前からずうっと……なんかキョンくんが跳んでいったのかなって思っていたけど……でもキョンくんはココにいるから、御厨さんは1人でしているんだね」

 そうか? なんか壁から漏れて伝わる喘ぎ声は……何となくだがデジャブを禁じ得ないのだが……って、この部屋も隣の部屋も防音はしっかりしているはずだが。

 それを越えて漏れて来るとは御厨雛SE。侮り難し。

 そんなコトに感心しても意味はないな。それより……

 

 オレはこの部屋にいつ頃から?

「少し前。ちょっとの間……キョンくんの寝顔見てたの。こうしてあたし一人でキョンくんの寝顔を見てるのは何度目かなって……」

 えーとだ。それに関しては七夕の時に過去に跳ばされた時と、孤島の別荘に行く船の中と……いつぞやの電気ストーブをハルヒに命じられて持ってきた時ぐらいしかオレの記憶の中には……いやいやいや。そんなコトより。

「そんなコトより?」

 えーと。朝比奈さん……え?

 問いかけようとしたオレの思考回路は朝比奈さんの姿を視界にしっかりと捉えた瞬間にオーバーヒートした。

 何故か?

 朝比奈さんが透け透けのネグリジェ姿。ネグリジェの下には可愛いショーツと可愛いデザインのブラだけの姿っ!

 何処かの誰か達の煽情に溢れすぎる姿よりも、先程の鶴屋さんの古風な寝間着姿……は別格として、可憐なるそのお姿はオレの記憶の中ではベスト・寝間着姿クイーンで在られる。

「あん。キョンくんそんなに見ないで」

 あ、いや。すみません。

 いや、昼だというのにそんな姿なんですね。

「だって……昨夜はあまり眠れなかったし」

 そうですよね。そういうコトですよね。

「キョンくんが跳んでくるかなって思っちゃったし」

 いやいや。そんな思うほどの存在ではないですよ。オレは。 

「だから」

 だから?

「お願い。……抱いて」

 顔を真っ赤にして俯いておられる朝比奈さんに「抱いて」と言われて拒否できる男がこの世にいるだろうか。

 いたとしたらソイツらにはホモと聖職者のどちらかの称号を進呈しよう。

 いやいやいや。そんなコトはどうでもいい。

 

 それからオレは……

 自分の感情に従うケモノとなった。

 

 後のことは詳細には述べない。

 オレだけの宝物だ。

 

 だが、暫くしてから……

 夕方にはまだまだ早い。

 何度目かの失神から気を取り戻した朝比奈さんは吐息混じりにこんなコトを仰った。

「あの……キョンくん。お願いがあるの」

 なんでしょう? なんでも叶えられることならば不肖、このオレの全てを……

「そんな大層なことじゃないの。あ、ううん。難しいことなのかな……」

 どっちなのでしょう?

「あ、うん。あのね……御厨さんに会いたいの」

 御厨さん? 今隣の部屋にいる御厨雛SEですか?

「ううん。そうじゃなくて……未来に帰られた方の御厨さん」

 あー。そっちですか。

 って、そっちは時間移動ができないと不可能ですよ。

 脳裏で朝倉の能力を再確認するが無理だ。朝倉も前後1年間だったな。御厨雛(初代)というか朝比奈さん(大)がいつの時代なのかは知らないが、少なくとも1年ってコトはない。

 というか、それは朝比奈さんの分野……あ、そうか時間移動はできなくなっているんだった。

「うん。だからね……いつだったかキョンくんは2人の御厨雛さんと、あたしが御厨雛SEさんといた時に来てくれたじゃない」

 あー。確かにありました。でもアレはツインズ達の……

「ツインズちゃん達の変装でも良いの。あたし……もう一度、御厨さんに会いたい」

 涙目で求められる朝比奈さんを前にして首を横に振る男がいるだろうか。

 タイムパラドックスとかもどうでも良い。既に1回はあった出来事なんだから、もう一度あっても良いだろ?

 えーと。頼んでみますね。

 ツインズ、できるか?

『……え、あ、はい』

『事情というか……朝比奈様のお求めは解りました』

 脳内会話が途切れがちだ。先程の鶴屋さんとこので疲れていると思われる。

『はい……鶴屋さんの攻めは私達にも……』

『あ、そんなコトは置いておきます。結論からすれば可能です』

 そうか。随分とあっさりと肯定したな。

『それは……』

『未来に帰られた朝比奈様もまた傍女ですから』

 ん? どういう意味だ?

『この時代の御厨雛SE達と同様に……』

『未来の御厨雛様も……涼宮ハルヒと宿主様の影響を受けておられますから』

 脳裏に……朝比奈さん(大)が身悶える姿が浮かんだ。しかもダブルでっ!

『つまり御厨雛様達も……』

『こちらに来たがっておられます。つまり……』

 ツインズ達の言葉は現実となった。

『このとおり』

『シンクロするのは容易いことです』

 腕からふっと出た姿は……間違いなく御厨雛さん達っ!

 両脇から潤んだ瞳で……オレを見つめておられるっ!

 そしてオレの前には朝比奈さんが同じように潤んだ瞳でオレを見つめておられるっ!

「キョンくん。ありがとうっ! ……っ! きゃあっ!」

 朝比奈さんが何故に奇声を上げたのか。それはオレの両脇の御厨雛さん達が朝比奈さんに襲いかかったからである。

 朝比奈さんの両脇から太股を固定し、左右に開き、そして豊かなる胸を揉み上げ、さらには秘裂を指で押し広げられているっ!

 え? なんで? 御厨雛さん達が朝比奈さんを?

「キョンくん。お願い」

「私達より先に……このコをもっと満足させて」

 えーと。どういうコトでしょうか?

「私達は後で良いの」

「もっとこのコを……感じさせて上げて」

 なんというか……オレが逡巡している間も御厨雛さん達は朝比奈さんを襲い、快楽の嵐の中へと巻き込もうとしておられた。

 そしてオレは……2人の求めに従った。

 

 なんというか。

 これぞ愛恋の天女たる由縁であろう。

 3人の天女達に囲まれて、オレは至福の時を過ごした。

 

 夕闇が部屋の全てを朱く染めている。

 ぐったりしている朝比奈さんを両脇の御厨雛さん達が愛おしげに擦っておられる。胸やら秘裂やらを。

 美しくも煽情を催す場景ではあるがオレも疲れている。ただ眺めるだけで充分だ。

 

 そろそろ……オレは跳ばされるのか。

 オレが跳ばされたら……朝比奈さん1人になってしまうんだな。この部屋は。

『大丈夫です』

『朝比奈様はお一人にはなりません』

 ん? 何故だ?  ツインズ。どうしてそんなコトが言える?

 オレが跳ばされたらオマエ達もココにはいないんだろう?

『お忘れですか? 朝比奈様も傍女であり天女の資質を持っておられる方』

『私達が造り出したシンクロされた御厨雛様は……既に朝比奈様が御自身でシンクロされておられます』

 見れば……朝比奈さんから伸びる尻尾が御厨雛さん達の尻尾と絡み合い、1つになっている。

『ここはもう大丈夫です』

『次へと跳躍されても朝比奈様も御厨雛様達も……宿主様の今宵の寵愛を糧になされるでしょう』

 そうか。

 ふと、意識が桃色の闇に包まれようとした時、二人の御厨雛さん達がオレに向かって微笑んでいた。

 

 

 しかし……ナニかを考えるべきなのだが疲労も蓄積している。

 何を考えるべきなのかも朦朧としてきた。

 

 

 全く、訳が解らん。

「それはコッチの台詞だろ?」

「なんでオマエがアタシ達のベッドの上にいるんだよ?」

 は、はいっ! って、あれ? 赤城さんに水城さん。どうしてこんな所に?

「ココはアタシ達の寝室兼控え室だろ?」

「オマエは何でこんなトコで寝ているんだよっ?」

 2人の美女に冷たく睨まれて飛び起きると……確かに見慣れていない部屋。

 この部屋は初めてだ。

 いや? どことなく見覚えがあるようでないような感じがするのは……

 何故?

「そりゃ、オマエ。ココはお嬢が泊っているホテルだからな?」

「デザインというか調度品とかの雰囲気は似てんだろ?」

 ああ。なるほど。そうか。古泉が泊っているホテルの一般向けの部屋か。

「納得したならアタシ達の疑問に答えな?」

「なんでこの部屋にいるんだよ? ひょっとして夜這いか?」

 夜這いって……今昼じゃないですか。ほら、窓から日の光があんなに……

 あれ? 昼? 昼間っから?

「そうだ。今は昼だよ?」

「そんな昼から……夜這いしに来るなんて……度胸あるよなっ?」

 と、2人の顔を見ると何故か朱が差している。

 えーと。どうしました?

「だ、だから夜這いかって訊いてんだろっ?」

「儀式を交わしたからって……そんな……」

 儀式? ああ。あの缶コーヒーの。あれは赤城さんと水城さんがオレを仲間として認めた証とか古泉が言ってたな。

 ん? 今のは疑問形ではなかったな。

 と、改めて2人を見ると……顔が真っ赤である。

「仕方ない。夜這いに来た度胸を認めてやろうじゃないか。なあ?」

「あ、ああ。そうだな。そういう度胸があるなら相手してやろう。な?」

 2人は互いに頷き合って……服を脱ぎ始めた。

 え? なんでそういうコトに?

「ん? オマエは夜這いしに来たんだろっ?」

「だったら……相手してやろうってんだっ! 有り難く思うんだよなっ?」

 疑問形の口調に戻って……2人に抱き着かれた。

 そして艶やかなる唇でオレの口は塞がれてしまい、さらには2人がかりで抱き着かれたために……抵抗することはできなかった。

 

 基本的に……オレが赤城さんに手と口の自由を奪われている時に水城さんがオレの下半身担当のようでオレのを手で弄んだり、眺めたりしているようだ。

「へー。マジで見るとやっぱりアタシ達のと違うね?」

「んな感想よりさっさとやっちまいなっ?」

 ん? 不可解な会話だな。

 とはいえ、視界は赤城さんの顔だけで水城さんが何をしようとしているのか……って、すぐに解った。

 水城さんが恥ずかしげに、それでもナニかを決心したような顔が赤城さんの肩越しに見えて……それからゆっくりと沈む。

 そしてオレのがナニかに含まれるような感触の後……キツイ感触。

 直後に「うあっん……いた」という水城さんの声。

 いた? 痛いと言おうとしたのか?

 だが……その後は痛がる声が吐息というか嬌声混じりの荒い息づかいに変っていく。

「ん? んあ……中、ナカで……ナカに……ある。あ……ひ……」

 オレの両手を押さえてさらに唇でオレの口を塞ぎ、豊かなる胸でオレの胸を押さえつけて……と言いたいほどのボリュームあるスタイルの赤城さんが振り返って不可解なことを言った。

「ん……こら? 自分のをしごいてないでさっさとイクならイっちまいなよっ?」

 しごく? 自分のを? はて?

 などと疑問に思う間もなくオレのがきつく締め付けられ……水城さんの嬌声が響き渡った。

「あひっ! いあ……そんな……痛いのが……痛いのが……イイっ! あ……ああんっ!」

 そして……ぐったりとした水城さんがオレの横へと倒れてきた。

「こら? いつまでも浸ってないで……さっさと押さえてくれよっ?」

「んあ……あ、解ったよ。さっさとヤリなよ?」

 そして今度は水城さんがオレの両手を押さえて胸を押しつけてこられた。

「ふふふん。アタシがイったてのに、涼しい顔してんね? 憎たらしいな?」

 艶やかなる唇がオレの口を塞ぐ。いや艶かしい動きの舌がオレの舌に絡んできた。

 随分と積極的だな。

「ん……くふ。随分と経験ありそうだな? アタシ達2人を相手してんのに物凄く落ち着いてるよな?」

 そりゃ……朝比奈さん(小)1人に朝比奈さん(大)2人とか、さらにそれに御厨雛SEが加わったりとか……妖達だけなら数十……いや? アレは結局相手がどれだけいたのか解らん。とはいえ、鶴屋さんの時にはツインズ2人が加わったりとか……イロイロと。

 ん? そういえば最初もハルヒと朝比奈さんの2人だったな。

 何となく1体1の方が少ないような気もしてきたが、そうではないなと思い直す。

 朝倉とか佐々木とか古泉とかは1体1だな。

 黄緑さんと森さんも……いや最初がツープラトンだったか?

 などと要らんことを考えていた時、オレのが柔らかいナニかに包まれた。コレは?

「ん? 赤城ぃ。フェラってんじゃねえよっ? さっさと体験しちまえっ?」

 体験? んー。何となくだが違和感を感じる。

「解ったよっ? んじゃ……」

 水城さんの肩越しに赤城さんの頭が見えたと思ったら……ゆっくりと沈んで……オレのがぬるりとナニかに包まれ……キツめに締め付けられたっ!

「んひっ! い、いた……」

 いた?

「んだから、赤城も自分のをしこってんじゃないかっ! アタシに言った言葉をそっくり返してやるよ?」

「んあ……だって……やっぱ……気持ちよく……なりた……ひあ……」

 赤城さんの吐息と嬌声が段々と荒くなり……やがて一際大きく響いた。

「んひ……ひ……あ、ああっ! 初めてなのに……初めてなのに感じ……ひあああっ!」

 そして……オレの横へと崩れ落ちた。

 

 そして……

 今は2人に両脇から抱き着かれて……首とかにしなやかな腕が巻き付いた状態であり、身動きが取れない。

 

 しかしだ……

 初めて? 2人が? 年上というか二十歳過ぎているであろうに?

 オレの疑問は……2人の呟きというか脅しで氷解した。

 

「ん? あのな? オマエ、不思議そうな顔をしただろ?」

「アタシ達が処女だったらおかしいかよっ?」

「って、もう処女じゃないだろ?」

「さっきまで処女だったんだからイイだろ?」

 あのー。漫才みたいなんですけど。

「だったら笑えよ?」

 水城さんがオレの口に指を突っ込んで軽く左右に引っ張る。

「水城? そんな意地悪しないで……コイツに全部話そうぜ?」

「話す? 話すより……見せた方が早いだろ?」

 水城さんの提案に赤城さんが黙って首肯し……やっと2人は離れた。

「いいか? 笑うなよ?」

「笑ったらちょん切るからな?」

 と、言葉とは違いおずおずとお二人が見せてくれたのは……秘裂。

 いやっ! 秘裂の上のあたり、中から飛び出ているのは……何となく何処かで見たような、それでも何処か違うようなモノが……

 えーと。何処かで見たようこんな感じの。

 あ、そうか。古泉だ。この世界の古泉五妃が……思春期乳腺肥大症の影響とかでなったとか言ってはいたが……お二人の胸はデカいといえばデカいが五妃ほどではない。

 つまり?

 オレの疑問はお二人の解説により解消することとなった。

「なんていうかホルモン異常なんだってよ?」

「水城はね。アタシは……遺伝子がモザイクらしいんでその影響だとかって言われたんだよ?」

 

 えー。諸君。手短に解説しよう。

 赤城さんと水城さんは正真正銘の女性である。

 だが、水城さんはどういう訳か、ホルモン異常を体内にいる時に母親が起こし、さらには御自身もホルモン分布異常体質であるためにこのようになったらしい。

 赤城さんは殆どの細胞の性遺伝子がXXと女性型であるのだが、所々の細胞がXYとなっており、モザイク状態なのである。これは受精時に卵子に2つの精子が同時に飛び込んだ結果らしいのだが……その影響が陰核だけに現れたとのことである。

 

 オレとしては2人が半妖だからその影響と言われた方が信じやすいのだが。

 

「なんかそんなに驚いてないね?」

 は? ははは。まあ、驚いてはいますが……なんか予想できましたから。先程の会話で。

「ふうん。聡いんだね。感心するよ?」

 2人は顔を見合わせて……何かが落ちたような素直な笑顔で笑い合った。

「んじゃさ?」

「やっぱ、ちゃんとシテ貰おうか?」

 はい? それはどういう展開ですか?

「イイだろ? オマエがアタシ達の全てを知ったんだからな?」

「だったら……ちゃんと女として抱いてくれよな?」

 そして再び……2人にのし掛られてしまった。

 

 それから……

 きちんとシテ差し上げた。いわゆる正常位とかいうヤツで。

 赤城さんを相手している時、水城さんは赤城さんを嬉しそうに見つめておられ、水城さんとしている時は赤城さんが水城さんを嬉しそうに見つめていた。

 なんか……本当に喜んでいるんだな。

 

「そりゃそうだろ?」

「アタシ達をちゃんと女として見てくれるヤツに巡り会えるなんて思っていなかったからね?」

 全てが終った後、ベッドに横たわるオレの両脇に2人が寄り添っている。

 先程までのとんがった感じはなく、なんか戦友といった方がしっくり来るような表情で。

 妙な表現だとはオレも思うのだが、とにかくそんな感じなのさ。

 日が傾きかけた時を示すように柔らかくなった日射しの中。2人の印象も柔らかく感じられたのかもしれない。

 

 そして昔話をしてくれた。

 2人とも……まあ、それなりに恋愛とかはしたらしい。それでも自分達の身体が臆病にさせ、結果として処女だったと話してくれた。

「一度は……決心したんだけどね。ソイツ、アタシのショーツに手を突っ込んだ途端に『男っ? オマエ、オカマか?』って叫びやがってさ。蹴り入れてケツにバットでカンチョウしてやった」

 ははは。それは災難でしたね。

「あー。アイツか。アイツ、この前ニューハーフショウに出てたよ。なんだっけ? ほらTVで」

 はい? つまりバットで目覚めてしまったということなのかな?

「へぇ。アイツがね? って、水城の時も悲惨だったんだろ?」

「アタシん時は……相手がアタシのを見た途端に『化け物?』っていいやがってさ。前蹴りでタマ潰してやっただけさ?」

 えーと。それは実際に潰れたかどうかはともかくとして……凄く痛かったでしょうね。

「そうだよ。アタシの乙女心はズタズタさ?」

 いや。ソッチじゃなく……って、そうですよね。

 即座に言い換えたのは水城さんの視線が冷たく且つ鋭くなったからではなく、そのように思い直したからであるっ!

 ……そういうコトにしておいてくれ。

「あー。ソイツもホモになったって聞いたよ。なんでもオンナ恐怖症になったんだってさ?」

 はい? えー。なんとコメントしていいやら。

「ま、そういうコトだからな?」

 どういうことでしょう?

「アンタが相手したのは世にも珍しい二十歳過ぎの処女2人だ。御利益があるよ?」

 えー。二十歳過ぎの処女というのが珍しいとか御利益があるとは寡聞にして知りませんでした。

 ははは……

 ……やっぱ、なんか疲れる。

「しかしだ……いいのかな?」

「ん? なにが?」

「コイツ……お嬢の相手だろ?」

「あ、そっか。やっぱ……マズイよね?」

 はい? なんかオレの予想を上回る会話についていくのがやっとなんですが?

「やっぱ、謝りに行こ?」

「そうだよな。やっぱ、頭下げとかないとな?」

 急に立ち上がった2人に両脇から抱えられて……オレは強制連行されることと相成ったっ!

 あ、あのっ! せめて服をっ! お二人も裸ですよっ!

「そんなコトより謝罪だよっ?」

「善は急げってヤツだよっ?」

 そんな諺はこんな場合には……ってあれ?

 

 オレが驚いたのは訳がある。

 お二人の部屋を出た先が……古泉が宿泊しているスイーツルームのベットルームだったからである。

 

 あれ? こんな構造だったっけ?

 いや違う。昨日はこの部屋で1日過ごした。この部屋の手前はリビングっぽい部屋であり、決して赤城さんと水城さんの部屋ではなかった。

 それに一般客室ならば階が違うはずである。

 つまり? 空間を跳躍した?

「とうしたんです? 2人とも。それにアナタまで裸でナニをされてました?」

 古泉五妃はデカいベッドの上でバスローブに身を包み、ティーカップを持ち……作りすぎの笑顔を顔に貼り付けている。

 その顔は……全てを知っている顔であり、知っていながら尋ねている。そういう口調でもあった。

「ま、ナニをしていたかは……一目瞭然ですけどね」

 紅茶を一口飲み……ティーカップをサイドテーブルに置き、ゆっくりとした口調で訊いてきた。

「それでも……一応説明して頂けますか?」

 いわゆる一つの笑っていない笑顔というヤツだ。

 その笑顔の前に赤城さんと水城さんは既に土下座している。

「す、すみませんでしたっ!」

「コイツが……お嬢の相手と知りながらっ! アタシ達の処女を奪って頂きましたっ!」

 どうでも良いことだが、五妃に対しては疑問形じゃないんだな。2人は。

「へえ。そうでしたか」

 五妃は未だに仮面の笑顔だ。

「アナタも大したものです。墓参りから帰ってシャワーを浴びてくつろいでいたのに……そんな時間があるとは思いもしませんでした」

 ん? 墓参りから帰ってシャワーを浴びてくつろいでいた?

 えーと。つまり時間的には?

「そうですね。墓参りの後の……1時間後ということでしょうか? どうされました?」

 それは……おかしい。

 ここに来る前というか、佐々木から朝比奈さんまでのことを置いておいたとしても、今さっきの赤城さんと水城さんを相手していただけでも少なくとも1時間以上は……いや?

 振り返り窓の外を見る。

 日射しはまだ春先とは言えキツイ。さっきの柔らかくなった日射しとは違う。

 つまり?

 空間だけではなく時間も跳躍したのか?

 ドアを開けただけで?

 

 いつからオレは猫型ロボット並みの能力を?

「随分と悩まれているようですが……」

 ちょっと黙っていてくれ。五妃。オレはオレ自身に何が起きているのかを……

「考える暇はないよな?」

「アタシ達とのことをちゃんとお嬢に話しな?」

 両脇というか床に土下座状態の2人から物凄い上目で睨まれて……オレは思考を停止した。

 は、はい、そうですよね。

 と、2人に倣い土下座しようとしたオレを五妃の言葉が制した。

「そんなコトより……」

 コトより?

「楽しみましょう。みんなで」

 五妃の微笑みは……仮面の笑顔ではなく、天女のようであった。

 

 そういやコイツも天女だと言ってたな。ツインズは。

 えーと。戦陣の……は森さんか。確か戦闘天女とか……

「ぶつぶつ呟いてないでっ?」

「さっさとお嬢の相手をしろっ?」

「私だけではありません。赤城さんと水城さんもですよ?」

 それからは……ご想像にお任せする。

 

 とはいえ、少しだけ記述するのであればだ。

 基本的に男のオレほどではないにしろそれなりのモノが五妃をはじめ3人には備わっており、オレが誰かの相手をしている時は残った2人がソレなりのことをソレなりにしてさらにオレの相手に対してソレなりのちょっかいを出していた。

 という感じである。

 まあ、一度ならずもソレなりに全員で絡み合ったりもしたのだが……やはり疲れるのはオレだけであったと述べさせて頂く。

 

 夕闇が部屋を朱く染めた頃……

 オレ達はベッドの上で横たわっていた。

 オレの横には五妃が寄り添っており、反対側には赤城さんが寄り添っており、オレの腹を抱きしめるような形で水城さんが寄り添っている。

 なんというか……

『酒池肉林ですね』

 五妃か。なんで脳内で話しかける。

『赤城さんと水城さんにはまだ聞かせられない話だからですよ』

 視線を向けると……微笑みながら五妃は唇を重ねてきた。

『ふふふ。いつかはこうなると思ってましたが……アナタも好き者ですね。いや? それとも今宵しかないので思い切りましたか?』

 いや。オレが誰のところへ跳んでいくかはオレ自身与り知らぬコトだからな。

 2人のところへ跳んでいって慌てたのは他ならぬオレだと断言しておこう。

『ふふふ。そうですか? いや、そういうコトにしておきましょうか』

 五妃は起き上がり、赤城さんを招くと……キスをした。なんというかソレは赤城さんとキスをしたいからではなく、キスをしているところをオレに見せつけるかのようなそんな感じで。

 ナニをしている?

『ふふふ。この2人は自覚はありませんがボクの使い魔であり半妖です』

 五妃は赤城さんを放すと、水城さんを誘いキスをした。

 放された赤城さんはというと水城さんを羨ましげに見ていたがふとオレに視線を移して……オレに唇を重ねてきた。

『このとおり。ボクが望むコトをボクが望む形で実現してくれる。つまりはアナタが赤城さんと水城さんのところに跳んでいったのは……』

 オマエが望んだから? そういうことか?

『さて? 或いは……涼宮さんが望んだことをボクを通して実現させている。……のかも知れません』

 おい。そんな理屈でいったらこの世界の全てはハルヒが望んだことになって……

『いたでしょう? 少なくとも昨日の昼以降は望む世界となったはずです』

 つまり? この世界はこのままということか?

『さて? このままアナタがこういう爛れた生活を望むのであれば……そうなるかもしれませんが? どうします? このままの生活を望みませんか?』

 いーや。オレは元の方が良い。

 こんな爛れきった日常は認めがたい。

『そうてすか? アナタの周りは美女と美少女ばかり。その全てとこういう風に触れ合える。ボクが男でしたらハーレムというのは実に得難い状況だと思うのですが? 如何でしょう?』

 五妃は水城さんを放し、オレにキスしてきた。

 舌を絡める濃厚なキス。退かされた赤城さんはオレの胸を舐め始め、水城さんはオレのを口に含んで舌を絡めているっ!

『ふふふ。こういう関係は元の世界に戻ったら……有り得ませんよ? 関係する全ての女性達の嫉妬の炎に身を滅ぼすことなく、このように絡め合える。素敵だと思いませんか?』

 いいや。確かにこういう関係は有り得ないだろう。

 だから不自然なんだ。

 この世界は。

 だからこそオレは元の世界に戻りたい。

 戻りたいんだよっ!

『仕方ありませんね。天獄界主ともなられてその全てを手放すなんて……アナタも随分と奇特な方です』

 それはひょっとしなくても誉めてないな?

『いいえ。誉めてますよ。そうですね。正確には感心していると言い換えた方が宜しいでしょうか。いずれにしましても……』

 五妃は唇を離し耳元で囁いた。

「ボク達はアナタを自分の主と認めたのですから、アナタに憑いていくだけです」

 幽霊が取り憑くような感じで言うなっ!

 

 と、意識が桃色の闇の中へと……

『時間が来たようですね。ご心配なく。赤城さんと水城さんはボクがお相手しますから』

 桃色の闇に閉ざされる視界の中で五妃が赤城さんと水城さんを抱き寄せ……尻尾のオーラを2人の秘裂へと伸ばしていくのが……僅かに見えた。

 

 

 頼んだよ。というべきコトなのか?

 言うべきなんだろうな。

 しかしだ……

 

 なんだ? コレは?

 つまり空間だけではなく時間も巻き戻しているのか?

 誰が?

 

 

「それはおそらくアナタの能力」

 長門の声に気づくと……やはり長門の部屋の巨大マシュマロのような布団の中。

 頭を出して確認すれば……やはり窓の向こうの日射しは昼前後の鋭さである。

 って、オレが? いつそんな能力を?

 長門はゆっくりとオレの首に腕を回し……布団の中へと戻してから説明を始めた。

「空間跳躍自体はおそらくは涼宮ハルヒが望んだコト。そしてアナタは昨夜から朝までの間に涼宮ハルヒと深く関係した」

 えーと。そんなコトを改めて言わないでくれ。

「深く関係したのは事実。そして私達がその影響を受けたのも事実」

 あー。はいはい。確かにそうだ。

 それで? ソレとコレとがなんの関係がある?

「以前、涼宮ハルヒは一つの納得する事象が発生しないと言うことだけで夏休みの最後の2週間を1万5498回も繰り返した」

 そんなコトもあったな。

「つまり涼宮ハルヒには時間を超越する能力がある」

 確かにな。

「そしてソレがアナタに備わった」

 何故だ? どうしてそうなる?

「アナタは涼宮ハルヒと深く関係し、涼宮ハルヒを傍女とした」

 そうらしいな。だからみんなに影響が出たんだろうな。

 ……え? つまり?

「そう。アナタが涼宮ハルヒを傍女としたことで涼宮ハルヒの能力がアナタに備わった」

 おい。傍女にそういう能力移譲制度があるとは聞いてないぞ。

「ツインズ達がアナタに伝えたはず」

 なんと?

「アナタが水の妖女と契ったからアナタには水を媒介して伝える能力が備わったと」

 ん? んー。あ、あの温泉での時か。確かにそんなコトを言っていた。

 ……げ。つまり?

「アナタが傍女とした相手の能力がアナタには備わる。そういうコト」

 ちょっと待て。つまり? 今のオレには朝倉や御厨雛SEやおまえが使える能力が備わっているというのか?

「そう」

 悪いがとてもそんな感じはしない。

「それは当然」

 ん? 矛盾していないか?

「アナタには私達の能力を使おうという発想が存在しない。そういう考えに至った時は私達を呼んで使役するはず」

 まあ、そうだな。その方が早そうだし、実際、そんな能力をどうやって発現させたらいいのかも皆目見当もつかない。

 って……ん? つまり、この空間跳躍するごとに時間を巻き戻しているのは? 誰だ?

「それはアナタ」

 だ、か、ら、それはオレにとっては不可解なことであり少なくとも意識はしていないんだよっ!

「だからソレこそが涼宮ハルヒの能力。涼宮ハルヒは無意識下で望むコトが実現化する」

 あー……なんか、堂々巡りしているような気がしているんだが?

「それはアナタが望んでいるから」

 はあ。ああ、そうかい。

 なんか疲れるんだが。

「疲労の蓄積は見られない」

 そうじゃなくて……って、そういや全員を相手してきたって言うのにそんなには疲れてないな。

「そう。それはおそらく……」

 長門は視線を空中に投げて微かに眼を細めた。

 ん? それはひょっとしてナニかを睨んでいるのか?

「アナタと関係した妖女の中に体力回復の能力を持つモノがいたことに起因すると思われる。つまり……」

 つまり?

 長門は枕元に手を伸ばし……白い結晶が入ったビンを手に持った。

「これは不必要となった」

 なんか……寂しげな視線だな。

 ええいっ!

 オレは瓶を長門の手から奪い、口を開け、中身を全部口の中へと放り込んだ。

 零れた1粒をビンの中へと戻し、ビンの口を閉めて長門に渡してから……口の中の結晶を呑み込んだ。

 

 ……っ、くうっ!

 相変わらず全身の細胞というか遺伝子に染み渡るような味だっ!

「大丈夫?」

 大丈夫さ。あのな長門。

「なに?」

 オレの健康管理はオマエの管轄のハズだ。そういったよな? この世界に来てしまった当初、そんなコトをオマエはオレに言ったはずだ。

「確かに。そのような発言をした」

 だったら、オマエが造ったこの結晶はオレのためにある。

 だからな……

「なに?」

 その1粒はオマエが持っていろ。オレが必要となる時まで。いいな?

「解った」

 長門は嬉しそうにビンを枕元に置き、それからオレの上へと……

「アナタの状態を確認したい。許可を」

 OK。いつでも確認してくれ。

「了解した。だけど……」

 ん?

「今の発現の中で『いつでも』という事項に関してはアナタと私の2人きりの時に限定したい」

 あ、そうだな。確かにそうだ。他の誰かがいる時に確認するのはマズイよな。

 長門は……オレの呟きに微笑んだ。

 何度目かの……いやこの世界ではよく見る表情。

 それはまるで……確かに天女のような微笑みだった。

「では……力を抜いて……」

 それからオレは長門に身を委ねた。

 夕闇が部屋を朱く染めるまで……

 

 それから……

 朱く染まったマシュマロ布団の中でオレは長門と抱き合っていた。

 あのな長門。

「なに?」

 何となくだがこの世界も悪くないと思っているんだよ。

「なぜ?」

 ん。いや、この世界のオマエがオレには心地よくてな。

 このままでも良いかと思っている自分がいる。

「それはダメ」

 ダメか?

「この世界は不安定。いつ崩壊してもおかしくはない。涼宮ハルヒが重ねてしまったこの世界のアチコチに歪みが観測できる」

 そうか。

「そう」

 明日でこの世界は終わりなんだよな。

「そう。だが……」

 ん?

「終らない可能性はある」

 あるのか?

「私達は全てのピンを抜いたつもり。だが、私達が関与できないところのピンがあった場合、分離することはない」

 その可能性は?

「計算不能」

 だよな。

「全ては涼宮ハルヒが鍵を握っている。いや……」

 長門はオレを見つめた。

「前にも言った。アナタは涼宮ハルヒの鍵。アナタと涼宮ハルヒが全ての可能性を握っている。……と」

 確かに聞いたな。

 あれはオレの中で初めてこの部屋に来た時。

 オマエに何杯もお茶を飲まされた後で聞いた言葉だ。

 

 つまりだ。

 明日、世界が分離しなかったら……もう一度後始末に東奔西走すれば良いんだろ。オレ達全員で。

「そう」

 それは疲れるな。

「そう?」

 ま、いいさ。分離すれば儲けモノ。分離しなかったら……もう少しこの世界を楽しむことにしよう。

「そう」

 短く答えた長門は……少しだけ嬉しそうだった。

 

 

 と、再び意識が桃色の闇に……

 

 

 辿り着いたのは……例の部屋だ。

 ハルヒと朝比奈さんと最初にシタ部屋。

 つまり鶴屋さんのウェディングドレスが散乱している部屋である。

 カーテン越しの日射しは昼。

 はて? 時間が巻戻っているようだが……何故だ?

 全員相手したよな?

 ふむ。訳が解らん。

 そういえばココの隣は御厨雛SEの……と壁を見ると……げっ!

 壁が半透明であるっ!

 そして半透明の壁の向こうでオレと御厨雛SEが絡んでいるのが見えるっ!

 さらにその向こうの壁の先にはっ! 

 朝比奈さんがオレの寝顔を覗き込んでおられるっ!

 え? なんだ?

 オレはいつから分身の術を?

 いや違う。時間が巻戻ったのを見ているだけだ。

 しかし壁が半透明?

 つまり透視とかいう超能力か?

 コレもハルヒか? ハルヒの能力なのか?

『それはワラワの能力。どうじゃ? 千里眼の妖女の力は?』

 不意に背中に弾力のある2つの膨らみが押しつけられた感触がっ!

 首を捻るとソコにいたのは……えーとだ。

 もしツインズが10人姉妹の末っ子だったとして、その長女らしき御方が、いや、妖女がいた。

 ベールで造られたような服を着てはいるが半透明であるが故にかなり扇情的であるっ!

 いや、そんなコトより……

 これはアナタの能力ですか?

『そう』

『そして時間を飛び越えたのは時の妖女であるワラワの力じゃ』

 不意に脇腹に2つの弾力ある膨らみの感触が。

 視線を向けると……えーと次女らしき妖女さんがいた。

『そしてワラワが水の妖女じゃ』

 反対側の脇腹に冷たいながらも心地よい2つの膨らみの感触。

 振り向くと身体自体が青く半透明の……えーと三女らしき妖女さんがっ!

『聞けばオヌシは明日にはこの世界からいなくなってしまうそうじゃな?』

 長女らしき千里眼の妖女さんが耳元で囁くというか吐息を吹きかけた。

 え? ええ。たぶんそうなるんじゃないかと……思っている次第ですが、如何されました?

『ならば?』

『せめて明日の暁が……』

『来るまではワラワ達全員の……』

『相手を願いたいのじゃが?』

『宜しいでしょうな?』

『ああ、御心配には及びませぬ』

『オヌシの体力はこのとおり……』

 ワラワラと部屋の中に浮かび出てくる妖女達の中に一際、長身で筋肉質っぽくもグラマーな……ボディビル代表のような妖女さんがすうっとオレの背中に周り、囁いた。

『この千人力の妖女がいる限り尽きることはない』

『そしてこの時の妖女であるワラワがいる限り何回でも時を戻そうぞ』

 つまり?

『そうさな。やはり今宵は1妖2刻は相手して戴きたく思うぞ?』

 2刻? つまり2時間ですか?

『いえ、宿主様。1刻が2時間です』

『つまり1妖につき半日になります』

 ツインズの声が脳裏に響く。

 何処にいるのかと視線を泳がせてると、部屋の隅、玄関近くで2人が並んで正座して畏まっている。

『済みませぬが私達はこの中では末席』

『宜しくお相手お願い致しまする』

 あのなっ! そこで頭を下げられても……

 

『良いではないか。あの2人は最後の相手』

『ではワラワから参るぞ』

 その後のことは……全く憶えていない。

 本当に。

 

 

 

 気づくと……朝日が部屋の中に射している。

 何処だと確認すれば……オレの部屋だった。

 そして……両脇でツインズが眠っている。

『済みませぬ。宿主様』

『私達は我慢致しますから……ご緩りと休まれてくださいませ』

 寝言で気遣ってくれている。

 ふう。

 まあ、コイツらがオレの所に来なかったら世界が重なっていることとか、分離するとか解らなかっただろうからな。

 感謝しますよ。ツインズ達。

 ま、せめて今はコレでガンしてくれ。

 オレはツインズを抱き寄せてその頬にキスをした。

 

 

 と、不意に電話が鳴った。

 

 誰から?

 こんな朝早くから携帯を鳴らすヤツなんて1人しかいないだろ?

「あ、キョン。起きた? それでね。部室に妹ちゃんとか……えーと、妹ちゃんの友達とかいたら連れてきてっ! できるだけ盛大にやるんだからっ! いいわね? 連れてこなかったら死刑よ。死刑っ! もち遅れたら罰金だからねっ! おーばー?」

 オレの返事も待たずに一方的に通話は切れた。

 ハルヒらしい。

 いつの間にかハルヒはハルヒらしさを取り戻し……ってか、元気になりすぎている気もするが、この際、そういう誤差には目を瞑るべきだろう。

「おはようございます。あれ? 起きてらしたんですか?」

 ちょうどミヨキチがオレを起こしにドアを開けたところだからさ。

 

 

 そして……

 朝飯を済ませてから妹とミヨキチを連れて部室へと向かった。

 途中で鶴屋さん達と合流し、部室の前に立った時にはほぼ全員が揃っていた。

 そしてドアを開けると……ハルヒが団長席から真夏の日射しのような笑顔で俺達を迎えてくれた。

「さあっ! 始めるわよっ! 盛大なお別れパーティをっ!」

 

 お別れパーティってなんだと訊くとハルヒは……

「だって有希の家族の方々に有希が元気だってトコを見せて、あの世に戻って貰うんだもの。暫しのお別れパーティに間違いはないわ。もち、次の……盂蘭盆会には出迎えパーティとお別れパーティが必要だけどね」

 ……などとほざいていた。

 まあ、いいさ。

 妙に勘が良いんだか、良すぎて元に戻って木阿弥になっていそうなトコロはハルヒらしい。

 

 

 それからオレ達は盛大に騒いだ。

 活動室にあった楽器の全てを使っての演奏会はその中でも記憶に留めておくべきだろう。

 音楽に対してなんの才能がないことを自負しているオレは観客であり、妹とミヨキチも観客その2とその3であり、同じく音楽に関してはなんの才能も無さそうな朝比奈さんも観客その4であったのだが、御厨雛SEと森さんの巨大ピアノの連弾は見事の一言であり、長門や朝倉のバイオリンとビオラも見事であった。さらには赤城さんと水城さんのエレキギター、加えて黄緑さんのハープと五妃のドラム、佐々木と鶴屋さんの……何を弾いていたっけ?

 そうだ。

 鶴屋さんと佐々木が入った時は森さんとの3人連弾であり、御厨雛SEはコントラバスを弾いていたんだったな。

 ツインズ?

 ツインズはいろんな楽器を全て弾きこなしていた。チェロとかベースとか鉄琴とか。

 まあ俗に言う付喪神とかもツインズの仲間だろうからな。なんでもこなせるんだろうさ。

 そしてハルヒはなんちゃってギター演奏ではあったが声が凄かった。

 唯一のボーカル。しかも即興で聞いた時には心を揺さぶるような単語を並べて唱ってやがった。

 聞いた数秒後には歌詞は綺麗さっぱり忘れていたけどな。

 とにかくクラッシック&ポップな演奏は凄かった。

 昼近くまで弾いていたら例によって吹奏楽部の顧問が飛んできて入部を強く勧められたが、ハルヒの怒号と森さんの反論と御厨雛SEの流し目&ウィンク攻撃であっさりと引き下がっていた。

 

 演奏会の次は森さんとハルヒと朝比奈さんの手による鍋パーティであった。

 材料とかは赤城さんと水城さんが運んできた。どうやら事前にホテルの厨房に注文済みだったようだ。

 無国籍ながらも凄まじく旨い鍋をつつきながら……ハルヒが唐突にこんなコトを言いやがった。

「そうだ。鶴屋さんのウェディングドレス余ってたわよね。みんなで有希の花嫁姿を家族に見せて上げましょうっ!」

 その一言により、赤城さんと水城さんは車で移動。そしてとんぼ返り。あの部屋に散在していたウェディングドレスの全てを部室へと持ち込んで……ぽつりと赤城さんと水城さんが言った。

「なんかコレ。変な匂いがする?」

「だよね? なんだろ?」

 その呟きにぎくりとしたのはオレであり、鶴屋さんであり、森さんであり、黄緑さんも一瞬動作を止め、さらにはツインズが物凄く申し訳なさそうにしていたのをハルヒは不思議そうに眺めてはいたが、ふと自分の過去を思い出したようで朝比奈さんと一瞬顔を見合わせてから……

「あ、そんなの気にしない。気にしたら負けよっ!」

 と、誤魔化していた。

 赤城さんと水城さんにとって勝負に関する単語は琴線に触れるようで……

「そうっすよね。気にしたら負けっすよね?」

「勝ち負けの負けを気にするようじゃダメっすよね?」

 ……と意味もなく納得していた。

 ふう。たまには役に立つじゃないか。

 なんか赤城さんと水城さんを使い回して、敬語っぽいのを言わせているのもコイツらしいし。

 ちなみにその間の朝比奈さんは顔を真っ赤にして俯くだけであった。

 

 さて、ウエディングドレス姿の長門の姿を写真に納めるようオレはカメラを渡され、着替え終るのを廊下で待っていたのだが……

「いいわよ。入って」と呼ばれて部室に入ると……異様な光景であった。

 あのな。ハルヒ

「なによ?」

 オレは長門のウェディングドレス姿を取るモノだとばかり思っていたのだが?

「ちゃんと着替えてるわよ。どうしたの?」

 全員がウェディングドレスを着ているとは聞いてはいないのだが?

「いいじゃない。眼福でしょ? 眼福。その証拠に顔がにやけているわよ?」

 確かににやけていただろう。

 その時のオレの視界には清楚なドレスに身を包んだ朝比奈さんを捕らえており、似合いすぎているその姿に感動すら憶えていたからである。

「やっほー。キョンくん? 元はといえばあたしんのドレスなんだからね? その辺、宜しくっ! にょろよ?」

 鶴屋さんが素早く視界を遮って近寄って笑顔で睨まれた。

 というか、鶴屋さん。アナタとは一緒に何枚も……

 と次の言葉が続かなかったのは鶴屋さんにニコ顔で睨まれながら指で口を押さえられたからだ。

「いいかい? キョンくん。ココにはうら若き乙女達がこんなにいるんだよ。言葉と表現には気を付けるにょろよ?」

 と、視線で示された先には……妹が無邪気に喜んでおり、ミヨキチが恥ずかしそうにしていた。

「さあさあ、撮影会だよっ! みんなで……ん?」

 鶴屋さんが視線を向けた先にあったのは……まだ余っているウェディングドレスの下にあった男性用礼服であった。

 そして……全員の視線が礼服からオレへと移ったのである。

 

 

 えー。今思う。もう少し拒否すれば良かったと。

 しかしながら既にオレは礼服を着ており、そしてそれぞれと記念写真を撮っている。

 いや、撮られている。

 ついでだ。詳細に述べておこう。

 朝比奈さんは清楚な純白のプリンセスラインのドレスであり、長門はシックなマーメイドライン、五妃は派手なレース飾りがついたプリンセスライン、佐々木はAラインとかいう薄いブルーのヤツで、鶴屋さんはやはり純白のプリンセスライン、朝倉は朝倉らしく黒と赤のプリンセスラインで、黄緑さんは薄緑のミディライン、森さんは純白のスレンダーライン、御厨雛SEは古泉のと同じデザイン。どうやら五妃と御厨雛SEに関しては自分の好みではなく胸が納まるのがそれしかなかったということらしい。

 さらに赤城さんは深紅のプリンセスラインで、水城さんはブルーのプリンセスラインであり、この2人に関しては両手に花状態で撮った。

 ハルヒは「ダメよ。ちゃんと1人ずつ撮らないと」と仕切りかけたが、五妃の「まぁまぁ、2人は一緒の方が良いみたいですよ。実は……」

 その後は耳打ちしていたので聞こえなかったが『恋人がいるので誤解の無いように2人で写りたいのですよ。と言っておきました』と後に脳内で報告を受けた。

 でだ。

 残っているのは……妹とかか?

 妹はAライン、ミヨキチはスレンダーラインであった。

 ミヨキチは何故か涙ぐんでいたが、ハルヒの……

「何泣いてんのよ? あ、そうか。相手がキョンだからよね。まったくこんな美少女には不釣り合いな野暮男だからね。ま、思い出の1つと割り切ってよね」

 ……という説得力のない言葉に頷いていたから気にしないでおこう。

 ミヨキチとは初対面だというのに厚かましいヤツだ。

 後は……ツインズか?

 ツインズは揃って和服に綿帽子姿であった。

 そんなのが良くあったな。サイズも合っているし。

 

 って、思い出した。このドレスは全て鶴屋さんの身体に合わせて造られていたはずだ。

 長門とかは許容範囲だとしても御厨雛SEとか五妃の身体が納まるサイズではなかったはずだっ!

 

 と、ココでもう一つ思い出すべきだろう。

 ハルヒが「映画に必要だから」とか言って秋に桜を咲かせ、神社の土鳩を白い鳩に変えてしまったことを。

 コイツ……また、無意識のうちに素っ頓狂な力を発揮させているな。

 

 ま、いいさ。そんな程度ならばフィナーレを飾る出来事に相応しいだろう。

 気にしないでおく。

 ちなみにツインズも両手に花状態で撮ったのだが、ハルヒは別に気にすることなくスルーされた。

 それはまあ、仕切るのに疲れていたかツインズ達の力だろう。

 

 

 ん? ハルヒのウエディングドレスは何か?

 そんなモノ決まっているさ。

 一番派手なレース飾りのついたプリンセスラインさ。

 

 最後に全員で記念撮影をしてハルヒ主催の「お別れパーティ」は無事終了となった。

 

 

 部室を閉め、校門あたりで全員が揃い、それぞれに帰ろうとしていた時、ハルヒが声を張り上げた。

「みんなっ! これで思い残すことはないわねっ? 明日、世界が変っていてもこれだけやれば満足よねっ?」

 コイツの言動には改めて呆れてやるさ。

 

 もちろん全員で頷いた。

 そしてハルヒも満足げに頷き解散となった。

 

 

 

 そして……次の日。

 言うまでもなく月曜日であり登校日である。

 昼休みとなりオレは部室で弁当をかき込んでいる。

 長門は本を読んでおり、朝比奈さんはお茶を淹れてくれて、御自身のお弁当を食べておられる。

 そして……

 

 

 

 

 

 何故か、部室には佐々木がいてハルヒや五妃と談笑しており、そこには何故か黄緑さんと朝倉も加わっている。そこには五妃のランチを運んできた赤城さんと水城さんもいる。 そして朝比奈さんの横には森さんと御厨雛SEがいて朝比奈さんと料理の話をしているようないないような。ついでにツインズも部屋の隅で童話というか御伽話の絵本を読んでいる。

 

 つまりだ。

 簡潔に述べよう。

 全員がココにいる。

 

 何故か?

 まだ抜いてないピンがある。

 それだけだろう。

 

 まったく。何処の誰のピンだ?

 いや? 何かおかしい。なんかこの場に足りないような気がしている。

 

 オレが弁当をかき込む手を休め、空中を睨んで思索していた時っ! 唐突にドアが開いた。

「やっほーっ! みんな元気にょろ?」

 あ、そうか。鶴屋さんが足りなかったのか。

 しかしだ。鶴屋さんのピンは解決済みのハズだ。

 さて? やはりココにはいない誰かなのか。

 などと悩むオレの横を素通りして鶴屋さんは朝比奈さんに紙袋を渡した。

「やは。ごめんごめん。みくるに渡してた漢方薬って産後の御婦人用だったよっ! コレが生理不順用っ! ちゃんと煎じて飲んでねっ!」

 鶴屋さんの明るい声ながらも内容に関しては男のオレには些か不可解であり聞かなかったコトにした方が良いのではないかと思うほどに朝比奈さんは顔を真っ赤にして慌てておられた。

 

 やはりスルーしておこうかなと思いながらも1つの単語に引っかかる。

 

 産後の御婦人用?

 それはつまりなんですか?

 

「ん? つまり母乳が出にくかったりする時に飲む漢方薬だにょろよ。その名も竜母乳泉っ! コイツを飲んだら男の人だって母乳が出るという言い伝えが残っているほどの薬効なのさっ! ウチに代々伝わる秘伝の漢方薬だにょろよっ!」

 鶴屋さんの声が響き渡る。

 つまり母乳が出るようになる漢方薬を朝比奈さんが飲んでいた?

 朝比奈さんの母乳が出ていたのは……そういうことか。

 

 朝比奈さんが真っ赤になって俯き……ぐるんと視界が回転した。

 

 この感じ。

 平衡感覚が全て掻き回されるようなこの感じはっ!

 TPDDで時間移動した時よりも凄く、長門が世界を丸ごと変えてしまった時よりも凄いこの感覚はっ!

 間違いない。

 世界が分離しているっ!

 そんな嵐のような感覚の中で……オレはどうでも良いことを考えていた。

 

 御厨雛SEを呼んで解決したのは朝比奈さん(大)のピンでしかなかったというコトで……

 

 そして、最後のピンは……朝比奈さん(小)でしたか。

 

 

 

 

 そして……

 無事に世界は分離した。

 

 

 

 Epilogue Side-A へ続く

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 Epilogue Side-B へ続く

 

 

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