跳んでいった先は……古泉五妃の所だった。

 いつものキングサイズのベッド。今となっては懐かしさまで覚える場所。

 だが、五妃の雰囲気は違っていた。

 いつもならばブラにショーツ姿。あるいはバスローブ姿なのだが今回は和装だった。

 純白の肌襦袢。しかも正座までしている。

 仕方なしに俺も座る。胡座でだが。

 どうした?

「傍女にして頂こうと思っている次第」

 硬い言い方だな。

「ええ。ボクの一族の儀式に則らせて頂きますから」

 いつもの柔和な笑みだ。だがやはり視線は硬い。

 儀式? なんだそれは?

「別に難しいことではありません。コレをお受け取り下さい」

 五妃は胸元から、というか胸の谷間から1つの短刀を取りだしてオレの前に置いた。

 何だコレは?

「文字どおりボクの懐刀。つまりはボクの一生を、ボクの全てを捧げるという意味です」

 にっこりと笑っている割には凄いことを言っていないか?

「そうですか? 特に凄いコトとも思いませんけどね。アナタには既に全てお任せしているつもりでしたし。ですが、やはりこの『2年後の世界』のしきたりににも則った方が良いと思った次第です。実際、こうしないと座敷童女さん達も納得されないでしょうし」

 呼ばれた所為か、腕の中から妖怪ツインズが姿を現わした。ただ、他と違うのは九尾の狐娘姿ではなく、光陽園学院制服だった。

「その懐刀はアナタの形代。移し身」

「それを宿主様に捧げるのですか?」

 なんかいつになく真剣な表情だな。ツインズも。

「ええ。ボクの意識ではこの『2年後の世界』は異世界。ボクは『2年前の世界』の住民で男であるというのがボクの認識です」

 あー。そうだった。何度も関係してしまっているから忘れてかけているが、オマエは男の一樹であるのが正しい。って、急におぞましさが……いや、忘れよう。そんなコトを言うべき時ではない。

「それで受け取って頂けますか?」

 ずいっと出された懐刀は朱の漆塗り。蒔絵とかいう技法で描かれた模様は流麗の一言に尽きるだろう。

 受け取ればいいのか?

「はい。受け取って一度抜き、鞘に戻して頂ければそれですみます」

 微笑む五妃。強ばるツインズ。いまいち事態の重要度が解らないオレ。

 まあいい。オマエが望むとおりにするさ。

 懐刀を取り、一度抜く。珍しいと思ったのは刀が途中から両刃になっていたためだろうか? 時代劇とかだとこういうのは片刃じゃなかったか? 日本刀みたいな。滅多に時代劇とかを見ないから確信は持てないが。それに両刃になっている所に隙間がある。針の糸通しというか細長い穴が。まあ、儀式に使う刀なんだろうと思う。オレに意味が判る訳がない。暫し眺めてから鞘に収める。ぱちんと音を立てて鞘が柄と一緒になった時。

 五妃がベッドに突っ伏した。

 え? どした?

「その刀は我が身、我が心。我の全てを捧げます」

 三つ指をついて五妃が平伏している。心なしか腰が震えているようにも見える。

 えーと。オレは何と言えばいいのかな?

 と、尋ねても答える相手はいない。五妃は平伏したままだし、ツインズもオレを見つめているだけだ。

 んー。時代劇とコレまでのことを思い出して台詞を繕う。

 解った。全て受け取ろう。

 ……コレで良いか? と、尋ねるより早く五妃が崩れ落ちた。どうしたっ?

「ふう。姉が言っていたのを思い出しました」

 ん?

「形代を渡し、受け取って頂いた時には『味わったことのない恍惚感に包まれる』と。実際、味わってみると凄かったですね」

 つまり?

「ふふふ。アナタとの『底なし沼の泥に沈む』ような感覚も捨てがたいですが、今回のは質が違いますね。言うなれば快楽ではない純粋なる幸福感とでもいいましょうか」

 悪いがよく解らない。

「いいですよ。理解できなくても。これは女性だけが味わえるモノなのかも知れませんから」

 ん? まあいいさ。男のオレには解らないモノならば追求はするまい。

「そうですか? 長門さんの所で少なからず理解はできなくても体験はされていたと思いますが?」

 そうだな。そういえば体験はしていた……って、何故にソレを知っている?

「ふふふ。ボクは妖使い。一度は触れた妖ならばその妖の感覚……場所とか、感覚とかを感じることができるんです。2つ同時には無理ですけどね」

 2つというのは『場所』と『感覚』か?

「ええ。場所についてはすぐに想像できますから基本的に『感覚』に絞って探知してました」

 あー。変な能力がついていたんだな。この世界のオマエには。

「ええ。この世界から元に戻れば意味が無くなりますし、この世界にいる間にこの能力を使うことになるとも思ってませんでしたから黙ってましたけどね」

 ふう。まあ、そうだな。

「しかし……先程のは凄かったですね。いえ、朝倉さんの時ではありません。長門さんとの時、まるでガトリング砲でしたね」

 お、おいっ! そんなコトまで知っているのかっ!

「ええ。これでも『妖使い』なんですよ? しかも総本家が血眼になって探している座敷童女さん達に遭遇できたんですから。どういうコトをしているのかは興味深いことです」

 そうか。そうなんだろうな。

「老婆心ながら付け加えさせて頂ければ、先程の感覚は全ての傍女さん達にも伝わっているはずです。いえ、相手とか内容ではなく感覚だけでしょうけどね。アナタの可愛い傍女さん達はあの時、快楽というか衝撃をそれなりには感じておられるはずですよ」

 そうなのか?

「ええ。繰り返しになりますがこれでも妖使いの端くれ。傍女となった方々の挙動についてはそれなりには知識があります。違いますか?」

 五妃に確認されてツインズ達は頷く。恐る恐るというか警戒したような表情のままだったが。

「どうやらまだ警戒を解かれてはいないようですね」

 仕方あるまい? コイツらは妖怪でオマエは妖使いなんだろう?

「そういう図式に当てはまるとしてもボクとしてはその様な関係は破棄したいのですけどね」

 ん? どういう意味だ?

「全てをアナタに委ねている。いえ委ねたのですからボクはそちらの方々と同じ位置にいるのです」

 そういうコトになるのか?

「ええ。そういうコトになるのです。それでは……」

 五妃は佇まいを正して、正座する。そしてツインズ達を見据えた。

「これでボクの全てを貴女方の宿主様に捧げました。これでボクを傍女として頂けますか?」

 そうか。そういえばオマエはまだ傍女認定を受けていなかったな。

 どうする?

「宿主様が求められるのでしたら」

「古泉様の全てを受け取られたのは宿主様。我らは宿主様に従うだけ」

 ならば認めてやれ。1人違うと話がややこしくなるような気がしているからな。

「では……」

「求められるままに」

 ツインズ達が平伏し……古泉五妃は満足げに微笑み、「認めて頂きありがとうございます」と平伏した。

 意味が判らないオレだけが胡座で頭を上げたままだ。

 念のために聞くがオレの平伏した方が良いのか? 儀式としては。

「別に必要ありません。座敷童女さん達が認めた段階で全てが完了していますから」

 そうか。そうだ。そういえばオマエは姿が変わらなかったな。

「はい? なんのことでしょう?」

 尋ねられてオレはツインズ達に触れた鶴屋さんとかが九尾の狐娘などに姿が変わったことを教えた。

「なるほど」

 五妃は微笑を浮かべてウィンクした。

 おい。なんだ? それは。

「ふふふ。ボクの姿でしたら……このように変えられますが」

 一瞬で姿が変わった。

 ただ単に見た目で表現すれば白銀の女騎士。イメージだけで勝手に単語を拾えば『ニケ』とか『アルテミス』とか『アマゾネス』……は違うか。とにかく『戦闘女神』というようなイメージの姿。

 オレは正直なるままに驚いているが、ツインズ達も驚いているのがオレには驚きだった。

「いかがです? この姿は案外気に入ってはいるのですが、和風ではありませんからね。総本家の方々には嫌われています。まあ、それがボクが総本家に呼ばれない原因の1つでもある訳なのですが」

 何度も言うが話が不必要に長いし、総本家のコトなんてどうでも良い。

 しかしだ。その姿にはいつでもなれるのか?

「そうでもありませんね」

 五妃の微笑みと共に白銀の鎧は消えた。

「よっぽど調子の良い時だけです。心に不安があるとなりたくてもなりませんね」

 ん? オマエは不安がないのか? 元の世界に帰りたいのに帰れないというような不安は?

「その件に関しましては全てアナタにお任せします」

 おい。

「ふふふ。怒らないで下さい。そうですね。正確に言いましょう。先程までは確かに不安でした。ですが、アナタに形代を渡し、さらにアナタの傍女となって全てをアナタにお任せ致しました。それでボクの不安は全て解消。傍女となったからにはアナタの意志と行動に全てを委ねます。例えこの世界に住み続けることとなったとしても」

 随分と気軽に言うな。任せられたオレの身にもなってみろ。

「信じてますから」

 オレをか?

「ええ。アナタがボクを元の世界に導いてくれる。それが全てを委ねるということです。その子達も同じです。重なり合う2つの世界を、そして天獄界をアナタが救ってくれる。そう信じているからこそ、能力の全てをアナタに託しているのですから」

 ふう。一気に肩が重くなった気分だ。

 

「それはさておき」

 五妃は壁に掛かっている時計を見た。

 どうした?

「ええ。そろそろ次の跳躍かなと思いまして」

 ん? 次?

「察するに今夜は何度も跳躍されることはないと思いますよ」

 どうして解る?

「この跳躍が涼宮さんが引き起こしていると仮定すれば簡単です。今夜は一度きりと推定できます。それは……」

 急に桃色の闇がオレを包んだ。

 

 

 まあ、いいさ。理由なんて後付けで幾らでも考えられる。跳躍の理由なんてモノはどうでも良いさ。

 

 

 次に行ったのは……

 見慣れぬ部屋だった。少なくとも昨夜は来てはいないなと天井の模様を眺めた。しかし最近来たようなというか見たような部屋。見慣れていないが見たことがあるという違和感。違和感はそれだけではない。何故か両手に細い肩を抱いている。両肩に柔らかく乗っているのは頭だろう。しかし天使の羽根のように柔らかい髪の毛がオレの首の両側をくすぐっている。

 はて? 何故、両側に? というオレの疑問は耳にかけられる吐息のような声によって氷解した。

「キョンくん」

「やっぱり今夜も来てくれた」

 左側に朝比奈さん(小)、右側に朝比奈さん(大)がおられた。

 な、なんだっ! この状況は?

 疑問の答えを探すよりも状況の再確認に勤しんでしまうっ!

 両側に朝比奈シスターズっ! さらにはっ!

 豊かなる胸の膨らみが両側からオレの脇腹に押しつけられており……1つの単語で言い表せばヘブンであるっ!

 

 

 後から聞いた話だが……

 朝比奈さん(小)は別の未来から来た御厨雛(朝比奈さん(大))の部屋にお泊まりに来ていたのだという。朝比奈さんにとっては別の世界でも未来は未来であり、通信すらできなかった状況では「やっと巡り会えた家族」みたいな感覚を覚え、一晩中お話ししたかったらしい。

 ……まあ、本人同士なんだから「家族みたいな感覚」は間違いないだろう。

 ちなみに朝比奈さん(大)は朝比奈さん(小)には「別の時代から来たの。アナタがいた時代よりずっと未来。だから詳しくは禁則事項になるから話せないの。でもアナタが私に似ているのは……親戚かも知れないわね」と説明していたらしいのだが、それだと朝比奈さん(大)は朝比奈さん(小)の子孫というのはちょっと……

 というか、面倒なので朝比奈さん(小)は朝比奈さん、朝比奈さん(大)は御厨雛ということにする。

 

 

「こういう風に来てくれるなんて思っても見なかった」

「うふふ。今夜も来てくれると信じてたの」

 ステレオで囁かれてもオレの口は1つであり、思考回路も1つだけですし、今はこの状況にメルトダウンして何も考えられません。

「そうそう。さっきの衝撃は凄かったのよ」

「話は変わるけどね。さっきなんだか御厨さんが……凄く幸せそうだったの」

 えーと。それは長門の時の話だな。五妃の情報から察するに。

「まるでキョンくんに抱かれているような……そんな、感じだった」

「私を抱きしめて……本当に凄く幸せそうだった。羨ましいほどに」

 互いにオレだけと話しているような感じだ。確かに声のボリュームからしてそうなのだが、やはり溶けてぐずぐずのオレの思考回路は即座に解析できない。

「それに既に聞いたことだけど……」

「それに……さっき聞いてしまったんですけど」

 シスターズに睨まれる。軽くそして拗ねたような視線で。

「この時代の朝比奈みくるちゃんともシテいたのよね?」

「来たばかりだというのに御厨雛さんともシテしまったんでしょ?」

 はい。そのとおりです。

 ああ。やっと同じ言葉で返事ができる内容になった。

 って、そんなコトで安心している場合ではない。

「仕方ないわよね。涼宮さんに振り回された結果だと本人から聞いたわ」

「仕方ないですよね。御厨さんも簡単に未来に帰れなくなったんじゃ不安ですもの」

 えーと。仕方ないですか?

「だって相手が涼宮さんじゃ……私もイロイロされたし。恥ずかしかったのよ。胸をキョンくんの前で揉まれたのって」

「だって、不安だったら……キョンくん優しいし。それにキョンくんに抱かれていると不安は忘れられるから」

 そうですかね。

「うん。仕方ない。だからね……」

「仕方ないですよ。だからね……」

 何となくその先の言葉は聞きたいような聞きたくないような……

「隣のみくるちゃんとシテあげて」

「隣の御厨さんとシテあげて下さい」

 はい? やっぱりというかどうしてそういう話になるのでしょうか?

 それ以前にどうやってシタら宜しいのでしょうか?

 って、そんなコトを確認してどうするっ!

「私が『傍女』になって助けてあげても良いんだけど」

「私が『傍女』とかいうモノになってサポートした方が良いのかも知れませんけど」

 ああ。傍女ね。そういう制度もありましたね。

「それよりもきちんとシテあげた方が良いと思うの」

「それよりもきちんとシテあげた方が良いと思うんです」

 ん? それは何故でしょう?

「だって……」

「だって……」

 ……ん?

「それが傍女としての役目だと思うの」

「それがメイドとしての役目だと思うの」

 はい?

「だからシテあげて。みくるちゃんと」

「だからしてあげて下さい。御厨さんと」

 あのー。ですから、どうしてそういう話になるんでしょう?

「だって、楽しみにしていたみたいなの。みくるちゃん。アナタが来るのを」

「だって、楽しみに待っていたんですよ。御厨さん。キョンくんが来るのを」

 ほぼステレオ状態である。いや、完全にステレオ状態となっている。

 やはりというか当然というか……思う。2人は同一人物なんだなと。

 ええいっ! 埒が明かんっ!

 意を決して腕の中のツインズに命じた。手助けしろと。

「はい。仰せの通りに」

「さあ、御厨様にみくる様。宿主様の前です。お勤め下さいませ」

 朝比奈シスターズはビックリ眼で自分達の背中に出たそれぞれの妖怪を見ている。

 瞬く間にツインズ達の指がオレの形になり朝比奈シスターズの自由を奪っていく。

「きゃ、キョンくんっ! この子達は使わないでっ!」

「こ、この人達が妖怪さん達なのですかっ!?」

 えーと。はい、そうです。オレの腕の中に宿った妖怪です。

「その前に宿主様。確認したいコトがあります」

「こちにの朝比奈みくる様は傍女と認めなくても宜しいのでしょうか?」

 あー。オマエ達も律儀というか真面目だな。

 如何致しましょう? 朝比奈さん。

「えーと。そうですね。御厨さんも傍女となってのでしたら私もなります」

「みくるちゃんっ! アナタまで……」

「いいんです。御厨さん。私はキョンくんの専属メイドって決めてましたけど……やっぱり、キョンくんにそういう能力があるんだったら傍女さんになった方が良いと思うんです」

「……みくるちゃん」

「うん。いいの。キョンくんと一緒にいられるなら。そして御厨さんと同じ場所にいたいから。ですから認めで下さい。私を傍女と。認めてくださいますか?」

 えーと。

 何となくオレと妖怪ツインズが悪代官とその取り巻きになってしまって、いたいけな姉妹を無理矢理に我がモノとしているようないないようなそんなシーンのような気がしてしまう。

 妖怪ツインズも戸惑っているようだ。そうだよな。傍女なんて無理矢理するようにモノではないハズなんだし。

 ……良いんですよね? 傍女となっても?

「はい。御厨さんと同じにしてください」

「みくるちゃん。いいのね?」

 朝比奈さんは御厨さんに向かってこくりと頷き、微笑んだ。

「だって……御厨さんと同じになりたいんです」

「ありがとう。みくるちゃん」

 ええいっ! なんか奴隷商人になったような気分に浸りつつある。

 妖怪ツインズも戸惑いっぱなしだ。

「宜しいんですか? 宿主様」

「本当に朝比奈みくる様を傍女にしても」

 だから、傍女ってのは奴隷じゃないっ! って、オレが力説するようなコトではないはずだ。さっさと認めてやってくれ。話が進まない。

「では……朝比奈様。心静かに。貴女様には他の方の封印が存在します」

「ゆっくりと……心を静めてくださいませ」

 ツインズ達の言葉で思い出した。朝比奈さんには長門にかけて貰った2つの封印があることを。

 朝比奈さんの背中に位置するツインズの片割れの腕が朝比奈さんの身体に重なっていく。いや腕だけでなく胸も、足も、そして頭や胴体も……。ツインズの片割れが完全に朝比奈さんと重なった。

『宿主様』

 不意に頭の中に声が響いた。

『長門様の封印が強力すぎます。願わくば封印の1つを解除しては頂けませんか?』

 封印の1つを解除?

 えーと。1つは母乳の出を止めるヤツで、それは解除方法は聞いてはいない。てことはもう一つの方、つまりは秘裂の解除であり、その方法はキスだ。

 朝比奈さんの肩を抱き寄せて……キスをした。

 無垢なる唇はオレの舌を受け入れて……優しく咥える。

 おおっ! いつの間にこんなに淫靡なる仕草を……

 っと、背後の御厨さんに睨まれているような。

 思わず振り返ろうとしたオレの頭を……なんとっ! 朝比奈さんが掴んで離さない。

「キョンくん。だめ、途中なの。もっとキスして……」

 視線の端に御厨さんが映っている。言い訳を考えていたオレの思考は中断してしまった。

 何故か?

 御厨さんが物欲しそうな、それでいて恥ずかしそうな、さらには羨ましそうな紅潮した顔でいたからである。

「キョンくん。私にもキス……分けてください」

 ええっ? 御厨さんっ! オレの口は既に朝比奈さんがっ!

「ん……みくるちゃん。ずるい。独り占めしないで。……ん」

「ん……あ……御厨さん……ん。一緒に……キョンくんを……んん」

 何と言うことだろうか。オレの口の端を奪うように御厨さんの艶やかなる唇がっ!

 朝比奈さんと御厨さんの小さな舌がオレの口の中に、そしてオレの舌を奪い合うように絡ませているっ!

 なんだ? ここは天国か? 天国だよな? 天国に違いないっ!

 

 そして頭の中で悲鳴が響いた。

『や、宿主様っ! 御厨様の中に……私めが……』

 ふと見れば御厨さんの後ろに居たはずのツインズの片割れが見えない。いや肩越しに見える。が、様子が変だ。御厨さんの中に引き摺り込まれようとするのを抵抗しているような……

「ん……あん。ツインズちゃん達の指が……私の中で……いっぱいに」

 違います。ツインズがアナタの中に入り込んで……ええい。面倒だな。

 そのまま中にいた方が良いんじゃないのか?

『宜しいのですか?』

 なにがだ?

『御厨様の暴走を止めなくても』

 既に暴走している。無理に止める必要がないのであればそのままでいい。

『では遠慮無く』

『私も朝比奈様と一体化します』

 ツインズ達は朝比奈シスターズと一体化した。尻尾だけは身体の外にある。

「あん。私の中にキョンくんのがいっぱい……」

 オレのはまだ外にありますが。

「御厨さん。ん。あん。キョンくんのを……御厨さんの……なかに……」

「いいの? みくるちゃん。私が入れても……あん」

「……ひん。いいんです。私は……涼宮さんが……ダメだって……ああん」

「ん。解っあん。みくるちゃん……みくるちゃんのはせめて私が……」

 オレのが御厨さんの秘裂に呑み込まれている。そしてその御厨さんの前、オレの胸の上で朝比奈さんの秘裂が御厨さんの指のオーラで押し広げられ、そしてなかに何本ものオーラが入って広げられているっ!

「ああん。みくるちゃん。みくるちゃんの中っ! 気持ちいいのっ!」

 指の感覚を自分の感覚と同期しておられると思われるっ!

「んあ……御厨さんの指が、キョンくんのと同じっ! キョンくんのが私の中でいっぱいにっ!」

 御厨さんの中に含まれているオレの感覚が指を通じて朝比奈さんに伝わっていると思われるっ!

 そして朝比奈さんの全てがオレの眼前で全て広げられているっ!

「ああん。キョンくんっ! 見てっ! 見て下さいっ! 私の全て。見てっ!」

「キョンくんっ! 見てあげてっ! みくるちゃんの全てっ! そしてもっと私の中で……暴れてっ!」

 2人にのし掛られては動きたくても動けませんっ!

 せめてなんとかしようと手を伸ばす。2人の豊かなる胸に。そして揉む。揉みしだくっ!

 何が何だか既に解らない。御厨さんが仰け反ると朝比奈さんも後ろに倒れる。そして押し倒し……夢中で暴れた。

 御厨さんが望むままに。朝比奈さんが望むままに。

 そして……3人で同時に果てた。

 

 

 再び横になり……元のようにオレの両脇に朝比奈シスターズが腕枕で並んでいる。

 違うのは3人とも息がまだ荒く、オレの手は2人の背中を擦り、2人の手はオレの胸とかを擦っている。

 ツインズ達はまだ2人の中にいるようだが、消えてはいない。その証拠に尻尾がまだ存在しており、頭の中でもツインズ達が息も絶え絶えに疲れている感じが伝わってきている。

 そして朝比奈シスターズは息が荒いが疲れてはいないようだ。

 まったく。

 憑かれているのが疲れておらず、憑いているのが疲れている。

 ミイラ取りがミイラになったという諺が浮かぶが……どうなんだ?

『宿主様。苛めないで下さいませ』

『お二人は……涼宮様や佐々木様とはレベルが違いますが、充分に天女の才に恵まれた方』

『名付けるならば「愛恋の天女」と名乗られるべき方々』

『あるいは「愛染の天女」と名乗られても不可思議ではありませぬ』

 随分と大仰だな。

『大仰ではありませぬ』

『お二人のどちらかお一人だけでも時代が違えば「傾城の美女」と呼ばれましょう』

 確かにな。朝比奈シスターズは庇護欲を喚起させるのは衆目が一致するところだ。

 その二人が両脇にいる。

 改めて思う。天国である。ヘブンであると。

「キョンくん。キョンくんもできるの?」

 はい? なんのコトでしょう朝比奈さん。

「御厨さんみたいに……指を……その……アレの形にするの」

 真っ赤になっておられる。実にいたいけというかいじらしい。

 はい。できると思いますよ。確か。

「じゃ……あの……」

 二人して真っ赤になっている。なんだ? どうした?

「キョンくんの指をアレにして……私達の中を……楽しんで……頂けますか?」

 ええっ! なんてコトをっ! 御厨さんっ。まだしたいんですかっ!

「だって……」

 再び耳元で同時に囁かれた。

「みくるちゃんがシタいみたいなんだもの」

「御厨さんがシタいみたいなんですもの」

 はい。解りました。反論するだけ無駄だと思われる。

 

 

 オレは自分の指先に意識を集中させる。と、指先の感覚が変わり背中から豊かなる弾力の丘へと、そしてその丘の奥深く……

「んあん」

「ひあん」

 2人同時に可愛く呻く。そして指先に2人の中の感触が。

「キョンくん。キョンくんができるなら……私達も……あの子達のように……みくるちゃん、手を……」

 御厨さんが朝比奈さんの手を取り、オレのへと導く。

「2人で……私達の……あん……気持ちを……手に籠めて……擦り……んあ……ましょ」

「ひいん……キョンくん……キョンくんのに私達の……ひあん……気持ちを……感じて」

 2人の手が、指がオレのを擦り、絡んでいく。

 って、これはっ! この感覚はっ!

『お二人は……既にオーラの使い熟しておられます』

『お二人の手は……既に御自身の秘裂の蜜壷となられてますっ』

 確かにこの感覚は……御厨さんと朝比奈さんの秘裂の中の感覚っ!

 さらにはっ! お二人はオレの胸とか顔とかを舌で舐め始めておられるっ!

 な、なんという……なんというヘブンっ!

「キョンくん。いいのっ! キョンくんのが気持ちいいのっ! もっといっぱいにしてっ!」

「キョンくんっ! 感じてっ! 私と御厨さんのを全て……感じてっ! もっと苛めてっ!」

 オレの胸とか首とかを二人に舐められ、オレ自身は2人の手の中で2人の秘裂の中の感触というか2人と感覚を同じにして、その2人の中にはオレの指先を通してオレ自身が……

 ああっ! もう何が何だか解らないっ!

「キョンくん。私達の全てを感じて」

「キョンくん。私と御厨さんの全てを同時に……感じて、すべてを……」

 そして3人で並んだまま……同時に果てた。

 

「んふ。キョンくんのが手に……んふふ。美味しい」

 蕩けた瞳の御厨さんの手に残ったのを美味しそうに舐めている。そしてその唇でオレの胸を再び舐め始めた。

 御厨さんの豊かな胸がオレの身体を擽っている。凄まじき心地よさである。

「こんな所にみくるちゃんのが滴っている。ふふふ。美味しいわ」

 何と言えばいいのか……たぶんなんかのゲームで等身大スライムに襲われたキャラの気持ちが判るというか、なんというか。

 んんっ? 何だこの感触は? オレのを誰かが絡みついている。

「ん。キョンくんのと御厨さんの……おいしい」

 残るのは朝比奈さんである。つまり御厨さんの向こう側でオレのを舌で舐めているのは朝比奈さんに間違いない。

「ずるいわ。みくるちゃん。独り占めしちゃ」

 御厨さんも身体をずらしてオレのを舐め始めた。

 何というコトかっ! オレのを両側から御厨さんと朝比奈さんの艶やかなる唇が挟んでいるっ!

 そしてお二人の身体はオレの足に絡みつき、豊かなる胸が太股に甘美なる刺激を、そしてお二人の秘裂が足首というか足の甲に押しつけられて……オレの下半身が天国の泥の中に埋まっているような感覚で……オレを狂わせていく。

 お二人とも蕩けた瞳でオレのを両側から舐め上げて……オレを快楽の泥の中へと沈めていくようだっ!

「あん。私達がもう一人ずついたらいいのに」

「んあ。そんですね。そうしたらキョンくんをもっと……ん。キョンくんにもっと尽くせますね」

 どういうコトでしょう? 既に世界中の快楽を一心に受けている感じなのですが。

「あんん。そうだ。ツインズちゃん。お願い……」

「そうですね。私達の代わりに……ツインズさん達にキョンくんを……」

 不意に朝比奈シスターズの背中から妖怪ツインズがすうっと出てきた。

 そしてひとつふたつ深呼吸をしてから……あろう事か蕩けた視線でオレを見下し……そして絡みついてきた。

 その時オレは何の脈絡もなく「あれ? コイツらってこんなにグラマーだったっけ?」などと意味のないことを考えていた。

 のだが……

 オレの首に両腕を絡ませ、オレの胸にボリュームが増えた胸を押しつけ首筋を舐め上げていくっ!

 おお、おいっ! いつからオマエ達は朝比奈シスターズの手下に……いや、気持ちいいから良いけど、って、どっだよっ! オレはっ!

『宿主様。申し訳ありませぬ』

『お二人の「衝動」が私達を狂わせています』

 頭の中にツインズの声が響く。

 なんだ? どうしてそうなった?

『お二人とも、今の状況を「禁忌」だと感じておられます』

『その「禁忌」と感じる心が衝動を高め合っています』

 つまり? って、そうだよな。元を正せば同一人物なんだし。

 あれ? ということは朝比奈さんは? ひょっとして……

『はい。御厨さんが同一人物ではないかという疑念を抱かれています』

『その疑念が衝動を一層高めて……』

『そしてその衝動を感じられた御厨さんが「知られているのでは?」という疑念を抱き……』

『その疑念がさらにさらにお二人の衝動を高め合って……』

『つまりは衝動のスパイラル』

『あるいは衝動の自己融解、メルトダウン状態』

 解った。解っているから、何とかしてくれっ!

『何も出来ませぬ。このままです』

『朝比奈様と御厨様が宿主様を「満足させた」と考えられるまでは……永遠に続きます』

 そ、そんなコトが……あー

 そしてオレが先に果てた。

「あん。キョンくんの……おいしい」

「んあ。御厨さん。一緒に……キョンくんのを綺麗に……」

 そして……小刻みに震える身体でオレの足にしがみついたまま、オレのを綺麗に舐め上げて……2人は泥の中に沈むかのように眠りに落ちていった。

 

 

 ふう。終ったのか? 終ったんだよな?

『はい。2人とも眠りにつかれました』

『2人で宿主様を満足させたと……感じられて心が満ち足りたようです』

 納得したというコトなんだろうな。

 足をゆっくりと動かし、朝比奈さんと御厨さんの身体から抜く。

 太股の裏側辺りをなぞる2人の白い指の感触に、胸の谷間から抜く膝の感触に、秘裂からぬるりと引き抜く足の甲の感触に……身体の芯を抜かれるような感覚を覚えるが、そんなコトに浸っていては終らないだろう。永遠に。

 2人から足を引き抜き終えると……御厨さんと朝比奈さんはオレの身体を探し求めるかのように腕を伸ばしたが……お互いの手が互いの身体を探し当てて、抱きつき合っていった。

 まるで子猫が母猫を探して互いに抱き着き合っていくかのように……

 

 その2人を見て大きく深呼吸する。

 しかしだ。傍女というのは便利だと思う。便利すぎて……疲れる。

 だが、吐息のような小さな息で疲れて眠っている朝比奈シスターズを眺めるとオノレの疲労とか罪悪感とかは無意味なモノだと実感する。

 たしかに傾城の美女姉妹だな。本人同士だけど。

『はい。今回は疲れました』

『朝比奈様も御厨様も……天女として記憶しておきます』

 単なる確認だが、何の天女だ?

『それは……』

『傾城の恋天女は如何でしょう?』

 オレが決めるのか?

『はい。朝比奈様も御厨様も全てを宿主様に預けられました故に』

『称号もまた全てのうちの1つです』

 では、この2人の称号は……

『何に致しましょう?』

 愛恋天女。さっきオマエ達がいってたヤツで良いさ。

『解りました』

 さて、そろそろ帰るとするか。

『そうですね』

『再び目を醒まされては……私達も長門様の妙薬を頂かねばなりませぬ』

 アレはオマエ達にも効くのか。

『宿主様が「できる」と考えられれば全てできます』

『私達の存在は宿主様次第なのですから』

 そういうコトか。

 

 

 ツインズ達に腕を掴まれて飛び込んだのは……朱と黒と白の世界。

 ここは? いつものルートじゃないな?

『あの跳躍方法は私達にも解りませぬ』

『ですが、「空間跳躍」ならば私達にもできます』

 これがそうか?

『ええ。古には「神隠し」とも呼ばれました』

『あるいは「隠し里への道」とも』

 なるほど。そういう類の昔話の元となった能力か。

 過ぎた科学力は魔法に見えるとかいう諺の逆もまた真なりってことだな。

『よく解りませぬ』

 気にするな。言ったオレが意味が判っていないから。

 

 

 やっと自分の部屋に戻り……ベッドに身を投げた。

 とにかく今夜は……ぐっすりと眠れそうだ。

 

『まだです』

『私達のお相手を……お願い致しまする』

 え? どういうコト?

『昼に御厨雛様が宿主様に与えた衝撃』

『そして今夜、長門様が宿主様に与えた衝撃』

『さらには先程の朝比奈様と御厨様との濃密なる衝撃』

『そしてそれらを感じられた傍女の方々の残響』

『それら全てが私達の身体に響き帰り……』

『それら全てが……私達を求めさせています』

 なんだ? 残響って何だ? 響き帰りって何だ?

『響き帰りとは木霊、やまびこのコトと思って頂ければ』

『衝撃が傍女達にも伝わり、未だに宿主様を求められています』

 つまり? 

『私達を通じて全ての傍女の身体を鎮めます』

『宿主様が私達に与えた感覚、快楽は全ての傍女達に伝わり、満足させるでしょう』

 その時、ツインズは「あ、そうか。コイツらは妖怪だった」と思い出させるような……妖艶な笑みを浮かべていた。

 そして続けて思い出した。コイツらは時と場合と場所によっては魔女と呼ばれていたことを。

 

 

 それからのコトは……ご想像にお任せする。

 相手はオレの身体の中に自由に出入りできる存在であり、オレが掴もうとしても掴めないのに、相手が触ろうとした時は自由に触れるのである。

 防戦一方というよりは、距離10cmで投げられるダーツの的の如く、なすがままになっていた。

 

 そして……混沌とした意識と困憊とした身体が求めるままにオレは眠りについた。

 

 

 次の日に朝比奈さんの涙を見ることになるとも知らずに。

 さらには……長門の涙を見ることになることも知らなかった。

 

 

 

 

『混乱の水曜日 午前編』へ続く

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