朝比奈さん、未来から来た女教師然とした大人の朝比奈さんはベッドの上で息荒く横たわっている。腰に捲れたタイトミニを巻き付けた全裸に近い姿で。
オレも全裸でソファの上で茫然自失である。一体全体、何が起こった?
いや、何が起こったのかは解っている。解りすぎている。
妖怪ツインズによって朝比奈さんの身体が調べられて、朝比奈さんの要望によりその感触がオレに伝えられて、オレの感触が朝比奈さんに伝えられた。
その妖怪ツインズ達は朝比奈さんの両脇でまだ朝比奈さんの身体を撫でている。オレのに似たにょろんと伸びた指先で。そしてオレに朝比奈さんの感触を伝えていた妖怪ツインズの分身、つまりは3人目はコトが終るとさっさと合体して消えている。
しかし……何故にこうなった?
いや、それも解っている。2つの重なり合う世界。まだ重なっていない未来から朝比奈さんが来てこの世界で重なってしまった。そのために、どういう風に重なったのかを調べるために妖怪ツインズは朝比奈さんの身体を調べたのだ。
そうだ。それだけだ。
「宿主様。確認したいコトがあります」
なんだ?
「朝比奈様がまだ望まれているコトがあります。如何致しましょう?」
朝比奈さんが? ふう。何か望んでいるんだったら望むとおりにしてやってくれ。
「解りました」
「望まれるままに」
妖怪ツインズは朝比奈さんの身体を両側から抱えると……両脚を、いや太股を抱えて左右に……
え?
そしてオレのを……いやオレの形になっている半透明な指先で朝比奈さんの秘裂を左右に広げた。
なんだ? 何をしようとしている?
「朝比奈様は『自分の全て』を宿主様に『晒したい』そうです」
「そして……宿主様に見て頂き、『受け入れて欲しい』そうです」
朝比奈さんは真っ赤になっていやいやと首を左右に振っている。だが口はオレのに似た形の妖怪ツインズの指が塞いでいる。
嫌がっている? ちがうな。恥ずかしがっているのだな。
「さあ? 朝比奈様。全てのヒダをお開き致しました」
「宿主様は……御覧のとおり」
オレのは……文字どおり「いきり立っている」。そりゃそうだろう。朝比奈さんの全てを見て立たないなんて男はいない。
朝比奈さんは真っ赤になりながらも嬉しそうに瞳を潤ませた。
口から妖怪ツインズの指が外れる。
「嬉しい。私を……私の全てを……受け取って。もう一度……」
朝比奈さんはベッドから降りて、オレの元へと……そして跪いた。
「キョンくん。もう一度、私の口で……指で触らせて」
細く長くしなやかな指がオレのを擦り上げ……そして口に含まれたっ!
うおっ! ちろちろと舌がオレのをっ! 朝比奈さんっ! いつの間にそんなに……
「宿主様への『接し方』は先程、直接、朝比奈様の心にお伝え致しました」
「私達の分身への反応で喜ばれる方法などは解りました故」
妖怪ツインズっ! オマエらは大奥御年寄、いや吉原遣手かっ!
オマエらの手練手管を教えるなっ! って、上手すぎますっ! 朝比奈さんっ!
「んん。自分で……自分の口で、舌で、指でキョンくんのを触りたかったの。ダメ?」
いえっ! 全然ダメじゃありませんっ!
「よかった。キョンくん。キョンくんので私の……全てを感じて」
そのまま、身体を上に。そしして乳房でオレのを挟んだ。
「私の胸。感じる?」
まるで極上の、極楽のマシュマロに挟まれているみたいですっ!
「よかった。じゃ……」
オレのをその白く吸い付くような肌で擦り上げながら、身体を上に。乳房が、乳首がオレの身体を撫で上げる。
そして秘裂へとオレのが……乳房がオレの顔に……
「キョンくん。私の身体を、全てを感じて」
オレのが秘裂の中へと呑み込まれ、口が乳首で塞がれた。オレの手は朝比奈さんの腰のくびれを、オレの胸が朝比奈さんの細くしなやかな指で、手のひらで撫でられている。
まるで……オレの全身が朝比奈さんの中へと吸い込まれているよう……
朝比奈さんの中は……オレの全てを撫で上げるようにピタが蠢く。蠢いている。
永遠とも感じられる時
朝比奈さんの口でオレの口が塞がれ、舌が絡み合い、オレの胸を朝比奈さんの乳房が、乳首が撫で上げ……オレは果てた。同時に朝比奈さんも……
正直言って、オレは何をしているんだろうと思う。我ながら。
なんか土曜日からSOS団の関係者と『関係』する事しかしていないような気がする。
いや、していない。
その割りには……
情報統合思念体からは『奴隷ちゃん』として朝倉涼子を預かっているというか支配下に置いてしまっているというか。
朝比奈さん(小)とは専属メイド契約を結んでいるというか結んでしまったというか。
長門とは特に契約、もしくは約束はしてはいないが、オレの身体のメンテナンスを全面的に委託している。
鶴屋さんともただならぬ関係にあり、また、鶴屋さんからも意味深な言葉を投げかけられて……いたんだっけか? まあ、とにかくコトあると「呼び捨てでよろ?」と言われるというか指示される仲になっている。
女になった古泉からは『H空間』処理後の処理の相手を……約束も契約もしていないが実情として専属相手となっているようだ。
そして中学の同級生である佐々木には「涼宮ハルヒさんと同等の力を君と君の仲間のために使いたい」なんて言われて感覚同期機能まで付与されている。
後は誰だ?
ハルヒ? ハルヒとは何も約束してはいない。……いないよな? 何か言われたような気もしているが後回しにする。
ああ。そうだ。情報統合思念体からは『何か褒美として欲しいモノはないか?』なとども言われている。言われているが頼む気は余り無い。頼んだ途端に『では引き替えに君の身体のDNAを全て調査したい。結果として君の全細胞は全て損壊するが御了承願いたい』なんて言われた後で長門と朝倉と情報統合思念体との戦いの火ぶたが……
えーと。何の話だっけ?
とにかくだ。何が何やら解らんままに致してしまっている。
そして今ベッドに横たわっているオレの横で朝比奈さん(大)がオレの腕枕で寝ておられる。
その朝比奈さんとも……随分と濃密なる時間を数度も過ごしているのだが……
濃密になったのは朝比奈さんの後ろとオレの横で複数の尻尾で心地よく撫でてくれる妖怪ツインズの御陰である。
あー。思い出した。コイツら妖怪ツインズからも「宿主様」と呼ばれている。しかもどうやらオレの命令を実行する状況であるらしい。九尾の狐少女であるコイツらは……なんだっけ?
そうだ。朝比奈さんの身体を調べていたハズだ。
何か解ったのか?
「それは朝比奈様が起きられてから」
「重要なのは……見知った後の朝比奈様の行動になるのですから」
なんだ? まあ、いい。朝比奈さんが起きるまで……と、オレの呟きが聞こえたかのように朝比奈さんがゆっくりと目を開けて呟いた。
「キョンくん。はしたない私は……きらい?」
はしたないなんて。そんなコトはありませんよ。全てはハルヒ……いや? こんな状況になった原因というか根源はハルヒだよな? そうだ。妖怪ツインズも「涼宮ハルヒにより重なる世界の……」なんてコトを言っていた。
ですから、全てはハルヒの所為ですから気にしなくて良いです。
「そう? でも……」
でも?
「全てを晒け出してしまいました」
真っ赤になってうつむく。オレよりも大人な姿なのだが、やはり思ってしまう。
可愛い。と
いいんです。そういうコトも含めてハルヒの……
えーと。何か堂々巡り状態になるような気がするから、言葉を変えよう。
とはいえ、どういう言葉が妥当なんだか……?
そうだ。妖怪ツインズの言葉にヒントがあった。
……全てを受け入れます。オレは全部受け止めますから、気にしないで下さい。
「ほんと? ありがとう」
いえいえ。
はー。やっと、正解に辿り着いたか。なんかゲームしているみたいだ。
「キョンくん。ありがとう」
朝比奈さんは起き上がり、軽くキスをした。キスだけなのだが……たわわな胸というか乳房がオレの胸をさわさわとなぞる。乳首の感触が心地よく……
「んう。やだ、キョンくん、また元気になって……」
えー。アナタの御陰なのですが……
「でも、キリがないわ。我慢してね。ううん。正直に言います。我慢させて下さいね」
はい。アナタが仰るのでしたらその様に致します。
でだ。
「それで……何か解りましたか?」
朝比奈さんはベッドの上に正座して妖怪ツインズに向き直った。
オレも起き上がって朝比奈さんの横に並ぶ。胡座でだが。
「解りました」
「説明の前に何か札のようなモノ……あ、ありました」
妖怪ツインズが見つけたのはお茶のティーバッグとかが入っていた箱の中にあったトランプを指差し……ひょいと手招きすると空を飛んでツインズの手の中に収まった。
あー。いわゆる一つの超能力だな。もうそんなコト程度では驚かないが……驚いても良いような気もする。
「この札で説明します」
「ハートが2年前の……宿主様と朝比奈様の意識にある世界、そしてスペードがこの他の皆さま達の意識があるこの現在の世界」
ツインズの1人がシャッフルの途中でするようにカードを手首の返し一つで一枚ずつ重ねた。ただし、札の半分ほどを。
「このように2つの世界は重なりつつあります」
「ですが、朝比奈さまはまだ重なっていない場所からこの重なりつつある世界に来て、御自身が重なってしまった」
「つまり、こういうコトになります」
ツインズの2つの指先が鋭いアイスピックのようになってトランプの1ヶ所を突き刺した。
「このような状態。つまり朝比奈様は重なるのを止めているとも言えますが……」
ツインズがトランプを左右に引っ張る。当然ながら刺さった指先が邪魔で動かない。
「残念ながら解くのも止めてしまわれています」
そうか。良くも悪くもピンで留めている。そういうコトか。
「問題なのは止めているのは朝比奈様だけではありません」
ん?
「宿主様も。そして他の方々も止めています」
オレが? まあいい。オレ以外では誰だ?
「世界の動きを止めている。つまりピンの役目となっているのは……宿主様の周りの方々」
え?
「SOS団の方々がピンの役目を果たされています」
なんだとっ!
「宿主様は……ピンを外し、涼宮ハルヒが重ねようとするのを止めて頂ければ……」
ツインズは声を揃えてアイスピックと化した指先を抜いた。
「世界はこのとおり分離します」
トランプははらはらと舞い散った。
朝比奈さんが嬉しそうに散るトランプを見ている。
「それで世界は元通りになるのね?」
尋ねる声は弾んでいる。
そうだよな。あれだけ恥ずかしい思いをして調べられた結果なんだからな。
「はい。世界は分離します」
「元通りになるでしょう」
朝比奈さんは満足げに息を吐いた。苦労が報われた。そんな感じで。
よかったですね。朝比奈さん。
それでだ。
オレとしては先を確認せねばなるまい。
オレが『ピンを抜く』のか?
「はい」
どうやって? どうしたら『抜ける』んだ?
「それは宿主様が見つけて下さいませ」
「私達には解りませぬ」
2人揃って正座のまま指を突いて深々と頭を下げた。
はあ。雲を掴むような話だ。
「ただし、問題があります」
なんだ?
「こちらの朝比奈様に限って申せば『ピンを抜く』のは簡単です」
ほう。どうやるんだ?
「未来に帰って頂ければ済みます」
なるほど。来た事が『ピンを刺した』コトになるなら帰れば『ピンを抜く』コトになるのか。
「ですが、それが問題となります」
何故だ? 簡単じゃないか。
「問題は朝比奈様が直ぐに未来へ帰られるかどうか。他のピンが抜けた時に」
どういうコトだ?
「他のピンが抜けるまでは朝比奈様はこの重なり合う世界に留まって頂いた方が良いでしょう」
「ですが、他のピンが抜けてもなお朝比奈様が未来に帰らずにおられた場合、再び世界は重なり合うでしょう」
「そうなると……私達にもどうなるか予想がつきませぬ」
ああ。そうか丁度いいタイミングで未来に帰る必要がある。そんなコトは簡単……
あ、ダメだ。
朝比奈さん自身が持ってきた手紙。その手紙には『時間平面の挙動が不安定です。TPDDの使用が制限されています』とあった。
ドンピのタイミングの時に使えない可能性が……高いんだな。
朝比奈さんは青ざめている。先程の嬉しそうな顔は何処かへ飛んでいってしまった。
「私が……世界を崩壊させるの?」
そんなコトはありませんっ! させませんっ! 大丈夫ですっ!
考え無しに説得する。説得したいのだが、やはり考え無しの言葉は……説得力を持たないようだ。朝比奈さんは悲しげな光を宿した瞳でオレを見上げる。
「ありがとう。でも……」
いいんですっ! オレが何とか……
言いかけて、思いついた。あるコトを。
絶対にオレが何とかしますっ! えーと。朝比奈さん。通信はできますか? 未来と。
「未来と? 今?」
根拠不明ながらも考えのある言葉はある程度の説得力を持つようだ。正しいか、可能かはともかくとして。
「できます。今はある程度安定しているようでできますが……何と伝えればいいの?」
それからオレは……突拍子もないある考えを朝比奈さんに告げた。
朝比奈さんは「え? そんなコト?」「できるの? ううん。可能だけど。どうやってそれを?」と何度も尋ねられたが……オレとしても確信はない。だが当たって砕けろだ。
なんとか未来との……『2年後の世界の未来』か『2年前の世界の未来』か解らない未来との通信は終った。
両方の未来に今の通信が伝わっていることを願うだけ。
そしてオレの目論見が当たっていることを願うだけだ。
後はオレの方で何とかします。
朝比奈さんは連絡を待っていて下さい。
「うん。解りました」
朝比奈さんは満面の笑みに戻った。
やっぱりアナタには笑みが似合ってますよ。
「そう。ありがとう」
カーテン越しの風景が朱に染まりつつある。
そんなに長い間を過ごしてしまったか。
実際の時間よりも随分と濃密な時間でもあったが。
朝比奈さんとは数年分の『関係』にも匹敵しているような時間。
と、感慨に耽っていた時、不意にオレの腹が空腹だと不平を告げた。
朝比奈さんがちょっとだけビックリして笑った。直後、朝比奈さんの程よくくびれたお腹からも似たような音が、だが、オレのよりは数段澄み切った音が響いた。
「……お腹が空きましたね」
何か食べに行きましょう。
「そうしましょ。いつまでもこんな格好じゃ寒いわね。……あ」
朝比奈さんが拾い上げたブラウスは破けていた。
あー。そうか。最初の時に破いてしまったか。
困ったな。買いに行くしか無さそうだ。
互いに苦笑していた時。不意にドアがノックされた。
「やっほー。積もる話は終ったかい? 随分と濃密なる『話』だったと思うにょろ?」
ノックしたのは鶴屋さんだった。意味深げにウィンクしているのだが、流石に図星である。
そんなに核心を簡単に突かないでくださいよ。
「きゃははは。オンナの勘は鋭いのさ。ほい。これ。適当に見繕ってきたよ」
なんですか?
「サイズ的には合っていると思うにょろ。趣味に合うかどうかはわかんないけどねっ」
鶴屋さんから受け取った紙袋の中にあったのはブラウスやら下着やらスカートやらの衣料各種であった。
紙袋ごと、部屋の中で縮こまっている朝比奈さんに渡す。
オレは外に出て、鶴屋さんと向き合った。
助かります。
「ははは。いいってことさっ」
どうです? これから食事にでも行こうかなんて考えているんですが。御一緒しませんか?
「んー。あたしは遠慮しておくっさ。家に帰ることにしたんよ」
家に? 帰るんですか?
「そ。それでも『親の監視範囲内家出』は続行するけどねっ! ほら。あの庵、『朝比奈みちる』ちゃんを泊めた庵で家出を続行するにょろよ」
なるほど。そういうコトにするんですか。
「そ。だからね……」
鶴屋さんは深々とお辞儀した。
「実家に帰らせて頂きます」
えーと。なんかの予行練習ですか?
オレはなんと答えたら宜しいのでしょうか?
「きゃははは。いいかい? キョンくん」
悪戯っ子ぽい笑みでつんと胸を指で突かれた。
「他の美人さんの匂いを身体から立ち上らせている男に反論は不可能なのさっ。それでも反論したいんなら言葉でなくて行動で示すことだねっ」
何もかも知っていそうな上級生にささやかなる反攻を試みる。
えーと。こういうコトですか?
ぎゅっと、抱きしめてキスで口を塞いだ。
キスをする必要はないかも知れなかったが、鶴屋さんはビックリ眼で……それでもオレの舌を受け入れた。
暫しの沈黙の後……
「んー。正解かも知れないけど……ダメかもにょろ?」
照れるような困ったような笑顔だ。
ダメですか?
「みくるに見られっとはあたしも思わなかったさっ」
えっ!
振り返ると……朝比奈さん(小)が奥の部屋の前で目玉を丸くしておられるっ!
そして慌てて「見てませんっ!」と言わんばかりにドアの奥へと消えた。
ええっ!? 半年前に火事で引っ越しした部屋ってそこでしたかっ!
なんてコトだ。朝比奈さん(大)の奥隣に朝比奈さん(小)が住んでいるなんてっ!
危険が危ない、アクシデントがデンジャラスゾーンじゃないですかじゃないですかっ!
こういう時は誤用した方が真に迫る。って、何を誰に言い訳している? オレはっ!
「ふふふ。ま、そういうコトでフォロー宜しく。よろ?」
えー。解りました。何とかします。
「んじゃ。そそ。今夜も夜這いにくるのを楽しみにしているにょろ。んじゃねー」
明るい上級生は笑顔を撒きつつエレベーターへと向かわれていった。
はあ。どうしようか。
溜息を吐くオレの後ろでドアが開いた。
着替えの終った朝比奈さん(大)である。
「あれ? 鶴屋さんは? 一言、お礼を言いたかったのに……」
あー。そうですね。明日、伝えておきます。
「どうしたの? 元気ないけど」
それがですね。
オレはこの通路で起きたことを包み隠さず伝えた。
「そうだったの」
朝比奈さん(大)は暫し、可愛ゆく顎を指で支えて考えておられたが「じゃ、任せて」と……
奥の部屋に向かわれたっ!
え? 良いんですか?
朝比奈さん(大)はくるりと振り返り、オレの元に戻って耳元で囁いた。
「ん。大丈夫。たぶん。この奥の部屋にいる私はこの『2年後の世界』の記憶を持った私なんでしょ?」
そうですけど。
「じゃ、『2年前の世界』の私とお話ししてもタイムパラドックスは起きないわ。たぶん。確信はないけど。それでもこれは私の役目だと思うの。だから任せて」
朝比奈さんはオレの首に手を回して……キスをした。
「ふふふ。おまじない。不思議ね。キョンくんと……『触れあう』と不安が無くなる。それも……」
今出てきた部屋。先程まで随分と濃密な時間を過ごした部屋を見る。
「あの子達の御陰かも」
あの子達って、妖怪ツインズですか?
「そう。あの子達が私の心を洗ってくれた。そんな気がする」
『そんなコトはありません』
『全ては朝比奈様の元来の資質です』
不意に声が耳に響いた。朝比奈さん(大)も辺りを見渡している。何処にいる?
『お忘れですか? 私達は宿主様の腕の中にいるのです』
『そして宿主様の「傍女」となられた朝比奈様にも私達の声は届くのです』
傍女? なんだそれ?
『朝比奈様は全てを宿主様に晒し、心の全てを預けられました』
『その様な方は宿主様の「傍女」として私達が力添え致します』
なるほどね。そういう制度があったとは知らなかった。
「心強いわ。じゃ、キョンくん。夕飯は御一緒できないけど、あのコのコトは任せてね」
もう一度軽くキスしてから朝比奈さん(大)は奥の部屋へと向かった。ドアを開ける前にウィンクして。
朝比奈さん(大)。アナタの方がオレにとっては心強い存在ですよ。
「随分と親しげになられたようですが」
不意に背中で声がしたっ!
腰を砕けさせながら振り返るとそこにいたのは古泉五妃であった。
いつからそこにいたっ! っていうか、何処から見ていたっ?
「下で鶴屋さんとすれ違いました。そしてエレベーターで上ってきたらちょうど……」
古泉は小悪魔のような笑みを浮かべた。
「濃密なるキスの最中でしたので隠れていました」
えーとだ。それはキスではなく耳元で囁いていた時だと……まあ、いい。細かく反論しても意味はない。
それで? 何の用だ?
「はい? 用事とは?」
とぼけるな。用事があったからココに来たんだろう?
「ふふふ。そうですね。涼宮さんから『キョンを疲れさせるようなことは当分厳禁よ。いい? 五妃ちゃん、悪いけどキョンの送り迎えは宜しくね。なんなら毎朝、校門まで送っても良いわよ。教師どもが文句言ったって構わないわっ!』と指示されてまして」
それで迎えに来たという訳か?
「ええ。ついでながら鶴屋さんの買い物にもお付き合い致しました。勘の良い方です。実際、買い物は必要だったみたいですね」
ああ。鶴屋さんには感謝している。
「それから下でコレを鶴屋さんから預かりました。好きに使っていいそうですよ。もっとも必要はあまり無さそうですが」
古泉がオレに渡したのは朝比奈さん(大)の手前隣の部屋の鍵。つまりは……
ハルヒと朝比奈さんと『致した』部屋であり、鶴屋さんとも『致した』部屋。ついでながら昨夜に数回は転送された部屋の鍵だった。
「確かにウェディングドレスがいっぱいですね」
部屋に入るなり、古泉五妃が感嘆した。
そんなコトはどうでも良い。なんだ? ココで話したいってコトは?
「そう邪険にしないで下さい。アナタが赤城さんや水城さんを苦手としておられるようですから、『積もる話』はココの方が宜しいでしょう?」
ベッドに腰掛けたオレの横に五妃が座る。
ついでに身体を預けてきて……結果としてベッドの上で五妃がオレの胸に頭を埋める格好になってしまった。
えーと。積もる話ってのは? 『致す』コトか?
「ふふふ。それでも良いですけど……それはアナタの腕の中にいる方々が納得されないでしょう」
ん? 五妃がソレを知っているのは……変だ。おかしい。
オレ自身が知ったのは先程のことで知っているのは朝比奈さん(大)だけのハズ。
テレパシーで繋がっている長門や朝倉、感覚で繋がっている佐々木ならば知っていたとしてもおかしくはない。
だが、五妃とは繋がってはいない。知らないはずだ。
誰かから聞いたのか?
「いいえ。聞かなくても判りますよ。ソレがこの世界でのボクの……」
五妃が言いかけた時っ! 腕が五妃を突き飛ばして……ツインズが悲鳴を上げた。
『宿主様っ! 離れてくださいっ!』
『その者は妖(あやかし)使いっ! 私達の敵ですっ!』
オレの体内に響く悲鳴と共に妖怪ツインズが出現しオレを抱きかかえて五妃を睨んだ。
ツインズ達の敵?
五妃。オマエは一体……何者なんだ?
『騒乱の火曜日 黄昏編』へ続く