高専になっても下駄箱は健在していたが残念ながら未来からのメールは届いてはいなかった。
オレと古泉五妃はお互いに「仕方ない。明日は来るかも知れない」と無言で頷き合い、教室へと向かった。
途中で五妃が別れて恥ずかしげな表情で女子トイレへと入っていったのは、馴れていない所為なのか。
それとも……朝倉涼子が言っていたことが事実だったのか。
まあ、それはどうでも良いことだと溜息と共に吐き出し、今後のことを考える。考えたいのだが……朝倉涼子の壊れた冷たい笑い顔がどうしても脳裏に浮かんでしまう。
砂漠。
四方八方を最新鋭戦車の数個師団に囲まれている朝倉涼子は涼しげに微笑んでいる。何かの合図に戦車隊の全ての砲口が火を噴き、朝倉は爆煙と砂埃に包まれる。
「やったか?」
だが、砂埃が収まったとき……朝倉涼子は「微風に髪を乱されちゃった」みたいな感じで何事もなく立っている。
「何をしたかったの?」と呟いた瞬間に朝倉の右腕が光り輝き……巨大な鞭となって戦闘の戦車を叩き潰す。
「アナタ達も壊れてしまいなさい」
横殴りに巨大な鞭が振るわれて戦車隊は全てが破壊されて誘爆し火を噴いて残骸を晒す。
「目標確認。爆撃します」
遥か上空から戦闘爆撃機、戦略爆撃機が空を覆い、爆弾の雨を……いや滝の如く、爆弾が降り注ぎ、爆圧が戦車の残骸諸共、地上の全てを吹き飛ばす。
「やったか?」と呟くパイロットの横の空間が揺らぎ……爆撃手が叫ぶ。
「隊長っ! ターゲットは真横にいますっ!」
朝倉涼子が爆弾を手に空中を飛行していた。
「女の子にこんなモノをプレゼントするなんて、やぁね」
戦闘爆撃機のコクピット横をポンと手で軽く叩くと……衝撃波と共にコクピットが圧壊し、墜落していく。
「あら、地球の戦闘機って脆いのね。じゃコレはそちらにお返しするわね」
朝倉が放り投げた爆弾は超音速で上空の戦略爆撃機へと命中し、破壊した。
「コレでも食らえっ!」
飛行する朝倉に向かって対空ミサイルが放たれれる。が、ミサイルは朝倉の手前で進路を変えて戦闘爆撃機へと向かっていく。
「あのね? 瞬きする間に書き換えられるようなプログラムなんて意味ないと思うんだけどな」
放たれたミサイルはプログラムを書き換えられ、自軍の戦闘機達を墜落させていく。
燃えさかる戦車の残骸。墜落してくる戦闘機達。
地獄絵のような地上に音もなく降りた朝倉涼子は夕焼けの風景を眺めるように微笑んでいる。
「ふうん。地球の兵器ってずいぶんと壊れやすいんだね。時間の無駄だったかも」
朝倉の呟きを何処かの地下深くにある作戦本部で眺めていたどこぞの大国の要人が指示した。
「全ての戦力、全ての核兵器を持って殲滅せよ」
朝倉めがけて放たれる潜水艦発射弾道ミサイル 、巡航核ミサイル、大陸間弾道ミサイルが降り注ぐ。低軌道衛星から核エネルギーレーザービームも射出される。
……全てが終わったとき、砂漠は喪失し無数のクレーターが残されていた。
「やったか?」
「やりました。間違いなく、破壊しました」
鬨の声が上がる。地上の全てを巻き添えにしてやっと対象を破壊したと。悲しげな鬨の声が……
だが……
「それで終わり? じゃ、コッチの番ね。死になさい」
モニターの1つに朝倉涼子の陰りのない笑顔が映し出され……地獄からの使者のような不気味な笑みへと変わった瞬間。
作戦本部の壁から冷たく光る触手が要人達を襲い……作戦本部は壊滅した。
雪原。
核の冬がもたらしたいつまでも降り注ぐ雪の中……朝倉涼子がつまらなそうに呟く。
「あーあ。全ての有機生命体が死滅しちゃった。つまらないから帰るね」
こうして銀河の辺境にあったある星系の文明は途絶したのである。
……なんて事態にならないとも限らない。
いや、長門がいる限りその遥か手前でなんとかしてくれるだろうという希望的観測はあるが、相手は朝倉涼子である。
油断は禁物だろう。
人類が長門によって護られたとしても我が身は危うい。自重せねばなるまい。
とはいえ、当面の最重要課題は朝倉ではない。
古泉五妃が別れ際に言った忠告こそが最も重要である。
「涼宮さんの機嫌を損ねることだけは避けるように。ただでさえ混乱したこの世界が更に混乱しないとも限りません。いいですか? 涼宮さんの対応だけは間違えないように。いつもと同じように振る舞って下さい」
問題は、普段の対応とは? そして涼宮の機嫌を損ねない方法とは? という根本的な疑問である。
機嫌を損ねないようにと言われてもアイツは勝手に損ねるし、突っ込まないと機嫌を損ねるし、かといって同意したとしても時と場合によっては機嫌を損ねるのである。
無駄な努力という単語が集団で脳裏でオクラホマミキサーを踊っている幻影に悩みながら教室へとたどり着く。
幸いにも2年となったときの教室と同じ場所が4年の教室となっていた。
黒板横に貼られていた席次表をさりげなく確認。
幸運にもというか、やっぱりというべきかオレの席は窓際最後尾の1つ前であり、その後ろには見慣れた名字が書かれてある。
ついでに説明すれば、この北山高専というほんの数時間までオレの記憶になかった教育組織は一風変わったクラス編成をしている。
オレが所属しているのは文系5組。そして教室の廊下側半分を理系5組が鎮座している。
生徒手帳に書かれていた取って付けたような「理念の実現」という頁の説明文によれば、理系と文系という2大区分に生徒の教育内容を大別しようとも生徒生活は普遍的であり、様々な交流から豊かな人格が形成される。という意味の文が長々と書かれている。
まあ一言で片付ければカオスな環境が豊潤なる人格が育まれるという正しいのか誤っているのか判別しかねる方針によりこのようなクラス編成となったらしい。
ともあれ、自分の席に着き見渡すと……有り難いことに見慣れた顔が大体は揃っている。
見慣れない顔もあるし、見慣れない制服もあるが……疑問を顔に出すよりは「そういうモノだな」という表情を顔に貼り付けておく。生徒手帳に書かれた校則によると「制服着用。ただし編入者は高校時に使用していた制服の使用を許可する」とある。見慣れた北高以外の制服は編入試験を受けて入ってきた者達だろう。とはいえ……
クラスの大半が女子に変わっているのは何故だろう?
それでも「こういうモノだ」と表情を崩さずにおこう。
それが古泉が示した行動方針であるが故に。
実際、個人的経験でもそれが良策であることは明白である。そうしておかないといつぞやみたいにヒソヒソ話の対象となり、行動が注目の的となり、居心地が悪くなること請け合いである。
もし問題が発生したならば古泉の所為にしておこう。という精神的な退避場所もある。
自分を偽りつつ、平静を装っていると谷口と国木田が近づいてきた。
3年次以降は理系を選択したはずの国木田が同じクラスなのはカオスな学校方針に感謝したい。気兼ねなく話を進められる相手を求めてさまよう時間の節約ができたという程度だが。
「よお。キョン。また今日も襲われたんだって?」
「いつもの光陽園女子らしいね。日常的とは言え大変だねえ」
しらばっくれながらも探りを入れると……やはり、オレが襲われるのは一昨年かららしい。
「2年の時の古泉さんの熱演がアダになったんだよな?」
谷口説によれば、古泉五妃が演じたベルばらが填るに填り、観客の女子ほぼ全てがグルービーになった。そしてSOS団の中で唯一、女子ではないオレが狙われることになったという。
仮説としては弱い。というか、女になったとはいえ古泉のとばっちりというのは納得しがたい。却下する。
「ちがうよ。メイド喫茶でキョンが朝比奈さんに抱きつかれたのが始まりだよ」
国木田説によれば、文化祭で朝比奈さんのクラスは前年に引き続き好評だったメイド喫茶を敢行。その時、熱病に浮かされるが如く理性を失った他校の男子が朝比奈さんに襲いかかり、たまたま居合わせたオレが完膚無きまでに叩きのめした。それ以降、オレは朝比奈さんマニアに狙われるようになり、それを撃退するために古泉五妃が警護することとなった。が、今度は古泉五妃のマニアに逆恨みされ、狙われるようになったと。
うむ。切っ掛けが納得できるし誇らしい。古泉五妃が警護する以降は谷口説に似たり寄ったりだが、根源が違う。全面的に支持しよう。
とはいえ、改めて友人2人の顔を見る。
双方共にヒゲが濃くなっている。国木田は毎朝剃っているようだが、剃り跡を見るに生やしても似合わない雰囲気だ。谷口は性格そのままに無精ヒゲを生やしており、もみあげから顎にかけてヒゲが繋がっていそうでいないのがコイツの人生を物語っているようでもある。
繋がっていてきちんと整えたら、それなりに見られそうな雰囲気なだけに残念だ。
「だろ? もうちょっとなんだぜ。ちゃんと揃えたらハリウッドあたりでデビューできそうなんだがな」
望み通りにヒゲが繋がっていたとしても日本の三流映画の通行人Aぐらいだろう。
ハリウッドだ? それなら英語とか英文法とかが赤点すれすれなのを何とかしろ。
「その言葉はそっくりオマエに返してやる。だがなキョン。お互い高専になって助かったよな」
まあ、そうなんだろうな。
「期末試験が多少、難しくなった程度でそのまま4年に進級。高校課程卒業を選択したヤツらは大学受験で大わらわ。受験に失敗して浪人生活となったヤツもいるぜ。こっちはその苦労を味合わずにすんで4年生だ。無事に卒業すれば専門短大卒業扱い。追加でオプション課程を注文すれば大学卒業扱いだ。ま、オマエがこれから気が狂って勉学に励んだとしてもそういう選択肢は選ばないだろうがな」
うむ。確かに。高専になったというのはオレや谷口にとっては有り難いことなんだろうな。
無事に入れて無事に卒業できるかどうか怪しい大学より、流れ作業で得られる短大卒業扱いというのは案外美味しいのかも知れん。
とはいえ……
納得し、喜びつつも心の中では落胆もしていた。
やはりというか、そうだよなというか、谷口と国木田の記憶はコッチの世界のモノだ。
古泉が女で、なおかつ2年後。
あまり期待はしていなかったとはいえ、心寂しいのは何故だろう。
それでも希望は残っている。
谷口と国木田の会話の中にSOS団という単語が入っていた。
SOS団が変わらずにある。安堵して喜ぶべきコトだろう。
オレの人生的には安堵できんし、あまり喜ぶべきコトではないような気もそれなりにはするのだが。
「何バカな話をしてるのよ」
不意に声が響く。誰あろう。オレの後ろの席を偶然にも毎回指定席としている涼宮ハルヒである。
一昨日のことが記憶の片隅にあるのか何となく雰囲気が違う。視線をオレになかなか合わせない。合ったと思ったら視線を逸らす。
逸らすのはオレも一緒だから、お互い様なのだが。
「涼宮さんは凄いよね。文系と理系の二重登録。しかも全課程制覇するなんて」
はあ? 国木田、オマエは何を言っている? バカなことを言うな。そんなコトができるわけがないだろう?
「バカはオマエだ。キョン。もう忘れたのか? コイツは高専に変わった去年、つまりはオレ達が3年次に文系、理系の全課程制覇。終業式に校長から表彰されていただろうが?」
なんだと? そんなコトが可能なのか?
「可能だからできたんじゃない。まあ、出席数を重視する講義を回って、出席できなかった講義は補習と追試を受けまくっての制覇だけどね。ま、簡単だったわね」
なるほど。SOS団の活動状況からすれば不可能では無さそうだな。と一瞬で納得しかけたオレを誰が責められよう。
しかし……ハルヒがついに勉学にエネルギーを振り分けたか。勉学に励むのは学生としては常識といえば常識だ。
だがハルヒに限ればそれは非常識なような気もしている。
「なによ。それは? いいの。今年も来年も全講義を制覇して世界初の全課程同時制覇を達成するんだから。そしてそのまま大学に編入して、大学の全学部を同時卒業してあげるわ。当然、首席でね。無理だなんて大学側には言わせないわよ。ワタシは全課程を同時制覇した実績があるんだからね。そして歴史に名を刻むのよ。キョン。アナタにはその時にワタシを胴上げする権利を認めてあげるわ」
なんの権利だよ。そんなのは運動部の胴上げバイトに100円で売却してやる。
その前に予定の話を既定として話を進めるな。オマエはまだ高専を卒業してはいないんだからな。
「だったら実行すればいいのよ。去年はそのための第1歩。三段跳びの最初の1歩を跳んだに過ぎないわ。2歩目が全課程同時卒業、そして着地点は決まっているの。全学部同時首席卒業という着地点はね。世界記録は確定しているのよ」
そんな時点で確定しているんならオリンピックの三段跳びの選手は楽だろうな。というか、世界記録を達成できなかった選手も第1歩目までは同じコトを考えているんじゃないのか?
「ワタシの偉業をオリンピックの予選落ち選手のショボイ記録と一緒にしないでよ」
どうなるか解らん予定より、どんなにショボくても記録の方が賞賛されると思うぞ。オリンピックならばな。
とはいえ、オレの中で呆れつつも確信したことがあった。
高校を高専にしたのはコイツだ。
普通に大学受験した場合、学部は既存のモノに限られる。全学部同時制覇なんてコトは不可能なのは明白。
こんな素っ頓狂なことを実現するためにこんな奇妙な高専にした。間違いない。
解っていたことだとはいえ、呆れてしまう。
いや、今は冷静に判断しよう。
残る課題は、古泉が女になったことと、2年ほどタイムスリップしたことと……木曜日の夜に何が起きたのか? だっけか。
まあ、木曜日の夜に何が起きたのかが解れば原因判明とオレの脳細胞は告げているが……さて、どう切り出そうか。
この世界では古泉が女であり、2年後であるのは「常識」だろうから、それを「何故だ?」と尋ねた途端に不審がられるのは明白である。
ということは……
幸か不幸か「木曜日の夜に何があったか?」を聞くのが一番自然に尋ねることができる。
おお。なんということだ?
一番聞きたいことを一番最初にごく自然に聞くことができるとは。
最初に出遭った雑魚キャラがラスボスだったみたいなショボイRPGのような気がしてきたぞ。
「先週の木曜日の晩? 何もしてないわよ。家族みんなで晩御飯を食べたわ。あ、親父は遅かったから別だったけど。その後はTVみたりなんだかんだで別に特別なことはしなかったわ。それがどうかした?」
ん? 質問の仕方を間違えたか?
ああ、この時点での木曜日じゃない。
2年前の時点での先週の木曜日だ。
「そんな昔のコトなんて覚えているわけが無いじゃない。バカ」
確かに。覚えている方が普通じゃないな。
……ふぅ。
やっぱり、最大の謎は一筋縄ではいかないようだ。
チャイムが鳴り、担任が入ってきた。律儀なことに担任は岡部だった。
……他に教師はいないのか?
とはいえ、岡部の後に入ってきた人物を見て周りはざわめきだした。
「お久しぶり。あ、初めましての人もいますね。あたしは朝倉涼子。ここが高校の時にちょっとだけいたの。宜しくね」
やっぱりな。
同じクラスになるぐらい長門や朝倉の親玉にしてみれば、クシャミよりも簡単なことなんだろうからな。
月曜日の最初の講義はオリエンテーリングと呼ばれるらしい。
各課程の講義の予定変更やら場所変更やらの通知が主である。明日以降も同じようにあるが、それらはミーティングと区別されている。
他の高専でもこのような時間割なのかは知らない。どうでもいいことだ。
そのオリエンテーリングが終わり……朝倉が昔の顔馴染み達との会話を切り上げてオレの元へと来た。
「お久しぶり。あ、でも今朝も会ったわね。古泉くんがアナタの恋人なの?」
ややこしいコトを聞くな。オマエの頭の中でも違うというのは知っているんだろうが。
「古泉くんはワタシの指示でキョンのボディカードをしているの。勘違いしないでよね」
「ああ。そうなの。涼宮さんもお久しぶり。ちっとも変わっていないようで安心したわ」
何をどう安心したんだかを聞きたいところだが、無視してやる。それ以前にハルヒはハルヒで少しは変わったはずだぞ。オレの記憶にある1年だけでもオマエが存在していた不機嫌オーラを無差別に発散していたあの時期とは段違いに違うはずだ。
「そう? ところでアナタは変わったの? なんでカナダに行っちゃたの? どんな事情?」
何故かハルヒはあの時期の不機嫌オーラを思い出したかのように放ちながら尋ねた。
朝倉の説明による事情とは……
朝倉涼子はクオーターである。ハーフな父親が自身の母親の故国である日本で見初めたのが朝倉の母親であった。熱心に口説かれて結婚したは良いが、母親は外国での生活が馴染まずに離婚覚悟で朝倉を連れて帰国してしまった。だが、父親は納得せず、母親は日本とカナダを往復する生活となり、高校生活に突入。朝倉はひとり暮らし同然の日々を過ごしていたが、結局、離婚は回避され、再びカナダに住むこととなった。それが朝倉が高校に入って数ヶ月後のことであった。
よく考えたな。
長門と同類ならば英語なんぞも鼻歌より簡単に話せるだろうし、ボロはでないだろう。
「へえ。で、どうしてアナタがココに戻ってきたわけ?」
さらに朝倉の説明は続く。
最初、日本に戻ってきたのが中学あたり。最初は日本語がきちんと話せないが為に、周囲から浮いてしまい、色々と転校してしまった。高校入学でリセットできたと思ったら、カナダに戻ってしまった。そしてカナダに戻ると今度は向こうの言葉がきちんと話せずに浮いてしまった。結果として勉学に勤しんだ結果、カナダの高校は飛び級で卒業したのだが、大学には進む気がしなかった。そして日本に戻ることにしたのだが、今度は時期が合わない。それでどうしようかと悩んでいたら北高が高専になっていたのを知った。入学していた事実と、カナダの高校は卒業していた実績とで編入できた。
最初からの編入学にならなかったのは、事実確認に時間がかかったためである。……と。
「知ってる? 外国は9月卒業、10月に入学なの。それにカナダはフランス語と英語がゴチヤゴチャで……結局、馴染めなかったな」
嘘つけ。
『長門に消去された』という事実は置いておくことにしてもだ。ヒューマノイド・インターフェイスならば英語だろうがフランス語だろうが、英語訛りのフランス語やフランス語訛りの英語だって、九九並みに簡単だろうに。
「そうなの。大変だったわね。お母さんと一緒に帰ってきたの?」
簡単に信じるな。事実を告げる訳にもいかんから信じてくれるのは有り難いが。
「ううん。母は父と一緒。離婚の危機があったなんて微塵も感じないぐらいラブラブなの。日本にはあたしだけ」
「解ったわ。じゃ、残り2年だけど宜しくね」
「宜しく。あ、それでお願いがあるんだけど……」
朝倉涼子の願いとは……SOS団に入りたいとのことであった。
カナダの高校では周りに馴染めなかったが故に高校らしい思い出がないのだという。
そんなコトは有り得ない。オレが拒否する。SOS団なんぞにオマエが入った日にはオレが心休まるときがない。断固拒否する。
「キョン? 団長はワタシなの。入団を認めるかどうかはワタシが判断するの。でも……そうね。SOS団が学校公認から外れそうだから1人でも団員が欲しいのは確かなのよね」
はい? 何か不可解なことを仰ってませんか?
学校公認? SOS団が?
「そうよ。一昨年、2年の時の2学期から講師に来てくれていた森さんが顧問になって学校側に掛け合ってくれたのよ。忘れたの?」
いや、ちょっと早めの五月病にかかってな。というか健忘症気味なんだ。悪いが教えてくれ。
「キョン。アンタ、春休みの間なんにもしないでぼーっとしてたんでしょ? だからそういう重要なことも忘れるのよ。今度の休みは端から端まで全部予定を埋めてあげるから感謝して従いなさい」
ありがた迷惑という言葉を実践するのは止めてくれ。と言いたいところだが、止めておこう。古泉の指示もあるし、抵抗したら逆に喜んで実行しそうだ。ここは頭を下げておこう。
そうならば楽しみにしておくよ。当てにしないでな。
「当てにしなさいよ」
無条件に従うのはオレの精神に悪い。少しは皮肉を混ぜてもいいだろう。
ハルヒの返しも予想の範囲内だったし。
という言い訳を自分自身にしつつ、本題に戻る。
森さんって、あの森さんか? 森園生さん?
「そうよ」
ハルヒの説明によれば……
教員免許を持っていた森園生さんは古泉からSOS団の状況を聞き、学校側の理不尽なる対応に立腹し、進んで非常勤講師となり、そしてSOS団顧問に就任した。そして森さんの尽力によりSOS団は部活動として学校の公認を得たのである。部費も文芸部と併せて文化部系の部の中では断トツの予算を獲得するに至った。
だが、しかし。森さんは事情によりこの3月で講師を辞めてしまい、SOS団の処遇は宙ぶらりんになってしまった。
……間違いない。高専とかSOS団の公認はコイツの妄想の産物だ。
文学部諸共SOS団を葬り去ろうとしていたのは旧名『機関』、現名『組織』の手先である生徒会長の仕業というか芝居だった。同じ『組織』に所属するであろう森さんがそんなコトをするはずがない。
ひょっとして……
ハルヒは生徒会長が『機関』の手先だと無意識下で解っていたんじゃないのか?
そのしっぺ返しとして『機関』の手によって公認を勝ち得た。
そんな気もしないではない。
で? SOS団はなんという活動内容で認められたんだ?
「ええっとね。『素敵でオシャレな生活を研究する団』だったかな?」
なんで説明に疑問符がつくんだよ。団長だろ?
「いいのよ。SOS団はSOS団で」
「そうか? オレが知っているSOS団の意味は違うぜ」
言い切ったハルヒを谷口がからかった。余計なことをするな。ハルヒが機嫌を損ねたらどうするんだ。
「何よ。言ってみなさいよ」
「そうだな。1つは『セクシーでオシャレな下着で過ごす』団。オマエら女生徒限定で写真集を販売していたらしいじゃねぇか。もっとも森さんが相手を選んで販売していたみたいだからオレらは見たこともないが。なんでも……ボンデージファッションとかもあったんだよな?」
オレに聞くな。初耳だ。
「なんだよ。キョン。オマエがカメラマンだったんじゃねえのか。鼻血を出し過ぎて貧血気味だとか言ってたろ?」
そりゃそうだろう。そんなシーンを撮っていたら鼻血を出しすぎて貧血にもなるだろう。
「ボクが聞いたのは違うな。『セブン・アウト・シスターズ』団。『常識にとらわれない』っていう意味でのアウトだと聞いたけど。でもその意味だと正確には『アウト・オブ・プレース』じゃないかな?」
国木田。理系に進んだオマエの英語力を疑う訳じゃないがそれだと「7人の場違いな女達」だ。
……SOS団の実情には合っている気もするが。
ん? なんか別にもっと突っ込むべき単語があったような気がするが……直ぐに判別できない。話の流れに乗るためにも後回しにしておこう。
「何にしても楽しそうね。名称はどれでも良いいから、ますますSOS団に入りたくなっちゃった。いいでしょ? 涼宮さん」
SOS団の異名話を打ち切って朝倉が涼宮に懇願している。
認めるなよ。頼むから。
「いいわよ。認めてあげる」
あっさりとオレの願望は無視された。声にも出していないから仕方ないが。
「でもね。SOS団は文武両道が基本なの。学力は……飛び級で卒業したという実績を信用して認めてあげるわ。でもね。実技試験をしないで認める訳にもいかないわ。取り敢えず『仮入団テスト前扱い』ってことで認めてあげる」
SOS団の何処がどういう風に文武両道なのかは無視する。
まぁ仕方ない。
長門もいるから目の前にいた方が安全なのかも知れん。
次の講義は「出席確認ゆるい。代返可能」とデータにあったので早速、同じ講義を受けることとなっていた谷口に菓子パン一個の購入権と交換で代返を依頼し、オレは部室へと向かった。
古泉五妃に預けられた刀……オレを襲撃した小娘から取り上げた刀を部室のロッカーに入れておいてくれと頼まれてもいたからな。刀なんて物騒なモノはさっさとしまうに限る。刀を入れてあるカバンを担いで部室へと向かうとしよう。
幸いにもSOS団の部室、本来は文芸部の部室は同じ場所にあるとハルヒに確認してある。
だが……
校舎を出て、渡り廊下を渡り、部室棟の階段を登り、廊下の中ほど……までは同じだった。
しかしだ。
階段から馴染みの部室までの間にあるドアが何となく違う。
前にあったのは……ただの空き部屋が3つほどあったはずだ。
階段から見て文芸部室の奥隣もまた空き部屋で、その隣がコンピューター研。実質的なお隣さんである。
そのコンピューター研はそのままにあり……全体としては合っている。
だが、間の空き部屋の雰囲気がなんか違う。
さて? 何処か別の部が使い始めたのだろうかと仮説を立てて、それらの追求は後回しにする。
で、部室の前に立って……初めて元の世界との違いに気がついた。
鍵がついている。
いや、鍵そのものは前にもあった。だが今ついているのは……オートロックらしき2重錠である。
なんだ? いつからSOS団はセキュリティを気にするようになった?
鍵は? とポケットを探れば……キーホルダーに家の鍵と一緒に見慣れない鍵がついている。
コレか?
鍵穴に挿してみると……合っていた。
ふう。馴染んだ場所だというのに、意味もなく緊張してしまう。
きっと中は同じだろうと入ってみると……違った。
片側の壁に書棚。片側には黒板。黒板側に衣装ハンガーやら冷蔵庫やらが並んでいたはずだが無くなっている。ついでにハルヒが持ち込んでいたガラクタもない。
どちらかと言えば……初めてこの部屋に着たような殺風景さだ。
そして……窓際にパイプ椅子に座って本を読む長門がいた。
ふとイヤな記憶が甦る。長門が暴走したあの冬の日を。
だが……幸いなることに部屋にいる長門は眼鏡をかけていない。
安堵の息を一つ吐き、改めて見渡す。
書棚の間に通路が出来ている。通路の先にドアがあり……なんとなくそちら方向には部室が広がっているように感じる。
反対側の冷蔵とかコンロがあった場所には……アコーディオンカーテンがある。
どういうことだ?
まあ、それらは後回しにしよう。動かないモノは後でも確認できる。
今確認すべきは……長門だろう。
古泉が言っていたことを思い出すまでもなく、長門有希の記憶というか意識がこの『古泉が女で2年後の世界』なのか『古泉が男でオレ達が高校2年生』なのかを確認しなければならない。
オレは団長席のパイプ椅子を移動してカバンを床に置き、長門のすぐ前に座った。
「長門」
「……なに?」
声は出すが視線は本の上にある。
「確認したいコトがある」
「……どうぞ」
視線は動かない。表情も。
言ってから……何を確認すべきかを悩んだ。
昨日、長門本人から「私からアナタに伝えることはなくなる」と宣言されている。質問に答えてくれるとは限らない。雲を掴むような話になるかも知れん。
いや、天から降りている蜘蛛の糸を探るような感じかなと思い直す。
違うな。当たって砕けろだ
「昨日の……」
長門は身構えている。無表情で身体の各部分の位置は何一つ変わってはいないが、数ミリほど動いたように感じた。
「……晩御飯は何を食べた?」
長門は顔を上げてオレを見ている。珍しいことに瞬きを数回している。
「……カレー」
小首を傾げたかのようで、髪の毛が少し動いた。「何言ってるの?」と言いたげだ。
オレの中では蜘蛛の糸を掴んだと安堵している
少なくとも日常会話では問題ないようだ。
「講義は無いのか?」
言葉にせずに頭をミリ単位で動かす。
肯定。
「昨日の……言ってたことを確認したい」
長門は目を伏せて……動きを止めた。
どことなくだが、強ばっているようだ。
「情報統合思念体からオレに何かを告げたいことがあった場合、その役目はオマエではなく、オレ専用のインターフェイスからなされる。その専用インターフェイスとは……朝倉涼子だよな?」
頭がミリ単位で動く。肯定。
「これは単なる予想、オマエの昨日の態度から推定した勝手な予想だが……オマエには朝倉の出現と同時に制限が加えられた。オレがオマエに問いかけたときに情報統合思念体の思考や情報を必要としする回答は……オマエは答えることができない。違うか?」
ゆっくりと動く。肯定と。そして長門の瞳がオレを見て……苦しさを訴えるような色に変わった。
「でだ……確認したいんだが、その事例に当てはまるのは……過去に何回あった?」
長門は……頭を上げて視線を逸らし窓の外を見た。
「オレの記憶では……該当するのは最初にオマエの部屋に行った時の話しか該当するのが思い出せないんだが……他にあるか?」
長門は……目を本に戻して固まった。
「……他にもある」
オレは悩んだ。たぶん、その1回限りだと思ったのだが外れてしまったらしい。
「それは……いつだ?」
質問しながらも、オレは一つの考えに辿り着いた。そして『あの時のこと』を言い出してくれと願った。
「……カマドウマの時」
ビンゴ。思わず顔に笑みが浮かびそうになるのを抑える。笑うのはまだ早い。
「後は……予想だが阪中のルソーの時か?」
それは珪素ナントカ生命素子の騒動。
肯定。
他にも色々と尋ねたが長門の反応は全て肯定だった。
「解った」
何が? と言いたげな視線がオレを見ている。寂しげな、悲しげな、そして期待しているような……氷河期でも凍っていない湖のような色の瞳がオレを見ていた。
オレは意識して無理に笑いながら、問いかけた。
「つまりだ。オマエの中で情報統合思念体の力とか機能を借りた場合にはオレには話せない。今のオマエ……つまりは一般的なオレ達と同じ機能というか同等レベルの機能を使った場合は制限はない。そうだよな?」
長門の頭が少し動く。肯定と。だが瞳はオレを見たまま。瞳の色も変わらない。
「オマエの頭の中にある記憶とかは制限無く話せる。今現在でオマエが持っている機能を使う分には、一般的なオレ達が持っていない機能でも使うことができる。違うか?」
少し戸惑うかのように……数秒遅れて頭が動いた。肯定と。
「それでいい。オレはオマエに話しかけるときは情報統合思念体に話しかけていたんじゃない。オマエに、長門有希に話しかけていたんだ。今までも……これからも宜しく頼む」
長門の瞳の色が変わった。氷河期の湖から深海の海水のような色に。
もう一押し。
「それとだな。これから話すことはオマエから情報統合思念体に報告してくれ。オレの戯言を伝えることには制限はないよな?」
肯定。
「オレは長門有希を信用し信頼している。だが、情報統合思念体という存在は信用していない。存在することは信じているが、その思考は信用できない。何故か? オレは朝倉涼子に襲われている。その事実が信用できないと叫んでいる。オレの中でな。だから、オレ専用のインターフェイスが朝倉涼子である以上、情報統合思念体は信用しない。朝倉涼子から情報統合思念体からのメッセージが届いたとしても信用しない。オレが信用しているのは……長門有希。オマエだけだ」
言い切ってから……数秒待ち、それから言葉を続けた。
「それでだ……情報統合思念体としてはオレの信用は必要ではないのか? オレの何処がどういう風にお気に召したのかは知らないが、信用できない相手からの接触は断る。オレの信用が必要であるならば……」
長門はオレを見ている。固まったまま見ていた。
「……長門有希に対して今回、行った制限を全て抹消しろ。オレは長門有希から告げられる情報しか信用しない。以上だ」
長門は……黙って目を閉じた。時間にして数秒だろう。だがオレには……数時間にも感じられた。
やがて……閉じられた瞳から涙が流れた。
大粒の真珠のような涙がぽろぽろと零れ落ちている。
「制限は……一部解除された」
目を開けて……オレを見た瞳は雪解け水のような暖かさがあった。
「情報統合思念体からのメッセージを伝える。『我々は君との接触を図りたい。だが信用できないような状況下での不自然な接触などは望まない。長門有希に対しての制限は君が君専用のインターフェイスである朝倉涼子と接触した後に全て解除する。その後だが我々からのメッセージは基本的に君専用のインターフェイスからとしたい。場合により、長門有希からもメッセージを届けることもあるだろう。以上の条件で了解と信用を願いたい』 ……承諾する?」
長門自身としては完全解除ではないのは不服だろう。
だが、オレとしては完全解除に近い。
接触すればいいんだろ?
我慢するさ。
長門のため……いや、今後のオレとSOS団と長門のためならば。
「承諾する」
オレの言葉を反芻するかのような時間の後、長門は微笑んだ。ほんの少しの……顔の部位が数ミリずつ動いただけの微笑みだったが、オレには春の妖精のような微笑みに感じられた。
オレは長門の涙を指で拭って笑った。
「これからも頼む。今まで通りにな」
黙ったまま、ゆっくりと頷いた。そして……オレの顔を見て微かに笑った。
「……ありがとう」
いや、感謝するのはオレの方だ。
「……他に聞きたいことは?」
直ぐにも長門の記憶を確認したかったが……それは後でいいだろう。今聞くよりは長門に対して行われている制限が全て解除されてからでいい。
中途半端な情報ならば落とし穴に嵌るだけのような気がするからな。
「いや。ない。じゃ……」
と、立ち上がろうとしたオレは袖を地面に固定されていたかのように止められて、椅子に座り直すコトとなった。
何事かと袖を見れば……長門が袖を指先でつまんでいる。
相変わらず物理法則とか力学とかを無視するヤツだ。
「……今の私でもアナタのメンテナンスは可能」
メンテナンス? あ、昨日のアレか?
「……実行する?」
長門の耳が紅い。そして視線は床を見ている。
「頼む」
実際、あの朝倉と接触する前にバリアを頼みたいと思っていたところだ。
長門に連れられていったのは書棚の奥。
幾つか壁と平行して並んでいる書棚の間に大きいソファが1つあった。
長門がソファに近づき何やらゴソゴソと……と、立ち上がったときにはソファの座面が伸びていた。
何をした?
「……オットマン機能付。伸ばしただけ。簡易ベッドとして使えるタイプ」
ああ。そうなのか。長門のことだから『情報操作』で変えたのかと思った。
「……私は無駄なことにまで『機能』は使わない。疲れるだけ」
そうだよな。
「……座って」
簡易ベッドとなったソファに座ると……長門はささっとオレのズボンを下げ、下腹部を露わにする。
自分自身の一部が関係しているコトながら……手品みたいだと心底思った。
「……アナタは動かなくていい」
長門はするりとショーツを脱ぎ、スカートのポケットへとしまい……オレの上へと……
羽毛のような軽さしか感じない。
へその下あたりに長門の秘裂がある。
「……目を閉じて」
長門の唇がオレの口を塞いだ。そして長門の指先がオレの耳をするりと塞ぐ。
瞼も閉じて……無重力のような感覚に浸る。
音もなく、光もなく、言葉もない。
あるのは……感触だけ。
秘裂の感触が……口の中の舌の感触がオレの身体の中の全てをなぞっているかのような不思議な感触。
オレのが感触を求めていきり立っていく。
「……アナタの状態を確認した。再コーテングを実施する」
オレのが長門の中に吸い込まれるように収まった。
「……手を」
長門がオレの両手を掴み、セーラー服の中へと誘う。指先に触れる布の感触はビスチェ? 昨日のと同じか?
「……別なのを着てきた。ココにスリットがある」
ビスチェのウェスト部分のレースは縦。ふと横に走るレースの存在を指先が伝えてきた。
直後。
指先がレースの間へ、つまりは布地の裏へと……
「……スリット付」
そして指先が……胸にある蕾のような2つの突起を探りあてた。
「……そのまま。触れていて。目を閉じて」
長門の中は……まるでベルベットのようで……長門が動いていないのに……ゆっくりと蠢いている。
程なくして……オレの時間感覚では無限の時間が過ぎたかのように感じられた後で……オレは果てた。
終わった後で長門はオレの上で胸に顔を置いて黙っている。
オレの心音を子守歌のように聞き入っているかのように……
「……今の私にはアナタと出逢ってから3年分の記憶がある」
不意に告げた長門の言葉は……オレが聞きたかったことだ。
「……だが、私の体内時間ではアナタと出逢ってから約1年ほどしか経ってはいない」
核心をも告げられた。
長門? オマエは……解っているのか?
「……そしてこの世界には私の過去の記憶がある。私には不必要」
過去の記憶? オレ達と出会う前の記憶か?
「……私はこの世界には居たくない。不必要な記憶が……私を悲しくさせる。寂しくさせる。できることなら……今すぐにでも前の世界に」
長門の瞳から涙が零れる。
オレは返す言葉が見つからずに……黙って長門の頭を撫でた。
数分経ってから……やっと言葉を見つけた。
「帰ろう。前の世界に」
長門は頷き、涙を拭いて……微かに、ほんの微かに笑った。
『過去の記憶』は聞くのをやめよう。
話を変えるコトにする。
「本が増えたよな。この部屋」
肯定
「いつ増えたんだ?」
「一昨年の夏休みに地震が起きた」
長門の説明によると……
高校2年の夏休み終了1週間前に地震が起きた。部室の被害を確認しに来ると老朽化していたせいか壁が壊れていた。
そこでハルヒは壁を直さずに部室を拡張してしまった。
ちょうど市立図書館で本の整理が実施され大量の本が放出されていたのでそれを確保。
皆で書棚を造り、本を運び込んで文芸部の書庫とした。ついでにロッカーも運び込んで完全なる部室としてしまった。
見れば書棚の一番奥の列の廊下側にはロッカーが並んでいる。
「さらに涼宮ハルヒは……ヒビが入っていた奥の部屋の壁も壊してドアを付けた」
……ハルヒらしい。つくづくハルヒらしい。
誰も止めなかったのか? いや、止められないのは解っているが。
「全ては夏休みの間に行われた」
今は4部屋が繋がっているという。
階段側から順に「活動室」、「倉庫」、「部室と地続きになっている書庫」、「部室」、「調理室」となっている。部室以外の部屋の廊下に繋がるドアは開かないそうだ。
「……地震による歪みで部室以外の廊下側のドアは開かなくなった」
やはりな。ハルヒが望んだんだろう。そういうことだ。結局は。
とはいえ調理室? あのアコーデオン・カーテンの向こうか?
「……森園生講師が行う『自立するための実践的調理』の講義場所ともなっていた」
普通そういうのは食堂とかでやらないか?
「……食堂に併設されている調理室では専用の道具が揃いすぎている。『一般的な台所で行える料理を実践する』というのが講義内容だった。結果としてSOS団は合法的な調理施設を得ることとなった」
あー。それも原因はハルヒだ。アイツめ。よっぽどココで鍋パーティを開きたかったんだな。
「……そう。結果として涼宮ハルヒが望む場所となっている」
だよな。
不意に長門がオレの顔を見上げた。何かを思いついたような素朴な無表情で。どした?
「……お尻叩いてみて」
はい? まあ、叩けと言われれば叩きますが……
オレは長門の背中と頭に乗せていた手を下に伸ばし叩いてみる。
ぱしぱし
「……スカートの上からじゃなく直接叩いてみて」
はいはい。
スカートを捲り、白く小さなお尻を剥き出しにして叩く。
ぺしぺし
これでいいか?
「……解析不能」
何が?
「……お尻を叩かれても気持ちよくはならない。私も気持ちよくなった方が良い?」
はい? なんのコトで……あーっ!
今朝の古泉五妃とのことを見ていた? いや知っているのか?
いやいやいや。そんなコトはない。えーと。何と言おうか。
オレの気持ちの行方を確かめるかのように小首を傾げている長門に言うべき言葉をやっと見つけた。
いや、そういうコトは個人差がある。(そうか?)
叩かれて気持ちよくなる場合とそうでない場合がある。(そりゃ個人的嗜好とかだろう)
オマエはオマエのままでいい。(以上を持って結論とする)
「……了解した」と長門は目を閉じて再びオレの胸へと顔を沈めた。
オレは自分の動揺を抑えるかのように長門の背中と頭をぽんぽんと叩いた。
本当にそのままでいいからな。
「……私としては、お尻よりも今の方が心地よい」
ん? ああ、背中とか頭とかか。うん。それがいい。それが長門らしさだと思う。
「……んふ。了解した。ん?」
ほっとした所為か、古泉五妃とのことを思い出した所為かオレのが再び長門の秘裂の下で起き上がっていく。
「……コーティングの状況を再確認したい。許可を」
……仕方ない。了解する。
長門が目を閉じたまま微笑んでオレのを秘裂の中へと……再び濃密なベルベットの感触がオレのを包み……
不意にドアが開いた。いや、誰かが鍵を開けた。
長門が身じろぎし、オレのを中でもぞりと擦り上げる。思わず果てそうになるのを我慢すると……ゆっくりとドアが開き誰かが入ってきた。
入ってきたのは……朝比奈さんだった。
朝比奈さんはきょろきょろとあたりを見渡して小首を可愛く傾げ、小鳥のように呟いた。
「あれぇ? 誰かがいたような気がしたんだけど」
長門が「不可視フィールド展開済み」と耳元で囁いた。
「いませんよね。助かったぁ」
何故か足音を立てないように入ってくる。その先には……床に置いたオレのカバンが!
長門が何事か呟き、カバンが書棚の隙間からオレと長門がいるソファの横へと。
間一髪。朝比奈さんは気づいていない。
……そのまま在ったとしても相手が朝比奈さんである以上、気づかなかったという可能性は否定しない。
オレと長門が声を出さずに書棚の本の隙間から覗いていると朝比奈さんはアコーディオンカーテンを開けて……何故か、やおらセーラー服を脱ぎだした。
何故に!?
そして……ブラ姿で奥に行き、見えなくなった。
オレと長門は身じろぎ1つせずに、見えなくなった朝比奈さんの動向を探ろうと耳を……いや、長門ならばそんなに集中しなくても朝比奈さんが何をしているのか解るだろう。
オレは姿が見えなくなった朝比奈さんから長門へと視線を戻した。
直後、何処からか泣いている声が小さく響いてきた。
朝比奈さんが泣いている?
そして長門は……無表情の中の無表情というような顔でアコーディオンカーテンの向こうを見ていたが……目を閉じてオレに囁いた。
「……手伝ってあげて」
部室の隣にあるキッチンルームは隣(コンピューター研側)との壁が食器棚になっていた。手前の壁にキッチンユニット、つまりは水回りとかコンロとかがある。コンロの上から伸びるダクトがアコーディオンカーテンの上を通って窓へと繋がっている。水道管を通すためかキッチンユニットとかは壁から少し離れていた。大型冷蔵庫とかも食器棚の横にある。何故か出入り口の窓側にも流しがあり、中に洗面器が1つ。その横に大きなソファが2つあった。更に折りたたんであるパイプベッドがソファと壁との間に幾つか。窓にはどういう訳かレースのカーテンがあるのは……ここで講義を行っていたという森さんの趣味趣向だろうか?
キッチンルームは部室と同じ大きさなので食器棚とキッチンユニットとの間はずいぶんと空いており、そこに長机が1つ。机の上にはビーカーらしきモノが幾つかある。
朝比奈さんは……長机の手前の椅子にオレの方に背を向けて座り、胸をはだけて……妙な器具を胸に押し当てて泣いていた。
「痛いよう。どうして……こんなに痛いの……あう。痛い……」
実際、声をかけていいのかどうかは悩むところだが、長門が進言してくれたという事実により……声をかけるコトにした。
「朝比奈さん。手伝いましょうか?」
一字一句間違いなく長門の指示である。オレの邪な心は一片たりとして入ってはいない。
天地神明に誓える……ほどの確証は自分自身でも無いのが情けない。
「え? あ……キョンくん」
朝比奈さんは吃驚しすぎて吃驚するのを忘れている。というか、それよりも痛さが勝っていたのか、あるいは一昨日のコトでオレに対する羞恥心を何処かに置き忘れてしまったのか……とにかく、吃驚顔ではあったが、悲鳴を呑み込んで……涙目で頼んできた。
「……お言葉に甘えていいですか? 私、上手く搾れないの」
はい? 搾っておられたんですか? 何を? って、決まっているだろ! オレは。
「涼宮さんが母乳の貰い先を探すから搾っておきなさいって……」
朝比奈さんの涙声混じりの説明によれば……
ハルヒが「何いってんのよ。母乳よ。母乳。聖なる母乳、聖なるミルクなの。みくるちゃんの母乳なら引く手あまたよ。それにね北欧とかだと母乳が出ないお母さんのために出過ぎているお母さんが母乳を凍結して配ったりしているのよ。ワタシが貰い先を見つけてあげるからみくるちゃんは昼までに母乳をできるだけ搾っておいて。これでね」と搾乳機を朝、渡してくれたと。
アイツは……朝比奈さんの顔写真付でインターネット・オークションにでも出品する気じゃあるまいな。用心せねばなるまい。
「でも……ミルクを出さないと張って痛くて……上手く搾れなくて痛くて……キョンくん、手伝ってくれますか?」
両手で差し出された透明プラスチックでできているらしい妙な形のスポイトみたいのを受け取り……まじまじと見る。見てしまう。
朝比奈さんの大きな乳房。その先のぷっくりとふくれた乳輪の頂点にある乳首から聖なる白き液体が……滲んでいる。
「キョンくん……だめですか?」
涙目の朝比奈さんが懇願している。
「は、はいっ。手伝わさせて頂きます!」
涙目の朝比奈さんに懇願されて断るというのは有り得ない。断るのは人間ではない!
……と言い訳しておこう。誰に対する言い訳なのかは考えない。
背中から朝比奈さんを抱くようにして変な器具を乳輪に当て、ゴムの部分をゆっくりと押しつぶして、ゆっくりと戻す。
乳首から聖なるミルクが糸のように器具の中に出て来た。
「う……あう。キョンくん上手。そのまま……お願い」
朝比奈さんの腕が下からオレの首に巻き付いてくる。何かを掴みたいのだが何もないからオレの首にすがってくる。そんな感じで。
「ああう……キョンくん。本当に上手。気持ちいい……あう」
えーと。朝比奈さん。オレは器具しか触っていませんからね。そんなに悩ましい声を出さないで下さい。無意味に情けない顔で笑うしかないじゃないですか。
程なくして……妙な形のスポイトの中がいっぱいになる。
「あう……搾乳器がいっぱいに……なってしまいました」
何故か、どういう訳か朝比奈さんは残念そうにオレの手から何故か搾乳器を受け取り、中の母乳をビーカーの中へと移す。そして振り返り、懇願された。
「すみませんけど……もう片方も……お願いします」
それはもう喜んで……いや、喜ぶと言うよりは他ならぬ朝比奈さんの御要請でしたら是非にでも。
何かを偽っている自分自身の心を放り投げ、オレはもう片方の乳房に搾乳器を当てて、ゆっくりと……
「ああん。キョンくん……上手すぎる。気持ちいい。ねぇ……気持ちいいの……うあん」
再び、オレの首に朝比奈さんの腕が絡んでくる。オレが後ろから抱くように位置しているため……ギリシャ彫刻にあるような悩ましげなポーズで絡んでくる。
再び、搾乳器がいっぱいになり、ビーカーへと中身を移してから朝比奈さんは吐息で呟いた。
「キョンくん……お願い。もっと……搾って。コレで搾っていたら……いつまで経っても終らない……から……ココで」
朝比奈さんはとろんとした瞳で……オレの手を取り、窓際のソファへと誘った。
そして……ソファに膝をつき、流しに手をついて懇願された。
「ここで搾って。お願い。きつく搾って……キョンくんに搾られるんだったら……耐えられる……お願い」
オレは……誘われるままに朝比奈さんの後ろにまわり、そして両手で両の乳房を……搾った。
搾ってしまった。
いいのか? こんなコトをしていいのだろうか?
「あうん。いい。いいの……そのまま……全部……搾って」
両の乳房から母乳が流しの中の洗面器へと注がれる。真横のレースのカーテンの隙間から見えるのは……仲間達の授業風景。
なんだ? この状況は? シュールすぎないか?
ふと……自分の下半身に妙な感触が。見ると……朝比奈さんの片手がオレのを触っている。
なんだっ!? と情けないことに飛び退いてしまった。
「キョンくん……お願い。気持ちいいの……お願い……ですから、私を……」
母乳で濡れた胸を軽く触ってから朝比奈さんの両手はスカートの中へと……そしてショーツを下ろしていく。悩ましげに。
「お願い……私の……私の中を……苛めて……お願い」
朝比奈さんはオレの手を取り……そのままソファへとオレを座らせた。
「……キョンくんのが……欲しいの」
ベルトを外し、ズボンを下ろして、オレのを両手で誘い出した。
そして口に含む。まるで……愛おしいモノにやっと出遭えたかのような仕草で。
そしてソファに手をついて……懇願した。
「お願い来て、私の中を……苛めて」
オレは……本能に従った。後ろから朝比奈さんの中へと……
「ああ。……いいの。中で……キョンくんのが私の……中で……もっと……」
朝比奈さん腰を掴み、突き上げる。何度も。そして胸に、乳房に手を回す。
「あう。そのまま、搾って。お願い。もっと搾って」
朝比奈さんは逃げるように流しへと。オレが搾った母乳が流しの中へと散乱する。
「もっと。もっとぉ……」
そして……オレと朝比奈さんは果てた。同時に。
離れて……疲れたオレは隣のソファに座った。
なんだ? 何故にこうなっている? どうしてこういうコトになるんだ?
心の中で自問するオレに朝比奈さんは……まだ溶けた瞳でお願いしてきた。
「お願い……キョンくん。吸って……吸い出して……私の全部……吸い出して。早く……ミルクが出ない身体に……戻りたいの……お願い。全部、吸い出してぇ」
オレの上へと……。そして乳房を捧げている。オレの口へと。
請われるままに吸い付いてしまう。朝比奈さんの秘裂がオレのを擦り上げている。
「あう。やっぱり……もっと……中も苛めて……もっと……もっとぉっ」
朝比奈さんは全身で抱きついてきた。
朝比奈さんの太股が肩に、腕の上にある。オレのは朝比奈さんの秘裂の中に吸い込まれている。そしてオレの口には朝比奈さんの乳首が、オレの首には朝比奈さんの白い腕が巻き付いている。
まるで……淫らな妖精だ。
「キョンくん……キョンくんの前だと……私……淫らになれる……淫らになってしまう……こんな……こんな私を……叱って……苛めて……お願い」
朝比奈さんの中は……アチコチからオレのを締め付けてくる。
「もっと……もっとぉ……」
オレは朝比奈さんの両足ごと腰を抱きしめて……立ち上がった。
「あうっ……キョンくん……いい。いいの。もっと、もっとぉ……きてぇ……もっとぉっ!」
朝比奈さんをソファに下ろし、突き上げていた。
何度も、何度も……
やがて……朝比奈さんは大きな声と共に果てて……気絶した。
オレも呼吸が乱れ……落ち着くまでは随分とかかった。
気づけば……辺り一面に朝比奈さんのミルクが撒き散らかされていた。オレの身体というか制服にも。
あーあ。どうやって掃除しよう。というか洗濯しないとダメだろうな。
「……遮音フィールド展開終了」
不意にアコーディオンカーテンの影から長門の声が。振り返ると長門が妙な棒を持って立っている。
なんですか? その手に持っている棒は? 先に星がついてますけど。何の棒?
「……映画で使った。手に馴染んでいる」
ああ、そうだ。映画で使ったヤツだ。それで何を?
「……散乱した朝比奈みくるの母乳を回収する」
長門は棒を振る。途端に床やら流しやらに撒き散らかされた母乳が光の粒となって棒の先に巻き付いて……1つの塊になった。
ついでにオレの身体の周りでも棒を振る。オレの身体にかかっていた母乳も全て回収されていく。なんか……子猫が親猫に躾けられているようだなと、何の脈絡もなく思った。
「……回収終了」
棒の先をビーカーの上にかざすと……光の塊は液体となって、ビーカーの中に注がれていく。
便利なモノだ。
長門はもう一度、ビーカーの上で棒を振る。光の粉が降りかかっている。
何をしてる?
「……滅菌。これで48時間程度は無菌のまま」
長門はビーカーを大事そうに冷蔵庫の中へと納めた。
「……コレでいい」
長門はコトの間に部室で色々と用意していたらしく、タオルを朝比奈さんの腰の下と胸に当て、更にその上から毛布を朝比奈さんに掛けて、オレの手を取ってキッチンルームを後にし、アコーディオンカーテンをゆっくりと閉めた。
「……位相固定完了」
何をした?
「……これで外からは開かない。中からしか開かない。朝比奈みくるは安全」
なるほど。長門、オマエって朝比奈さんと仲が良かったんだな。
「……そう? 私はコーテング作業を速やかに再開したいだけ。今の一連の行為で朝比奈みくるは軽いのと最後を合わせて16回ほど失神した。その影響でコーテング防御率は99.84%になってしまった。こちらで再開する」
おい。何を冷静にカウントしていたんだ? というか、その程度の減少ならば再開する必要性はあまり感じないのだが……まあ、いいか。長門が気の済むまでお付き合いしますよ。
長門はオレの服の袖をつまんで書棚の間のソファへと……と、急に止まった。
どした?
無表情のまま、視線をソファに固定したままで確認してきた。
「……私も母乳が出るようになった方が良い?」
あのな。そういうのは朝比奈さんだけでいい。朝比奈さん自身としても母乳が出るよりは出ない状態に戻りたいみたいなんだからな。
「……そう?」
そうだ。
長門はやや過冷却気味の視線をオレに固定して冷ややかに言った。
「……その割りにはずいぶんと楽しそうに見えた」
ぐ……
オレは言葉に詰まり……長門のデコをペチンと指で弾く。
そういうコトは言うな。とにかく、長門はそのままでいい。そのまま変わらずにいてくれたらいいんだ。
「……了解した。私には経年変化による身体的物理量変化も必要ないと判断する」
えーと。長門さん? 単なる成長による身体的変化は無理に抑えなくてもいいんですけど。
「……どっち?」
長門は小首を傾げて尋ねている。
オレは何をどういうべきかが見つけられず、頭をぽんぽんと軽く叩いた。
えー。後日において今回、説明すべき内容が論理的かつ理解しやすい表現、もしくは文章が見つかった場合において、話すことにする。コレでいいか?
「……了解した」
ふう。長門と話しているとコッチの思考回路もデジタルにしないとダメらしい。
と、長門が無表情な顔ながらも楽しそうにオレの顔を見上げていたのだが……急に完全無欠の無表情な顔になって鞄を睨み、尋ねてきた。
「……アナタの鞄の中から特殊な高次位相転換波を感じる。何か特別なモノが入っている?」
えーと。何も……。あ、今朝、オレを襲った子が持っていた刀が入っている。
「……そう。確認する」
長門が手をかざすと……鞄の中から刀だけがふわりと出て、空中に浮いている。
なんだか解るか? その刀が何なのか。
「……判別不能。いや……」
長門は視線をアコーディオンカーテンに向けた後でオレを見た。どういう訳か唇が妙な感じになっている。
「……禁則事項に該当する」
おい。朝比奈さんの真似をしなくてもいい。
つまりだ。今はオレに告げられない状況というコトだな。ついでに唇が変な感じだったのは吹き出し笑いしそうになっていたと推測しておく。
「……そう。情報統合思念体による解析が行われた。この刀は暫くの間、封印したい。許可を」
おう。暫く誰の手にも目にも触れないようにしてくれ。物騒だからな。
「……了解した」
長門の指が少しだけ動くと、刀は空を滑るように動き……隣の部屋へ続くドアが少しだけ開いてその奥へと消えていった。
「……倉庫の中に位相転換を凍結して保管した」
ん。それでいい。
「……では、アナタの状況確認およびコーティングの続きを実行する。合わせて今後発生すると予想される事項に対するカウンターフィールドも付加したい。ソファへ」
うわおっ!
長門の指先がつまんだ袖がオレをソファに投げ出した。
だから、物理法則を無視するような行動は……と抗議する間もなく、ふわりとオレの上に長門が乗っている。
羽毛布団より軽い感触で。
「……許可を」
全て許可するっ!
もういいから、どうにでもしてくれ。
結局長門の「コーティングおよびその他の作業」は次の講義の開始ギリギリまで続けられた。
その後、「西欧経済と東アジア文学史における相関係数の解析について」などという経済学だか文学史だか解析数学だかがよく判らない講義を受けたのだが、何故か講師が急な用事があるとかで時間前に講義は切り上げられた。
高専になって何が違うかといえば、まずは時間割というか講義のタイムスケジュールだろう。
2時限ぶんの時間を使って講義が行われる。つまり、高校時代に直せば4時限の途中で自由になってしまった状態である。
何もすることがないので早めの昼食にしようと部室へと足を運んだ。
長門はいない。そしてアコーディオンカーテンの向こうで寝ておられた朝比奈さんもいない。
どうやら無事に起きられたようだ。
ま、オレの手でアコーディオンカーテンが開いた時点で間違いないのだろうけどね。
さて、昼食をと長机の横でパイプ椅子に座り、弁当を取り出したところで誰かが入ってきた。
誰かと見れば……古泉五妃だ。
何故か息が荒く、顔が紅潮している。
どうした?
「ああ。居られましたか。良かった……」
と、オレの顔を見ると床に崩れ落ちた。
『狂乱の月曜日 午後編』へと続く