【刑罰は死刑のみ】外患誘致罪の概要と適用例・判例がない理由
外患誘致罪(がいかんゆうちざい)とは、外国と共謀し、日本に対して武力行使を誘発する犯罪行為です。法定刑では死刑しか設けられていないとても恐ろしい犯罪。
刑罰が死刑しかないものの、外患誘致罪の適用例・判例はない。理由として、次の3点が想定される。
1.日本は戦争を放棄しているため、外患誘致罪で想定している事態がそもそも起こりにくい。
2.刑罰が極めて重いため、外患誘致罪に該当しそうな事件が起きても、公判維持が難しいことから、別の罪で起訴される可能性がある。
3.結果的に外患誘致罪に該当する者が戦前・戦後を通して現れていない。
外患誘致罪で逮捕されることが考えられることはほとんどゼロといってよい。雑学の一つ。
■外患誘致罪は死刑しかない■
冒頭でもご説明したように、外患誘致罪とは外国と共謀して日本に対しての武力行使を誘発する犯罪です。法定刑には死刑しかない。
犯罪行為は、刑法によって裁かれることになるが、様々な犯罪がある中で法定刑が死刑のみになっている犯罪は、この外患誘致罪しかない。
■外患誘致罪の定義■
それでは、外患誘致罪について見てみましょう。外患誘致罪については刑法81条に明記されており
「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する」
と明記されている。このように刑法でも死刑しか設定されていない恐ろしい罪である。
■外患誘致罪は日本国を裏切る行為■
外患誘致罪を大まかに説明すると、日本国を裏切る行為を言います。外国が日本に攻め入ることを誘発することでこの外患誘致罪になる。
■「外国」にはテロ組織などは含まれない■
ここで言う外国とは、外国の政府や軍隊、外交使節などの国家機関の事を指します。近年諸外国では、テロ行為をよく目にしますが、テロ組織は国家機関ではないため、この外患誘致罪には当てはらない。
テロに加担したのであれば、国際法やテロに関する法律によって裁かれることになる。
■武力行使の定義■
武力行使とは、何も戦争を引き起こさせることだけではない。例えば、日本の安全を侵害させる目的で、日本国内に軍隊を侵入させたり、ミサイル攻撃などをすること。
■外患誘致罪の例■
A国の首相と共謀して、日本に侵略するような計画を練り、それを実行に移した時点で外患誘致罪になる。
例えこの計画が、日本の自衛隊によって阻止されたとしても未遂として罰される。外患誘致罪では未遂も罪になる。
■法定刑は死刑のみ■
お伝えの通り、外患誘致罪では死刑しか設けられてない。有罪になった時点で死刑が確定。そこで、裁判も慎重に行われることが考えられる。上記のように未遂の場合も罪になるので、仮に死者が出なかったとしても死刑になることもある。
■外患援助罪・内乱罪など他の罪との関連■
外患誘致罪に似た罪で、外患援助罪や内乱罪などがある。
■外患援助罪■
外国からの武力行使があった際に、それに加担する行為は外患援助罪になる。例えば、A国が日本に攻めてきたときに、A国の軍隊に味方するような行為。
法定刑は、【死刑/無期/2年以上の懲役】
■外患予備・陰謀罪■
外患誘致を実行していなくても、そのことを予備したり陰謀しても罪になる。計画や準備をすること。法定刑は【1年以上10年以下の懲役】
■内乱罪■
外患誘致罪は、外国の武力行使を誘発することだが、国内での暴動は内乱罪によって刑罰が下される。内乱罪での法定刑は暴動を行った人物の立場で変わってきて以下のようになっている。
●首謀者
死刑/無期禁錮
●謀議参与者、群衆指揮者などのリーダー格
無期または3年以上の禁錮
●職務従事者
1年以上10年以下の禁錮
●単なる暴動参加
3年以下の禁錮
■内乱予備・陰謀罪■
内乱の場合もそれを計画したり準備することで罪になる。
法定刑は【1年以上10年以下の禁錮】
■内乱等幇助罪
内乱を起こすための兵器や資金、場所、食料などを供給し、幇助(ほうじょ)した場合は、内乱等幇助罪になる。法定刑【7年以下の禁錮】
外患援助罪での事件・適用例や判例は未だかつてない
このような死刑しか設けられていない外患誘致罪だが、実際のところ外患誘致罪で起訴がされた事は今まで一度もない。殺人の場合でもよほど悪質でない限り死刑にならないのに対し、外患誘致罪では法定刑に死刑しかないことから捜査機関も非常に慎重になる。
更に、外国の武力行使がされるということは、戦争が始まってしまう危険性もあるため、そもそも滅多に起きるような出来事ではない。
■一度だけ外患誘致罪が検討されたゾルゲ事件
それでも、過去に一度だけ外患誘致罪での起訴として検討されたことがある。太平洋戦争前の「ゾルゲ事件」と言うもの。内閣のブレーンとして政界において重要な地位を占めていた日本人がソ連のスパイと共謀し、諜報活動・謀略活動を行った事件。
外患誘致罪での起訴も考えられたが、結果的に見送られ、首謀者の日本人とスパイのソ連人は治安維持法や国防保安法の違反によって死刑になり処刑を受けた。
プラム綜合法律事務所梅澤 康二 弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。
企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
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