朝鮮日報

【コラム】国民がついに韓国政府を心配し始めた

 今の経済状況に関して誰も否定できない事実がある。一部で取りざたされている「危機論」は言い過ぎだとしよう。しかし、状況が良くないという事実には誰もが同意せざるを得ない。「この○年間で最悪」という統計発表が相次いでいる。製造業稼働率はこの9年間、工業生産増加はこの5年間で最悪だ。失業率は通貨危機以降で最も高い数字に達した。善戦していた輸出さえ不安の色が濃くなってきている。低迷する経済の典型的な姿だ。何か衝撃的な出来事があったわけでもないのに、このありさまだ。

 外の世界と比較してみると、韓国の苦戦ぶりが実感できる。今年の日本の大卒就職率は98%に達した。韓国は68%だった。米国も事実上の完全雇用を謳歌(おうか)している。日米の若者たちは職場を選んでいるのに、韓国の若者たちは就職難で絶望している。雇用だけではない。経済協力開発機構(OECD)35カ国のうち、景気指数が後退しているのは韓国だけだ。韓国だけが9カ月連続で下落している。先進国の経済はどこも好調なのに、韓国だけが後ずさりしている。雇用も成長も韓国だけ「のけ者」だ。一体なぜこのようなことになってしまったのだろうか。

 大統領府が現政権の発足1周年を自己評価する報告書を出した。そこには思わず目を疑うような部分がある。「困難な対外諸条件にもかかわらず…」。この報告書は過去1年間の経済環境が厳しかったと主張している。事実と異なるこじつけだ。外部環境は決して悪くなかった。世界経済は金融危機以降、最も好調だ。韓国の輸出相手国は軒並み好況だ。韓国は経済成長の60%以上を輸出に依存している。世界の経済状況が良ければ当然、韓国にとってもいいはずだ。対外環境が厳しいどころか、不平不満を言うのが難しいほど良かった。

 その後に続く文はさらにあきれる。同報告書には「(経済が)驚くべき記録を立てた」と書いてある。何が驚くべきなのだろうか。この報告書は根拠として、昨年の成長率が3.1%だったことを挙げた。同期間、世界経済は3.8%も成長した。他国の平均との差はいっそう広がっている。輸出増加傾向も挙げているが、全世界が好況なのに、韓国の輸出が増えていなかったら、その方が異常だろう。それもほとんどが半導体のおかげだ。いくら大目に見たとしても、政府は自慢できるような立場にはない。「驚くべき記録」うんぬんとは、どれだけずぶといのだろうか。

 現政権の楽観論は佳境に入りつつある。あらゆる指標に赤信号がともっているのに、政府だけが「大丈夫だ」と言っている。口さえ開けば「ベース効果」(=Base effect、昨年の指標が良かったので相対的に悪く見えるということ)と言い訳する。一時的な現象だとして、すぐに改善されると話す。対策を問うと、税金を財源に金をばらまくという方法からまず始める。「雇用安定資金が解放されれば雇用が増えるだろう」と言う。「補正予算が通過すれば景気が良くなる」とも言う。漠然とした楽観論でないなら、習慣的な税金ばらまきだ。経済を再生させる根本的な処方は見えてこない。

 政府というものは、基本的に悲観論者でなければならない。最悪の事態を念頭に置くのがしっかりとした政府なのだ。現政権は見たいものだけ見る。不都合な事実や憂うつな統計には目をつぶる。だから正しい政策が打ち出されるはずがない。統計値の悪化よりも安易な楽観論の方が恐ろしい。

 認識だけの問題ではない。今や政府そのものが問題の原因だと指摘されている。間違った政策が経済をいっそう混沌(こんとん)とさせている。その代表的な例が最低賃金政策だ。コンビニエンスストアのアルバイト店員やレストラン従業員が減っている。労働弱者のための政策が、かえって脆弱(ぜいじゃく)層の雇用を奪っているのだ。労働時間短縮も、非正規雇用の正規雇用化も同様だ。最近の雇用悪化のかなりの部分が政府の責任と言っていい。政策の副作用が少なくないことが統計で立証されている。ついに最下層の所得が減ったという統計も出た。公正な経済を掲げている政府の下で、低所得層がさらに貧しくなっている。政府は問題を解決どころか、問題を引き起こしているのだ。

 このようなことが国政のあちこちで行われている。法人税の最高税率を引き上げて企業を海外に追いやった。脱原発を掲げてエネルギーの競争力を落としている。労働改革白紙化で企業の意欲をそいだのも政府だ。どの国も企業を支援できずに血眼になっているのに、韓国政府は反企業の方向にものすごい勢いで進んでいる。国家競争力を損なう自害政策が途切れることなくわいてくる。誤った認識が誤った政策を生み、それが経済悪化につながっている。その上、半導体産業の機密事項まで公開しようとした。ライバル国を利するという雇用労働部(省に相当)に対して「いったいどこの国の政府なのか」という嘆き声が相次いだ。

 「ハネムーン」は終わり、国民の堪忍袋の緒は切れた。暮らしが良くなるどころか、人々を失望させるような政府の成績表が舞い込んでいる。今や人々は真剣に政府のことを心配し始めている。経済を再生させ、雇用を生む能力があるのか疑問を抱き始めた。この問いに答えられるのは政府しかない。抽象的なスローガンやバラ色の展望はもはや通用しない。結果と実績で人々の心配が取り越し苦労であることを証明しなければならない。

朴正薫(パク・ジョンフン)論説委員

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