こんな時代だから、君にきっと届くと信じて、今これを書いています。
君とは中1で同じクラスだったけど、一度も会話した事がなかったよね。
誰とも群れずいつもひとりで飄々としていた、そんな君が好きでした。
女子はみんな、テニスやバスケ、野球のエースに夢中だったから、すっちゃんが好きだと言うと「変わってるね」と笑われたけれど。
中2になってクラスが離れてしまい、私は君に手紙を書きました。
その手紙は、好きな色とか食べ物など、他愛ない質問をいくつも並べた最後に
「好きな人はいますか」
と書いたものでした。
数日後、君は返事の手紙を私の家まで持って来てくれて、ちょうどそれを父に見られて、誤魔化すのに一苦労でした。
そして、最後の質問の答えは、私。
まさかそんな事、絶対あるわけないと思っていたの。
だって、学年にはものすごく可愛い子がたくさんいたし、当時の私はガリガリで、男子にペチャパイと罵られていたからね。
それでも晴れて両思いになれたのはいいけれど、両思いって何をしたらいいのかまるで解らなかった。
一緒に帰ろうにも、私の家は学校のすぐ側だもの。
そこで私は、お弁当を作る事にしたの。早起きしてサンドイッチを二人分作ってサンリオの紙袋に入れて、君と同じクラスの友達に頼んで渡してもらったの。
そして私も、自分の教室で同じサンドイッチを食べたら、もうビックリするほど不味くって。
恥ずかしくて恥ずかしくて、死にたくなりました。
後で友達に聞いたら「ひとつちょうだいって言ってもくれなくて、ものすごい勢いで全部食べちゃった」だって。
あんな不味いもの食べさせて、本当にごめんね。
それからの私は、君が何か言おうとして近寄って来ても、逃げ回るようになったの。
訳わかんないでしょ。我ながら酷いと思う。
勝手に恋をして、勝手に恋から逃げていた、自分勝手な私。
それから、君を避けていたのはもうひとつ理由があって。
君と私は同じ苗字だったから、結婚しても苗字が変わらないの嫌だなって、思ったのよね。
こどもだよね。笑っちゃう。
今、修学旅行の子供達が、東京の街を歩いているのを見かける度に思い出すよ。
私達が北海道へ修学旅行に行ったのも、ちょうど今頃でした。
札幌は、岩手の片田舎の私達には大都会で、とても美しい街だったね。初夏にはライラックが花盛りになるのだとバスガイドさんから聞かされて、札幌に住みたいと思いました。
君はこの旅行で、北海道大学に憧れたのよね。
その北大を目指した君が、本当に入学した事を知ったのは、だいぶ時が過ぎてからでした。
すごいねすっちゃん。よく頑張ったね。
君は今、どこでどうしているのか解らないけれど、やりたい仕事に就いて、素敵な女性と結婚して、きっと幸せに暮らしていると思います。
私とは付き合わなくて、結婚しなくて良かったのよ。
だって、私は相変わらず料理が下手くそだし、おまけに変な病気にかかったから、君より先に死んでしまうもの。
だから生きているうちにと、この手紙を書きました。
あの頃は、ごめんなさい。
本当に好きだった、すっちゃんへ。