今年3月に死亡事故を起こした米ウーバーテクノロジーズの自動運転車は、クルマと人のどちらが操作責任を負うかが曖昧なまま公道試験をしていた。メーカーやネット大手がデータを蓄積させるため競って試験距離を伸ばそうとし、自治体側も技術と人を呼び寄せるために規制緩和する――。拙速な「自動運転フィーバー」が裏目に出ている。
ウーバーの自動運転車が起こした事故前後の状況は、捜査を進めていた米運輸安全委員会(NTSB)が24日に公表した暫定報告書で明らかになった。
報告書によると、スウェーデンのボルボ・カーの多目的スポーツ車(SUV)「XC90」に搭載したウーバーの自動運転システムは、衝突の6秒前に自転車を押して道路を渡ろうとしていた歩行者を検知していた。1.3秒前には衝撃を軽減する緊急ブレーキが必要と判断したという。
ただ、ウーバーは車両の不規則な挙動を減らすため、自動運転中は緊急ブレーキを作動しない設定にしていた。緊急時には運転席に座った係員がハンドルやブレーキの操作に介入することになっていたが、システム側から警報を発する仕組みはなく、運転手がブレーキを踏んだのは衝突の後だった。
運転席に乗っていた係員は事故の直前まで自動運転システムの制御画面を見ていたと主張している。ウーバーは前方を見ずに脇見をしていた係員に緊急時の操作を担わせていたことになり、運用面のずさんさも浮かび上がった。
自動運転を巡っては米ゼネラル・モーターズ(GM)やトヨタ自動車などの自動車メーカーや米グーグル系のウェイモをはじめとするネット大手が開発にしのぎを削っている。走行データの蓄積量が車の頭脳の性能を左右するため、各社とも競うように公道試験に乗り出している。
最先端の技術と人材をひきつけようと、アリゾナ州やカリフォルニア州などの自治体も自動運転の公道試験を積極的に誘致してきた側面がある。住民らの間では技術や運用面で安全性が十分に確保されないまま実験が認可されてきたのではないかという疑念も生じている。
こうした不安の声を受け、アリゾナ州は3月の死亡事故の直後、ウーバーに対する実験許可を取り消した。ウーバーは2カ月たっても再開の見通しが立たないことから、5月23日には同州での実験を打ち切ると表明した。サンフランシスコやピッツバーグなどその他の北米3都市でも公道試験を中止したままだ。
ウーバーが目的とする無人タクシーの実用化にも黄信号がともる。最大のライバルとされるウェイモはすでに地球200周分を超える公道試験を終えているが、これまでのところ死亡事故は報告されていない。安全性への信頼がネット大手2社の明暗を分ける結果になっている。
ウーバーが5月にロサンゼルスで開いたイベントに登壇したダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)は公道試験の再開時期について「トップから現場に至るまで、安全性の検証を終えてからだ」と強調した。人命を預かる企業としての意識を従業員らに浸透させること。なによりもそれが先決だ。
(シリコンバレー=白石武志)