「クレジットカード大国」と呼ばれた米国で異変が起きている。クレジットカードを持てない若者が激増しているのだ。30歳未満の米国人のクレジットカード保有率はわずか33%。既存の金融機関が若者への融資を尻込みした結果だが、FinTechスタートアップには商機ももたらしている。
「米国消費者の金融事情は危機に直面している」。2018年4月上旬に米サンフランシスコで開催されたFinTechのイベント「LendIt Fintech USA 2018」の講演で、オンライン融資仲介を手がける米レンディングクラブ(Lending Club)のスコット・サンボーン(Scott Sanborn)CEO(最高経営責任者)はそう訴えた。サンボーンCEOが紹介した危機を示す指標の1つが、若者のクレジットカード保有率の低さだ。
サンボーンCEOは講演で出典を示さなかったが、米国の金融サービス会社であるバンクレート(Bankrate)が2016年6月に発表した調査が根拠のようだ。同調査では米国に住む成人1002人にアンケート形式で質問したところ、18~29歳のクレジットカード保有率が33%にすぎなかった。
この世代は成年に達した時期に、リーマンショックに端を発する不景気を経験しただけでなく、高騰する学費をまかなうための学資ローンを抱え、金融的な信用力(クレジットスコア)を構築できないままでいる。特に学費の高騰は著しく、米国では2000年からの18年間で家計収入の中央値が1%しか上昇していない一方で、4年制大学の学費は69%も上昇している。
若者に不利な「FICOスコア」が原因
米国の金融機関はこうした若者に対するクレジットカードの発行に及び腰だ。金融機関がクレジットカード発行の可否を審査する際に使用する「FICO(ファイコ)スコア」は、過去のクレジットカードの使用履歴や支払い履歴をもとに消費者の信用度を数値化する。過去の履歴が無い若者はFICOスコアが低いため、クレジットカードを申し込んでも断られてしまうのだ。
サンボーンCEOは「米国人の57%、1億3800万人が金融的に不健康な状態にある」「米国人の45%が収入の半分以上をローンの返済に充てている」「米国人の47%が400ドルの緊急出費を預金でまかなえない」など数字を挙げ、消費者の信用力低下が全米的な傾向でもあると指摘。その上でサンボーンCEOは、「金融業界は多くの消費者を金融システムから排除している。金融システムの恩恵を多くの消費者にもたらすような施策が、政府や金融業界に求められている」と訴えた。
個人情報で信用力を評価するスタートアップ
米国が面白いのは、政府や既存の金融機関の対策が後手に回っている状況を商機と捉え、若者向けに金融サービスを提供しようとするFinTechスタートアップが次々と現れているところだ。彼らの共通点は、履歴ベースのFICOスコアに変わる新しい信用力評価システムを構築し、様々なデータを使って顧客の信用力を独自に割り出して、融資やクレジットカード発行を行っている点だ。
例えばソフトバンクグループが出資したことで知られる米ソーシャルファイナンス(Social Finance)は、学生向けにローンを提供する際に、学生の専攻や学業成績なども加味して信用力を測っている。サンボーンCEOが率いるレンディングクラブも、消費者の銀行口座の履歴情報を分析して信用力を判断し、融資を実施している。
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