米朝首脳会談中止が残す苦い教訓-書簡の書き方から交渉方法にも課題
Nick Wadhams、Margaret Talev-
トランプ氏が会談に応じると3月に突然発表も共通ビジョンなし
-
北朝鮮がコップに水が半分しかないとみれば、ミサイル試射再開か
歴史的サミットになるはずだったトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の会談が中止になった。米当局者は将来的な米朝首脳会談の実施に望みを残し、北朝鮮の金桂冠第1外務次官も同国が「いつでも」米国側と会談する用意がある姿勢に変わりはないと述べたが、6月12日にシンガポールで予定された会談が実施できなくなった状況は苦い教訓を米政権に残すだろう。
ソウルの鉄道駅で米朝首脳が映るテレビニュースの画面を見る男性
中国の問題
会談中止で、特に中国を中心とする他国が北朝鮮への制裁継続で一致するかが不透明になった。トランプ大統領は21日の段階で既に、中朝国境が「以前より突破しやすく」なっているとして物資の移動で制裁履行が緩んでいないか懸念を示したが、状況は悪化するかもしれない。
朝鮮半島の非核化が進まない状況は、米国の同盟国である韓国を孤立させ、中国と北朝鮮を外交面で優位にさせた可能性がある。新米国研究機構(NAF)でイラン問題のディレクターを務めるスザンヌ・ ディマジオ氏は「会談中止は北朝鮮の姿勢を映しているというより、米政権内の混乱によるところが大きい」と述べた。
共有ビジョンなし
会談予定日が近づくにつれ、米朝間に共有されたビジョンがないことは明白になった。中止の直接の理由は、トランプ大統領が書簡で触れた北朝鮮が最近見せた「途方もない怒りとあからさまな敵意」だが、別の理由も浮上し始めた。
ポンペオ国務長官
ポンペオ国務長官は上院外交委員会で、首脳会談に備えた準備で北朝鮮側への連絡がここ数日困難だったことを明らかにし、「われわれの問い合わせに回答が得られなかった」と述べた。
トランプ大統領は3月、北朝鮮との首脳会談を受け入れると突然発表したが、会談から両国がそれぞれどんな成果を得られるかをまず分析し、それに基づき決めるという伝統的かつ慎重なアプローチから逸脱することの危険性が今回の中止で露呈した。通常は重要な詳細を事務方が詰めてから、首脳会談開催を発表するものだ。
ちぐはぐな書簡
トランプ大統領の金委員長への書簡のちぐはぐさを指摘する声もある。書簡は委員長の最近の発言を非難する一方で、両首脳の間で「素晴らしい対話が成り立ちつつある」とし、いつでもちゅうちょなく書簡や電話で連絡するよう同委員長に促した。
元駐米ドイツ大使のウォルフガング・イッシンガー氏は「北朝鮮との首脳会談中止を伝えるホワイトハウスからの奇妙な書簡」とし、「この書簡は間違いなく、世界中の外交問題専門家が研究対象とするだろう。書簡の本当にまずい書き方の例としてだ」と説明した。
一番の打撃は、米国が韓国を混乱させたことだろうと指摘する向きもある。同国の文在寅大統領は米朝首脳会談中止の報告を受けてアドバイザーらと緊急協議。その後、「朝鮮半島の非核化と恒久平和は歴史的課題であり、あきらめたり遅らせてはならない」との声明を出した。
リビア方式
北朝鮮が首脳会談中止を辞さない構えを先週見せたきっかけは、非核化で「リビア方式」を採用すべきだとするボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の発言だった。リビアのカダフィ大佐は同方式を受け入れた後、政権が崩壊し、米国が支援する反体制派に殺害された。
米朝間の取り組みは現段階で成果を生んではいないものの、長期的にはプラスかもしれないと指摘するのは、戦略国際問題研究所(CSIS)の韓国部長であるビクター・チャー氏だ。北朝鮮との外交ルートが一段と堅固になったためという。
同氏は「今回の延期が対話の継続や将来的な何かの事前交渉につながるなら、それほど悪い話ではない」としつつ、 「コップに水が半分しかないと北朝鮮がみれば、いったん中止としている弾道ミサイル発射実験を再開するきっかけになる」と指摘した。
原題:Trump-Kim Summit Failure: Improvised Diplomacy, Skipped Meetings(抜粋)