そもそも椎名林檎って「気軽に聴けるアーティストじゃねぇ」って思ってまして。基本的にどの曲も「陰のある女」「闇抱えた女」感がすごくて、笑顔でも目の奥全然笑ってねぇじゃねぇか全曲モデル木村多江かよってイメージがずっとあって、大好きなんですけど1曲聴くたびに魔女に寿命1日差し出してる感覚でした。
でも今回、そんな俺の勝手なイメージを粉々にブチ壊して再構築してくれたのが『アダムとイヴの林檎』。一言で言うと「これカバーじゃねぇ」使ってる食材は一緒なのにどの曲も完全に「別の曲」になってて、「いや俺カレーって言ったよな?肉じゃがじゃねぇかこれ…」って最初は面食らったのにそれが死ぬほど美味い、みたいな頭おかしいアルバムです。
その中でも、特に脳みそトリップした5曲について。※Spotifyでも聴ける
『幸福論』レキシ
レキシ - 幸福論 (椎名林檎トリビュート・アルバム『アダムとイヴの林檎』より)
いわゆる『コミックバンド』とか揶揄されるアーティストって「ウケ狙いしかできない」のか「他の全部極めたうえであえてやってる」奴らかの2種類だと思うんですけど、レキシもとい池田貴史はたぶん圧倒的な後者。最強のポップモンスター。サラッと聴けるのに軽すぎないし、曲の本質みたいなのもちゃんと伝わる。バランス感覚どうなってんだよ。格闘漫画とかで強くなりすぎて対等に戦り合える奴いないから普段はめちゃくちゃふざけて戦ってるジジイのキャラクターいるじゃないですか、そいつがなんか急に一瞬だけ本気出してきた感覚でいまめちゃめちゃ怖い。
『ここでキスして。』木村カエラ
木村カエラ - ここでキスして。 (椎名林檎トリビュート・アルバム『アダムとイヴの林檎』より)
『ここでキスして。』は俺の中で椎名林檎の気軽に聴けない曲の筆頭も筆頭で、この曲って「100メートル先から長い黒髪の不気味な女がゆっくりこっち近づいてくる」みたいな、『HUNTER×HUNTER』のパームのイメージで、絶対メシとかロクに食わない女だろって思ってたんですけど、木村カエラの歌う『ここでキスして。』、パンケーキといちごみるくラテ大好物、居酒屋でクーニャン頼んじゃう系女子でした。
そしてこの圧倒的なゼクシィ感。極上の結婚式ソングに生まれ変わってました。多幸感が音から声からダダ漏れ。もう全然知らん人でもいいからそのへんでやってる結婚式参加して全力で「おめでとう!幸せになれよ!」って叫びたい。てゆうかもはや俺がウェディングドレス着たい。
これ絶対レコーディング、青空の下のガーデンウェディング場で真っ白なドレス着て歌ってるでしょカエラ。
『すべりだい』三浦大知
三浦大知 (Daichi Miura) / すべりだい(椎名林檎トリビュート・アルバム『アダムとイヴの林檎』より)
三浦大知の声ってもう空気が気持ち良くて、ワンフレーズワンフレーズ歌い終わったあとにできる「ファッ…」っていう余韻でただでさえ頭クラクラしてくるのに、その余韻が収まらないまま次のフレーズにいくから気持ち良さが倍々ゲームで増えていくし、その声にこのメロディとこの歌詞合わせたら、そりゃ呼吸も止まる。
本能『RHYMESTER』
RHYMESTER - 本能 (椎名林檎トリビュート・アルバム『アダムとイヴの林檎』より)
アルバムの他の楽曲は言ったら椎名林檎と命の奪り合い、ガチバトルしてるんですけど、RHYMESTERは完全に契約結んで女王・林檎と悪魔合体してます。あいつらチカラ手に入れるために自ら取り込まれやがった…。よくゲームのラスボスで、バカでかい化物のデコの部分に人間の上半身だけ出てるみたいな奴いるじゃないですか。椎名林檎のデコにRHYMESTERいた。
自由への道連れ『私立恵比寿中学』
私立恵比寿中学 - 自由へ道連れ(椎名林檎トリビュート・アルバム『アダムとイヴの林檎』より)
私立恵比寿中学は何年か前のミュージックステーションでSMAPに変な声の娘がおもちゃにされてたイメージしかなくて今回一番期待してなかったんですけど、ほんとすいませんでした。泣いた。めちゃくちゃ地肩強いアイドルグループでした。原曲の疾走感もかなりのもんだが、より黙ってて聴けない仕上がりになってて叫びながら外出て全力ダッシュしたくなるし、サビで一気にパッと目の前が明るくなる。しかもラスサビ前のセリフでしっかり「アイドル」してて胸の奥んとこがグーッってなる。こんな青春の歌だったのかよ。とりあえずメンバー全員に小遣いあげてぇ。
このアルバム、聴いたあと椎名林檎の原曲と聴き比べたくなるのはもちろん、げに恐ろしきはカバーしたアーティストの曲もれなく全部聴いてみたくなる魔力の凄まじさ。アダムとイヴが食った林檎は間違いなく毒入りでした。