「『ダークソウル』は人生です」“心が折れない方法”をお医者さんに聞いたら、ゲームがもっと大好きになった(2/2)

心が折れそうなあなたに贈る、ゲームの処方箋。
前のページへ 次のページへ

協力プレイはメンタルヘルスにも有効だった?

――落ち込みの原因を取り除いたら、次はいよいよ……。

鈴木先生はい。気持ちを回復させていきます。

――おお! どうすればいいんですか?

鈴木先生心の回復アイテム、それは……。

鈴木先生自信です。

――自信ですか。なんというか、想像していたよりもシンプルでした。

鈴木先生自己効力感ともいいますね。「自分の行動しだいで期待通りの結果を引き起こせるだろう」という感覚のことです。自分を強く信じられるようになると、モチベーションも上がっていきます。

――でも、負け続けている自分を信じるって難しい気がします。ポジティブな性格になれってことでしょうか? これからは“がんばる”を“顔晴る”って書いたほうがいい?

鈴木先生いや、性格そのものを無理に矯正する必要はないですよ。ポイントは、小さな成功を積み重ねていくことです。道中のザコ敵を余裕で倒せるようになる、とか。レベル上げも兼ねて過去のステージをもういちど踏破してみる、とか。

――小さな成功の内容はなんでもいいんですか?

鈴木先生本当になんでもいいです。実生活で心が折れそうになったときも、ご飯を作るとか、外に出てみるとか、無理なくできることから始めて、ちょっとずつ大きなことにチャレンジしていけばいい。

――なるほど……。いきなりポジティブになろうとするわけじゃなくて、目に見える実績を少しずつ自信に変えていくんですね。

鈴木先生そうです、そうです。あとは、誰かに励ましてもらったりするのもいいですね。意外かもしれませんが、誰かのために何かをしてあげることも自信につながりますから。

――つまりそれって、「協力プレイ最高」ってことじゃないですか?

鈴木先生ああ!そうですね!

ダークソウルのオンラインプレイでは、見ず知らずの誰かの世界に入り、協力プレイで世界の主を助けることができる。

鈴木先生上手な人のプレイを間近で見られるのもいいですね。成功している人を観察することは、それだけで自信を高めてくれますから。

――見るだけでもいいんですか?

鈴木先生はい。上手な人を見ていると、だんだん「自分にもできそうだ」と思えてくる。自分が成功しているイメージが浮かんでくるんです。これが自信に繋がります。実際に技術を盗めるかもしれないですし。

――白霊システムはめちゃめちゃ理にかなっていたという。

鈴木先生逆説的かもしれないんですが、折れない心を鍛えるために大切なのは、諦めないことです。乗り越えた壁が大きければ大きいほど、その経験は自信として心を支えてくれます。

――より強力な回復アイテムが手に入る、ってイメージですね。

鈴木先生ただ、無理して壁を乗り越えようとするのは禁物です。あまりのハードルに心が折れてしまうこともありますから。壁が高すぎると感じたら、いったん後ろに引いて、その壁自体をよく観察したり、あたりを見回してほかにできることがないか探してみる。余裕をもつことが大切です。

――なるほど、いまの自分に越えられる壁なのか、見極めが大切だと。……あっ!

鈴木先生あっ!

ボワァ~~~~ンンッ

――おめでとうございます!

ゆうすけ先生11回死にました。

俺たちは、ドMなのか?

――実際にプレイしてみていかがでしたか?

ゆうすけ先生いやあっ、難しいですね!

――難しいゲームを指して“マゾゲー”と言ったりしますけど、『ダークソウル』が好きな人って、本当にマゾヒスト気質だったりするんでしょうか?

鈴木先生いや、そんなことはないと思いますよ。適度なストレスは、むしろ人間に必要な存在なので。

――適度なストレスですか?

ゆうすけ先生“ユーストレス状態”といいまして、人間がもっとも能力を発揮できるのは、本人にとってちょうどいいストレスがある状態なんです。

――簡単すぎるとやる気が出ない、刺激が足りない、みたいな。

ゆうすけ先生そうですね。もちろん、しんどすぎるとパニックになっちゃうので、“難しいけどなんとかなる”くらいの課題がちょうどよくて。

――ああ、なるほど。ゲームが得意な方にとっては、『ダークソウル』の難易度が最高にいきいきできる状態というわけですね。

いきいき、YOU DIED。

ゆうすけ先生あとは、成長の実感を味わえるのもいい。たとえボスに勝てなくても、ちょっとずつ確実に自分が成長しているのがわかる。これだけでゲームを遊ぶ報酬になるんです。

――成長ですか。

ゆうすけ先生僕はもう、イカがやめられなくなってるんですが。

――イカ。

ゆうすけ先生なぜかというと、「今日の自分は昨日よりも強い」という実感があるからなんですね。全部の成長が同時に止まることってないんですよ。エイムで勝てなくても、ステージを研究したり、立ち回りを変えたり、落ちてる仲間が何人いるかを意識したり。そうしているうちに、いつの間にかS+になっている。

――なるほど、S+まで。

ゆうすけ先生これって『ダークソウル』もいっしょじゃないですか?

――ああ、たしかにそうですね! レベルを上げたり、武器を変えたり、パリィや回避のアクションを練習したり、いろんな成長手段があります。

ゆうすけ先生自分のパフォーマンスを最大限発揮できて、成長の喜びも味わえる。そりゃゲーム好きはハマるでしょうね。

アクションが苦手なら、武器や防具を強化して戦うこともできる。成長のしかたは十人十色。

鈴木先生こうしてお話をさせていただいて、僕はもう、『ダークソウル』ってレジリエンスを育てる理想の過程そのものだなと思えてきました。

――壁にぶつかって、立ち上がって、乗り越えて、またひとまわり大きな壁にぶつかって、心が強くなっていく。

鈴木先生はい。人生でそういう練習はなかなかできませんから、ゲームで体験した教訓を現実社会にフィードバックしてもらえれたらいいかもしれません。

――柔軟に物事を考える。小さなことから成功を積み重ねていく。誰かに頼ったり、頼られたりしてみる。諦めずに何度でも立ちあがる。すべて現実に応用できそうですよね。

鈴木先生はい。『ダークソウル』は人生です

――「ダクソは人生」。声に出して読みたい日本語だ……。

ゆうすけ先生ぼくからは、やっぱり「じぶんの逃げ場所としてのコンテンツ」を大切にしてほしいです。ぼく自身、過去にものすごく辛い体験をしたときに、ゲームのおかげでしばらく何も考えず呆然とできたんですよね。その時生じていた、負の感情の嵐に飲み込まれないで済んだ。そのおかげで、だいぶ早く気持ちを持ち直すことができました。

ーーそうだったんですね。ゲームに没入することで、雑音から逃れて自分と対話できた、と。

ゆうすけ先生いわゆる安全基地というか、「いざというときは逃げ場所(=コンテンツ)があるから大丈夫。がんばれる」と思えるような存在があれば、いつか大事なときに助けてくれるかもしれません。

ーーお話をお聞きして、もっとゲームが大好きになれそうです。ありがとうございました。

 どんな人でも心が折れそうになることはある。それは凶悪なボス戦かもしれないし、仕事や勉強、人間関係の悩みかもしれない。だけど、あきらめずに何度でも立ち上がり、少しずつでも目標に向かって歩み続ければ、いつしか折れない心を手にしているはずだ。トライ&エラーをくり返しながら、プレイヤースキルの上達とともに心の成長も楽しめばいい。

 『ダークソウル』は難しい。難しいからこそ、高い壁を乗り越えるのが楽しくてたまらない。それはきっと、人生だって同じなのだ。

「火を継げ」ってパワハラじゃないですか? と質問したら、上司と交渉するための模範解答まで用意してくれるのが鈴木先生。ネタバレなので泣く泣くぼかして公開。

 なお、ご協力いただいたおふたりの先生が所属する“HIKARI Lab”は、ゲームを心のケアに活かそうと取り組む企業。だれもが気軽に心理ケアを受けられる未来を目指し、心理療法に基づいたロールプレイングゲームや女性向けノベルゲームの販売・監修を行っている。

公式サイト:HIKARI Lab
Twitter:HIKARI Lab
Twitter:Dr.ゆうすけ

RPGで抑うつ治療? 毎朝のトイレが課金の代わりに? ゲームが“処方”される未来へ向けた、最新のヘルスケア・ゲームの紹介と展望【CEDEC 2017】

2017年8月30日~9月1日の期間に開催された開発者向けカンファレンス“CEDEC 2017”より、“診療所でゲームが「処方」される未来へ ――医師の視点からみる「ヘルスケア × ゲーム」の先進事例紹介と展望”についてリポートする。

書いた人:戸部マミヤ

 また、『DARK SOULS REMASTARED』と同日(5月24日)発売の週刊ファミ通では、屈指の人気キャラクター“太陽の戦士 ソラール”特集を掲載。攻略情報もあわせて紹介しているので、ぜひこちらもご確認を!

■週刊ファミ通のご購入はこちら
※ebten(エビテン)

■電子版のご購入はこちら
※BOOK☆WALKER
※Kindle

太陽の光を浴びると脳の中で分泌される“セロトニン”は、抗うつ剤によっても分泌が増える物質。不安やネガティブな気持ちを抑制する効果がある。レッツ太陽賛美。



前のページへ 次のページへ
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc. / 2011-2018 FromSoftware, Inc.