自分の舌を観察したことはありますか?
昨今、オーラルケアの流行とともに、「舌磨き」「舌ケア」といった舌苔を掃除するグッズも販売されていますね。これらの製品の目的は「見た目の美しさ」「口臭予防」「清潔さ」といったところにあると思います。
実は古くから中医学ではまったく違う考え方から、舌の観察を行っていました。
中医学には、
望診(ぼうしん)・聞診(ぶんしん)・問診(もんしん)・切診(せっしん)という4つの診断方法があります。
望診(ぼうしん)とは、その方の顔色、しぐさ、姿(体)などを目で見て判断すること。舌診(ぜっしん)はこちらに分類されます。
聞診(ぶんしん)は、その方の声を聞いたり、匂いをかいだりして判断すること。お母さんが赤ちゃんの泣き声や便のにおいで健康状態を判断することと同じです。
問診(もんしん)は、その方に症状や既往症、生活環境などを問うて判断すること。
切診(せっしん)は、脈をとったり、おなかやせなかなど、その方の体に触れて判断すること。日本では医療行為とされており、医師免許のある方のみが行えます。
舌には情報がたくさん!?
中医学では、舌を舌尖(舌の先)、舌中(舌の中央)、舌辺(舌の左右辺縁)、舌根(舌の奥の部分)の4つの部位に分けて見ます。
そして、色や形、性質(胖大、歯痕、裂紋、点刺など)、苔の状態から、いろいろな情報を得ます。
経験豊富な中国の中医師の先生には、舌を見ただけで、その方の体質や生活習慣、病名、病気になった原因、また病気の経過(良くなっているか、悪くなっているか)などもわかるといいます。
例えば、「あなたはもともと暑がりで、たくさん水分をとっていらっしゃいますね、美食家で食事の量も多いでしょう、運動はせず、ストレスを多く受けており、現在は胃がんに侵されています、胃がんは随分と進行しています」といった具合にです。
舌はそれほどの情報を表しているということです。
舌の観察は自然光下で行うことが理想的です。
また緊張したり、力を入れすぎると状態が変わるため自然体で行い、飲食物などの影響を受けないよう、食事経過後4時間は空けたほうが良いでしょう。
ここでは、代表的な舌の状態をいくつかご紹介したいと思います。
あなたの舌に似た近いものはあるでしょうか?
健康な人の舌
舌の色は薄いピンク色。
自在に柔軟に動かすことができます。
苔は白でうすく、均等で、適度に潤っています。
苔は拭いてもとれないものです。
これは臓腑機能・気血津液が正常で、邪気に侵されていない、健康な状態の方の舌です。
気虚(ききょ)
舌はやや大きくてはれぼったい。
歯痕がある。
色はうすい紅色、または淡白で
白く薄い苔を伴う。
気とは生命エネルギーのことです。
気虚(ききょ)とは、この気が足りない状態であることをいいます。
すぐに疲れる、息切れする、風邪を引きやすいといった症状が表れやすいです。
血虚(けっきょ)
舌がやや痩せて薄い、
または裂紋(れつもん:溝や割れ目)がある。
色はやや淡白。
苔はうすく少ない。
血(けつ)が足りない状態です。
めまい、貧血、疲れやすい、冷え性といった症状がでやすいです。
陰虚(いんきょ)
裂紋(れつもん:溝や割れ目)があり、
色は深紅。
苔は無いか、少ない。
体内の水分が不足することによって、冷ます力が減退し、体内に熱がこもっている(虚熱:きょねつ)状態です。
手足のほてり、のぼせといった症状が表れやすいです。
陽虚水滞(ようきょすいたい)
はれぼったく、歯痕がある。
色は淡白、
苔は白く厚く粘りがある。
体を温める力(陽気:ようき)が足りず、
体内に水が溜まりすぎて、体が冷える状態です。
顔色が白い、むくみ、尿の量が多い、手足の冷えといった症状が表れやすいです。
気陰両虚(きいんりょうきょ)
縦に裂け目(裂紋)がある。
歯痕がある。
色は淡い紅色。
地図のような苔がある。
エネルギー(気)不足と、体内に熱がこもった状態です。
疲れやすい、だるい、寝汗、手足がほてる、息切れする、のぼせといった症状が表れやすいです。
気血両虚(きけつりょうきょ)
全体的にやせてうすい。
歯痕がある。
色は淡白。
苔は白くうすい。
エネルギー(気)と血(けつ)が不足した状態で、主に夜更かしや夜型生活、ダイエット中などに気血(きけつ)が足りなくなりやすいです。
声が小さい、汗がでやすい、だるい、貧血、疲れやすい、めまい、手足の引きつれ、しびれ、肌の乾燥、生理不順、不妊といった症状が表れやすいです。
血オ(けつお)
舌辺が青紫色、
または暗紅色のシミがある。
苔は白くうすい。
舌裏の静脈が拡張(または怒張)している。
血(けつ)の流れが滞っている状態です。
目の下にくまができやすい、あざができやすい、シミ、くすみ、頭痛、肩こり、生理痛、生理血に塊が混じる、痔、子宮筋腫、子宮内膜症、しこり、といった症状が表れやすいです。
血熱(けつねつ)
紅色の点がみられる。
縦に裂け目(裂紋)があり、
乾燥している。
色は紅色か深紅色。
苔は少ない。
血(けつ)に熱があるか、または熱邪が血に侵入することによって血の流れに異常が起こることで、過剰な感情の高ぶりでも引き起こされます。
口が渇くが水を飲みたがらない、夜間に熱があがる、鼻血や皮膚に斑疹といった出血症状、生理量過多、生理周期が早まるといった症状が表れやすいです。
湿熱(しつねつ)
歯痕があり、
胖大舌(はんだいぜつ:ぽてっと太って大きい様)。
色は紅色。
苔は黄色く厚い。
水分代謝が悪くなり、体内に余分な熱がこもっている状態で、お酒をたくさん飲む人や濃い味を好む人に多く見られます。
体が重だるい、湿疹、軟便ですっきりでない、といった症状が表れやすいです。
雨天や雨季に悪化しやすいです。
痰湿(たんしつ)
歯痕があり、
大きくはれぼったい。
色は淡白。
苔は白く、ぶ厚く、粘りがある。
水分代謝機能の低下により、体内に余分な水分が溜まっている状態で、過度な飲酒、生ものや冷たいものの採りすぎにより発生・悪化します。
むくみ、体が重だるい、関節炎、リウマチといった症状が表れやすいです。
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※参考書籍※
舌写真や文章など、一部下記を参考にいたしました。
高橋楊子 著
『CD-ROMでマスターする舌診の基礎』
(東洋学術出版社)