地方を滅ぼす「有識者会議」というバクチ予想

なぜ「見せかけの競争」は地方を衰退させるか

「地方はもっと競争を」という正論のもと、熾烈な予算獲得競争が繰り広げられている。だが「有識者会議」が決定する「当たる事業」は、素人の予想以上に当たらない。地方を誤った競争に巻き込み、再生させるどころか衰退を加速させるだけだ(写真: IBAMOTO / PIXTA)

「これからは都市間競争の時代だ。地方は互いに競争して勝ち抜くという努力が必要だ」――。最近、皆さんはこんな話をよく聞きませんか? ひと昔前はさまざまな事業予算が一律で配られる形式が採用されていました。しかし、競争の論理の元に、自治体が互いに競争して計画を作り、国が設置した委員会が審査して、「成功するだろう」「効果があるだろう」事業を予想し、予算付けをする「競争型資金モデル」が多く採用されるようになりました。地方創生などの予算も同様です。

「誤った競争」からは「誤った未来」しか生まれない

確かに「適切な競争がなければ自治体は努力しない」、というのは正論です。しかし、国が出す予算を、有識者など数人の審査委員が判断するという仕組みは正しいのでしょうか。これは「誤った競争」であり、本来の意味での「競争原理」はまったく働きません。

この連載の一覧はこちら

競争原理によって生み出される叡智というものは、無数の個人たちがその時々、その状況に応じて判断していったものを突き合わせた集合的判断です。市場取引のように無数の個人によって日々繰り返される売買の過程で評価が高まったり、評価が落ち込んだりする仕組みの中で、より良いものが残り、悪いものは自然に淘汰されていきます。

一方、役所などの一部の担当者によって選定された数人の専門家が「これは成功する」「これは失敗する」という判断は、それ以上でも、それ以下でもなく、いわゆる競争原理によって期待される集合的判断とはまったく異なるもので、ただの数人の意見に他なりません。正直、そんな未来予想は大して当たらないのです。こうした「誤った競争と全然当たらない専門家の予測」の話は、これまでも多くのメディアや書籍、論文などで散々反証されてきたにもかかわらず、未だに政策決定で用いられているのが不思議でなりません。そもそも、正しい未来を一部の知識ある人間が正確に予測できるのであれば、苦労しません。もしできるのであれば、かの国の計画経済も失敗しなかったでしょう。

次ページ誤った競争が生み出す致命的な2つの問題点とは?
関連記事
トピックボードAD
人気連載
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

  • よろずの僕(しもべ)e4dd80d486a3
    有識者という名の元で、偏った人選で恣意的な判断がなされる国家事業も散見される。表層的に手続だけ取り繕って、本質的なあるべき論は全く議論されない。さらには、彼らへの利益誘導さえ問答無用で実行されるケースも。中立、公平、公正であることも、選定された有識者の専門性も担保されないまま、結果に誰もコミットしない。また、その検査も儀礼的にお役人が手続至上主義的に行っている。

    これらが、地方が豊かにならない本当の理由であると確信するに至ったのは、最近のこと。
    up24
    down1
    2018/5/24 06:41
  • NO NAME7d85e03f6865
    地方の事業は、その地方の人口にもよるだろうが、特定少数が、地方自治体を利用する形で推進する。地方自治体側も住民又は地方の法人会や商工会議所などの要望とあらば、対応せざるを得ない。仕事をしないという選択は許されないからだ。政商という言葉があることからわかるように、私的な事業に公を利用するのは今に始まったことではない。商売・事業とは破滅するかもしれない危険を犯して行うモノ、成功すれば富と名声が手に入る。そういう事業の光と影のうち、影になる部分を地方自治体を経由して国税で緩和する行為はゆるされない。また、これらにかかわることで商売を成立させているコンサルタントという得たいのしれないペテンも許してはならない。
    up9
    down1
    2018/5/24 06:19
  • NO NAME8e0d80773e28
    有識者ほど信用できないものはない。
    外部の目は確かに意味はあるかもしれないが、所詮はそこに住んでいないし、将来住むこともない。単に手柄を立てたいだけの人も多い。
    結局はそこに住む人たちがどうしたいのかということと、彼らのやる気。
    up5
    down0
    2018/5/24 07:32
  • すべてのコメントを読む
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • いいね!
トレンドウォッチAD
会計新基準<br>「売上高」が変わる

売上高が6割減にもかかわらず、営業利益は増えた企業も現れた。会計の新基準を適用した結果だ。全産業にかかわる過去最大の基準変更が今年から徐々に広がっていく。