UX評価のい・ろ・は 4 コンテンツ運用の課題の見つけ方 | アドビUX道場 #UXDojo

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ユーザーインタビューやデータ解析を通してサイト改善のための具体的なアクションをを設計しても、運用が正しく行われないと次第に劣化してしまう可能性があります。そうした状況が発生する原因はどこにあるのでしょうか。データ解析だけでは見えにくい組織やワークフローの課題を調査してみましょう。

表計算ソフトは強い味方

長期運用されるサイトのデザインに関わる課題の多くは、デザインそのものだけでなく、運用体制やそこに関わる人に起因します。CMS(コンテンツ管理システム)をはじめとしたツールの充実により、コンテンツを増やすのは簡単になりました。しかし、コンテンツの数が増えると、品質の維持は大変になります。運用に関わる課題を解決しなければ、サイトの品質は徐々に劣化していくことでしょう。

高いレベルを長期間持続させるには、品質を保つための手順を確認し、持続可能なWebサイト運用の仕組みを構築する必要があります。その手段のひとつは、コンテンツインベントリ(Content Inventory)の作成です。

コンテンツインベントリは、Webサイトにあるコンテンツをリスト化した、いわばコンテンツの目録です。資料作成には、検索やフィルタがしやすいGoogle SheetsやMicrosoft Excelといった表計算ソフトが良く使われます。コンテンツインベントリの作成は、一見地味な作業ですが、Webサイトにあるコンテンツを一覧できることで、以下のような項目を確認できるようになります。

  • サイト内のコンテンツ数
  • 重複コンテンツ、重複タイトル
  • 更新されていない古いコンテンツ
  • 検索結果の見え方
  • サイト構造やライティングのパターン
  • CMSの移行や手直し作業の見積もり
Adobe Creative Cloudトップページから辿れる1,800ページ以上の状態をまとめたコンテンツインベントリ。 表にすることで、200を超える選択肢が用意されたページや、重複コンテンツの可能性があるページを見つけることができます

このように、コンテンツインベントリをつくることで、今までなんとなく察していた課題を目に見える形にできます。CMSは便利な道具ですが、間単にコンテンツを増やせるため、小規模なサイトでも数千のコンテンツ(在庫)の管理をしていることに気づいていない場合があります。膨大なリストを眺めれば、コンテンツ管理に必要な仕事量や難しさを共有することができます。

コンテンツインベントリに必須の項目は以下の3つです。サイトクローラを利用すると、これらの情報を自動的に取得することができます。

  • 通し番号: どのページを指しているか分かりやすくするため。階層が分かるように割り振られているのが理想
  • タイトル: 検索結果にも表示されるtitleタグに書かれているテキスト
  • URL: 適切な情報構造になっているか確認する

さらにインベントリの内容を充実させるために、以下の情報を追記することがあります。(オプションですが、情報は多いほうが良いです)

  • H1タグ: H1タグが振られている見出し
  • リンク数: メニュー、選択肢の数を把握するためのサイト内リンク数
  • 表示速度: 画面が表示されるまでのおよその時間
  • 更新日: ページが最後に更新された日付
  • 制作者: コンテンツ制作を担当した方の名前
  • 責任者: コンテンツ公開を承認したり、内容を確認する方の名前
  • ページビュー: Web解析ツールで得られるデータ

コンテンツから課題解決を考える

コンテンツインベントリでWebサイトにあるコンテンツを確認することで、様々な課題が見えてきます。

  • 削除を検討すべきページはどれか
  • 書き方やアプローチを見直すべきコンテンツはどれか
  • 更新すべきコンテンツはどれか
  • 適切な場所に移動すべきコンテンツはどれか

例えばページビューがほとんどなく、5年以上更新されていないページは削除を検討すべきでしょう。とりあえず置いておいても害がないように見えますが、ページがあることを忘れて類似ページを作ってしまう恐れがあります。また、古いコンテンツを放置すればユーザーに間違った情報を提供し続ける可能性もあります。

ページひとつひとつを見ていくと別の課題も見つかります。大規模Webサイトだと書き手が多くなるので、表記だけでなく文体の一貫性が保たれていない場合がありす。ひとつひとつのコンテンツを調査すると、なぜ求められている効果が得られていないのかを発見することができます。

  • 自社アピールにフォーカスしたコンテンツが多過ぎる
  • ユーザーのニーズに合わせた情報分類がされていない
  • 似たようなコンテンツが多過ぎてどれが最新か判断が難しい

これらの課題に取り組むためにライティングスタイルガイドの作成や、ワークフローの見直しが必要になるでしょう。ライディングはユーザー辞書やチェックツールである程度解決しますが、ワークフローは多くの人が関わる難しい課題です。ワークフローに関わる以下の課題が一貫性のないコンテンツを生み出す要因になります。

  • 承認の階層が多過ぎる
  • 誰に確認を取れば良いのか分からない
  • 時間をかけ過ぎている工程がある
ワークフローにあるボトルネックを見つけることでコンテンツの量と質が変わることがあります

こうした課題に取り組むのはデザイナーの役割ではありませんが、せっかく改善したWebサイトが公開後に少しずつ劣化するのを妨げたいところ。戦略なしでパッケージ(見た目)だけ変えても効果は見込めません。コンテンツインベントリは、一度立ち止まって今ある課題を改めて見直す際に有効なツールになります。

ユーザー体験を改善するには、今のコンテンツ運用の何が課題になっているのか知る必要があります。それは、コンテンツを制作・運用を続けなければならないWebサイト特有の課題に取り組むことを意味します。日々Webサイトに関わる人たちの体験の改善の意識を高めることが、結果的にはユーザー体験の改善に繋がります。コンテンツがどれだけ人々のニーズとミスマッチなのかを示すことで、「どうにかしないとダメだ」という課題意識が共有できるはずです。

  AUTHOR

長谷川 恭久

Web/アプリに特化したデザイナー・コンサルタントとして活動中。組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためにできることを模索している。 アメリカの大学にてビジュアルコミュニケーションを専攻後、マルチメディア関連の制作会社に在籍。帰国後、数々の制作会社や企業とコラボレーションを続け、現在はフリーで活動。 自身のブログとポッドキャストではWebとデザインをキーワードに情報発信をしているだけでなく、各地でWebに関するさまざまなトピックで全国各地で講演を行ったり、多数の雑誌で執筆に携わる。 著書に『Experience Points』など。 http://www.yasuhisa.com/