ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

200億円かけたゲームを成功させるために何が必要か

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ゲームの開発費は高い。

『Grand Theft Auto V』の開発費は2億6500万ドルらしい。お金と、それに付随する人員や技術といったリソース、そして広報に開発期間。ゲームには馬鹿みたいにお金がかかる。

だが実際問題、『Daikatana』の例を引用するまでもなく大金を掛けてズッコケた悲惨な例は歴史上数多く存在し、同時に必ずしも初期から大金を掛けず、順調に規模を拡大させた例もある。

娯楽業界の中で特段電子ゲームは費用も期間も人員もかかる。このマッシヴなコンテンツを支える上で、うまく大金によって圧倒的なクオリティを実現した身も蓋もないゲームと、その秘訣について考えたい。

 

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例えば、私が過去最も遊んだであろう対人ゲーム『League of Legends』。このゲームは極めて完成された競技ツールなのだが、その根底には、他社にはない圧倒的な物量が存在する。

 

何が凄いって、アップデートの頻度が凄い。

2週間に一度やってくるパッチでは、まず現状問題となっているバランスを調整し、新チャンピオンの追加、或いは不人気チャンプの改修が行われ、更に新モード、新スキン、新イベントも追加されていく。

狂気の沙汰としか言い様がない。どのジャンルであっても、この質・量でアップデートを重ねるゲームなど見たことがない。というか不可能だ。

普通「アップデート」とは、ゲームの改修補修だ。『LoL』の場合、改修補修というより、ほとんどゲーム一本分の「建造」を行っている。それも半年に1回程のスピードで。

なので、1日16時間遊ぶプロゲーマーであっても、『LoL』に飽きるというのは絶対にない。常に変化し、最先端を進化するゲームで、最適解を模索し続けることになる。そしてそれは、間違いなく面白い。

 

そして、その狂気の沙汰を実際に行える根拠が、運営Riot Gamesの膨大な資金だ。背景にはアジアのコンテンツ市場シェアNo.1の中国テンセント社が控え、1億人のプレイヤーが絶えずスキンやアイコンを購入する。

加えて、プロシーンのために「リーグ制」を作り、所属するプロチームに安定的な報酬を出す等、環境作りにも余念がない。

また、膨大なユーザーが、動画や配信、各二次創作を作ることで、ゲーム外であっても退屈することはない。

 

昨今流行っているキラーワード、「eSports」。この言葉を聞いて訝しむ人間は少なくない。

私も事実そうだったが、『LoL』に触れて180度意見が変わった。これだけのリソースで作られる、常に変化し進歩する競技シーン。これは確かに、新たなスポーツの形かもしれない。

 

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今年の11月4日には、北京国家体育場(通称:鳥の巣)で世界大会決勝戦が開かれた

 

 

それ以外にも、膨大なリソースで作ったゲームに圧倒された経験は多い。例えば、意外に思うかもしれないが、あの『Minecraft』がそうだった。

 

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2009年にスウェーデンのある一人の天才によって作られた『Minecraft』。だが、このゲームもまた信じがたい物量によって生まれた作品だと私は思っている。

私はα版の時代から『Minecraft』を所有していたが、そうは言っても当時の本作は今とは全く別物だった。

まず、サバイバルモードがなかった。当時のマイクラは純粋なブロックをFPS視点で積み上げる「サンドボックスゲーム」。現在のそれとは、コンテンツの量は10分の1もないだろう。

 

しかし、Notchはユーザーの膨大なフィードバックを汲み取った。独自の掲示板を用意し、Redditにも常駐し、ユーザーの声に耳を傾けたのである。

そして有用な意見を汲み取り、またたく間に『Minecraft』は現在の形へと進化した。「サバイバルモード」、マルチプレーモード、あらゆるアイテムやオブジェクト・・・、現在1億2000万本売れたあの『Minecraft』は、ユーザーとの協力なしでは完成し得なかったであろう。

これも、ある意味、膨大なリソースが為せる技だ。確かに最初はNotch一人で作った小さなゲームだった。

それが話題となり、話題がフィードバックを生み、更なるゲームの改善を経て、より大きな話題となる。「後天的に」膨大な資源が降り注いだのだ。

Notchの不断の努力と、インディーズ黎明期のエネルギーと、SNSの流行という、様々な要因と偶然が重なって生まれた、奇跡的なゲームが『Minecraft』だと思う。

実は、零細でスタートして、徐々にユーザーの信頼を獲得して巨大化した点は『LoL』も同じである。

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初期案『Cave Game』 ここから徐々に発展していった。

 

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ところが、もう最初から馬鹿みたいなリソースを注いだ挙句、ゲームの新たな形、ナラティブの追求という点で、業界を震撼させた作品がある。

『The Last of Us』。世界中でGOTYを総なめにし、英国アカデミー賞ゲーム部門で5部門を掴んだこのゲームは、正にゲーム史に刻んだ名作と言える。

 

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このゲームの魅力とは、美しくも切ない体験だ。ゲームは難しく、ストーリーも極めてハードなものでありながら、崩落した世界の美しさのギャップに、心打たれた人は数多い。

かの有名な、エリーが崩壊したビルの中でキリンの顔を撫でるシーンは、その極地とも言えるだろう。

徹底したリアリティの中に、絶望的な人間の歩みと、ほんの僅かな愛。このゲームのコンセプトは、最新の映像技術なしで成立し得ないことは、既にプレイした方ならご理解頂けると思う。

 

故に、開発陣のノーティドッグ社が持つ、最高峰の技術力がモノを言う。当時の水準を大きく覆すような、フォトリアルな描写力を実現したゲームエンジンは、世界中のゲーマーを驚かせた。

加えて、優秀なAI、一流の音楽、練りに練った脚本、そして3年に及ぶ開発期間。外部にはソニーの徹底したバックアップまである。

あの、余りにも儚い美しい体験は、ノーティードッグの暴力的とも言える、技術、人員、予算、コネがあって、ようやく得られるものだ。

 

 

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無論、必ずしも全ての資源が良質なゲームに必要と言わない。

例えば、『DARK SOULS』シリーズで有名なフロム・ソフトウェアは、そのオフィスの規模と比較しても世界的に評価される名作を数多く送り出した。

だがその理由も、フロムの強烈な実力社会を知れば納得できるはずだ。フロム・ソフトウェアは業界でトップクラスに技術者の質が高く、同時にシビアな職場としても知られている。

あの強烈なゲームへの愛情を持つ、優秀で豊富な人材があってのフロムと考えれば、彼らもまた大きな資産を持っていると言える。

 

また、インディーズ業界で大きな話題となったToby foxの『Undertale』。ほぼ1人で開発し、『Minecraft』のように後から拡張したわけでもないが、信じられないほど高いクオリティだと各地で絶賛された。

これは正直、Toby foxがバケモノだからとしか言い様がないが、全てをひっくり返すアイディアや情熱があれば、仮に1人でも良質なゲームは作れる好例だといえる。

 

 

 

では結局、大量のリソースを以て傑作を生み出すにはどうすれば良いのか?

まず、自分たちが表現したい箇所にリソースを集中し、作品の明確な目標を持つことだ。

本稿で紹介した3つの傑作は、それぞれ「『LoL』=ゲームの競技性」「『Minecraft』=長期的なの拡張性」「『The Last of Us』=ナラティブの質」という、最も作品の本質的な要素に注がれている。

逆にシリーズものでよくあるのが、作品独自の路線を貫くことも出来ず、かといって無理くり新規性を見せようとすると、単に金を掛けただけの成金AAA級ゲームみたいな、マヌケな結果になってしまう。

 

そして、作品の最終目標を社員全員で共有するべきだ。

ゲーム開発は資金だけでなく人員も膨れ上がる。あの『Minecraft』でさえNotchの強力なカリスマ性があり、『League of Legends』はコミュニティと強いパイプがあり、『The Last of Us』はゲームだけでなくサウンドやアート、役者とも強い連携を確保していた。

大規模な開発を成功させる上で、ステークホルダーと可能な限りビジョンを共有し、そのための努力や工夫を行うことは必要不可欠である。逆に『Daikatana』の場合は独善的なリーダーとスタッフの間で乖離があったという。

 

……ビデオゲームの開発費は高騰する一方だと言われる。少なくとも現状で十分膨れ上がっているだろう。にも関わらず、空中分解して墜落する大作を見るのは、ゲーマーとして忍びない。

だがそうした、厳しい世界で鍛えられた名作を、普通と同じ定価で遊べることは、ゲーマーにとって大きな特権だ。金の掛かったゲーム程良いとは言わないが、挑戦する価値はあると思う。