5月6日に日大アメフト部と関学アメフト部との交流戦にて起きた反則行為。加害者本人が顔と名前を出して会見を行って一部始終を語り、Twitterには「人の親として涙なくしては見られなかった」「胸が張り裂けそう」といった声が相次いだ。日大選手は、反則行為をしたときにどのような精神状態だったと考えられるのか、そして子どもがこのようなできごとに遭った時、親はどうしたらいいのか。元新聞記者の臨床心理士・西脇喜恵子さんに、緊急寄稿してもらった。
セクハラの被害者に「本人が申し出てこないとどうしようもない」などという大臣がいる一方で、22日の記者会見で見せた日大アメフト部の選手の姿はあまりにも立派でした。質問をする記者一人一人に体を向け、他罰的な言葉を一切排して答えるその様子に、誠実さを感じとった人は多かったのではないかと思います。
もちろん、この前日に被害届が出され、被害学生の保護者が記者会見したとおり、負傷した選手からすれば、彼は明らかな加害者で、その行為は決して許されるものではありません。
しかし、この日の会見で語られた内容が事実であれば、監督やコーチとの関係においては、彼もまた歪んだ大きな力に押しつぶされた被害者ではなかったか。そう思えてなりません。
会見の中で、この選手は5月6日のラフプレーについて、「自分が断ればよかった」と繰り返し詫びた上で、「自分で正常な判断をするべきだった」と述べています。これは裏を返せば、当時、彼が正常な判断のできる状況にはなかったことを物語っています。
彼はこのラフプレーに至る前あたりから、「やる気があるかないかわからないから試合に出さない」「闘志が足りない」という理由で、試合や実践練習から外されたといいます。そして、相手チームのクォーターバックを「つぶす」ことを条件に件の試合への出場を許された。果たしてそれを実行に移した後にかけられた言葉が「こいつが成長してくれるならそれでいい」だったようですが、自責の念に駆られ涙する彼にとって、この言葉は呑み込みがたいものだったに違いありません。何がなんだかうまく考えられず途方にくれるような思いだったのではないかとも想像します。
まずは相手を否定し、「認められたい」と思う気持ちを刺激し、逃れられない状況に追い込みながら不当な要求に従わせる。そして、不当な要求に従ってしまったこと、あるいは、うまく従えなかったことに自責感を覚えたり、憤りを覚えたりしても、「すべてはお前のためなんだ」「優しすぎるのが悪いんだ」と相手に非を押し付ける。この一連の経過は、私がこれまでよく目にしてきたハラスメントの典型のひとつです。